十五時三十分
俺、小鳥遊翼が所属している、「
そして帰りの準備をしていると友人の巧と優助が話しかけてきた
「翼、この後なんか予定ある?」
「ないなら家来ぃへんか?」
「悪い。 今日、というよりまたしばらく暇じゃなくなった」
鞄を担ぎながらそう言うと二人は首をかしげた
「またって・・・もうコーチは終わったんやないんか?」
「あぁ、もう少し引き受けることにした。 ついでにバスケもまた始める」
俺の言葉を聞いて二人は目を見開き顔を合わせた
「・・・そっか、がんばれ翼」
「ワイらも力になるで」
「あぁ、サンキュ。 んじゃな」
笑顔で応援してくれた優助と親指を立てながらそう言ってくれた巧に手を振りながら俺は駐輪場へと向かった
約三十分後、慧心学園体育館に辿り着いたわけだが・・・
「・・・なにやってんだあの人は」
扉の前では昴さんが頭を抱えながら右往左往していた
恐らくどうやって入ろうかとか考えてるんだろうな
とりあえず見てるのもあれなので声をかける
「こんちわっす、昴さん」
「うわっ! って翼か」
「なんだと思ったんっすか・・・」
俺の呆れた声に昴さんは苦笑いしていた
「そんなことよりとっとと入りましょう、時間もあんまないんですし」
昴さんを尻目に俺は体育館のドアを開こうとする
そういや初めてここに来た時も昴さん悩んでたよな
んでこれを開けるとそこにはメイド服姿の女バスのやつらが・・・
『お帰りなさいませ! ご主人様!』
「今すぐ着替えて来い」
・・・いたので速攻で着替えさせることにした
だがあっちもある程度は想定してたみたいで『かしこまりました!ご主人様!』と言ってあらかじめ中に着込んでいた体育着へとキャストオフした
・・・愛莉は恥ずかしがって真帆に無理やり脱がされていたが
ちなみに今のを見て昴さんは膝を着き項垂れていた
メンバーへの決意表明を終えると昴さんは早速練習メニューを伝えた
真帆と沙希のAチームには昴さんが就いてシュート練習
智花と愛莉とひなたBチームには俺が就いて守備の強化とのこと
といっても守りの極意とかはよく判らんので俺は練習相手、ということになる
「よし、んじゃBチームはまずランニングからだ。 俺が先頭で走るからペースあわせて走ってくれ、智花は最後尾で何かあったら俺に伝えてくれ」
「はい、わかりました!」
「二人もいいな」
「おー。 わかったー」
「は、はいっ」
三人とも嫌な顔せず頷いてくれた、昴さんの方も始めた様子なので俺達も早速走り出す
智花はともかく愛莉とひなたはまだ体力なさそうだから気をつけないとな
・・・・・数分後・・・・・
結構走ったしそろそろかな
そう思いながら走っていると後ろから智花と愛莉の悲鳴が聞こえたので慌てて振り返る
「なっ、ひなた!?」
するとひなたが衰弱しきった表情で倒れていた
すぐさま愛莉が膝枕をして智花がバインダーで扇ぎ始めた
「大丈夫か!?ひなたちゃん!」
すると昴さんがタイミングよく駆けつけた
「すいません! 俺がペース上げ過ぎたせいでっ」
「翼さんのせいじゃないです! 見てるよう言われたのに気が付かなかった私が・・・」
俺の言葉に智花が自分を責め始めたのでそんなことないと伝える
昴さんは「二人のせいじゃないよ」と言ってからひなたの顔を覗き込んで声をかける
「ひなたちゃん、苦しいのかい? 俺の声、判る?」
それに続くように俺達もひなたの顔を見る
そのひなたはうっすらと眼を開いて微笑みながら
「だいじょうぶ、だよ。 おにいちゃん・・・・・」
その弱々しい言葉に一層不安になりつつ昴さんの顔を見るとなぜか昴さんは衝撃を受けたような顔で固まっていた
「す、昴さん?」
不審に思い声をかけると突然ひなたを抱き抱えて立ち上がり
「総員! この少女を、袴田ひなたを最優先で保護だ! 保健室・・・いや救急車を呼べ! メディーーーーック!!」
「えぇぇええ!?」
「ふぇぇええ!?」
声を荒げて叫びだした、メディックってなんだ!?
