バーチャフォレスト最深部。
鬱蒼とした樹林を人工的に切り拓いて造られた、如何にも簡易的な祭壇。
ゲイムギョウ界のバランスを保ち司るとされる『ゲイムキャラ』、それを安置するためのものにはかなり安上がりなものだ。まるで定められた規約にそのまま則って造ったような、ぞんざいな対応の仕方である。
しかし、ゲイムキャラ――パープルディスクは、それを特に気にした様子もなかった。
『――この世界には異変が起こっています』
「異変、ねえ……」
クァムがそうつぶやいたが、無理もないだろう。クァムはこの世界を訪れて、まだこのバーチャフォレストしか見物していないという。
バーチャフォレストだけでもかなりの変異を感じたようだが、それでもまだクァムにとっては異変の確証を得る情報には成り得なかったようである。
「異変ってのは……街の人達のことなのか?」
『人々に何か異変があったのですか? 私が感じているのは、この世界に複数の異変の反応があったということしか感じられないのですが……』
紅夜の問いに、パープルディスクは不安げな声音になってそう訊ね返してきた。
――どうやら異変というのはあの人々のことではないらしい。
「街の人がどうかしたのか?」
「ああ……クァムは知らないよな。実は――」
街の人々には、生気がなかった。
往来を歩いていく人々、バーチャフォレストへ向かうために簡単なアイテムを購入するために立ち寄ったアイテム屋、皆一様に生きている感じがしなかった。
確かに動いているし、話もする。しかし、そこに生きている者特有の意志が感じられないというか……例えるなら、設定された自動機械のようなものだった。
テラはそのことをできるだけ明確に、掻い摘んでクァムに説明した。
「……よく分かんねえな」
テラの説明を聞き終えたクァムは、そう言って首を捻った。
まあ、それらのこともテラや紅夜の感覚的なものなので、口だけで説明しても理解に及ぶかなどはまるで期待はしていなかったのだが。
テラ達からすればそっちの方がかなり異変なのだが、パープルディスクがそれを知らないということは、この世界ではあれが普通のようだ。
何か腑に落ちないものを感じながらも、パープルディスクの話に筋を戻す。
「複数の異変……それって、俺達のことなのか?」
紅夜の推測では、この世界はテラ達が元いた世界とは異なる並行世界。それらの世界は本来、互いに交わることはないのだという。
交わることのないはずの世界から来たテラ達は、この世界からすれば十分に異変だ。
『……恐らくは』
「やはり、か……」
パープルディスクの言葉通りなら、このゲイムギョウ界はテラの元いた世界ではない。よって、この世界の女神達はテラにとって何ら関わりのない存在ということだ。
「俺達以外にも異変の反応ってのはあるのか?」
『……皆さん以外に、微弱な反応が近辺で四つ。プラネテューヌの大地だけの反応ですので、それ以外の地の反応については私には分かりかねます』
テラ達以外に、プラネテューヌに四つの反応。それを聞いたとき、何故かテラの脳裏に一人の少年の姿が浮かび上がった。
プラネテューヌの街でテラと紅夜に刃を向けてきた、あのエスターという少年。
エスターは、十分に異変と呼べる存在だった。驚異的な力を持ち、テラと紅夜二人がかりで相手取ってもものともしないあの力、異変以外に何と呼べばいいだろうか。
反応が四つ、仮にその一つがエスターだとして残り三つ。
エスターの仲間だろうか、あるいは別の反応か。しかし、どちらにしても完全に不安が拭えたわけではなかった。
エスターの仲間であれば、恐らく相見えたとき対峙することになるだろう。
女神に関連する力を狙う目的で集っているとすれば……次に相手にするのはエスター一人でない可能性は十分に高い。
例え、残る三つがエスターの仲間でないとしても敵対しない理由にはならない。
エスター達のように女神達に対して、よからぬことを考えている輩がこの世界に呼び寄せられたとすれば、止めねばなるまい。
「俺達を含めてプラネテューヌに異変が七つ、か」
「ああ……エスターは要注意だとして残り三つと、クァム」
