拠点:亞莎 題名:呉下の阿蒙
亞莎SIDE
一刀様に初めて出会ったのは、私が周泰さまの部下として袁術の城に偵察の任を行なっている時でした。
未熟者で、目も良く見えないせいもあって私は直ぐに遙火ちゃんにバレてしまいました。
自決しようとしていた私を止めた遙火ちゃんは、その夜私をある部屋に連れて行きました。
「友達、名前は呂蒙」
「…はぁ?」
でも、部屋に入った時、一人見覚えのある方が居ました。
それは…
「おい」
「ひっ!か、かかかか、甘寧さま」
「…貴様…明命の諜報部隊の者だな」
「は、はははい」
目が悪い私にもしっかりと見える程の近い位置で甘寧さまを私を殺す勢いで睨みついていました。
どうしましょう。
怒られそうです。
「えー、倉、ちょっとこっち。甘寧も」
「…うん」
「何だ、私今アイツを戒めることで忙しくなりそうだが」
「良いから」
そう言って男の一人引っ張られた二人は部屋の隅で話し合い始めました。
「あの、呂蒙さんって言いました?」
「は、はい、そうですけど…あの、すみません。私目があまり良くなくて、今話しているあなたはどこに…」
「…視線を下に移してもらえますか」
「え?…ああ!」
目を下に向けると、そこには水色の帽子の下ですごく不機嫌そうな目で私を見ている女の方がいらっしゃいました。
しかも至近距離です。
「も、申し訳ありません」
「…すみません、ちょっと失礼します」
「ああ」
そう言って私に声をかけてくださった女の方は向こうで話し合っている群れに参加してしまいました。
私だけぼつんと立っている時間が続きました。
「何をほざいているんだ、北郷一刀。あんな出来損ないが蓮華さまに何の役に立つと…」
「だから方向性が間違ってるんだって。見たところあまり諜報の仕事に向いてなさそうだし、アレ目つき悪いのって絶対目悪そうだし」
「目が悪いせいで目つきが悪いのはともかくとして人に対しての礼儀がなっていません。私は反対です」
「まだ何をするとも行ってないのに?」
「あの人に対して何をしようが反対です」
「…雛里ちゃん、何かあったの?」
…やっぱり私なんて来ない方が良かったのでは……。
「あ、あの、夜遅くに来て申し訳ありませんでした。迷惑そうなので私はこれで…」
「誰が帰っていいと言った」
私が急いで頭を下げて出ていこうとしたら甘寧さまが一瞬で私の後ろに立って私の首筋を剣で押しながら言いました。
全然見えませんでした!
「ひぃっ!」
「おい、あまり脅かすなって」
「これは私たちの問題だ。貴様らとは関係ない」
「あぁぁ…周泰だったらまだ話が通じるのだが…雛里ちゃん、なんかないの?」
「…甘寧さん、今は一人でも多くの助け人が必要な時期です。以後のためにも一刀さんの話を聞いて頂けると助かりますけど…」
「ちっ…仕方ないか」
甘寧さんが私を離してくれて、
「良し、じゃあ、取り敢えず座ろうか、呂蒙」
「は、はい……」
殿方が勧める席に座ると、さっき無礼な真似をしてしまった方がお茶を注いでくれました。
「先ず自己紹介するよ。僕は北郷一刀、蓮華、孫仲謀に頼んで甘寧やお前を動くようにしたのは僕だ」
「あ、はい、呂蒙です。字は子明といいます」
顔はちゃんと見えませんが、声はとても落ち着きます。
「…今僕の顔良く見えないよな」
「え?あ…えっと……」
そう言われて目を細くして近づいてみると、やっと顔が見えるようになりました。
「……近いです」
「ふえ!?す、すみません」
「雛里ちゃんは不機嫌そうだな」
「別にそんなことありません」
あう……
「まあ、取り敢えず眼鏡を買うのが先決条件だな」
「眼鏡…ですか?」
しかし、瑠璃を削って作る眼鏡はとても効果な品物です。
私なんかじゃとても買えるものではありません。
「取り敢えず…この時代に合わせたもので幾つかあるから掛けてみようか」
「………え?」
なんか、目の前円卓に何時の間にか眼鏡が幾つか用意されてあります。
「こ、こんなに沢山どこから…」
「貴様らの鞄ではなんでも出てくるのか。実は雑商人なのか」
「失礼な。金銭的理由で使ったことなど一度もない」
「あ、あの、私こんな…」
「ああ、気にすることない。これ以外にもいろいろ出せるから」
ま、まだあるというのですか?!
「ど、どうして私なんかのためにこんなことを……」
「投資だよ」
「投……資?」
「僕は、これからお前が蓮華を甘寧や周泰と共に蓮華を支える大黒柱になってくれると見込んでる」
「え……ええ?!」
私が…え?
「そんな、私なんて諜報員の出来損ないで…甘寧さまや周泰さまみたいになんてとても…」
「謙遜と自分を貶める行為は全然違うよ、呂子明」
「で、でも……」
「お前は今よりももっと重要な人物になれる。でも、僕が幾ら言ってもそれを呂蒙自分が信じなければ意味はない」
「………」
自分を…信じる?