その光景に俺と智花は驚きを隠せなかった
そんな中愛莉は慌てながらも昴さんをたしなめる
「お、落ち着いてくださいっ。 ひなちゃんただ疲れてるだけですから!」
「はっ! 俺はいったい・・・」
愛莉の声で我に帰る昴さん、そこに騒ぎを聞きつけたのか真帆達も駆けつけてきた
「おっ、ついにすばるんも
無垢なる魔性?何じゃそりゃ?
「・・・ふーん、そんなんがはやってんのか」
とりあえずひなたは昴さんに任せて俺は智花と愛莉に少し休憩してもらい、真帆と沙希の練習を見ていた
その際さっきの通り名的なのについて聞いてみたらなにやら保険の先生がこいつらに付けてやってるらしく
真帆は「
愛莉は「
「はい、私達以外にも付けてもらってる子はたくさんいるんです」
「ん?じゃあ智花の二つ名って?」
「あ、私は転校してきたのでまだ付けてもらってないんです」
俺がそう聞くと智花は困ったような顔でそう答える
「あ、そうだったのか・・・悪いな」
「いえ、気にしてませんから」
「ねーねー、つばさっちにはそういうのないの?」
シュートを打ちながら真帆が聞いてくる
「俺? うーん・・・そういや誰かが「日ノ出の
「ペガサス? すげー!カッコイイ!」
「いや、俺のガラじゃねえよ。 それより練習に集中しろ」
そう、ガラじゃない。 つーか恥ずかしい
誰が付けたのかも知らないし、どういう理由で呼ばれてたのかも知らない。 現に今の今まで忘れてたし
「・・・ほんと、なんでペガサスなんだか」
しばらく考えてみたがその理由が判ることはなかった
そして昴さんが戻ってきて、ひなたの安否を聞いた後Aチームの練習を開始することに
「愛莉、準備はいいか?」
「は、はいっ」
俺は腰を落として両手を上げて構える愛莉に確認を取り、その愛莉から了承が取れたので手に持っていたボールを突き始める
そして愛莉に向かってスピードを付けたドリブルする
「っ!」
その勢いのまま愛莉をドライブで抜き去る
その際、愛莉は目を瞑り両手で自分の両肩を抱え込んで縮こまってしまった
「ふぅ、だめか・・・」
愛莉を抜いた後軽いシュートを打って息をつく
「す、すみません・・・」
「いや、まだ始めたばっかなんだししょうがねぇよ」
今俺達がやっているのは、それは愛莉の怖がりを少しでも治すということだ
その為俺と智花で交代しながら愛莉を抜き、愛莉はその場から動かないでいる。 という練習をしているのだが・・・
「愛莉、体が動いちゃうのはしょうがないから今日は眼を瞑らないように頑張ろう」
「ひゃ、ひゃいっ」
・・・ぶっちゃけかなり厳しい
初日のこともそうだが愛莉の怖がり、というか気弱さはかなりのものであと何回かでなんとかするのは骨が折れそうだ
「少しリラックスしてみたらどうだ? 肩の力を抜けば案外いけるかもしれないぞ」
「わ、わかりましたっ」
そう返事をするが・・・全く力が抜けていない
次の智花の番でもまた眼を瞑り縮こまってしまった
「こりゃ、なにか策を考えないとな・・・」
昴さんは溜め息をつきながら呟いた
確かに、なんか作戦でも考えないと無理そうだな
そう考えながら俺はまた愛莉に向かってドリブルしていった
次の日、今日は体育館を使うことができないので各自自主練
んで俺は智花と共に昴さんの部屋で作戦会議をすることに
前半はルールの確認、ちなみにバスケの基本ルールは真帆達には教えないことにした
まぁ正解だな、下手にルールを意識するよりそっちの方が動きやすいだろう
てか体育とかのスポーツでも簡単なルールだけ覚えて細かいルールは知らないままやることも多いしな
で、問題なのが・・・
「・・・愛莉、ですよね」
「・・・やっぱそこだよなぁ」
そう、愛莉は昨日のことであの後からすごく落ち込んでいるらしい
「やっぱり諦めるしかないのかな、愛莉にセンターを任せるのは・・・」
「諦めたらそこで試合終了とかなんとか言うが・・・難しいよなぁ」
俺と昴さんはそう言って項垂れる
「はい。 今のままだと難しいかもしれないです、愛莉のセンター・・・・・・あっ。 ・・・ふふっ」
すると智花が突拍子もなく吹き始めたので思わず顔を上げる
「ん?どうした」
「いえ、初めて愛莉と会ったこと思い出しちゃって。 実は私も、愛莉をいきなり泣かせちゃったんです」
そうなのか、意外だな
「ははは、なんて言ったの?」
「えっと・・・」
智花の話を聞くと出会っていきなり、その背の高さならきっとすごいセンターになれる。 ということを言ったらしい
やっぱ智花はバスケが絡むとかなり積極的になるようだ、そういえば琴葉もそうだったな
その出来事を聞いて俺達は笑いながら話し始める
バスケやってるならそう思うのはしょうがないとか、もっと身長欲しいとか
バスケ経験者からすればやっぱ身長は欲しいもので、そういう点で言えば小学生ってのはやっぱ羨ましい
「それにしてもすげぇよな、あの説得のしかた・・・ふふっ」
そう話していると俺は初日にて愛莉を慰める際に聞こえたあのセリフを思い出し吹き出す
「あはは、私も初めて聞いたとき、驚きました」
「いつ頃から使ってるんだろ? 愛莉もよく真に受けるよな」
「私が転校してきたときにはもうみんな使ってましたね。 でも愛莉があれを真に受けるのは防衛本能みたいなものだって沙希が言ってました。 だから愛莉は背の高さから眼を逸らす事が出来る話にだけは考えなしに飛びついてしまうんだって」
なるほどな、ある意味納得いく
てかそんな分析ができる沙希、本当に小学生か?