「え、俺?」
テラに名指しされたクァムが、自分を指さしながら首を傾げた。
そう、クァムは成り行きでこうして同行しているに過ぎないのである。クァムの潔白が証明されているわけではないのだ。
「女神を狙っているんだとすれば、俺はお前を討つが……どうだ?」
「おい、テラ……」
ぐい、と紅夜はテラの肩を掴んで制するような声音で告げる。
「
「大丈夫だよ」
人の感情の機微には疎いわけじゃないから、と付け足して紅夜は言った。
それに便乗して、クァムも不機嫌そうに唇を尖らせた。
「それに俺は元の世界ではネプギア達と一緒に世界を救ったこともあるんだ。女神によからぬことしよう、なんて考えるわけないぞ」
クァムの言葉を聞き、そこでテラは精一杯に眉根を寄せ上げた。
「ネプ、ギア……? 誰だ、それは」
一瞬、ネプテューヌの聞き間違いとも思ったが違った。話の流れからすると、そのネプギアというのも女神の類のようだが、テラには覚えがない。
紅夜とクァムは揃って、キョトンとした表情になりテラを見つめてきた。
「ネプギアって……ほら、プラネテューヌの女神候補生だよ」
「女神候補生?」
またもテラは眉を歪め、その言葉を反芻した。
女神候補生なるものをテラは聞いたことがない。いや、そもそもテラの世界には、そんなものは存在していないはずなのである。
もしや、とは思うのだが――
「俺達の中でもズレが生じている……ってことなのか」
「ズレ?」
クァムが訊ねると、紅夜はこくりとうなずいてから口を開いた。
「つまり……俺達の世界でも異なる部分があるってことだ。今の例で言えば、俺達の世界で存在していた女神候補生がテラの世界ではいない……っていう事実のズレだ」
「もしくは、俺の世界ではまだ女神候補生なるものがいない、という時間的なズレだな」
「なるほど」
どちらの可能性も有り得る。もっとも、テラの世界でも神界への道が閉ざされてしまった以上、女神や鬼神が悠久の時を生きる術はない。早めに後任を作るということであれば、後者の方が可能性的には高いのだろう。
「まあ、今はそのことはどうだっていい。クァム、お前が女神を敵視していないという事実が分かったことだしな。不躾なことを言って悪かった」
「ああ、いや、俺ももっと早く言っておけばよかったことだし……頭を上げてくれ」
テラが深々と頭を下げると、クァムは苦笑しながらそう言った。
「それで……これはパープルディスクに一番聞きたかったんだが、俺達はどうすれば元の世界に帰れるんだ?」
その様子を眺めていた紅夜が、頃合いを見てパープルディスクに訊ねた。
そう。パープルディスクに聞きたかったことは、まさしくそれなのだ。
ゲイムキャラとは、ゲイムギョウ界の秩序と安寧を守るための存在。すなわち、異変を改変する力があるのではないかという望みを託して、ここを訪れたのである。
『申し訳ありません』
ややあってから、パープルディスクはそう声を上げた。
『私の力はこのゲイムギョウ界に及ぶもの、イレギュラーとしてこの世界にやって来たあなた方には、通用しないものと思われます』
「そうか……」
紅夜は額を押さえて、消沈した声でつぶやいた。
見たところ、紅夜はこういった出来事にはかなり精通しているようだった。真っ先にゲイムキャラに力を貸してもらおうと提案したのは他でもない紅夜である。
かなり知識には長けている方だと思っていたテラも、異世界についての情報というのはとんと無い。紅夜の手際の良さにはテラも舌を巻いていた。
「紅夜、お前……慣れてるな」
「は?」
「いや……こんな頓珍漢な状況にもほとんど動じてねえし、手慣れてるなと思ってよ」
「あー、それは俺も思ってた」
紅夜が「そうか?」と言ったので、クァムと揃って首を縦に振る。
紅夜はガシガシと後頭部を掻きながら、深~い溜息を吐いて、半眼を作った。
「ちょっと、厄介なやつに振り回されていた時期があってな。そのときに幾つかの世界を見て回ったことがあったからな」
「ふうん……って」
さして気に留めず、流しかけた紅夜の言葉にテラは耳を疑った。
――紅夜は今、何と言った?
