~紺碧の塔・屋上~
「あら……私の奥義が相殺されるなんて。”剣聖”と”闇の聖女”の指導の賜物(たまもの)かしら?それにおチビちゃん達も強くなったわね。私の式神を倒すなんて。」
Sクラフトを相殺され、シェラザード達の元に来たエステル達を見たルシオラは感心した様子で言った。
「はあはあ…………ええ、そうよ。武術はカシウス先生、魔術はペテレーネ師匠よ。そのお蔭で今のあたしがいるんだから。…………姉さん……どう!?」
ルシオラの言葉を聞き、一気に魔力を使い過ぎた反動で息を切らせていたシェラザードは頷いた後、息を整えてルシオラを睨んで叫んだ。
「ふふ……頑張ったご褒美に教えてあげる。私が”結社”に入ったのは……自分の闇を見極めたかったからよ。」
シェラザードの叫びを聞き、頷いたルシオラは口元に笑みをを浮かべた後、静かに語った。
「え……」
「8年前……座長が崖から転落して亡くなった事は覚えているわね?」
「あ、あたり前じゃない。あの事故がきっかけであたしたちのハーヴェイ一座は……」
ルシオラの唐突な問いかけにシェラザードは戸惑いながら答えかけた所を
「そう……一座は解散してバラバラになってしまった。でも、どうして座長が一人であんな人気(ひとけ)のない場所にいたのかとうとう誰にも分からなかった……。一体、どうしてだと思う?」
ルシオラが続けて、シェラザードに問いかけた。
「ど、どうしてって……」
問いかけられたシェラザードが戸惑ったその時
「答えは簡単……。あの時、座長は一人きりで崖の近くにいたのではないの。私が座長の側にいて……そしてあの人を突き落したのよ。」
なんとルシオラの口から信じられない言葉が出て来た!
「………………………………。……なに……何を言ってるの姉さん?」
ルシオラの言葉が理解できず、半分放心状態でシェラザードは尋ねた。
「ふふ、だから言ったでしょう。ハーヴェイ座長は私がこの手で殺したの。」
「あはは……冗談キツイよ。だってあの時、姉さんは……」
ルシオラの説明を聞いたシェラザードは渇いた声で笑いながら否定しようとしたが
「自分の手で座長を殺してから何食わぬ顔でみんなの元に戻る。そしてその場で鈴を鳴らして座長の叫び声の幻聴を聞かせる。―――私の幻術を使えば造作もないトリックだったわ。」
ルシオラがシェラザードの思いを否定するかのように残酷な真実を語った。
「やめて……やめてよ!姉さんは座長を殺したなんて……そんな事あるわけないじゃない!本当の親子みたいに……それ以上に仲が良かったのに!」
ルシオラの話を聞き、シェラザードは泣きそうな雰囲気で必死に否定して言った。
「だからこそ赦(ゆる)せなかった。あの人が私たちの元から去って行こうとしたことが……」
「え……」
ルシオラの言葉にシェラザードが驚いたその時、今までの塔と同じように妖しい光を放っていたゴスペルは光を放つをやめた!
「また………!」
「戻るの………!?」
ゴスペルの光が消え、装置の起動が終わる様子を見たエステルとクローゼは呟いた。そして装置は完全に止まり、他の塔と同じように周りに風景は元に戻った。
「ふふ……どうやら時間切れのようね。」
周りの様子を見たルシオラは妖しい笑みを浮かべていた。
「ね、ねえ……。ここにあった結界って何のために張られていたの?”結社”は一体、何をしようとしているわけ?」
そしてエステルは遠慮気味にルシオラに尋ねた。
「残念だけど、私たちも詳しい事は教わっていないの。教授に指示された通りのことをやっていただけだから。ただ、隠された塔の内部を見て何となく見当はついたのだけど。」
「え……」
ルシオラの答えを聞いてエステルが驚いたその時、ルシオラは鈴を鳴らした。するとルシオラの姿が薄らぎ始めた。
「待って姉さん!まだ全部答えてもらってない!どうして姉さんが座長を殺さなくちゃならなかったの!?……あんなに優しかった……みんなの親代わりだった人を……!」
「ふふ……悪いけど今回はここまでよ。今度会えた時に続きは全部教えてあげるわ。それまで良い子にしてなさい。」
血相を変えて尋ねるシェラザードの問いにルシオラは答えず、その場から姿を完全に消した。
「あ、あの、シェラ姉……」
「シェラさん……」
ルシオラが消えた後、エステルとヨシュアが心配した様子で話しかけた。
「……大丈夫、心配しないで。あたしは姉さんの真実に一歩、近づくことができた。今は……それだけで充分よ。」
「シェラザードさん…………」
「………………」
シェラザードの言葉を聞いたクローゼとリタは心配そうな表情で見つめていた。
「”四輪の塔”もこれで3つ……。”アルセイユ”に戻って最後の塔に向かいましょう。」
そしてエステル達はアルセイユに戻り、最後の塔である琥珀の塔に向かった。
~リベール上空~
エステル達が”四輪の塔”の事件を解決している間、王国軍警備艇が”結社”の飛行艇に牽制射撃を行いながら、追いかけていた。
「ふん……往生際の悪い。多少、速力で勝ろうとも包囲網から逃れられるものか。そのまま追い詰めて拿捕(だほ)せよ!」
「イエス・サー!」
飛行艇の中で指示をしたモルガンの言葉に兵士達は頷いた後、結社の飛行艇を執拗に追った。
~同時刻・王都グランセル~
同じ頃、王都周辺の人形兵器を掃討し、王都に戻って来た王国兵、メンフィル兵達をシードと副官が見守っていた。
「やれやれ、何とか夕刻までに人形どもを掃討できましたねぇ。ようやく一息つけそうです。」
「そうだな……兵達も疲れているだろう。後の警備は後詰めに任せて今日はゆっくり休ませてやれ。」
「了解ッ!」
シードの指示に副官は敬礼をして頷いた。
~同時刻・レイストン要塞・指令室~
さらにその頃指令室でカシウスは王国軍士官から報告を聞いていた。
「―――以上をもちまして各方面からの報告は終わりです。メンフィル軍の援護のお蔭で、戦闘が想定していたよりも速く終わり、”アルセイユ”の遊撃士も含め、予想以上に順調と言っていいかと。」
「ふむ……そうか。」
士官の報告を聞いたカシウスは頷いた。
「しかし、”結社”と言っても所詮は犯罪者の集まりですな。王国軍の敵ではなさそうです。ましてやこちらにはあの”大陸最強”のメンフィル軍も味方にいるのですから。」
「油断するな。例の”方舟”が残っている。警備艇には引き続き王国各地の哨戒に当たらせろ。なお、緊急指令は全部隊に徹底させるように。」
「了解しました!」
カシウスの指示に敬礼をして答えた士官は部屋を出て行った。士官が部屋を出て行った後、カシウスは一息ついた。
「緊急指令……異変時における行動指令書か。杞憂に終わってくれればいいのだが……。………………………………」
その場で考え込んでいたカシウスはやがて立ち上がり、部屋に備え付けられてある通信機を手に取って、誰かに通信を始めた。
「―――ご苦労。カシウス・ブライトだ。突然ですまないが彼をここに呼んでくれ。」
カシウスがある人物と会話をしているその頃、アルセイユは”琥珀の塔”の上空に到着し、エステル、ヨシュア、ティータ、アガット、リタのメンバーで塔を探索し、屋上に到達すると予想外の人物がいた……………
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第308話