「・・・じゃあ、さ。 センターは背の低い人がやるポジションだって説得したら真に受けてくれないかな」
「うーん、それは難しいと思います。 それに私、背が高いからセンターに向いてるって愛莉に言っちゃいましたし」
「まぁ、そんな上手くはいかないさ」
そんなことで解決するようならこんなに悩まないしな
なんて考えていると昴さんは突然黙り込み、真剣な顔になった
「えーっと、昴さん?」
「あの、もしかして私がセンターについて話したこと、怒って・・・?」
「いや、そうじゃないんだ・・・・・・智花、愛莉はそんなに敏感なのか?自分の身長かめを背けられるような話に」
「え?えぇっと・・・はい、他の事よりだったらずっと。 例えば・・・誰かから筋トレをすると背が伸びにくくなるって教えてもらってから週に三回体を鍛えてるって聞きました」
「えっ?マジで?」
そりゃすげぇな、迷信かもしれないがそれを信じて週三で筋トレするってそうそうできないことだぞ
「他には?他にはそういうエピソード無いかな?」
それを聞いた昴さんは食いつくように聞いてきた
「あとは、えっと。 好きな食べ物が小豆で嫌いな食べ物が大豆、とか・・・」
「いわゆるゲン担ぎみたいなもんか」
「・・・・・・ふむ」
その後も智花からいろいろ聞いた昴さんはなにやら考え付いたようで、あとは適当な雑談をして今日は解散となった
そして次の日・・・
「やあみんな。 お?愛莉、なんか少し背、縮んだんじゃないか?」
体育館で顔をあわせた途端、昴さんは真顔でそんなことを言った
そのため俺と愛莉以外のメンバーは一瞬凍り付く
「・・・ほ・・・・・・・ほ・・・本当ですかっ!?」
その刹那、愛莉は眼を輝かせて昴さんに言い寄ってきた
絶対信じてるな、これ
「・・・・・あぁ、なんかちょっと目線が下がったような気がするよ」
それでもなお、昴さんは真顔のまま答える
昨日のアレはもしかしてこれか?