幾つかの世界を(振り回されて)見て回ったことがあるのか。……どうやら、紅夜は知識だけでなく実際に体験したことがあるらしい、それも何度も。
ということは。
「なら、その方法で移動してみればいいんじゃねえのか?」
「それができれば苦労はしないんだよな……」
紅夜の言い分からして、紅夜自身は他の世界へ干渉する術は持っていないということなのだろう。まあ、それができるのなら紅夜はこんな場所にはいないと思うのだが。
「とりあえず、有意義な情報を得られたよ。ありがとう」
『いえ……私の持つ情報でもお役に立てたのならば光栄です』
「もういいのか?」
「ああ。とりあえず欲しい情報はもらえたよ」
その後、パープルディスクに別れを告げ、三人は祭壇を後にした。
再び鬱蒼とした森の中に伸びる蟻の巣状に広がる不可思議な通路を歩いている途中で、ふとテラは隣にいるクァムを見やった。
「なんだ、テラ?」
「いや……お前、ついてくるのか?」
もっとも素朴な疑問を、テラは口にした。何気なくクァムはテラと紅夜についてきているが、特に行動を共にしなければならないという義理はない。
クァムが離れて、どこかに行きたいと言うのなら、それを止める理由もないのである。
「ついてっちゃ駄目か?」
「駄目……ってわけじゃないが、なあ」
クァムがさも当然というように訊いてきたが、テラは歯切れ悪く紅夜に振った。
駄目というよりは、危険だからやめた方がいい――ということの方が大きい。
いずれエスターとも戦うことになるだろう。そうなれば、必然的にクァムもその戦いの中に身を投じることになる。クァムがどれだけ戦い慣れているかは分からないが……並のものじゃエスターに瞬殺されるのが落ちだ。
「あいつは……誰かを守りながら戦える相手じゃない」
「それなら大丈夫だ。俺はそう簡単に死ぬことはないし」
「あのなあ……」
冗談を言うようなその口調に、テラが呆れた声を上げようとしたが、クァムはにやりと意味ありげに、神妙に笑った。
何故だかそれに、言いも知れない気を感じて、テラは言葉を詰まらせた。
「それに、二人についていった方が何かと面白そうだし」
クァムはにひひっと無邪気に笑いながら言った。
「……」
「……」
「「……はあ」」
脳天気そうなクァムの笑顔を数瞬眺め、テラと紅夜は揃って溜息を吐いた。
――多難な未来が待ち受けているような気がした、色々な意味で。
☆ ☆ ☆
「――っ」
キラはふらふらと覚束ない足取りで、薄暗い森の中をゆっくりと歩いていた。
時折、身体を大きく揺らし、口元からは絶え間なく不規則な息遣いを零していた。そう気温が高いわけでもないが……自然と頬に汗が幾つも筋を描いていた。
ずりずりと、右足を引きずるようにして、動かすたびにキラの表情には苦悶が浮かんだ。
「いって……」
ふと、一人ごちてみる。しかし、その言葉も空虚な世界に溶けていくのみだった。
果てのない、奇妙な孤独感にのめされながら、キラはうすら笑った。
「冗談じゃないっての……」
はあ……と嘆息混じりにつぶやき、キラは近くの樹木に背中を預けた。
キラが目覚めたのは、今から三十分もないくらい前だ。
あの黒い”化物”と戦っていたかと思えば、いきなり意識を失い、そして目が覚めたあかつきにはすでに右足を負傷しているという最悪な事態である。
傷は浅いが出血がひどく、また打撲でもしたかのような鈍い痛みがずっと続いている。何とか応急処置だけでも施そうと思ったが、武器以外のアイテムは無に等しかった。
たかが簡単な採取クエストだとたかを括っていたたこともあったのだが、どうやらアイテムの追い剥ぎにでも遭ったらしかった。――まったく、ツキがなかった。
……だが、そう楽観しているわけにもいかない。早いところ、この森を脱出してすぐに救助を求めなければ助かる余地がない。
携帯端末の電波は、森の中のせいか見事に圏外だった。
「はあ……」
再度、大きな溜息を吐きながらキラは空を見上げた。
空は先程眺めたときと変わらず、不気味な色が広がっていた。キラのいたゲイムギョウ界ではこんな現象があっただろうかと首を捻った。