「…まぁ、会って早々の人がこんなこと言っても無駄だろうとは思うけどな。ほら、先ずはこっちから行こうか」
「え?あぁの、本当にかけてみるんで…」
そう言っている間私の意志とは関係なくかけられた眼鏡は、私と関係なく私に新天地の姿を映してくれたのでした」
「!」
「どうした、気に入らなかったのか?」
一瞬でパッと眼鏡を外すと、一刀様は驚いてそう聞きましたが、驚いたのは私の方でした。
なんか…いつもは虚ろにしか見えなかった世界がはっきりと見えて…それがまたキラキラしていました。
「いえ…あの…」
「他にもあるから試してみてよ」
「あ、はい」
一度煌めく世界を見てしまった私に、最初の戸惑いはなくて私はまた他の眼鏡に手を伸ばしていました。
そして、私の目には、再び明るい何かが写っています。
『当たり』
……
「あ、ぁぁああ…!」
「そんな…」
「馬鹿な……」
あ、ああ?
ああああああ!
「ああの!思春殿、明命殿!これは一体どういうことですか」
「どうも何も、あなたが引いたのよ、『当たり籤』を」
「わ、私が?」
当たりクジ?
私が?蓮華さまと一緒に行くというのですか?
「亞莎さん、それ私に譲ってくれないでしょうか」
「え?」
「見苦しいぞ、明命。籤で決めたことだ」
「しかし、思春殿。思春殿だって蓮華さまと一緒に行きたいではないですか」
「………」
あ、あの私はどうすれば良いのでしょうか。
あれ以来、一刀様はそう言っていましたが、未だ私は他の二方より強くも賢くもありません。
蓮華さまをお守りせねばならないってことを考えると、私より他の二方の方が適任かもしれません。
ですが……
逃したくありません。
この機会。
蓮華さまと一緒に居られる機会。
そして、一刀様とも一緒に居られる機会です。
「亞莎」
「は、はい!」
蓮華さまが私を見て仰りました。
「正直に言って、私はまだ亞莎のことは良く知らないわ。出会って日も浅いし。他の二人が来てくれた方が心強かったかもれいない」
「あ……」
「無論、だからってあなたにやめさせようと言っているわけではないわ。ただ、聞いておきたいの」
蓮華さまの声は、決して私が選ばれてがっかりだったとかそういう声ではありませんでした。寧ろ心配してくれてる声。
「今回の張闓との戦い。あなたは危険な目に会ってたわ。死んだかもしれない。これからも一刀と一緒に行ったらそんなことが続くはずよ。あなたにはこの旅に参加する覚悟があるの?」
「…あります」
答えるにはそう長くかかりませんでした。
籤を引こうと思った時から、覚悟はあったのです。
「今回のことで、自分がどれだけ未熟なのか尚更気付きました。でも、いつまでも未熟な私では居られません。いつか一刀様に言われた通り、蓮華さまを支える者になるためにも、私は蓮華さまと共にこの旅で多くのものを学びたいです。ですから…どうか私を連れて行ってください」
「そう…覚悟はできているのね」
「はい」
「…他の二人も良いわね?」
「…あぅ…はい」
「…はい」
こうして、私は蓮華さまと、一刀様たちとの旅に参加することになりました。
「一刀様!」
「うん?ああ、呂蒙か」
その次の日、廊下の途中一人だけで歩いている一刀様に出会いました。
「呂蒙が蓮華と一緒に来ることになったそうだね」
「はい!これからも宜しくお願いします!」
「こちらこそな。…コンタクトはもう使わないのか?」
「あ、はい、その…ほら、目に付けるのが怖くて…普段はこの一刀様からもらった眼鏡で十分です」
いつもはあの日一刀様からもらった片眼鏡をかけています。
「まあ、僕は見てないけど、きっと呂蒙はその眼鏡の方が似合うからな」
「そ、そんな……」
一刀様は微笑みながら仰りました。
なんだかすごく恥ずかしいです。
「そういえば、まだお礼も言ってなかったな」
「へ?お礼…?」
私は一刀様にお礼に言われることなんて何も…
「倉と一緒に張闓の所に行ってくれたって?」
「え?あぁ…はい。…でも寧ろ私が遙火さんに助けてもらいました」
「謙遜しなくて良いよ。倉も呂蒙が居てくれて助かったと言ってたよ」
「そんな…私は…」
「……」
あ、
これ以上謙遜を張ったら、感謝の言葉を言う一刀様に迷惑になるだけです。
「…褒めてくださってありがとうございます」
「宜しい」
「あうぅ…」
いきなり頭撫でられました。
「あ、あの一刀様」
「…あっ!悪い、呂蒙。ちょっと用事があるのでな」
「ふえ?」
どうして急に……
「済まん。急いでるから、また今度話そう」
「は、はい…」
一刀様はそう言いながら向こうへ走って行きました。
「ごめん、機嫌直してって」
…誰と話してるのでしょうか。
・・・
・・
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まさか亞莎が上がるとは思いもしなかったので手こずった作者です。
思春、明命涙目。
まあそのうち何かの理由つけて登場させましょう。
にしてもやっと昔話から繋げられたなぁ…ここで選ばれなかったら永遠に回収されてなかったかも知れん。
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