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IS -インフィニット・ストラトス- ~恋夢交響曲~ 第八話

キキョウさん

恋夢交響曲・第八話

2012-08-07 23:55:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1215   閲覧ユーザー数:1169

翌日、朝のSHR。そこでは信じられない事が起きていた。まあ、俺には関係の全くないことだったのだが。

 

「じゃあ、一年一組クラス代表は織斑一夏くんで決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

山田先生は嬉々として喋り、クラスの女子も大いに盛り上がっており、暗い顔をしているのは一夏だけだった。

 

「先生、質問です」

 

「はい、織斑くん」

 

「俺は昨日、一試合もしてないのになぜクラス代表になっているんですか?」

 

そう、昨日俺とセシリアの試合の後、二人とも医療室送りになってしまったので、結局一夏は誰とも戦わなかったのだ。

 

「それは私が答えてやろう」

 

颯爽と一夏の前に現れる織斑先生。さっきまで教室の端っこで話を聞いていたと思ったのだけど・・・。

 

「昨日の試合は天加瀬の勝利で終わったが、残念ながらあいつには体力がない。試合をやるたびに倒れられても困るのでな。オルコットは天加瀬に負けたのでと辞退したので、不戦勝という理由だがお前が代表として選ばれた」

 

「そんな馬鹿な・・・」

 

一夏が選ばれたのは俺のせいでもあるので、この話を聞くと申し訳なくなってくる。

 

「わたくしがせっかく譲ったのですからしっかりと代表を努めていただきたいですわ」

 

立ち上がり、会話に入るセシリア。昨日の件以来、機嫌がいいというか、テンションが高い気がする。

 

「まあ、わたくしも大人げなく怒ったことを反省しまして、一夏さんに代表をお任せしたのです。やはり、IS操縦には実践が何よりの糧。クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんもの」

 

ちなみに、これは俺が彼女と一夏の仲をを取り持とうと説得した結果である。まぁ一夏本人は有難迷惑のようだが、彼女にとっては一番友好的になる手段だと考 えたのだろう。この言葉でさらにクラスが沸きあがった。どこからか商売を考えてるような発言があった気がするが気のせいだと思っておこう。

 

「そ、それでですわね。わたくしのように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間が奏羅さんと貴方に教えて差し上げれば、それはもうみるみるうちに成長を遂げ」

 

そこまで言った時、箒が机を叩き立ち上がった。何とも珍しい光景である。

 

「あいにくだが、一夏と奏羅の教官は足りている。私が、直接頼まれたからな」

 

『私が』を強調した箒は、ものすごい殺気でセシリアを睨んだ。しかし、セシリアはというと、この前とは別人のように、箒の殺気を正面から受け止め、なおかつどこか誇らしげであった。

 

「あら、あなたはISランクCの篠ノ之さん。Aのわたくしに何かご用でしょうか?」

 

「えっ、箒ってCランクなのか・・・?」

 

意外そうな顔をする一夏。俺は代表決定戦の前にランク付けしてもらったが、Bランクだった。ちなみに一夏もBだ。

 

「ら、ランクは関係ない! 頼まれたのは私だ。ふ、二人がどうしてもと懇願するからだ!」

 

確かに頼んだが、懇願というほどではなかった気がする。二人の間になんとなく火花のようなものも見える。

 

(こいつは特訓にかこつけて、一夏と仲良くしようという魂胆なのだろう。そんなことさせるか!)

 

(この方は特訓を理由に、奏羅さんと仲良くしようとたくらんでいるに決まっております。そんなことはさせません!)

 

しかし、この二人は考えているようことが同じ気がするのは気のせいだろうか。

 

「座れ、馬鹿者」

 

ヒートアップしている二人を出席簿の一撃で鎮める織斑先生。その気迫に押され、なすすべなく彼女たちは自分の席に戻った。

 

「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれも平等にひよっこだ。まだ殻も破れていない段階で優劣を付けようとするな」

 

さすが元世界最強、発言の重みが違う。セシリアは何か言いたげだったが、結局何も言うことができなかった。

 

「代表候補生でも一から勉強してもらうと言っただろう。くだらん揉め事は十代の特権だが、あいにく今は私の管轄時間だ。自重しろ」

 

しっかりと教員としての勤めを果たしているが、一夏いわく、家ではそうでもないらしい。人はみかけによらないということだろうか。そんなことを考えていると、頭をものすごい衝撃が襲った。

 

「・・・・・・お前、今何か無礼なことを考えていただろう」

 

初めて食らったが、これは出席簿ではない気がする。もっと別の、バールのような何かではないのだろうか。

 

「貴様も、他人のプライベートを言いふらすんじゃない」

 

一夏にも出席簿の一撃が入る。やっぱりこの人は、人の心が読めるんだと思う。

 

「クラス代表は織斑一夏。異存はないな」

 

