真・恋姫✝無双~だけど涙が出ちゃう男の
[第32話]
朝に目が覚めて気が付くと、ボクは自分の部屋のベッドで寝ていました。
執務室で黄忠の厳しい監視の中で決済し終わったところでボクの記憶は途切れていたのですが、誰かが部屋まで運んでくれたようです。
ボクは暫くボーっとしていたのですが、昨日の怖い黄忠さんが思い浮かんで来て少し震えてしまいました。
鬼子母神さまを
これから御酒を持ちだす時には細心の注意を払おうと、ボクは心の内で決心しました。
しかし、いつまでも震えて居ても仕方が無いので、身支度を整えてから食事をしに行きます。
その後に執務室に行って、ボクが不在の間の報告書に目を通していきました。
昨日までは黄忠さんが決済するのが先だと言って、報告書を見るのを後回しにされてしまっていたのです。
これでやっと落ち着いて報告書が読めると思って、ボクは喜々として報告書に目を通していきました。
(雛里の報告書は、簡潔で要点が
そう感心しながら、ボクは集めて貰っていた
龐統には他州の情報、とくに冀州の詳細な情報の取得に重点を置いて貰っていました。
「うん……?」
報告書を読み終えようとする時、ボクは黄巾党の首領である張角たちの記述に問題を発見しました。
龐統を呼んで確かめようとしましたが、それよりも会議を開いたほうが良いと判断します。
ボクは今後の事も踏まえて話し合うべく、近従の者に命じて午後に会議を開く事を主だった将軍たちに知らせました。
「さて。みんな集まったかな?」
ボクは会議室にしている部屋で、諸将が集まったのを確認して話しました。
会議室といっても広い部屋に椅子が人数分あるだけの簡素なもの。
将軍たちは思い思いの椅子に腰かけ、目前にいるボクを注視しています。
北郷は正式な将軍ではありませんでしたが、知らせても良い情報を共有する為にこの場に呼びました。
「みんなに集まって貰ったのは、今後の事を話し合う為なんだ。兵たちの疲れを取ってからだけど、いずれ冀州に居る黄巾党の主力を征伐に
ボクは龐統の報告書に書かれてある諸将に必要と思われる情報を話していきます。
冀州で黄巾党の主力に董卓軍が敗戦した為の打開策として、朝廷が新たな軍勢を討伐に向かわせた事。
それらの主だった者の名は、皇甫嵩・袁紹・曹操・公孫瓚などである事。
新たな軍勢が冀州の広宗に集結するのには今暫く掛かるけれど、広宗へ向かう道筋での各地では
などを話していきました。
「それでね。一つ気になった事があって、雛里に聞きたい事があるんだけど。良いかな?」
「……はい」
将軍たちに主だった情報を話した後、龐統に気になる点がある事を告げました。
龐統はボクが何を言うかを理解しているのか、帽子の柄を両手で掴んで握りしめます。
「あのね。張角・張宝・張梁の人物像が特定出来ていないって報告書にあるんだけど、これはどういう事なのかな?」
冀州の黄巾党の首領たちである張角・張宝・張梁の居場所のみならず、人物像や能力などをボクは龐統に調べて貰っていました。
いくら賊の集まりが烏合の衆であるとはいえ、冀州に居る黄巾党主力の総数は調べられているだけでも十万人を超えて居るのです。
その数の軍勢を率いるのが名将であったのなら、こちらの受ける被害は少々の痛手では済まなくなる。
一頭の狼に率いられた羊の群れは、一頭の羊に率いられた狼の群れを駆逐してしまうからです。
だからボクは、それらを理解しているであろう龐統が報告書の記述を
「はうぅ。……そ、それは、情報が撹乱されていて人物像を特定出来なかったから……です」
龐統は、そう言ってボクたちに事情を説明していきました。
張角を始めとした首領たちの所在は冀州の広宗にほぼ間違いないとの事。
しかし、密偵からの報告では人物像がバラバラで絞り込めないとの事。
長い髭を生やした老人や
何度密偵を送っても確かめきれないので、報告書には曖昧な記述になってしまったとの事
などを話してくれました。
(老人や中年と可愛い年頃の娘とじゃあ、余りにかけ離れている人物像ですね。 なんで、そうなるのでしょうか?)