「え、えへへっ、良かった・・・」
愛莉はその言葉にものすごい笑顔になった
ほんと、純粋というか、なんというか・・・
「よーし、今日も頑張るぞっ!」
そのまま愛莉はスキップしながら遠ざかっていった
ふと見るとその背中に昴さんが手を合わせていた
そしてストレッチの後、昨日と同じチームに分け、Aチームは昨日と同じで、Bチームは昨日の練習にひなたを加えた練習を始めた
ちなみに今日の練習では愛莉は一度も眼を瞑ることがなかった
木曜日、今日は練習はない日だが昴さんの計らいで長谷川家で練習会を行うことになった
しかし・・・
「そこはこっちの方が良いんじゃないか?」
「ん?あぁせやな」
「翼、それこっちかして」
俺、巧、優助はグループ学習の発表の為、放課後残って作業していた
ちなみに俺達の他に二人いるわけだかどっちも用事があるとかで三人だけで作業してるわけだ
「にしても翼、今日女バスの娘達と集まりあったんちゃうか?」
「まあな、でも連絡入れといたしこれが終わらないで試合行けない方がきついしな」
「そっか、そうだね。 じゃあ早く終わらせ・・・」
優助が言いかけたところで最終下校時刻を告げるチャイムが鳴った
「っと、今日はここまでか」
「うーん、しょうがないね。 それじゃあ片付けは僕達がやっとくから翼は行っていいよ」
そう言って巧と優助は後片付けを引き受けてくれた
「サンキュ。 んじゃ、お言葉に甘えて行かせてもらうぜ」
俺は後片付けをしている二人に礼を言って教室を出る
「お疲れさーん」
「また明日ー」
二人の声を聞いて、俺は長谷川家へと向かった
「お待たせしました」
「いいよ、さ、中入って」
長谷川家に着き、昴さんの出迎えを受けた俺は家の中に入る
そしてリビングに着いたのだがそこには七夕さんしかいなかった
「あれ、あいつらは?帰ったわけじゃなさそうだけど」
「あぁ、皆は今・・・」
俺の質問に昴さんが答えようとすると突然ドアが開け放たれ、俺達は一斉に振り向いた
するとそこには・・・
「すばるん!あたしともっかんの胸どっちが大きい?」
「ちょっとっ、真帆やめ・・・」
バスタオルだけを巻いた真帆と智花がいた
そして智花と目が合う
「つ、翼さん!?」
「なっ!?」
「おぉ、つばさっちも来てたのか!ちょうどいいや、ねぇねぇ、あたしともっかんの胸どっちが大きい!?」
俺と智花が固まっている中、真帆は胸を張りながら聞いてきた
「・・・んなのどうでもいいから服着てこい!!」
とりあえず目のやり場に困るので二人を脱衣場に突き返した
ふと見ると昴さんが唖然とした表情で固まっていた
「・・・なるほど、大体判りました」
二人を脱衣場に返した後、昴さんが俺に話しかけてきた
その内容は相手チームの一人、あのツンツン頭の少年のことだった
そいつはひなたのことが好きなようでそれを利用しよう、ということだった
「いいんじゃないっすか?なりふり構ってられないんっすからこのぐらい問題ないでしょ」
「そっか、よかったよ。 一応皆の了解も聞いたからこれで大丈夫だ」
「まぁあいつにはかわいそうかもですが情けは無用、ですね」
「あぁ、皆の精度も上がってるし、これならなんとかなりそうだよ」
拳を握りながらそう言う昴さんに俺はちょっとした疑問を持つ
「そういや、昴さんって試合が終わった後もコーチ続けるんですか?」
その俺の問いに昴さんは一瞬驚いて、それから真剣な顔になる
「いや、コーチは辞めるよ。 やっぱりちゃんとしたコーチに教えてもらった方が皆の為にもなるよ」
「・・・そっすか」
やっぱりそうか
でもあいつらは嫌がるだろうな、なんとしてでもやらせそうだ
・・・俺は、どうするかな
「なになに?二人でなにしてんの?」
「こら真帆!まず謝れって言ったでしょう!」
「うぅ・・・」
そこに五人が戻ってきて思考が中断される
まぁ、そんとき考えればいいか
そう考え、俺は顔を真っ赤にしてる智花を宥め始めた
そして次の日
今日は平日なんだが祝日で休みだ
そこで美星さんの計らいで体育館を終日使えることになった
本来なら学校行って昨日の続きをやるべきなんだが事情を巧と優助以外の二人に事情を話したら
昨日自分達が休んだんだから構わない、と言ってくれたので心置き無く練習を見てやれる
午前中から午後の後半まで五人での攻撃練習、その後少し休憩をとってからチームディフェンスの練習をやったわけだが
やっぱり、すげぇな。 昴さんは
練習内容も的確だし、何よりディフェンスがしっかりしてる
それに比べて俺は攻めることしか能がない
こんなんであいつらに教えてることになんのか・・・?
