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真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の娘だもん~[第31話]

愛感謝さん

無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。

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2012-08-08 20:21:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3744   閲覧ユーザー数:3326

真・恋姫✝無双~だけど涙が出ちゃう男の()だもん~

 

[第31話]

 

 

「それでは朝廷の責任は、どうなるのでしょうか?」

 

暫く考え込んでいた郭嘉は、ボクに疑問を問い掛けてきました。

 

「朝廷の責任?」

「そうです。たしかに橋頭堡(ここ)に居る捕虜たちは犯罪者です。その為に刑罰を受けるのも仕方ありません。しかし、ご政道がしっかり為されていれば、彼らとて反乱など起こさなかったはずです」

 

郭嘉は、漢王朝の政策を批判するかのような言葉を言いました。

ボクが程昱に視線で問い掛けると、彼女も同意するように頷きます。

 

(なるほどねぇ。稟や風は、そういう風に考えるのかぁ……)

 

ボクは郭嘉の話しを聞いてそう思い、彼女の物言いも十分に造反の疑いを懸けられそうなモノだと感想を抱きます。

郭嘉・程昱・趙雲の3人は、色々な諸侯に客将として仕えて来たと聞いていました。

その間に色々遭って、目視出来ないような事態にも遭遇(そうぐう)して来たのかも知れません。

だからこそ、今の漢王朝の在り方に不満の思いを(つの)らせて来たのでしょう。

朝廷に居る為政者たちがもっとしっかりして居れば、こんな事態には成らなかっただろうと思いながら。

ですがそれは、それだけ民の立場で物事を考えられるという事。

だから、ボクは郭嘉の物言いを(とが)めずに話していきました。

 

「そうだね。たしかに稟の言う通り、ご政道がしっかり為されていれば彼らとて反乱を起こさなかったかも知れない。

 でもね。ご政道が為されていない事と、今の朝廷の為政者たちを駄目な存在と見なして不満に思うかは別問題なんだ」

 

郭嘉と程昱はボクの言葉を聞いて、(いぶか)しげに此方(こちら)を見ました。

 

「出来事は常に中立だから、それ自体に意味は無い。ご政道が為されていないと云う事実は、ただそこに在るだけ。でも、その事実に不満の思いを持つか、ただ在るだけだと見なすかは重要な選択になるんだ。何故なら、何かを意味付けすれば、その意味付けを通してボクたちは自身の体験を決めてしまうから。

 だから何かを思う時は、その思いが自分の望む現実に繋がるモノかどうかを判断してから、意味付けをしなければならないんだよ」

 

郭嘉と程昱はボクの言葉にハッとして、何かに気付いたように見受けられました。

 

「そう。朝廷の政策や今現在の為政者たちに対して、君たちは不満の思いを選択した。だから、その思いを通してしか人生を体験していく事が出来ない。そして、その現実しか見えないから、他の可能性を(つぶ)してしまったんだ。自身の本当の望みへとの繋がりが、他の可能性の方にあったかも知れないのに」

 

今迄の概念で物事を捉えていた彼女たちに、ボクは話していきます。

 

「多くの人達は、今の稟や風と同じように考える。ある出来事を体験するのは、自分以外の存在のせいだと。まるで、無条件に反応して決めていると言えるくらいに、そう思ってしまうんだ。」

 

ボクは続けて話していきました。

自分が気付いた事を、2人に説明する為に。

 

「でも何故、そういう風に考えてしまうのかと云うと、それはそのように考えるように教え込まれてきた“観念”があるからなのさ」

「観念……ですか?」

 

郭嘉がボクに疑問を問い掛けてきました。

ボクは頷いて肯定の意を表します。

 

「ボクたちは成長する過程で『ある出来事に対応する時は、このように考えなければならない』といった思い込みを、周りから教え込まれているのさ。言葉・態度・行動を見せられる事で、ボクたちは同じ対応をするように学習してしまうんだ。もちろん、その人達に悪気があった訳じゃない。その人達だって、その方法しか知らなかっただけなんだからね」

 

悲しい連鎖を続ける人々を切なく思いながら、ボクは話し続けます。

 

