『この世界に、神はいない』
『俺がガンダムだ!』
『違う、貴様はガンダムではない!』
『俺の存在そのものが理由だ』『俺は生きている…生きているんだ』
『マリナ・イスマイール…これから次第だ。俺達がまた来るかどうか……』『戦え、お前の信じる神の為に』
『生きているのなら俺は戦う。"ソラン・イブラヒム"としてではなく、ソレスタル・ビーイングのガンダム・マイスター、"刹那・F・セイエイ"として』
『武力による紛争根絶、それこそがソレスタル・ビーイング!ガンダムがそれを成す!俺と…共に!!』『そうだ、俺が!俺達が!ガンダムだ!!』
『俺は…俺は、戦う。世界に変革をもたらした事が俺達の罪ならば、その罪は再び世界を変える事でしか償えない』
『マリナ、今度会った時…また子供達の歌を聴かせてくれ』
『わかっている…ロックオン。ここで俺は変わる…俺自身を変革させる……』
『戦うだけの人生……!俺もそうだ!だが今は!そうでない自分がいる!!』
『俺は生きる。生きて、明日を掴む。それが俺の戦いだ。生きる為に、戦え』
『そうだ……。俺達は…変わるんだあああああああああああああああああああああああああ!!』
『ガンダムエクシア…刹那・F・セイエイ…未来を斬り拓く!!』
『俺にも、生きている意味があった……』
『だからこそ示さなくてはならない。世界は、こんなにも簡単だという事を……』
『こんなにも長く、時間が掛かってしまった……』『だが、求めていたものは同じだ』『君が正しかった……』
西暦2364年。地球外金属生命体ELSの来訪と対話から50年。ELSとの対話を果たした私設武装組織ソレスタル・ビーイングのガンダムマイスターである刹那・F・セイエイは対話の旅から帰還し、同じ理想を目指しつつも違う道を歩んでいたマリナ・イスマイールと相互理解と最後の別れをして今は月に隠されたCB(ソレスタル・ビーイング)のファクトリーで束の間の休息を取っていた。
この月のファクトリーはかつてCBの計画の要である量子演算システム『ヴェーダ』のメインシステムが隠されていた場所であり、またCBの創設者にしてヴェーダや半永久機関『GNドライブ』の発明者イオリア・シュヘンベルグがコールドスリープで眠りについていた場所でもある。ヴェーダのメインシステムがCBの裏切り者によって予備のメインターミナルが存在する外宇宙航行艦『ソレスタル・ビーイング号』に移されて以来はそちらを地球連邦政府に委ね、更に何者かに持ち攫われてしまった月のメインターミナルの代わりに新規に建造されたCB専用のターミナルを利用している。
ヴェーダは量子演算コンピューターにしてそれ自身が世界規模の巨大なネットワークでもある。その中の情報は重要性や機密性によって階層ごとに仕分けられ、それらを閲覧するにはそれに応じたアクセス権限が必要である。故に、CBの情報はCBにしか閲覧出来ず、また高いアクセス権限を持つのはCB内のごく一部に過ぎない。連邦政府にはそこまで高いアクセス権限が存在しない為機密情報の漏洩には困る事は無い。
CBの人間にもその場所を隠されていたこの月のヴェーダのメインターミナルだが、CBと世界を裏から操っていた元凶との戦いの後に此処が発覚、そのまま改装が行われCBの隠しアジト兼ファクトリーとして機能していた。
その中のMS格納庫ではELSとの対話の旅から帰還した、ELSや複数の異性体と融合したダブルオークアンタ――ELSクアンタ――のオーバーホールが行われている。ELSとの対話で発動させたクアンタムバーストにより全身の大半の装甲を失った00クアンタだが、ELSとの融合によりELSがクアンタの装甲に擬態・再構築を行った為に多少変化はしているもののほぼ元の姿には戻っていた。
しかし外装はそうであっても内装の機器はそうはいかない。いくらELSの擬態能力があるとはいえそれには限界があり、特に精密なセンサー類は50年たった今大至急換装が必要だ。ELSと人間の共生が始まってからは外宇宙を巡っていたELSからもたらされた技術や知識により地球の科学レベルは大きく進歩している。ヴェーダのターミナルユニットを搭載しELSとも融合したクアンタといえど、数十年単位の長時間連続稼働は堪える。
現在は内装機器の換装が完了し、排除されたEカーボン装甲とクアンタの装甲となっているELSとの同化作業を行っていた。ELSは金属質の変異性生命体であり、取り込んだ対象の構造や性質を精巧に模倣するという性質を持つ。Eカーボン装甲を取り込ませる事でEカーボン装甲の耐久性とELSの再生力を併せ持つ特殊装甲となるのだ。クアンタは現在この世界で唯一ELSと完全に融合しいているMSであるからこそ可能である。