一夏を除くクラス全員がはーいといい返事をする。とりあえず俺もしておいた。クラスが団結することはいいことである。まぁ、一夏にとってもいいことであれば尚更よかったのが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お花見?」

 

「ああ、もうすぐ桜も終わりそうだしさ、今週の日曜日あたりにどうだ?」

 

週の終わりの金曜日、一夏が俺に花見をしないかと持ちかけてきた。

 

「いいけど、あんまり人数がいると、多分どこかの誰かがうるさい気がするぞ」

 

そのどこかの誰かは言わずともわかると思うが。

 

「じゃあ俺、奏羅、箒で・・・」

 

「わたくしもその『お花見』とやらに参加させてくださいな」

 

いきなり会話に入ってくるセシリア。この子はよく人の会話に入ってくるが、割り込むのが好きなのだろうか。

 

「まぁ、俺たちはいいけど、約一名が許可してくれるかなぁと」

 

「・・・とりあえず、俺が説得してみる」

 

といって一夏は箒のところへと向かった。余計なことを言って、また彼女を怒らせる事がなければいいが。

 

「あ、あの、奏羅さん」

 

「どうした?」

 

「よろしければ、わたくしに『お花見』というものについて、教えていただけませんか?」

 

なるほど、確かにイギリス出身の彼女には無い文化だ。いわゆる外国人が言うエキゾチックジャパンとかいうものに入るのだろう。

 

「俺でよければ」

 

「あ、ありがとうございます! では、いつごろお部屋にお伺いしましょうか?」

 

「いや、そんな大それて説明することじゃないよ。大体一分もかからない」

 

その言葉にあっけにとられるセシリア。一体『お花見』を何だと思っていたのだろうか。

 

「ど、どうせ、その程度のことだと思っておりましたわ」

 

セシリアと親しく話すようになってわかったのだが、変にプライドがあるのか、自分が間違っていたことをあまり認めたがらないというところがある。

 

「まったく・・・。説明するけど、ようはピクニックだな」

 

「ピクニック・・・ですの?」

 

「ああ、桜の木の下でお弁当とか持ち寄って、桜を見ながら飲んだり食べたりして騒ぐのが現代のお花見かな」

 

「ピクニック・・・」とつぶやき、何かを考え込むセシリア。しばらくすると、何かを思いついたように質問してきた。

 

「その、お弁当というのは自分で用意するものなのですか?」

 

「最近はコンビニとかで買ったりしてる人も多いらしいけどね」

 

「で、では、奏羅さんのお弁当はわたくしに用意させていただけませんか?」

 

彼女の口から予想だにしない言葉が出てきた。近所づきあいの多かった旭はまったくもって料理もできなかったし、一人暮らしの時は、家事は出来るだけ自分でやるよう心がけていた。なので、他人の、しかも同年代の女の子に料理を作ってもらえる経験など、まったくもってなかった。

 

「でも、セシリアの負担が増えるだけだろう?」

 

「大丈夫です。自分の分を用意するついでですから」

 

彼女の顔を見ると、真剣な目をしているので、てこでも動きそうにない。

 

「じゃあ、みんなが多めに用意をして、それを分けて食べるっていうのはどうかな?」

 

「ま、まぁそれでよろしいですわ」

 

何とか了承してくれたセシリア。そうなったら当日は少し大きめな箱を用意しないとな・・・。

 

「おい、奏羅」

 

「おっ、どうだった一・・・夏・・・」

 

俺が一夏のほうに振り返ると、そこには明らかに何かあったような一夏が立っていた。

 

「箒、来るってよ」

 

「あ、ああ。そうか・・・」

 

一夏に何があったのか、なんとなくだが聞く気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、お花見当日。俺たちは学園で一番きれいだと思う桜の木の下に集まっていた。

 

「・・・・・・」

 

「・・・えっと、箒さん。どうなさったんですか?」

 

みんなが集まってからというもの、箒の機嫌が明らかに悪かった。まぁ、それは大体予想は付いているのだが。

 

「・・・なぜ私以外、自分の弁当を作ってきているのだ」

 

そう、俺たちはしっかりと作って持って来たのだが、箒だけ購買の弁当を持っていたのだ。

 

「おい、一夏。お前箒に弁当作って来いって言わなかったのかよ?」

 

「いや、あの後俺と口きいてくれなくて・・・。今日も、朝起きたらすでに剣道場で朝練してるみたいで、俺が弁当作り終わっても帰ってこなかったからさぁ・・・」

 

「そこ、何をこそこそしている!」

 

威圧のある声に押され、思わず背筋を伸ばしてしまう。そんな顔で睨まないでください。

 

「と、とりあえず、弁当食べようぜ。箒も、俺らのを食べてさ」

 