「でもさ。本当の幸せというものは、人によって違うよね? だから、教え込まれた観念が自身にとって有益なものならば、それで良い。けれど、そうでなかったのなら、その観念も気付いて受け入れていくしか方法が無いのさ。自分なりの幸せを感じて、在り続ける為にはね」

 

いつ? どこで? 誰が決めたのでしょうか? 思い定める方法が一つしか無いと。

幸せが人によって違うのなら、思い方だって違うでしょうに。

多様な幸せを一つの価値観で思い定めれば、齟齬(そご)が生じて争う事に成るのは当たり前だと思うのです。

自分の幸せの定義や感じ方だけが正しくて、それ以外は間違っているといった具合に成るのだから。

ボクはそんな疑問を抱きながらも、2人に話していきました。

 

「だからさ。何か自身にとって不都合な事が起きれば、その出来事を不満に思ってしまうのも無理はない。でも、そのままで居ては自分にとって、更に不愉快な事が起きて来るだろう。だって、不満の思いを通してしか現実を見る事が出来ないのだからね」

 

「そうでしたね。私とした事が……」

 

ボクの話しを聞いて、郭嘉が自嘲するかのように呟きました。

 

「稟の言う通り、朝廷の責任は重大だとボクも思う。政策一つで色々な所に(しわ)寄せがいくのだから、責めるのも仕方がない。

 けれど責める思いは、その対象にでは無く自分自身に作用する。だから、なるべくなら責める事をせずに、したとしても直ぐ切り替えた方が良いとボクは思っている。他のモノの(ため)では無く、自分自身の為にね」

 

「そうかも……知れませんね」

 

郭嘉は躊躇(ためら)いがちに同意を示してくれました。

ボクの言葉は、少しは彼女たちの役に立ったのでしょうか?

もしそうなら、嬉しいのですけれど。

 

「稟、風。民を想う気持ちを、これからも忘れず大事にしていてね。

 例えどんなに優秀でも私利私欲な思いに取り憑かれては、今の朝廷を動かしている為政者たちと何も変わらなくなってしまうからさ」

 

「「はい」」

 

「権力を握っている立場の人間の思いは、自身の事だけに止まらずに王朝のゆく末も左右する。

 だから、立場が上がれば上がるほど自分の思いに気を付けなければ成らない。でなければいずれ、その代償は大陸全土に及んでしまう」

 

郭嘉と程昱は、ボクの言葉に深く(うなず)いてくれました。

そんな2人に感謝の意を表します。

郭嘉と程昱には、これから軍師として華陽軍の中核を(にな)ってもらいたいと思っていました。

だからこそ、常に自身の思いを見詰め、どのような意図を持って政策を実行するのかを見極めて欲しいのです。

でなければ彼女たちの創りだす政策は、世界の均衡を保たたせる事に繋がらないと思うから。

 

 

「じゃあ、兄ちゃんよ。後学のために、これからどうすりゃ良いのか教えちゃあくれねぇかい? とくに捕虜の扱いについてよ」

「って、宝譿(ほうけい)が言っているので教えてくれませんかー?」

「……」

 

自身の頭の上にある人形・宝譿が質問しているかのように、程昱がボクに話しかけてきました。

 

(風の一人芝居は、まだ続いていたのですかね? 別に、普通に言っても良さそうなものでしょうに)

 

ボクはそのように感想を抱きながらも、程昱に話していきます。

 

「そうだね……。まずは、捕虜たちを犯罪者の集まりとだけ見定める事を変えてみようか。そうすれば、違う道も見えてくるだろうしね」

 

「どうゆう事ですかー?」

 

「捕虜たちを犯罪者とだけ見定めれば、彼らが何をしていても悪企みをしているようにしか見えないだろう? 捕虜が集まっていれば、脱走を企てているのではないか? とかにさ。実際には、ただ単に愚痴を言い合っているだけかも知れないのに」

 

「なるほどー」

 

ボクの言葉を噛みしめるように、程昱は頭を上下にして(うなず)きます。

 