「あの、翼さん、どうかしましたか?」
なんて考えてると智花が顔を覗きこんできた
「あぁ、いや、ちょっと考え事をな。 じゃ、次。 ひなた、愛莉、いくぞ!」
「おー。」
「はいっ」
二人の返事を聞いてからドリブルで攻めに行く
・・・余計なことは考えるな
今はこいつらの練習に専念しろ
そう自分に言い聞かせた
再び次の日
今日は練習もない、あいつらには休むよう言っておいたがまぁどうせ勝手に練習してるんだろうな
だがそれぐらいが最終調整としてはちょうどいいだろう
んで俺は学校に来て発表のために最後の仕上げに来ていた
実を言うとこの発表は明後日の月曜日に行われ今日終わらなかったら明日また来てやる羽目になっていたのだ
だが昨日巧達がやってくれたお陰でなんとか終わらせられた
そんなこんなで家への帰路を歩いていると
「あっ、翼さん!」
制服姿の琴葉とばったり会った
「よう、練習の帰りか?」
見ると琴葉は大きめのスポーツバッグを肩に下げていた
「はい、今日も先輩にたくさんしごかれちゃいました」
あはは、と苦笑いしながら琴葉はそう言う
「翼さんは練習、じゃないんですか?確か試合明日でしたよね」
「そっちにも伝わってたのか、今日は最終調整ってことで休みだ」
「そうなんですか。 あ、それじゃあもし時間あったらまたオールグリーン行きませんか?」
琴葉は俺が暇だということを知ると眼を輝かせながら誘ってきた
うーん、まだ晩飯まで時間あるし・・・
「そうだな、時間あるしいいぜ」
「やったー!それじゃあ善は急げです、早く行きましょう!」
俺の了承を受けると琴葉は俺の背中を押してオールグリーンに向かわせた
やっぱり琴葉ってバスケが絡むとテンション変わるんだな
「おい、押すなってバスケは逃げねぇよ・・・・・」
・・・最悪だ、今俺は生涯で一番会いたくない相手に出会してしまった
「ん?おぉ、誰かと思えば小鳥遊じゃねえか」
「・・・
こいつは俺を見るなりヘラヘラ笑いながらそう言ってきた
「えっと・・・翼さんのお知り合い、ですか?」
知り合い?こんなやつ、一度でも会いたくもなかったよ
「・・・いくぞ、琴葉」
「えっ?ちょっ、翼さん?」
俺は黒部と一緒にいるのが嫌になり、琴葉の手を掴み歩き出す
だが黒部はそんな俺の肩を掴み、止める
「おいおい、冷てぇじゃねぇか。 せっかくの再開だっつーのに・・・」
「黙れ」
俺は黒部の手を振り払い、睨み付ける
「俺はてめぇを許さねぇ・・・絶対にな」
「おぉ、恐い恐い」
「ちっ、いくぞ」
両手を広げてそう言う黒部に舌打ちして俺は琴葉を連れてその場から立ち去った
「あの、今の人って・・・」
しばらく歩いてから琴葉に訪ねられ、俺は足を止める
「許さないって言ってましたが、それってどういう・・・」
「・・・あいつは、ヒノ中のバスケ部を潰しやがった・・・元先輩だ」
「えっ・・・?」
そう、あいつのせいで・・・何もかもめちゃくちゃにされたんだ
バスケ部も・・・俺の親友も・・・
あの後、気分が乗らないと言って琴葉と別れた俺は一人ある場所へと向かっていた
「くそっ、こんな時にあいつに会うなんて・・・」
「
・・・俺の親友、「
少し昔話をしよう
一年前、つまり俺が中学に進学したころの話だ
母さんの編集所の移転ということでこれまで住んでいた場所から離れこの町へ引っ越してきた俺は友達どころか知っている顔一人いない日ノ出中学に入学することになった
元々あまり人と関わろうとしない性格のせいであっちでもほとんど友達はできなかった
こっちでも同じで最初は話しかけてくるやつもいたが次第にそれぞれ仲の良いグループができて俺は一人でいることが多くなった
入学して一週間ぐらい過ぎたとき、ホームルームで部活の話になった
正直言うと部活のことは考えてなかった、いや、興味を持てるものがなかったと言うべきか
当時の担任には部活に入るよう言われたが興味無いの一点張りで断り続けてきた
やがて担任も諦め、俺は帰宅部となるかに思えた
そんな時・・・
「お前!バスケやらないか!」
やけに高いテンションで話しかけてきたのを今でも覚えている
それが、俺と駆との出会いだった
駆は色んなやつをバスケ部に勧誘していてもうほとんど部活を決めていた中、決めていない俺を必死に誘ってきた
何度断っても駆は諦めずに誘ってきた
そのしぶとさに一度だけ見学するという理由で俺は折れた
そして、バスケ部の練習を見学する為、体育館にやってきた俺は・・・衝撃を受けた
一人の選手のプレイに俺は釘付けになったのだ
ドリブル、パス、スティール、パスカット、そしてシュート
全てが鮮やかで、豪快で、そしてかっこよかった
(この人みたいに・・・こんなプレイしてみてぇ!)
