「レリック?」
周囲に流れゆく大量のマガツヒの中、中央の石代に腰掛けていた人修羅は、ベルゼブブの持って来た紅い石から顔を上げ尋ねた。
ここは、アマラ深界の最下層の最下層。そこには今、数千の悪魔を従える混沌王と部下である蠅王ベルゼブブがいた。
「うむ、そこにおった人間どもはその石のことをそう呼んどったのう」
巨大な蠅の姿のベルゼブブは二番目の右手で頬を掻きながら言った。
数日程前、人修羅との戦闘後、行方不明となっていた閣下こと「ルシファー」がふらりとアマラ深界に現れ。
「この世界に行くといい、私も昔この世界で色々やったものだ」という言葉と世界の座標のみをベルゼブブに伝えると、またふらりといなくなってしまった。
閣下の言うことなら仕方あるまいと、ベルゼブブがその世界に行ったのが数時間前。そして先ほど、帰還したベルゼブブが人修羅に紅い石を手土産に話しに来た、ということになる。
「へぇ、人間が原生してる世界だったのか。普通の人間だったらお前の姿を見ただけで逃げ出すだろうに」
「うむ、奴等はどうもこのレリックとかいう石ころが、とても大事らしくてな、ワシの姿を見ても臆さずに向かってきおったわ」
「……ちなみにその後は?」
「殺しとらんよ」
「間を省くな」
そんな会話をしながら人修羅は石に視線を戻す。
レリック、ベルゼブブはそういったか、確かに強い力を感じる。こうして握っているだけで、この物体に強い力が籠められているのが分かる。
自分の持つマガタマに近い物かも知れない。
―――――こういった物は幾つあっても足りないということは無い。
「ベルゼブブ、この石はその世界の何処で見つけた?」
場所にもよるが原住している人間の対応次第では、人修羅はその世界で交渉か殲滅のどちらかを行おうと考えていた。
「んむ、ワシがこの石を見つけたのはな、人間の乗っておる、あの蛇のような乗り物を複数の人間が
空中から襲撃しておってな」
蛇のようだ、というなら恐らく列車のことだろうと人修羅は当たりをつける。しかし空中から電車をジャックしにかかるとは、やはりアマラ宇宙は広いと人修羅は真実とは少々異なった解釈をした。
「それであまりにも騒がしかったのでな……あの乗り物の周囲を、こう…グシャッと」
「潰したのか」
「うむ」
「…人間を巻き込んだりは?」
「殺しとらんと言うたじゃろ」
「……まぁいい、それで?」
と人修羅は続きを促す。
「うむ、それであの乗り物をまな板にしたら、その石の力に気付いての」
「それで、俺達の力になるかもと思い、襲ってきた人間達を蹴散らし、戻ってきたと」
うむ、とベルゼブブが頷く。なるほどと、人修羅は顎に手をあて思う。
自分達は数十の世界やボルテクス界を渡り歩き、多くの力や仲魔を得てきたが、未だ「大いなる意思」を打ち滅ぼすには力不足だと。
そして今この手に握られている物体は自分達に必要だとも。少なくともその世界の人間はこの石のことを知っているらしい。
なら上手く交渉すれば、この石と同じ物あるいはそれに近い物を得られるのではないか。
ボルテクス化していない世界を滅ぼすのを人修羅はあまり好んでいない。
「ベルゼブブ」
「何じゃ我が主」
「お前が行った世界へのアマラ経絡はまだ通じたままだよな?」
「うむ、どうもアマラの変化の少ない所にある世界のようでな、ワシが行ったときから全く変わっとらん」
その言葉を聴き人修羅はゆっくりと立ち上がる。
「そうか、じゃあこの部屋の前に皆を集合させておいてくれ、念のために色々令を出しておかないとな」
「おや、久しぶりにおぬしが行くのか、ボルテクス化もしていない世界に」
ああ、と人修羅は相打つ。
「なかなか楽しそうな世界みたいだしな、有意義な暇つぶしには丁度良さそうじゃん」
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第0話 異界へ