No.468402

IS -インフィニット・ストラトス- ~恋夢交響曲~ 第十話

キキョウさん

恋夢交響曲・第十話

2012-08-10 23:23:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1167   閲覧ユーザー数:1136

「というわけでっ! 織斑君クラス代表決定おめでとう!」

 

「おめでと~!」

 

たくさんのクラッカーが鳴り響き、紙テープが一夏の頭に降り注ぐ。なぜクラッカーなのかというと、一夏のクラス代表決定を祝って、一年一組全員で就任パー ティを開くことになったからである。夕食の終わりの自由時間に一組全員が寮の食堂に集まって飲み物片手に騒いでいた。しかし、当の一夏本人はテンションが低かった。

周りからは「いや~クラス代表戦が盛り上がるねぇ」とか、「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」とか本人を無視して盛り上がっており、ちらほらと、というか結構な数の違うクラスの人たちも集まっていた。

 

「人気者だな、一夏」

 

「・・・ほんとにそう思うか?」

 

「ふん」

 

周りが一夏をもてはやすので、箒はご機嫌斜めのようだ。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~!」

 

突然の乱入者に盛り上がる一同。一夏もついに学園新聞デビューのようだ。

 

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長をやってまーす。はいこれ名刺」

 

一夏が受け取った名刺を横から覗き込む。学校でやっている部活の割にはしっかりとした名刺だ。

 

「ではズバリ織斑君! クラス代表になった感想を、どうぞ!」

 

「えーと・・・」

 

ボイスレコーダーを向けられて困った顔の一夏。クラスの初めの自己紹介みたいにならないか内心はらはらする。

 

「まぁ、なんというか、がんばります」

 

「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触るとヤケドするぜ、とか!」

 

「なんですか、それ・・・」

 

しまった、つっこんでしまった。案の定、黛先輩は俺にボイスレコーダーを向けて喋り始める。

 

「君は噂の男子二号の天加瀬君ですね! 一夏君のコメントは後で適当にねつ造しておくとして、では、相棒が代表になったことについて、一言!」

 

俺はいつから一夏の相棒になったのだろうか。っていうか、捏造とか報道者にあるまじき行為ではないのだろうか? まぁとりあえずスルーしておくが。

 

「えー、体力のない俺の分まで頑張ってほしいです」

 

「コメントありがとう。後で捏造しておくね!」

 

えっ、それじゃあ俺に聞いた意味ないじゃないですか!? でも初対面かつ先輩にツッコミを入れるわけにはいかないし、さらなるとばっちりはごめんなのでやっぱり黙っておく。

 

「ああ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」

 

「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」

 

次の獲物はセシリアらしい。しかし苦手という割には結構まんざらでもないような感じではある。

 

「コホン。ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退したかというと、それはつまり―」

 

「ああ、長そうだからいいや。写真だけちょうだい」

 

「さ、最後まで聞きなさい!」

 

いいようにあしらわれるセシリア。っていうか新聞部の副部長なのにこの取材内容はないんじゃないか? 正直まともに仕事してないぞ?

 

「いいよ、適当に捏造しておくから。よし、織斑君に惚れたからってことにしよう」

 

「なっ、な、ななっ・・・!?」

 

黛先輩の冗談に焦りながらこっちをチラチラと見てくるセシリア。助けてほしいのだろうか? そんな様子のセシリアをみて黛先輩は「ははぁ、なるほど~」とか呟いていた。

 

「先輩、それくらいにしてあげてください。セシリアも困ってますし」

 

「じゃあ、王子様の言葉に免じて、ここまでにしておこうかな」

 

王子様の部分が引っ掛かるが、追求するだけ無駄だろう。セシリアに至っては顔が真っ赤になっている。まぁ、あれだけ惚れてるだのでっちあげられたら恥ずかしいだろうな。

 

「元気出せよ、セシリア」

 

「誰のせいだと思ってるんですの・・・」

 

「なんで俺をにらむんだよ・・・」

 

「自分で考えてくだい!」

 

なんで俺がセシリアに怒られているんだろうか。ていうか、元凶は黛先輩なんじゃ・・・。

 

「だ、大体あなたは―」

 

「はいはい、とりあえず三人並んでね。写真撮るから」

 

「えっ?」

 

「マジで?」

 

いきなりの言葉にセシリアは意外そうな声をあげ、俺に至っては素の喋り方で聞き返してしまった。

 

「えっと、私と奏羅さんで・・・?」

 

「いや、注目の専用機持ち三人の写真を撮ろうかとねー。ツーショットは個人的な話になるから有料だよ」

 

「そ、そうですか・・・。そう、ですわよね」

 

なんか残念そうなセシリア。女の子は写真うつりを気にするらしいので、身だしなみをきちんとしてないのだろうか。寝癖とかついてるようには見えないんだがなぁ。

 

「あの、撮った写真は当然いただけますわよね?」

 

「そりゃもちろん」

 

「でしたら今すぐ着替えて―」

 

「時間掛かるからダメ。気をつかってあげるからさっさと並ぶ」

 

黛先輩は俺とセシリアの手を引き、一夏の近くへと並ばせる。並び順は、黛先輩からみて、左からセシリア、俺、一夏。

 

「・・・・・・」

 

「どうした、俺の顔になんかついてるか?」

 

「べ、別になんでもありませんわ」

 

こっちを見てくるので何かついてるのかと思ったがそうでもないらしい。

 

「天加瀬君、二人の肩を持ってくれるかな?」

 

「肩、ですか?」

 

三人が仲良さそうにしているところを写そうとしているのだろうか? とりあえず、一夏の肩を持つ。しかし問題はもう一人のほうだ。

 

「・・・えっと、セシリアさん」

 

「は、早くしてください!」

 

ものすごい剣幕に押され、とっさに肩を掴んでしまう。心なしかセシリアの顔がこわばっているような気がするんだが、ほんとにこれでいいんだろうか・・・?