「って、そんなアホな話があるかよ」
キラは、脳裏に浮かんだあまりにも突飛な思考を吹き飛ばすように首を振った。
ふと思い出したのは、テレビで流れている映画のCMだった。ある男が何かの拍子にゲイムギョウ界ではない別の世界に飛ばされてしまう――という、B級映画もいいところといったような内容のものだった。
――異世界だなんて、そんな現実味もない話があるはずがない。
キラはそう深く自分に言い聞かせながら、ふらふらと重たい身体を起こした。
今はきっと、このような状況に追い込まれて思考がネガティブな方向に傾いているだけなのだ。このピンチを乗り越えれば、いずれ笑い話にもなるだろう。
そう思いながら、負傷した足を引きずってまた当てもなく彷徨う。
「ったく……異世界だなんて馬鹿な話認めねーぞ」
仮にここが異世界だとしたら、満身創痍などという言葉で片付けられる状況ではない。加えて、ここが以前のゲイムギョウ界のようにモンスターのような類がいるのだとすれば、もはや絶体絶命だ。
「ないない……いくら何でもそんなことは――」
あっはっは、と笑い飛ばそうと思った瞬間、背後からズズゥン、と大地を強く揺るがす不気味な音が聞こえてきた。
ギギギ……とぎこちない動きで、視線を背後に向ける。
そこにいたのは、巨大な体躯を持った狼だった。いや、正確には危険種指定モンスターの『フェンリスヴォルフ』だ。
「――っ!」
フェンリスヴォルフの鋭爪が、キラに向かって横薙ぎに向かってくる。慌てて回避行動に移ろうとしたが、右足の痛みに邪魔されてその場で転げる形になった。
間一髪で、キラが立っていた場所を爪が通り過ぎる。しかし、フェンリスヴォルフは低くのどをうならせながら、ギラギラとした瞳でキラを見据えている。
「マジで冗談じゃないっての……!」
痛みのせいでうまく立ち上がることができない。フェンリスヴォルフはジリジリとキラとの間合いを詰めてくる。
「く……!」
フェンリスヴォルフがぐいと右前足を振り上げる。銀色の爪が、木漏れ日を受けて不気味なほどに輝いていた。
――ここで、終わるのか。
キラは口の中でそうつぶやき、力無く笑った。戦うことなどできない状況の上、到底歯が立つわけのない危険種指定モンスターとの遭遇。こんなもの、積んでいる以外にない。
いや、もしかしたら怪我を負った時点で積んでいたのかもしれない。
斬閃は迷いなく、キラに向けられている。スローモーションのように、すべての景色が魔法をかけられたようにゆっくりに見えた。
キラはすべてを諦めて目を伏せ……ようとしたところで、目の前の状況に唖然とした。
ゆっくりに見えたのではない。本当に、すべてがスローモーションになっている。
「な、何なんだ……?」
よく目を凝らしてみてみる。すると、その原因は容易に知れた。
それは、まるで水の牢獄だった。
フェンリスヴォルフを閉じ込めたのは、雫のような形をした巨大な水の塊だった。
ぼこぼことフェンリスヴォルフが暴れるたびに、口元から気泡が溢れる。しかし、どれだけもがこうと水の呪縛から解放されることはない。
「……っ!」
しばらくその状況に目を奪われていたが、背後から二つ分の影がキラの前に出た。
一人は、金髪に無愛想な面持ちの青年だった。細身の刀を腰から下げており、モンスターを眺める瞳もかなり冷徹なものだった。
もう一人は、黒髪の青年だ。両手にはナイフより若干大きい程度の妙な形の武器が握られており、その両手からは薄く水のようなものが浮かんでいた。
「この世界にもこの程度のモンスターはいるんだな」
黒髪の青年は、宙に水の塊ごと浮かんだフェンリスヴォルフを眺めて言った。
「それで、どうするんだアレ。まさか食おうってのか?」
金髪の青年が、黒髪の青年をジトッと睨む。
流石にモンスターはあまり美味しくはないと思うのだが……キラは会話を聞きながら、心中でそうつぶやいた。
「でもよ、エスターがちゃんとした飯を取ってくる保証もないし、保険だ保険。氷室ならいい感じに料理してくれんだろ?」
「手伝えよ」
「劇物になってもいいならな」