俺は一瞬でバスケの虜になった
無論その場で即入部を出しに行った
あの時の先生の顔は多分一生忘れられないと思う
次の日から俺と駆、他二人ぐらいの一年は正式にバスケ部員となった
そして俺を釘付けにしたあの選手が俺達の前で挨拶をした
「ようこそバスケ部へ、俺は部長の「
高木部長の挨拶が終わると早速練習が始まった
体力作りがメインで、ドリブル練習やパス練習、シュート練習なんかはそこまで多くなかった
その厳しさに他の二人は一週間で辞めてしまった、前の年代でもこの厳しさに耐えられずに辞める人も多かったらしい
それでも俺は部長みたいなバスケがしたくて必死に喰らいついた
毎日部活の後、近くの公園とかで夜遅くまで一人で練習もした
最初はぎこちなかったドリブルも二週間ぐらいでそこそこ様になり、シュートも三本に一本入るのが五本に四本入るようになった
駆も同じく自主練していたようで俺達は毎日競い合うようになり、同時に友情が芽生え始めていた
そんな頃だった、元々あまり良い印象じゃなかった先輩、黒部が後輩いびりをするようになった
実力を付けていく後輩が気に入らなかったのか、はたまた単に先輩風を吹かせたかったのかは知らないが部活中を始め、終わった後とかも嫌がらせをしてきた
そんな黒部に影響され、他の先輩達も嫌がらせをするようになっていた
あまりにひどい物は部長が止めてくれたりしたがそれでも嫌がらせが止むことはなかった
俺と駆はそんな嫌がらせに必死に耐えた、むしろもっと上手くなってあいつ等を驚かせてやろうと言うぐらいだった
そして部活中でのミニゲームでそのときは来た
二年生のチーム対一年生+αのチームでの試合
俺達は練習の成果をこれでもかと言うほど出して二年生チームを圧倒させた
三年の先輩が一人いたとはいえ十分間で28対2というスコアで勝利したのだ
この試合がきっかけでこれまで試合に出ていた二年の先輩の代わりに俺と駆が出るようになった
試合でもそれなりの活躍を見せ、部長や一部の学校から一目置かれるようにもなった
そうなると黒部達の立場は一気に落ち、嫌がらせもほとんど無くなっていった。 何人か辞めたりもしていた
そのせいで人数不足でその年の大会には出られなくなってしまった
部長を始め、三年生の先輩達はみんな悔しそうにしていた、でも引退の日、俺達に
「君達の代で絶対に優勝してくれよ」
と言ってくれ、俺と駆は絶対に優勝すると決心した
だが、その後事件は起こった
冬休み半ば、俺は体調を崩して部活を休んだ
今でも後悔している、なんで風邪なんか拗らせたんだと・・・
その日、部活に行った駆が体育館の裏から煙が出ているのに気付き、確認しに行った
するとそこにはバスケ部の二年、そして辞めていった元バスケ部の二年達がタバコを吸っていたのだった
それを見た駆は先生に報告しようと引き返して職員室へ向かおうとした
だがその場から離れていた黒部に後ろから頭部を殴られ、その場で気を失ってしまった
偶然その場を通りかかった事務員に見つかり黒部達は逃走
その際手に持っていたタバコとライターを投げ捨てた、火の付いた状態で
体育館裏にはダンボールや古新聞などが置かれていて、更には枯葉等も散らばっていた為それらに一気に引火
事務員は必死に駆を助けようとしたが炎がすさまじく、先生などを呼んでやっと収まった
駆は全身にひどい火傷を負い、煙を大量に吸い込んでいた為
病院に運ばれてしばらく経ってから・・・死亡が確認された
この事件がきっかけで黒部達は退学、バスケ部も人数不足と事件を起こした主犯がいたということで廃部になった・・・・・
「駆・・・」
そして俺は今、あの事件が起こった体育館裏に来ていた
体育館の壁は焦げ、周りに生えていた草木もなくなっている
「・・・なにやってんだろうな、俺。 こんなとこ来たってどうこうなるわけでもねぇのに」
・・・嫌な予感がする、また俺の手から大切なモノが奪われていく、そんな気が
・・・大切なモノってなんだ?
いや、もう判ってるはずだ
今の俺にとって大切なモノ、それは・・・
「・・・今度こそ、絶対守ってみせる」
そう思っていると携帯にメールが届く、昴さんからだ
「今から家で練習しないか、智花も一緒だ」という内容
俺はそのメールに「今すぐ行きます」とだけ返し、その場から離れた
「絶対に、勝たせてやらねぇとな」
家に戻って自転車を取り、長谷川家へと走らせた
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エピソード1 第四話