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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 四十一話

守るための恐怖

2012-08-07 17:18:29 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4902   閲覧ユーザー数:3956

ここで質問ですが、以前の『にじファン』での私の活動報告に思いついた短編を載せていたのですが、今でも通用するのか……できたらカリフの短編を作りたいですが、いかがでしょうか?。

フェイトたちからの蒐集を終えた次の日の朝、騎士たちは集まっていつものように会議をしていた。

 

内容は本日の謎の男たちについてだった。

 

「なるほど、ヴィータの所にも現れたか……」

「ひとまずは味方……でいいのかしら?」

 

あまりに謎が多い男の素性に騎士たちが裁量しかねている。

 

だが、それに異を唱えるのがプレシアとカリフだった。

 

「はっ? 素顔も見せずにコソコソと動き回り、逃げ出すしか脳の無い奴等が味方? そんな奴、次に会ったら始末すればいいのだ」

「カリフの言い方はともかく、信用できないのは私も同じね。妙に協力的過ぎて逆に不気味だわ」

 

今までの行動と経験を含めて信用できないとした二人の判断には全員も賛成のようだった。

 

「完成した闇の書を利用しようと企んでいるのかもしれん」

「ありえねえ! 完成した闇の書はマスターにしか扱えないじゃん!」

「絶対的な力を得たなら脅迫や洗脳などに効果などあるはずもない」

 

考えても男の狙いは分からない。雲を掴むような課題にシグナムたちも手詰まりを感じていた時だった。

 

ヴィータが不安そうに呟いた。

 

「ねえ、闇の書を完成させてはやてが覚醒したらさ、はやては幸せになれるんだよな?」

「なんだいきなり?」

「覚醒した闇の書は大いなる力を得る。守護騎士である私たちが一番知っているでしょ?」

「分かってる……けど……なんだか大事なことを忘れてる気がするんだ……」

 

何か思う所があるのか、ヴィータは弱々しく言う。

 

そして、同時刻の八神家の二階

 

 

 

はやてが目覚めた。

 

 

 

「う……ん……」

 

カーテンから零れた一筋の光にはやては重い瞼を開けた。

 

目を擦りながら身を起こして横で眠るアリシアを見て優しく微笑む。

 

だが、ヴィータの姿が見えない。最近はアリシアと挟みこむように寝ているのに……

 

そのことを不思議に思い、車イスに乗ろうとした時だった。

 

 

 

 

『ドクン』と心臓の鼓動が激しく胸を叩いた。

 

「っ!!」

 

はやては声にならない痛みに胸を押さえて苦しそうに表情を歪める。

 

「はっ……はぁっ……!」

「ん~……はやて?」

 

荒い呼吸に目を覚ましたアリシアは眠そうに目を擦って起きたが、はやての尋常じゃない姿に覚醒してしまった。

 

「はやて? ねえ!」

 

呼びかけても返事はなく、はやてはベッドの上から倒れる。

 

「だめ!」

 

アリシアは倒れ行くはやての服を掴み、ギリギリの所で踏ん張るが、はやての手が車イスを横転させた。

 

凄まじい音を出して倒れた車イスの音に騎士たちとプレシアたちが慌てた様子で入室してきた。

 

「主!」

「お母さん! 皆!」

 

アリシアは突然のはやての急変に涙をうっすらと浮かべて助けを求めた。

 

「どうしよう! はやて……急に倒れて……苦しそうに……!」

「はやて!」

「うぅ……くぅ……」

 

アリシアの不安がヴィータにも伝わったのか、ベッドの上にまで引き戻され、苦しむはやてを揺さぶって呼びかけるもそれに待ったをかける人物がいた。

 

「おい、はやての上半身を脱がせ。でないと容体を深く探れねえ」

 

プレシアたちの間から割って出てきたカリフがいつも通り……ではなく、少し焦った感じではやての元へとやってきた。

 

「アリシア、はやてが倒れる時、どこか打った場所は?」

「う、ううん。倒れそうだったから服掴んでベッドに引き戻したから……」

「アリシア……グレートだ」

 