皮肉を込めた軽口を叩きながら、黒髪の青年は湾曲した二つの武器の柄尻を組み合わせ、弦のない弓のような形にした。
一方、金髪の青年は無言で刀を抜き放ち、フェンリスヴォルフに狙いを定めている。
わずかの時間をおいて、金髪の青年が先に動いた。
人間とは思えない跳躍力で一気に上空まで舞い上がる。その刹那、抜き放った刃に烈火が灯り、一際大きな炎の剣が出来上がった。
黒髪の青年が持つ武器には、いつの間にかワイヤーのようなものがくくりつけられ、弓とそれとセットに水でできた一本の矢が握られていた。
「これで、逝っとけ」
黒髪の青年はキリキリと引き絞りながら狙いを定め、一矢が飛んでいく。矢は的確にフェンリスヴォルフの急所を撃ち抜いた。
水の檻の中で、フェンリスヴォルフは苦しげに身を捩る。そこで金髪の青年は、刀を上段に振りかぶり、一太刀に斬り下ろした。
フェンリスヴォルフの悲痛な咆吼が空にとどろき、その身体が炎に舐められる。
芳ばしいような、不快なような何とも言えない臭気が充満する。キラは胃の奥からせり上がってくる感覚に、思わず口元を押さえた。
「……で」
完全に油断していた。金髪の青年は刀をキラの顔の真横に当て、ギロリと眼光を鋭く光らせてキラを睨め付けてくる。
「誰だ、お前は」
「……お、俺は、その」
あまりにも突然すぎる状況に思考回路が追いつかず、歯切れ悪くキラは言った。
双方の如何にも胡散臭い視線が突き刺さる。先の脅威が去った未来に、第二の脅威が訪れるとはまるで予感していなかった。
「き、キラ……です」
「ふうん……」
金髪の青年はさして気に留めた様子もなく、目を細めて刀を肩に担いだ。
「連れて行くぞ」
「は?」
パチンと刀を鞘に収めて、振り返り様に金髪の青年は言った。突拍子もない発言だったのか、傍らにいた黒髪の青年が素っ頓狂な声を上げた。
「何故だ?」
「何か情報が聞き出せるかもしれない」
「なるほどな……」
そうは言ったものの、黒髪の青年はまだどこか納得していない様子で後頭部を掻いた。
金髪の青年は、そんなものはお構いなしとすでに薄暗い森の中に消え入っていこうとしている。黒髪の青年は盛大な溜息を吐いて、キラを肩に担いだ。
「う、わわ……っ」
「いいから大人しくしてろ。抵抗しなけりゃ何もしねえよ」
とりあえず言われるがままに大人しくする。落ち着いてきた意識の中で、キラは今までの疲労が一気に溜まっていくような感じがした。
(あ……ちょっとやばいかも)
ごしごしと目元を擦り、小さなあくびを一つ。身体は尋常でないくらい揺れているが、それよりも疲労と眠気の方が勝っているらしかった。
どこに連れて行かれるか分かったものではないのに、どことなく安心する。人と出会ったというだけで、この不安が幾分か緩和されたような気がした。
キラはしばし、こくりこくりと船を漕いでいたが……やがて絶大な眠気に抗えず、そのまま眠りについてしまった。
「人間嫌いの氷室が連れて行く、なんて言うもんだからどんなやつかと思えば……」
黒髪の青年、レオンは肩に担いだキラを横目で眺めるようにして嘆息した。
今はすっかり疲労困憊なのか、担がれたまま眠ってしまっている。そんじょそこらの子供と変わりない――と思ったのは最初だけ。
「何者だ、こいつ……」
ぴりぴりと担いでいる手から伝わってくる、妖しい気。それはこの少年が、人間などという小さなカテゴリに収まるものではないことを示している。
もしくは、人間でありながら人間でない力を持った者か、だ。
どちらにせよ、レオンにはそんなことは関係がなかった。……いや、もしかすると、氷室もレオンと同じ事を考えていたのかもしれない。
「人間は嫌いだが……強い人間は別だよな」
振り向くこともしない遠くはなれた仲間の背中に、レオンはそうつぶやいた
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受付中 12/07/15 17:32
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