 

「じゃあ、撮るよ~。35×51÷24は~?」

 

「え? えっと・・・2・・・?」

 

「すいません、計算するのめんどくさいです」

 

「天加瀬君、早々と諦めないでよ。織斑君は不正解。正解は74.375でしたー」

 

まったく、この人は・・・。呆れながらも顔を作り、カメラのほうを向いた。パシャッっとシャッターが切れる音がする。

 

「・・・なんで全員入ってるんだ?」

 

一夏の言葉通り、周りには一組の全メンバーが俺たちの周りに集結していた。ちゃっかり一夏の横には箒が陣取っている。お前はそんなことしない子だと思ってたんだがなぁ。

 

「あ、あなたたちねぇっ!」

 

「まーまーまー」

 

「セシリアだけ抜け駆けはないでしょー」

 

「クラスの思い出になっていいじゃん」

 

「ねー」

 

全員の行動に怒り心頭のセシリアだったが、みんなの言葉にだんだんと丸めこまれていき、最終的には何も言い返せなくなっていた。新聞部が去って行ったあとは、みんな飲み物片手に雑談したり、歌を歌ったりしてすごしている。ちなみに選曲は旭の歌がメインだったりする。ちくしょう、あいつ今をときめいてやがるな・・・。

 

「奏羅さん」

 

「ん? なんだ?」

 

そんなみんなの様子を少し遠くで眺めてた俺の所にセシリアがやってきた。

 

「いえ、なんだか寂しそうな気がして」

 

セシリアに言われて少しドキッとする。この学園に来て、一夏や、箒、セシリアたちと仲良くなって、旭の曲を聴いて、織斑先生や、山田先生の授業をこなして、毎日を楽しく過ごしてた。だけどやっぱり、そこに彼女がいない。その現実がこのパーティで少し、だけどはっきりと浮き彫りになって、なんとなくだけど今はみんなの中に入りづらかった。

 

「俺、ここにいなくてもいいんじゃないのかな?」

 

「えっ?」

 

俺の突然の質問に驚くセシリア。確かにこの状況でこんなこと聞かれるとは夢にも思わないだろう。

 

「なんで、そんなことを?」

 

「いや、もしここに俺がいなくても、みんななんの問題もなく毎日を過ごすんだろうなって。そう考えたら、なんだか・・・ね」

 

実際に俺は彼女がいなくても、何の問題もなく生きている。いなくなったら世界が終ってしまいそうなほど、俺の世界は彼女が中心で回っていたのに、やっぱり俺の世界は問題なく続いている。そもそも、俺は彼女を差し置いて、一人生きていていいんだろうか? そう考えたら、今この場所で俺がいなくなっても、なんの問題もない。だからいっそのこと・・・。

 

「あ、あの・・・」

 

ふと我に返ると、セシリアが心配そうな顔で俺を見つめていた。

 

「あ、悪い。今の忘れてくれ」

 

変な話をして、余計な心配させてしまった。どうやら、過ぎたことをぐだぐだと考えだしたせいで沈んだ気持ちが、顔にでてしまったらしい。俺は後悔しながら、居づらくなってしまったセシリアの隣を離れようとした。

 

「俺、先に部屋に戻るよ。じゃあまた―」

 

「待ってください!」

 

彼女の呼びかけに足が止まる。

 

「わ、わたくしが許可します!」

 

「へ?」

 

俺は彼女が言っていることがよくわからなかった。ていうか、何を許可してくれるのだろうか?

 

「わたくしが、奏羅さんがここにいることを許可しますわ!」

 

「・・・・・・」

 

「だ、だから、あなたは卒業するまでここにいていいんです! ですから、もう二度といなくてもいいなんて、そんなこと―」

 

「ぷっ・・・」

 

「な、何がおかしいんですの! わたくしは心配して・・・」

 

「いや、ごめんごめん」

 

なるほど、『許可してやるからここにいろ』か。なんともセシリアらしい慰め方だな。

 

「・・・ありがとな。セシリア」

 

「しょ、庶民を気遣うのが貴族の務めですから、当然のことですわ!」

 

なんか対応が最初の頃の感じに戻ってるが、これは彼女の照れ隠しなんだろう。その証拠に、彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

 

「奏羅さんが感謝してるのであれば、お礼として今度わたくしと一緒に―」

 

「セシリア、抜け駆けは許さないっていったよねー」

 

セシリアの言葉がさえぎられる。気がつくと俺たちの近くにクラスメイト全員が集まっていた。みんな俺たちが何を喋っていたか、ものすごく興味津々な顔でこちらを見ている。

 

「あ、あなたたちはっ・・・!」

 

「はいはい、わかったから、み ん な で 仲 良 く 、お話しましょうね」

 

クラスメイトに気圧され、黙り込んでしまうセシリア。それを機に一気に俺にクラスメイトが群がり、特に意味もないような質問を繰り返す。

 

(・・・セシリアに許可出されるまでもないな、これは)

 

周りには一夏や、箒、セシリアという友人や、たくさんのクラスメイト。もし、あの時彼女の声が聞こえなければ、俺はみんなに会ってはいなかった。

 

(どうやら、今の俺の居場所はここなんだな・・・)

 

心の中で、俺は届くかどうかもわからない彼女にそう呟いた。

 


 
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