そう言って苦しがるはやてのパジャマを脱がし、下着状態にした後、腹を手で触る。

 

「な、何を……」

「質問は後にしろ……この作業は集中力がいる。ヴィータはあの石田って医者に連絡しろ」

「お、おぉ!」

 

ヴィータはすぐにカリフの言う通りに下の階へ電話をかけに行った。

 

その間でもカリフは触診を続けている……

 

(川の水や人体の気のように流れる物には『波』が存在する……だが、その波の根源はあまりに小さい)

 

カリフはある意味では悟空たちよりも『気』を熟知している。

 

その為、気による攻撃、探知、人体破壊、そして治癒も使える。

 

今回は気を『探知』し、体の歪みの元となる『波の乱れ』となる場所を必死に探している。

 

今のカリフ目ははやてではなく、はやての気の流れが映っている。

 

(アリシアがはやてを庇ったのは助かった。怪我した場所で気は乱れる……大きすぎる波があっては特定などできんからな……)

 

内心でアリシアに感心しながら、遂に見つけた。

 

はやての胸の辺りで気が大きく乱れているのがはっきりと感じてとれる。

 

カリフはまるで棋士のように人差し指を掲げ、力を集中させる。

 

指に万力の力を込め、血管が膨張して浮き出てきた。

 

その人差し指だけがどこか化物じみていた。

 

「待って!? それで何を……!」

「案ずるな。ノッキングと気を融合させた即席鎮痛剤だ。成功すれば幾分か楽にはなれる」

 

以前にグルメの盛んな星で教わった『ノッキング』

 

本来は獲物を傷つけずに気絶させる、捕獲用技術だが、カリフはそれに気を融合させることで治癒の使い道に活路を開いた。

 

ノッキングが神経を遮断し、麻痺させるというならその逆も可。

 

『ノッキングで生き返らせる』

 

だが、元々は破壊のための技術。治すためには機械並の正確さを求められる。

 

(ダメージは別のダメージで相殺させる……上手くいけば成功、下手したら波を加速させ、さらなる苦痛がはやてを襲う)

 

だが、やるしかない。

 

カリフはしばらく、まるで彫刻のように動かなくなる。

 

シグナムたちにも緊張が伝わり、冷や汗をかく。

 

しばらく

 

 

 

今しばらく

 

 

 

 

 

まだしばらく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(来た)

 

そう直感した瞬間、カリフの手が一瞬だけ『この世から姿を消した』

 

少なくともシグナムたちにはそう見えた。

 

シグナムたちの見えない世界では、カリフの指先からほんのちょっとの気を放出させて波を相殺させた。

 

カリフは何らかの原因で縮小した肺の機能を呼び戻させただけ。

 

そして、荒ぶっていた気の暴走を止めただけ。

 

それだけだった。

 

「はぁ……はぁ……ふぅ……」

「はやてちゃん……」

 

目に見えて落ち着いてきたはやてに医師の心得があるシャマルが安堵した。

 

その事実だけで騎士も、プレシアやアリシアも安心できた。

 

「……はやての気は治まったが、魔力面ではどうしようもない……ここは……専門の医療に任せるぞ……」

「カリフ……何かしたのか? 大分疲労してるようだけど……」

 

シグナムの心配の声に返すと同時に振り返ると、カリフの顔が夥しい汗でビッショリなのがよく分かった。

 

その変わりようにはシグナムたちも驚愕した。

 

「問題ない……この治癒は集中力がちょいと必要でね……慣れればどうということはない……」

「カリフくんって器用なのね……こんな治療法なんて魔法でもできないわよ」

 

シャマルが感心したように言うと、カリフは汗を垂らし、呼吸を整えながら返した。

 

「は……まさか『人助け』になんて使うなんてよ……」

 

誰にも聞こえないように小さく呟き、カリフはその場に座り込んだ。

 

その後、ヴィータが呼んだ救急車がはやてを連れて行った。

 

 

時同じくして、アースラ内

 

フェイトはアースラ内の訓練室の中でバルディッシュを一心不乱に振るっていた。

 

「はぁ! せい!」

 