ボクは、そう思って困惑して仕舞います。
龐統の報告を聞いていた他の将軍たちも困惑を隠しきれないようで、互いに顔を見合わせていました。
「朱里。どうすれば良いかな?」
このまま困惑していても仕方ないので、ボクは諸葛亮に問いかけました。
さすがに、こうゆう事態は想定していませんでしたから。
「そうですね……。いま持っている情報だけで判断するのは危険だと思います。ですが。おそらくは広宗に居ると思われますので、味方の軍勢を集結させて包囲して行くしかないかと」
諸葛亮は、少ない情報では判断出来ないと進言してきました。
ボクは諸葛亮の進言を受けて、後は守勢の姿勢で進軍しながら情報の取得に励むしかないと判断します。
「情報の取得に励みつつ、味方の総数を合わせての包囲殲滅……か」
「はい」
ボクの呟くような返答に諸葛亮は同意を示しました。
「分かった。じゃあ、朱里。雛里・亞莎・稟・風と共に、今後の対策や計画を話し合ってくれるかな? 包囲が主目的なら、今回の征伐には騎馬隊は置いて行く。だから、その分の補充を第2軍から回して貰う方向で話しを進めてくれるかな?」
「はい」
ボクは諸葛亮に、龐統・呂蒙・郭嘉・程昱と共に計画を立てて貰う事にしました。
冀州の黄巾党主力の広宗が落とせれば、いま大陸を騒がしている反乱の決着がつく筈です。
だから、動かせる兵力は最大限にして行こうと思いました。
「紫苑に雛里。そういう訳だから第2軍は騎馬隊のみの編成になる。予備兵も連れて行くから大変だと思うけど、橋頭堡と他州との補給路の維持を頼むね?」
ボクは黄忠と龐統に、これまでと同じように橋頭堡に残って貰う事としました。
彼女たちはボクの命令を了承してくれます。
第1軍と第3軍、それに第2軍と予備兵も含めれば、総数は正規軍3軍を合わせた数と保々同数になる。
そうなれば、例え騎馬隊がいなくても数で押し切られる事も無いでしょう。
そして、ボクは今回の征伐には黄忠・龐統を除く全ての将軍たちを
だから、その
出陣の日時は追って知らせるとしてこの場を解散させようとした時、ボクの目に北郷が映ります。
その時にボクは、ある事を思い出しました。
そういえば、北郷と話し合う約束をしていたよね? と。
橋頭堡に帰還して早々にボクは缶詰状態に追い込まれていたので、北郷との約束を果たしていなかったのです。
「北郷。君はどうする?」
「え?」
「今回の賊征伐に同行するかい? そうすれば時間も取れるし、色々と都合が良いのだけれど」
ボクが北郷に話しかけると、彼は名を呼ばれるとは思っていなかったのか少し驚きの表情を見せました。
でも、すぐにボクの言わんとする事を理解したのか、北郷は遠慮がちに話しかけてきます。
「でも、大丈夫なのか?」
「何がだい?」
「素人が戦場なんて行ったら、迷惑が掛かるだろう?」
「ああ。そういう事…」
ボクは、迷惑をかけまいとする北郷の考えが分かって納得しました。
「大丈夫だよ。今回の征伐戦では、親衛隊は戦闘に参加しないと思うから。せいぜい補給物資を守るぐらいさ。もっとも、冀州・広宗に向かうまでの道すがらの戦闘には、参加せざるを得ないけどね」
ボクが問題ない事を北郷に告げると、彼はそれを理解して同行する事を了承してくれます。
これから暫くはボクも冀州の黄巾党征伐の計画立案などで忙しくなりますので、北郷が同行してくれなければ約束を果たすのが遅れてしまうところでした。
これで問題は全て片付いたので、ボクは会議の解散を告げようとします。
すると。
「
と、趙雲がボクに質問があると問いかけてきました。
「どうしたの? 何か分からない事でもあったかな?」
ボクは自分の説明に何か不備があったのかを趙雲に問いかけました。
「はい。さきほどの発言が少々気になったものですから」
「え? どれかな?」
「さきほど、主は北郷を今回の賊征伐に同行なさると発言なさいましたな?」
「え? うっ、うん。そうだね」
趙雲が何を言いたいのか良く分かりませんでしたが、真面目に聞いてくるのでボクも真面目に答えました。
「同行させて時間を取って為される色々都合の良い事とは、一体どんな事を為される御積りなのでしょうか?」
「え? どんな事って、それは……」
北郷との話し合いは未来に関わる事でしたので、それを皆に言う訳にもいきませんでした。
だからボクが言い渋っていると、趙雲は疑念を抱くように話しかけてきます。
「もしやとは思いますが、主は男色の気があるので御座いますかな?」
「はああ?!」
ボクがホモなのではないか? と、とんでもない事を趙雲は言ってきます。
それを聞いてボクは、趙雲が何を考えているのか更に分からなくなって奇声を上げてしまいました。
趙雲は我が意を得たりといった感じで、更に
「なるほど。だから私が幾ら
頭を上下に振りながら、趙雲は今迄の疑問が氷解したかのように納得したと呟いていました。
ふと周りを見ると、他の将軍たちが生温い目でボクを見ています。
「え? 違うよ? ボクは普通だよ? 普通に、女の人が好きだからね?」
ボクは周りの将軍たちの生温い目を取り消すべく、自分はホモではない事を強調して話します。
しかし、今度は温い目でボクを見るように成りました。
まるで『全て分かっているから大丈夫ですよ』みたいな感じで。
ボクは更に言葉を尽くして否定しようとすると、郭嘉が顔を下に向けて何やら震えているのが見受けられました。
「え~と、稟? どうかしたの? 大丈夫?」
ボクは心配になって郭嘉に問いかけました。
皆もボクの言葉を皮切りに郭嘉の異変に気付きます。
「ええぇ?!」
ボクは自分が見たモノが信じられなくて思わず叫んでしまいました。
何故なら、暫くして郭嘉の身体の震えが止まったかと思ったら、いきなり鼻血を天高く噴水のように吹き上げたのです。
しかも彼女の鼻から血が流れ出して、辺り一面が水
「ちょっ?! なに? 大丈夫なのかい?!」
ボクは驚いて郭嘉の所まで行き、片膝を地面に着けて彼女の頭を腕に抱えます。
大事な配下の一大事です。この際、衣服に血の跡が付くのにも
「え? なに?」
郭嘉が何やらブツブツと呟いているので、ボクは耳を傾けて彼女に問いかけました。
「刹那様×一刀殿? いえいえ。一刀殿×刹那様かも知れない♡ 駄目です刹那様、そんな一刀殿と(ピー)だなんて。ああっ、でも……♡♡」
「……」
ボクには郭嘉の物言いの内容が良く分かりませんでしたが、
しかも何でしょうか? ボクと北郷と掛け合わせるって。
気持ちが悪いのにも程があると思います。
郭嘉の頭の中は一体どうなっているのでしょうかね?