「不審の思いで捕虜の監視を強化する政策を取れば、彼らも直ぐに感じ取って思惑に気付くだろう。そうすれば反抗の意志がなかった者たちに、反抗心を芽生えさせてしまうかも知れない。それでは本末転倒だとボクは思うんだ」

 

「しかし、それは危険ではありませんか? 本当に反抗を企てているかも知れないのですから」

 

郭嘉がボクの言葉に反論してきました。

ボクは、それを踏まえて彼女たちに話していきます。

 

「もちろん、その可能性もあるから捕虜が犯罪者である事も忘れないよ? そうでは無くて、物事を無条件で単一的に見定めてしまうのが危険だと言っているのさ。色々な見方がある事を理解した上で、自身の望む現実を創り出す思いを選択していくという事なんだ」

 

人は何かを思えば、その思いを通して現実を見定め体験していきます。

ところが多くの人達は、物事をどうするかを思い込みによって単一的に反応して決めているのです。

抱いた思いが本当の自分の幸せに繋がるのかどうかを、良く考えずに選択するといった具合に。

周りが正しいと言っているからと選択した思いの結果は、自分自身に返ってくるのです。

例えそれが、自分にとっての幸せに繋がらない思いであったとしても。

だから何かを思う時は、自分にとって望む体験になるような思いを(あらかじ)め決めて、それから行動するように心がけなければ成りません。

でなければ自分の望む体験が創り出せず、それは望む現実に成っていかない事と同義になるからです。

 

 

「では。刹那様は捕虜を犯罪者とだけで無く、何と思っていらっしゃるのですか?」

 

郭嘉がボクの言葉を聞き、自身の疑問を問い掛けてきました。

そんな彼女に、ボクは自身の思いを話していきます。

 

「そうだね……。ボクは彼らを“種子(たね)”だと思っているよ」

「種子……ですか?」

「うん。だってボクの望みは、新しい概念を人々に伝えて気付きの『わ』を広げて行く事だって前に言ったでしょ?」

 

ボクの言葉を聞き、郭嘉と程昱は頷いて同意を示します。

 

「新しい概念は全ての人に適用できる事だけれど、同時に行なう人を選ぶんだよ。人生の苦しみから解放されたいと思っていても、その方法が分からずに解決策を探している人にしか伝わらないからさ」

 

ボクは、遠い目をしながら(つぶや)くように話しました。

気付いて欲しいと、どんなに言葉を尽くしても。

幸せになって欲しいと、どんなに切実に願っても。

人は自分以外の存在をどうする事も出来ない。

そんな切ない悲しみを、(いだ)き感じながら。

 

「種子を大地に()いたとしても、全てが芽吹く訳じゃない。同様に、捕虜が刑期を終えて民に戻った時に新しい概念を伝えたとしても、彼らの全てに伝わる訳でも無い。だから、一人でも多く気付いてくれる人達を増やす為の種子。ボクは彼らを、そう思っているのさ」

 

ボクは何を思って、そして何を選択するかは人それぞれだと思っています。

だから、新しい概念を採用するかどうかを人々の選択に任せていました。

例え少数であったとしても必要としている人に伝わるのならば、それで良いと思って。

それが世界の均衡を保つ事に、少しずつでも繋がって行く道だから。

余りに途方(とほう)も無く、そして見果てぬ道かも知れないけれど。

 

 

郭嘉と程昱の2人は、ボクの話しを聞いて納得してくれたみたいでした。

それからボクは、2人と分かれた後の事や初対面だった将軍たちとも真名を交わした事などを聞き、楽しい一時を過ごします。

暫くして周りを見ると、当番兵が篝火(かがりび)に火を(とも)しているのが目に映りました。

いつのまにか、夕暮れ時から夜に差し掛かっていたようです。

楽しい時と云うものは、本当に経つのが早いものですね。

 

 

 

「あらあら、ご主人様。こんな所で、何をしていらっしゃるのかしらぁ~?」

「はぅわ?!」

 

真後ろから、いきなり黄忠の怒りを押さえているような声が聞こえて来たので、ボクは思わず奇声を上げてしまいました。

そして(おそ)(おそ)る後ろを振り向くと、そこには篝火の炎にユラユラと照らされている、目が笑っていない黒い微笑をした鬼子母神さま(黄忠)が居ました。

 

