背後から気配もなく、囁くような、小さな声が落ちる。確かに、己を呼ぶ声だ。
もちろん、気のせいでもなんでもないことは解っている。その声は、よく知る男のものに酷似している。
ただ何故――この時期にここにいるのか、それだけが不思議ではあるのだが。
気配が、すぐ傍にある。
背後に立つ。その瞬間、不意に手首をとり、床に引き倒す。その場に抑えこむように、胴の上へと馬乗りになる。見ようによっては非常にひどく淫猥な光景だ。
首元押し当てた刃は、微かな光を反射している。
「――このように忍んで……何用か。――独眼竜、よ」
冷たく、仇名で呼びかける。
「ここまで気づかれずに入ってこようとは……いったいどうやったのだ」
胸の前に回された腕。そ、と政宗の手の甲に触れながら、溜息を洩らす。
「オレは竜だぜ?どこからだって、問題ない」
「それが本当であるならば、我が城の駒たちは、随分と怠慢であるな」
「Wait。アンタの部下が悪いわけじゃねえだろ?オレが勝手に、だ、right?」
おどけてみせる。庇うつもりはないが、自分の胆力を示すためにあえてそのような態度をとった。
「Huhn……それにしても、随分と積極的だな?」
怯む様子も見せずに、不敵に笑う。
「下からの眺めっていうのも悪くはないが……どうせなら、上はオレがいい」
「この状況で、酔狂なことよ」
「相変わらずだな」
「ふん」
鼻で笑う。
「なあ。そろそろその物騒なものは、仕舞ってもらっていいか?」
「ああ……忘れておった」
ぎら、とよく研がれた金属が鈍く光る。いつもながら、油断も隙もあったものではないな、と思う。床の木目に突き立っていたそれを、ちん、と懐刀を鞘に収める。ぽい、と投げ捨てるように、床に置いた。
細長い指が政宗の輪郭を確かめるように、するりと動く。
少し冷えた指先が、細い顎を捉える。指に少し力を加え上向きに持ち上げると、軽く無防備にも開かれる。
「な……」
端正な顔が、近づく。切れ長のすっきりとした目の縁を、濃い繊毛がびっしり縁取っている。少し閉じられたその視線は、妙な色香があり、淫靡な雰囲気に翻弄される。
触れた花実が、妙に熱っぽい。中の熱が、探られる……。
ある程度口の中で弄ばれると、満足したようにそっと熱が離れる。
……正直、驚いた。かなり艶冶である。
いつもと違って、かなり積極的である。元就からこのように大胆な口吸いをしてくることなど、ないに等しい。されるとしても、軽く額や頬に触れるくらいだ。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
◆伊達×毛利 ◆ぶっちゃけ色々だてなり詰合せ(テキストonly)ちゅっちゅしてます ◆誰がなんと言おうとも、全 年 齢 向 け ◆雰囲気はちょっと暗めのシリアスとか、甘っぽいとか、ちょっぴりいやーんな雰囲気混じったり…なそのあたり。短編7本入ってます ◆こちらの表紙も八神舞様(http://m-pe.tv/u/?29492949 )から素敵絵を強奪☆もう本当に…ありがとうございます(´;ω;`)ブワッ ◆イベント頒布≫文庫サイズ*P96*\600≪の予定です。どうぞよろしくお願いします ◆だてなりぷちで早々になくなってしまった、無配とwild butterflyも入っています