しなやかな体術と共にバルディッシュを振るう姿はいつものような動きでは無かった。

 

どこかに荒々しさを感じる……一緒にいたなのはやアルフたちもそう思っていた。

 

「フェイト……そろそろ休もうよ?」

「……」

 

アルフが少し気遣うように言うと、フェイトも無言でバルディッシュを下ろす。

 

そんな姿にアルフたちは何も言えなかった。

 

原因は分かり切っていた。

 

カリフ

 

なぜか生き返っていたプレシアと接触し、それを認めた後、姿を眩ました。

 

不審な点もさることながら、フェイトはその時の動揺と疲労からか彼に罵声を浴びせた。

 

だが、よくよく思い返し、後悔した。

 

勢いだけだったとはいえ、どうしてあんな酷いことを言ったのか……

 

「なのは、アルフ……」

 

汗をタオルで拭きながら、フェイトは静かに口を開いた。

 

「私ね……あの日から何やっても上手くいかないの……何やっても上の空……シグナムにも怒られちゃって……」

「フェイトちゃん……」

 

なのはは悲しそうにしながらも、『あの日』というワードに反応した。

 

「私はバカだったんだ……カリフを理解した気になって……勘違いして……」

「でも、何も言わないカリフだって……」

 

アルフが慰めようとするが、その瞬間できなくなった。

 

フェイトはタオルで顔を覆い隠すも、その間から一筋の雫が流れた。

 

「私はバカだ……カリフが……意味も無いことするなんて無いのに……お話してたら分かり合えてたかもしれないのに……なんで信じられなかったんだろう……酷いこと言っちゃったよ……」

「……それを言うなら私もだよ……フェイトちゃんだけじゃない……私も……」

「フェイト……なのは……」

 

なのはも、そしてアルフも自分のしてしまったことに後悔していた。

 

暗い雰囲気が続く中、そこへ割って入る影があった。

 

「あ、なのは……フェイトたちも……」

「ユーノくん……」

 

扉を開けて入って来たユーノになのはたちも少し動揺してしまった。その様子にユーノは苦笑する。

 

「邪魔……しちゃったかな? 差し入れ持って来たんだけど……」

「ううん……ありがとう」

 

無理した様子で笑っているなのはに複雑そうな表情を浮かべる。

 

本当のことを言いたい……真実を伝えれば三人とも納得してくれる……プレシアのことだってカリフが忘れて行った『あのデバイス』に全て入っていた。

 

だけど、それじゃあ駄目だ……今知られてははやてを……なによりカリフを裏切ることになる。

 

だけど見ていられない……だから、僕は口を開いた。

 

「……今は互いに離れているかもしれない……ぶつかり合っているかもしれない」

「え?」

 

これは独りごとだ……僕はなのはたちには絶対に『喋らない』

 

だけど、独りごとを『聞かれてしまった』のであれば仕方ない。

 

「だけど、だからと言って終わっていいことにはならない……大切なのは『真実へ向かおうとする意思』なんだ……」

「ユーノ……あんた……」

 

アルフやフェイトも僕の言葉の真意を探るように見つめてくる。

 

「だから僕は真実を……闇の書を調べるから……なのはたちは騎士たちと……カリフの真実を……」

「……」

 

なんか、最後はお願いみたいになっちゃったな……けど、これであいこだよ? カリフ

 

君が何も言わないからこうなったんだから……全部終わったら何か奢ってもらうから。

 

そう思いながら時間を見ると……結構話しちゃったかな?

 

「じゃあ休憩も終わるから皆も頑張ってね」

 

そう言って部屋から出ようとした時だった。

 

腰かけていたなのはが立ち上がった。

 

「あの、ユーノくん!」

「?」

 

どうしたのかと思って振り返り……

 

「ありがとう!」

「……どういたしまして」

 

なのはの光に満ちた笑顔にホっとした。

 

どうやらなのは、それにアルフやフェイトも大丈夫そうだった。

 

何かに満ちた表情は眩しく感じた。

 

僕は部屋を出ていく最中、思った。

 

カリフ……こうなった彼女たちには手を焼かされるかもね……と

 

 