「ありゃりゃ。稟ちゃん、久しぶりにやっちゃいましたねー」
ボクが郭嘉の頭の中に疑問を抱いていると、程昱がそんな事を言ってきました。
「え? 久しぶりって、どういう事?」
ボクは程昱の言葉に疑問を持って、彼女に問いかけました。
「それはですねー。稟ちゃんは興奮すると鼻血を出して、手がつけられなく成ってしまうのですよー」
「え? ……それじゃあ。稟は、いつもこう成るの?」
「いえいえ。いつもは、もうちょっと大人しいのですよ。今回のような特大なのは、久しぶりですからー」
「そっ、そうなんだ」
ボクは何と言って良いのか分からず、ただ肯定するしかありませんでした。
「どうやら今回は、お兄さん達の
「お兄さん達のって……」
ボクは、呟くように話しながら北郷の方を見ました。
北郷もボクに目を向けてきたので視線が合います。
どちらも気持ちの悪い何とも言えない感情を感じているのか、とてもイヤ~な顔をしていました。
ホント、勘弁して欲しいですものです。
後日、奇妙な現象が橋頭堡の中で起きてきました。
城の中を出歩いて兵たちと出会ったりする時、兵たちが遠目にボクを見て何やら小声で内緒話しをするのです。
とくに女性兵士たちの間で多いのですが、ボクを見て顔をほんのり桜色に染めながら『きゃああ♡』とか言ったりする時もありました。
ボクが不思議に思って理由を聞く為に女性兵士たちに近づいて行くと、慌てて直ぐに逃げてしまうので確認出来ないのです。
更に、今迄ボクの執務室に報告書などを届けていた男性兵士などは、ある時から一人では無くて複数の兵士を
しかも何故だか分からないのですが、ボクに後ろを取らせないような行動をするように成ったのです。
ある時に北郷と曲がり角で出会い頭にぶつかって身体を密着させた時などには、女性兵士たちの大きな黄色い歓声が上がったりもしました。
ボクは奇妙に思って最近の一連の話しを北郷に言うと、彼も同様であったらしくて困惑していたようです。
ボクは困惑していても仕方が無いので、理由を知るべく周泰に調べてもらう事にしました。
周泰をボクの執務室に呼んで調べて貰う事を話した時、彼女は事の真相を知っていたらしくて理由を話してくれました。
理由は先の会議での趙雲の発言で、ボクがホモではないかという疑惑が発端であったようです。
そのホモ疑惑と郭嘉の妄想話しを厳顔・李典・趙雲の3人が
ボクは周泰が話してくれる真相を聞いて呆然としてしまいます。
まさか自分がホモに間違えられて居たとは思いもよらなかったからでした。
思えばボクは、いままで色々と言われてきました。
例えば『男の
これはボクが、似合うからと云う理由で女性の着物を好んでいたから出て来た風評なのかも知れません。
次に『仙女』。
これもボクが、捕虜を助ける為にと諸葛亮と龐統の策を採用した事が発端の風評なのかも知れません。
でも。
(ボクがホモだって云う噂は、あんまりじゃ無いでしょうかぁ?)
ボクは心の中でそう思い、自身がホモで無い事を周りの人達に声を大にして叫びたい悲痛な気持ちで一杯でした。
あんまりです。
今回の噂は、あまりに酷い風評ですよ。
こんなんじゃ、誰もお嫁さんに来てくれなく成ってしまうじゃないですか。
ボクにだって幸せな家庭を築くと云う、夢の一つや二つ有ると云うのに。(泣)
そんな事実無根な風評に打ち
『でも、刹那様をより身近に感じられるように成ったとかで、兵士たちには
ボクは拳を握りしめて、身体を小刻みに震わせながら思います。
そんなの! 全然! まったく!
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無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
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