俺が彼女をなだめると、「フン!」と鼻を鳴らし、レジャーシートの上に座り込んだ。どうやら、花見には付き合ってくれるらしい。

それぞれが自分の持ってきた弁当を広げる。一夏は、肉と野菜のバランスのいい弁当。箒は、購買で買ったであろう幕の内弁当。セシリアは、スコーンやローストビーフなど、イギリスでも有名な料理が入った弁当。俺は、おにぎりや卵焼きなど、定番のおかずを作って来た。しかし、ここまでそろえて俺たちはあること に気付いた。

 

「飲み物がない・・・」

 

全員が全員、誰か用意するだろうと思っていたらしい。かく言う俺も、言い出しっぺの一夏が持ってくるとばかり思っていた。

 

「う~ん、どうするかなぁ」

 

一夏が唸っているのを見て、俺はいいことを思いつき、箒に小声で話しかけた。

 

「箒、お前一夏と一緒に飲み物買ってこいよ」

 

「な、なんで私が・・・」

 

「お前、昨日喧嘩して一夏と喋ってないんだろ。仲直りするチャンスじゃないか」

 

「むう・・・」と煮え切らない様子の箒をみて、俺は強硬手段をとることにした。

 

「一夏、お前が提案者だし、箒連れて飲み物と紙コップ買ってこいよ」

 

「えっ・・・俺?」

 

「なっ・・・!?」

 

驚く一夏と抗議の声を上げる箒を無視して、俺は無理やり二人を行かせるように追いやる。

 

「頑張れよ、箒」

 

小声でエールを送ると、しぶしぶながら箒は了承し、二人は飲み物を買いに購買へと向かった。

 

「・・・奏羅さんは、篠ノ之さんと仲が良いのですね」

 

セシリアに言われて彼女のほうを見ると、うつむいてなんだか少し悲しそうに見える。

 

「あ、ああ。この学園で初めて仲良くなった女の子だしな」

 

「そう・・・ですか・・・」

 

しばらく続く沈黙。この前は機嫌がよく見えたんだが、なんで今日になってまたテンションが低いのだろうか?

なんだか空気が重い。そう思い始めた時、この時期には珍しい、心地よい風が通り抜けた。

 

「・・・セシリア、周り見てみろよ」

 

その言葉に顔を上げるセシリア。先ほどの悲しそうな顔が、一瞬で正反対の顔に変わる。

 

「すごいですわ・・・とっても綺麗・・・」

 

さっきの風に吹かれ、たくさんの桜の花びらが俺たちの周囲に降り注いでいた。

 

「たくさんの花びらが散って、まるでおとぎ話の世界みたいですわ・・・」

 

「ふふっ。セシリア、日本ではこういうときは『桜が散る』って言わないんだ」

 

俺の言葉に不思議そうな顔をするセシリア。

 

「じゃあ、なんていうんですの?」

 

「こういうときはな・・・」

 

「こういうときは?」

 

「こういうときは『桜が舞う』っていうんだ」

 

これはちょっとした言葉遊びの類なのだけど、言葉ひとつ変えるだけで感じ方が全然違う。それが、言葉の面白いところ。

 

「『散る』って言葉を『舞う』って言葉に変えるだけで感じ方も全然・・・って聞いてるか?」

 

「えっ? き、聞いておりますとも!」

 

まったく、せっかくいいことを言っているのだから、ボーっとするのはやめてほしい・・・。

 

「でも確かに言葉を変えるだけで、感じ方も変わりますわね。・・・奏羅さんがとても素敵に見えましたわ・・・」

 

「俺が・・・なんて?」

 

「い、いえ、なんでもありません!」

 

最後のほうが聞き取れなかったんだが・・・。まぁ、気にしないでおくとしよう。

 

「お~い、待たせたな」

 

どうやら一夏と箒が帰って来たらしい。あいつらが歩いてくるのが見える。

 

「じゃあ、花見を楽しむとするか」

 

「ええ、そうしましょう」

 

どうやら、セシリアの機嫌も治ってくれたようだ。

こうして俺たちは花見を満喫したのだが、予期していなかったことが一つだけあった。

 

「奏羅さん、これ食べてみてください」

 

「ああ、ありがとう」

 

そう言って彼女の料理を口に運んだ俺は、

 

(な、なんだこれ。臭っ! 生臭っ!! 何をしたらこんなものが作れるんだ!?)

 

この世のものとは思えない味を体験していた。

 

「ど、どうですか・・・」

 

しかし、彼女の期待のこもったまなざしを見て、正直なことを言えるはずもなく、「あ、ああ。なかなか美味しいよ」と答えてしまい、

 

「お口に合ってよかったですわ。どうぞ、たくさん召し上がってください!」

 

と、見た目はとてもいいが、味が異次元の食べ物を目の前に差し出され、一気に地獄へと突き落とされたのであった。

 


 
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