詳細ヘッダー

はやてが倒れた日の夕暮れ時、カリフたちははやてのいる病室に集まっていた。

 

「せやから、急に胸が攣ったゆうだけやのに皆して大事にしたんですよ?」

「ですが……」

「それに、カリフくんったら私のシャツ脱がしたんですよ? もうお嫁に行けんわ」

 

よよよ……とわざとらしく泣く姿にはやてを診た石田先生も苦笑していた。

 

そこへ、カリフが横から出てきてはやての頬を摘まんで引っ張り上げる。

 

「いひゃいいひゃい!」

「ナマ言ってんじゃねえぞガキめ。倒れた割には口が回るじゃないか?」

「こらこら。はやてちゃんは病人だから止めなさい」

 

石田先生はやんわりとカリフをはやてから引き離すと、カリフは鼻を鳴らし、はやては赤くなった頬をさすりながらジト目でカリフを見つめる。

 

そんな光景に石田先生はクスクス笑う。

 

「あまり彼を困らせないの。ただ心配の裏返しであんなこと言ってるだけなんだから」

「む〜……」

「それに、貰い手がなかったら彼に貰ってもらいなさい」

「いや! そんなつもりで言ったんじゃなくてですね……その……」

「アホくさ……」

 

石田先生の一言に顔を紅くさせて狼狽する光景にカリフは溜息を吐いて付き合ってられないといった感じで部屋を出ようとする。

 

そこへシャマルが問いかける。

 

「どこに行くの?」

「もう時間もあれだ。オレは先に帰る」

「え、でも……」

 

何か言いたげなシャマルの言葉をはやての明るい声が遮った。

 

「ほんなら、今日はこれでお別れやね。私の入院中はご飯大丈夫?」

「そんなもん今更だろ?」

「それもそうやね」

 

笑って見送るはやての姿をカリフは一瞥して部屋から出る。

 

 

病院の外でシグナムたちが来るのを待っていたカリフは静かにはやての一室を眺めていた。

 

そこへシグナムたちもやってきた。

 

「待たせたな」

「いい。はやては?」

「当分は入院だってさ」

「そうか」

 

ヴィータの沈んだ返答にカリフは静かに返す。

 

「これから蒐集に行って来る。晩ご飯は先に済ませておいても構わない」

「ああ……そうさせてもらうぜ」

 

そんな話をしながら、カリフたちは帰路へと向かって行ったのだった。

 

 

その夜、病室の一角のベッドの上で小さく、しかし苦しそうに唸る声があった。

 

「う……く……」

 

ベッドの上の患者であるはやては胸を押さえて必死に耐えていた。

 

ナースコールすれば、石田先生を通してシグナムたちに伝わり、心配かける。

 

「く……ふぅ……」

 

しばらく続いた痛みも和らぎ、一息吐くはやて。

 

すぐに呼吸を整え、自分に言い聞かせる。

 

「大丈夫……まだやれる……まだ耐えられる……」

 

誰にも聞かれないように小さい声で反芻していた時だった。

 

「何が耐えられるって?」

「ひっ!……モガモガ……」

 

窓からの突然の声に喉から心臓が飛び出るほど驚くも、口をホールドさせられる。

 

「まだ寝てなかったか……こりゃ好都合。放すぞ?」

 

月明かりで照らされたカリフの顔を確認すると、はやては首を縦に振って肯定した。

 

それを確認してカリフは手を離すと、はやては一息吐いた。

 

「はぁ……こんな時間にどうしたんや。カリフくん……」

 

頭を抱えての問いに、カリフは悪びれもなく答えた。

 

「なに、少しお前と飯食おうと思ってな」

「飯?」

 

首を傾げながら聞いてくるはやてに笑いながら答える。

 

「今日はいい月だからな、たまにはいいだろう」

 

そう言いながら三日月の光を浴びながら窓枠に足をかけるカリフだった。

 

 

「ふわぁ〜、すごーい!」

 

現在、カリフははやてを抱っこしながらネオンに彩られた街の上空を飛んでいた。

 

正確にはビルからビルへと跳び移っている。

 