「……あはっ、あははは。やっ、やあ。紫苑さん? 今日はお日柄もよく、良い天気だね?」

 

ボクは気が動転してか、夜に差し掛かっている時刻なのに場違いな挨拶をしてしまいました。

 

「ふふふっ。嫌ですわぁ、ご主人様? そんな天気が分かる時刻から、ここに居らしたのかしらぁ?」

 

黄忠は口の端をピクリッとさせて、そうボクに言い放ってきました。

 

(これは(まず)いです。余計な事を言って仕舞いましたね)

 

ボクはそう思い、事態を悪化させただけの自分の迂闊(うかつ)さを悔います。

同時に身体中から冷や汗が流れ出て来て、止まらなく成ってきました。

 

「いっ、いや。そんな事ないよ? 本当だよ? ちょっと息抜きがしたくて、さっき来たばかりさ。うん」

 

ボクは何とか、この危機を脱しようと策を(ろう)しました。

 

「稟ちゃんに、風ちゃん。本当なのかしら?」

 

黄忠はボクの言葉に耳を貸さずに、郭嘉と程昱に確認していきました。

ボクは振り向いて2人を見つつ、救助の嘆願(たんがん)を目で訴えます。

それを受けた程昱が笑顔を向けてくれたので、ボクは助かったと思って安堵しました。

 

「いいや。兄ちゃんは、随分前から此処(ここ)で昼寝していたぜ? そりゃあもうスヤスヤと、これでもかってくらいに気持ち良さげによぉ」

 

「ええぇ?!」

 

ボクの思いを打ち砕くように程昱が、宝譿(ほうけい)が喋ったようにして事実を暴露してくれました。

一縷(いちる)の望みを託して救いを郭嘉に求めましたが、彼女は視線を()らして此方(こちら)を見ようとしません。

 

ああっ、なんて主君思いの優秀な部下たちなのでしょうか?

嬉しすぎて、涙しか出て来ませんよ。

これが青史に謀臣と名高い人物の、情よりも実利を選ぶと云う真骨頂なのでしょうか?

こんな形で知る必要なんて無いだろうにと、ボクは思わずには居られませんでした。(号泣)

 

 

「あらあら、まあまあ。いけませんわねぇ、ご主人様? 人の上に立つ者が、虚言を弄するなんてぇ」

 

黄忠の怒りがヒートアップして来ているのか、何やら彼女の背後でユラユラと鬼気が立ち昇っていくのが見えてくるようでした。

ヘビに(にら)まれたカエルとでも言いましょうか。

すっごく、怖いです。

 

「そんなに休んでいらっしゃったのなら、もう休息は十分ですわね? これからキッチリ、残りの決済をして頂きますわ。

 い・い・で・す・わ・ね?」

 

「はい……」

 

ボクは怖い黄忠さんに逆らえる訳も無く、同意せざるを得ませんでした。

そのまま着物の襟首(えりくび)を掴んで、黄忠は執務室までボクを引きずって行きます。

ボクはサメザメと泣きながら観念して、引きずられていくのに任せるしかありませんでした。

るーるーるー。((あきらめ)の泣)

 

 

それから不眠不休で2日間、ボクは更に厳しい黄忠さんの監視の元で決済をしていかなければ成りませんでした。

食事中も片手で決済をし、お手洗いに行くのにも監視付きと云った具合です。

信じられますか?

ちょっと息抜きをしに外へ抜け出そうとすると、ボクの鼻先に矢が飛んで来るんですよ?

『ご主人様の鼻先に危険な虫が居ましたわ』とか言って。

ボクが嘘をついて誤魔化そうとした事が、余計に監視を厳しくさせる要因だったのかも知れません。

これがホントのヤブヘビです。

 

日ごろ温厚な人が怒る時って、本当に容赦がありません。

だから、ボクは2度と黄忠さんを怒らせまいと心に誓いました。

もうコリゴリです。

 

(グスンッ)

 


 
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