格納庫に隣接した待合室では、クアンタのマイスターである刹那・F・セイエイが備付のベンチに座りスクリーンに映された壁の向こうの格納庫の様子を眺めていた。刹那もまたクアンタ同様ELSと融合し対話時の23歳の容姿のまま全身が金属質に変化していたが、対話の旅の過程で様々な異性体とコンタクトを取ったりその情報を得た結果、ELSの擬態能力とそれらを組み合わせて有機的な、対話の前の、人間の時と同じ容姿を取り戻す事に成功していた。ちなみにそれに気付いたのはこのファクトリーに帰還し対話で得たデータを整理していた時なのだが……。
(これからどうしたものか……)
刹那はこれからの行動をどうするかで悩んでいた。一ヶ月程前、地球に帰還した際に外宇宙航行艦『スメラギ』が入れ違う様に地球を出発したが、あの艦は乗員が刹那と同じ全員イノベイターと呼ばれる、革新し相互理解能力に優れた人間で構成されている。対話の鍵となり、CBの最高機密の一つであったGNドライブ、通称太陽炉もそのデータが公開され一般企業でさえ製造出来る様になった。地球圏の戦争の火種になりそうな争乱もまた、新世代のCBのメンバーの活躍によって消されている為特に手伝う様な事も無い。そもそもその時代の事はその時代に生きる人間たちに任せるもので自分が関わる様なものでもなかった。
かつての知り合いの大半は既に亡くなっていたり、居場所がわからなかったりする。対話の旅を共にした仲間に頼めば直ぐに調べてもらえるかもしれないが、現在彼は"ヴェーダの中"で今までの旅の中で得たデータの整理に忙しいだろう。恐らく彼の事だ、"自分と同じ顔を持つ"、自分と同じ存在と五月蠅く言い合いながら作業をしているに違いない。初めて出会った頃の彼との変化を考えるの自然と笑みが零れた。
『刹那』
突然眼前に空間投影式のモニターが展開された。画面の向こうには赤色の電脳的な光景が広がっており、その中に紫色の長髪に中性的な容姿を持つ、前述した仲間――ティエリア・アーデ――が佇んでいる。
『何か面白い事でもあったのか?』
「いや、何でもない。それより何の用だ」
どうやら先程の笑みを見られたらしい。元々刹那は滅多に笑うような人間ではない為長い付き合いであるティエリアでさえ数えるほどにしか見た事のない笑顔の理由を聞けば、きっと怒るか肯定しながら愚痴り続けるのどちらかだろう。さすがに後者は勘弁願いたいので刹那はティエリアが連絡を寄越してきた理由を問うた。
『先程からヴェーダに不可解な信号が送られてきている。それと同時に正体不明の高エネルギー反応が観測された』
「何?」
『此処のセンサーと周囲の観測機器をヴェーダを通して使って調べてはいるが、未だ正体がわからないんだ。もしもの事態に備えて、クアンタのオーバーホール終了後君に出て貰いたい』
「了解。オーバーホール自体は後少しで終わる。終了次第直ぐに出る」
『頼む』
オーバーホールが終了した後刹那はクアンタを駆ってティエリアに指定されたポイントに来ていたが、そこには何も存在していなかった。
「Eセンサーには何の反応も無し。ELSも何も感じ取ってはいない。ティエリア、本当にこのポイントで間違いないのか?」
『こちらでも確認しているが…間違いなく其処だ。暫く様子見として待機していてくれ』
「了解……っ?!」
ティエリアの指示に暫く待機していようと操縦席の操縦桿を握る手を緩めた瞬間、刹那の頭に鋭い痛みが走った。
「ぐっ…あ……っ!?」
『どうした、刹那?!』
ティエリアが呼びかけるが、刹那は絶え間なく続く痛みに苦しむ。その痛みを、刹那は以前にも経験した事があった。
(これは…ELSとの対話の時と同じ…まさか、脳量子波なのか……?!)
脳量子波。イノベイターや疑似イノベイターである人造生命体イノベイド、強化人間『超兵』、ELSらが使う脳の特殊な波長の事であり、これが使えるものは未来予知ともいえる超人的に鋭敏な感覚やテレパシーの様な技能を得る。全身がELSと融合している刹那には脳を中心に全身に痛みが走り渡っていた。
それと同時に痛みに耐えながらも研ぎ澄まされた刹那の感覚が痛みとは別の感覚を捉えた。
(この感覚…量子テレポートとも、ELSの長距離空間跳躍とも異なる……っ?だが、それに近い……!!)
『刹那!そのポイント一帯に空間の歪みが発生している!今すぐ離脱するんだ!!』
ティエリアが叫ぶが、全身の痛みに耐える刹那にはそれが出来ない。ティエリアのいう空間の歪みはそのまま大きくなり、歪な穴の様なモノを形成、クアンタごと刹那を吸い込んでいく。
「う…あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
『刹那あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
刹那を吸い込んだ穴は次第に収束していき、まるでそこには何も無かったかの様に空間の歪みも消えた。そう、何も"存在しない"様に。
Tweet |
|
|
8
|
5
|
追加するフォルダを選択
にじファンで投稿していたのをリメイクして投稿しています。pixivでも同様ですよ。