寒い中、はやては病院の毛布に包まっているから問題はあまりない。

 

あるとすれば、ほとんど拉致の形とはいえ病院を出たことくらいだろうか。

 

心の中で謝りながらも、はやては内心では楽しみにしていた。

 

「着いたぞ」

 

何事もなく、カリフは目的のビルの屋上に到着する。

 

「うわぁ〜……綺麗やな……」

 

はやてが目を輝かせて海鳴の夜景に心を奪われていた。

 

そこへカリフははやてを降ろし、どこからか巨大な白い袋を取り出す。

 

「その袋は?」

「なに、大した物じゃない。ほれ」

「ふえ!? わっとっと……」

 

そう言いながら袋の中から一つの小さい紙袋を取り出してはやてに投げ渡す。

 

驚きながらもキャッチするが、意外に熱かったので落としそうにしながらもなんとか耐えた。

 

「乱暴すぎや」

「いいから開けてみな」

「んもう……」

 

落ち着いた所で不満そうに袋を覗くと、中には紫の芋……石焼き芋が入っていた。

 

金色の身からホカホカの湯気が零れている。

 

「あは♩ 焼き芋やん! 食べてええの?……てもう自分たくさん食べてるやん……」

 

横では何時の間にか五、六本の焼き芋を一気に頬張るカリフに苦笑しながらも自分も頬張る。

 

適度に冷ました甘い身を食べるはやての表情は次第にとろけていく。

 

「う〜ん。甘くて美味しいな〜」

「あぁ、金色の身に凝縮されているのは天然の甘み、自然の恩恵、そしてこの旨みを最大限に引き出す職人技だ。不味いわけがねえ」

 

力説しながら更に芋を口に頬張る。

 

その後、カリフの表情は満足そうである。

 

「〜〜っまい!」

 

結構レアなカリフの満足顔にはやても自然と微笑んでしまう。

 

「今度、大学イモ作ってみよか?」

「お、そんなのもいいな」

「ほな、約束や。今度皆で作ろ?」

「いつでも来い」

 

暫くは、カリフも上機嫌だったという。

 

 

 

そして、会話も一段落して二人も静かに、カリフは依然食べ続けているが兎に角静かな時間が続いた。

 

そして、始めにはやてが口を開いた。

 

「綺麗やな……」

「……」

「半年前まではこんなこと考えられへんかった……カリフくんやシグナムたちも……すずかちゃんやプレシアさんやアリシアちゃんともそうや」

 

半年で大分変わった。

 

今ではもう独りじゃない幸せがよく分かる。

 

「生きている内は何が起こってもおかしいことなどない」

「そうかもしれへんな……今だから言うけど、以前までは死ぬことななんも未練もなかったからいつ死んでもいい、なんて思うてた」

「それは間違いだ。この世に『生』を受けたならそれを全うするものだ。それが生き物ってものだ」

 

その一言にはやては苦笑して頬を掻く。

 

「せやね。シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ……大事な家族ができた……」

「随分嬉しそうだな……」

「うん! 今がすっごい幸せや!」

「……」

 

嘘偽りのない屈託のない笑顔にカリフは表情を変えずに夜空を見上げる。

 

「くぅ……」

「……寒いのか?」

「え? いや、大丈夫や。毛布もあるし」

 

縮こまる姿を笑って誤魔化そうとするも、カリフは聞かずに立ち上がって上着を脱ぐ。

 

いきなりの行動にはやては驚く。

 

「ちょっ! どないしたん!? 今日は冷えてるんやで!?」

 

カリフを止めようとするはやてだが、カリフは冷気に逞しい身体を晒し、大きく深呼吸をする。

 

そして、腕を交差させたときだった。

 

「ぶわっ!」

 

カリフを中心に発生した熱風にはやては少し身体が傾くも、また立て直した。

 

「な、なんなんや……ってあれ?」

 

その時に異変に気付いた。

 

今は冬であり、クリスマスも近いのに……

 

「暖かい……」

 

毛布は遠くに飛ばされ、それなりに薄着なはずなのに寒くない。

 

それどころか、夏を迎える前の春みたいに若干暑ささえ覚えるほどだ。

 

固まっているはやてにカリフが答える。

 

「シバリングって知ってるか?」

「え? えっと……冬とかに寒くなると小刻みに震える現象……とか前にテレビで……」

「そう、オレが旅してきた中でグルメの盛んな星では役に立つ技術ばかり……過度のシバリングによって身体から排出される熱で周りを暖めることもできる」

「えっと……つまりこれもカリフくんが?」

「オレに不可能などないということだよワトソンくん」

「あはは……」

 

無茶苦茶な持論に苦笑していたはやてだが、冗談を言っていたカリフはすぐに溜息を吐いてはやてを見る。

 

「シャマルから聞いていたがなぁ……本当に重症だな」

「何が?」

 

キョトンと聞いてくるはやてに真剣に向き合う。

 

「お前……今でも相当無理してるだろ? 随分と前から……」

「いや、そんなことは……」

「自信もって『無い』って言えるか? ボロボロの身体と精神でこれ以上の意地はムリだ」

「……」

 

カリフの一言ははやてを沈黙させるには充分だった。

 

「お前をそこまで突き動かすのはシグナムたちだな? どうせ『主人だから強くいよう』とか考えてんだろうがな」

「……そう思っちゃいけないって……そう言いたいんか?」

 

態とらしい演技のカリフにはやては苛立ちを隠せない。

 

自分なりの覚悟を笑われたなら当然の反応であるからだ。

 

それに対し、カリフは真顔で続ける。

 

「意地くらい誰でも張るし、悪いことじゃない。だが、お前が勘違いしてるようだが言っておく……まだお前は非力で弱い……九つのガキなんだよ」

「……」

「お前は自分のことで一杯のはずだ……」

 

そこまで言うと、はやても何とか言葉を選びながら返す。

 

「あかんてそんなん……あの子たちの面倒はマスターの私にしかできひんのやから私がしっかりせなあかんのや……」

「そうやって心労を貯めるのか? そうやって貯め続けたらお前は間違いなく……」

 

首を横に振るはやてにカリフは腕を組んでさらに追及するように続ける。

 

だが、そこから先をはやてが遮った。

 

「強いカリフくんには分からへんのや……」

「む?」

 

小さく、そして責めるような初めて聞くはやての口調にカリフは首を傾げる。

 

「そりゃあ私だって頼って泣き叫びたいときがある……でも、だれが私を甘えさせてくれるん!?」

「……」

「一人やったから……! 弱くなれへん! 強くなるしかないんや! でないと生きていけないから……!」

 

それは、初めて吐露する少女の叫び、不安、世の不条理に対する怒り。

 

カリフは何も言わずに聞くだけ。

 

「私が弱いやて!? そうや! 一度は覚悟したのに今じゃあ死ぬのが怖い! もっと生きたいんや!」

 

彼女は昔から涙を流し続けた。

 

それは心の中でのことだが……

 

「足なんて治らなくていいから皆と一緒にいたい! 特別な力もいらないのに……なんでなん!? なんでこんなことになってもうたん!?」

「……やっと泣いたな?」

「え?」

 

今まで黙っていたカリフの一言にはやては目元を手で拭うと、雫が手を濡らした。

 

よく見ると、視界が若干歪んで見える。

 

遂にはやては限界を迎えた。

 

はやてはポロポロと止めどなく溢れる涙を手で拭い続ける。

 

「違う……私はまだ頑張れる……こんな弱くなんて……」

「もう誤魔化す必要などない……全部出しちまえ」

 

涙を拭き続けるはやての目線に合わせるようにカリフは膝を下ろす。

 

「意地を張るのは悪いことではない。だが、それも過ぎればただの自虐だ」

「違うて……」

「ここにはお前が護るべき騎士などいない……これはお前だけの時間だ」

「!!」

 

決壊したダムのように感情が溢れてくる。

 

「また強く演じるなら明日からでもいい」

 

胸が締め付けられる。

 

「だから泣け……自分の弱さを認めるのもまた『強さ』だ」

 

そして……抑えていた物が遂に溢れた。

 

「あ……うぁ……」

 

家族の前で見せないと決めていた顔が露わにやる。

 

「うわぁぁん……あああぁぁぁん!」

 

もう人目を気にすることなく、彼女は泣いた。

 

涙と鼻水で濡れた顔をカリフの胸に跳びこんで覆い隠した。

 

「お前の『正直』な心を笑いはしない……」

「うわぁぁぁぁん!」

 

カリフははやてには触れることもしなければ引き剥がすようなこともしない。

 

冬の寒空の下で、少女は泣き続けた。

 

まるで今までの想いを吐き出すかのように

 

 

 

 

 

 

暫くの時間が過ぎ、はやては泣き疲れて眠ってしまった。

 

穏やかに眠るはやてを胸にカリフは溜息を吐いた。

 

「騎士がいつまで覗き見している? バレてないと思ったか?」

「いや、ただタイミングを図っていただけだ。お前が出て行ったときはまさかと思って来てみたら今に至る訳だ」

 

上空からバリアジャケットのまま現れ、シグナムは自嘲気味にはやてを受け取る。

 

その様子にカリフは首を傾げる。

 

「なんだその顔は」

「可笑しいのだ。主を護るべき私たちが主の心労を助長させていたことがな……」

 

黙って腕組みしながらシグナムを見つめる。

 

「主に呪いをかけ、助けるはずの主に心配かけられる始末……滑稽とは思えんか?」

「皮肉なもんだねぇ……主の願いとは裏腹の願いを強要させる……違いねぇ……」

 

カリフはシバリングを解いて夜空を見上げる。

 

「だが、主も溜まった心労を少しは吐き出せたのだ……私たちじゃできない芸当だ。礼を言う」

「あんなギスギスした雰囲気を持ってこられても迷惑なだけだ。いっそ泣きわめいてもらった方が気が楽になるってのに……」

「そうか……お前らしいな」

 

そう言いながらもフっと笑うシグナムに、カリフは上から見られたようでイラっとした。

 

手元の空き缶をシグナムに投げた。

 

「本来はお前等の役目だろこの……ニート侍!」

「ぶっ!」

 

顔面にマッハと錯覚するほどの速度で当てられたシグナムは頭からのけ反るも、すぐに立ち直した。

 

「なにをする!」

「他人事のようにほざきやがるからだ。本来ならお前等の役目だ。なんでオレがやらねばならんのだ」

「それはそうだが……」

 

カリフのいうことは尤もだが、なにも缶を投げることはないだろう……と納得できない表情を浮かべて当たった鼻をさする。

 

カリフはカリフで腰を上げ、背伸びする。

 

「とはいえ、後僅かの辛抱か……そこでだが、考えがある」

「なんだ? 悪いが、お前を同行することは……」

「いや、オレの考えが上手くいけばもう遠征は必要ない。そして、仮面の下種共も釣れる」

 

まさかの上手い話にシグナムは目を丸くして驚く。

 

「そ、そんなことが……」

「あくまで可能性だがな……自慢だが、オレは嫌がらせには頭脳労働は惜しまないんでね」

 

こめかみに指を突いて自信満々に言い放つカリフの案をシグナムは聞いてきた。

 

「それは一体……」

「まあ、あらかじめ言っておくが、お前等騎士には多少のリスクは負ってもらうが?」

 

確認するように聞いてくるカリフに力強く頷く。

 

「問題ない。もとよりその覚悟だ」

「なら、後ではやてを病院に置いてからすぐに全員に提案しよう。こういうのは早い内がいい」

 

互いに頷き合った瞬間、二人はオーラを身に纏い、閃光となって病院の方向へと飛び去った。

 

 

時空管理局本部コンソール室

 

数多の戦闘データを写す画面を食い入るように見つめる影があった。

 

その中には仮面の男の写真がピックアップされている。

 

その画面を食い入るように見ているのは執務官のクロノである。

 

クロノはその画面を見て呟いた。

 

「間違いであってほしかった…………」

 

クロノの頭は項垂れ、付きとめた受け入れ難い事実に悲痛に呟くのだった。


 
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