No.466222 戦う技術屋さん 十一件目 デバイスgomadareさん 2012-08-06 22:43:28 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:2144 閲覧ユーザー数:2021 |
『――っと、これでいい筈』
目覚めた彼女に初めに届いたのは誰かの声であった。声質から男性と判断出来たその声は、不思議と暖かく感じる。理由は不明。そもそも聴覚情報に熱量を感じるという事自体が彼女にとって不可解極まりない。
いやエネルギー等の話になれば、彼女としてもその限りではないのだが、この温もりはそういうものとは根本から違う気がするのだ。しかしそれを説明する言葉を彼女は持っていない。
『起きてるか?』
ふと男性の声に呼び掛けられ、彼女は温もりについての思考を中断した。そして、その言葉に対し『Ja.』と短く答える。
『Rufen Sie Schnur ICH-01.Es beginnt.(コードI-01。起動しています)』
『そうか。なら良かった。何か違和感は?』
『Es gibt besonders nicht es.(特にありません)』
『何もないなら良かった』
その言葉に浮かぶのは喜び。
『でも、悪い。もう一度眠ってくれ。次に起きたら、顔合わせな』
『Ja.(はい)』
男の言葉にやはり違和感を覚えながら、I-01は自らの機能を停止した。
それから少し経ち、I-01は再び目覚めた。
今度は先ほどと違い音声を感じ取る以外のセンサーがあり、それを使って声の主や今の状況など、様々な情報が得られるようになっていた。
それらのセンサーを駆使して、情報を瞬く間に集め、整理すると、I-01は声の主であったまだ少年と称されてもおかしくない若い男が自分の創造者であると理解した。
『さて、改めておはよう』
『Guter Morgen.Mein Meister.(おはようございます。我が主)』
『……うーん、そこら辺は違うんだが。ちゃんと自分の中のデータ、全部に目を通したか?』
『……』
とりあえず現状を把握せねばと、必要最低限の情報のみしか確認していなかったI-01。指摘され、急ぎすべてのデータ、情報を確認し、男の言葉の意味にたどり着く。
『Ich verstand es.Wenn Sie ein Schöpfer sind, und es ist kein Meister.(分かりました。貴方は創造者であって、我が主では無いと)』
『うん。じゃあ、改めて。お前の主は?』
『Es ist Sie.(貴方です)』
『なんでだよ!?』
『Es ist ein Schöpfer, und Sadayoshi des Meister für mich ist kein Benutzer.(私にとっての主の定義は、創造者であって使用者ではありません)』
『あー……そこら辺の条件付けはお前の自由にしちゃったもんなぁ。やっぱりAIを組むのは苦手だ』
困ったように言う男、マスターの言葉に、I-01は疑問を覚える。しかしその疑問を尋ねるよりも早く、I-01へマスターは呼びかけた。反射的にそれに応じる。
『とりあえず、俺のことをマスターって呼ぶのはやめてくれ。慣れないから』
『Ich verstand es.Dann, das Sprechen davon was, sind Sie gut, wenn Sie Sie rufen?(分かりました。では、なんとお呼びすればよろしいですか?)』
『ん?あー、そういえば俺の名前は入れてないんだっけか。なら、お前に最初に教えるのは俺の名前ってことになるな。少し気恥ずかしい』
『Ist es damit?(そうなのですか?)』
『うん、ちょっと。まあ、いいか。俺の名前は――』
***
カズヤのIDカードに捜査官補佐という所持資格が追加された翌日。
場所は毎度お馴染み108部隊隊舎、屋外演習場。
咆哮と共にスバルと色違いのウイングロードを駆けるギンガは、空中でM-10に乗るカズヤへと突撃を仕掛けていた。もとより魔法スペックが残念なカズヤの射撃魔法は、例え射撃サポート特化のT-03のサポートを受けていても恐るるに足らず。回避とガードを繰り返し、一気に接敵していく。
そんなギンガに、カズヤは舌打ちを一つして、動きを止めていたM-10を緊急稼働させた。ギンガの拳を避けながら距離を開け、発動するのは左手薬指のデバイス。元々D-03βの名であって五枚の円盤はその枚数を倍の十枚に増やしており、加えて今までガートにしか使われなかったそれらを――
「GO!」
カズヤは攻撃に使えるように改良した。
「へぇ、面白いデバイスね。前は一定範囲内での
「扱えなかったら、作りません!」
言いながらギンガはカズヤを追ってウイングロードを更に伸ばし、その言葉に答えるカズヤは七枚のプレート全てに異なった軌道を描かせながら、ギンガへと向かわせる。
有言実行するカズヤにギンガは素直に感心しながらも、一枚一枚のプレートの速さはギンガよりも下。そしていくら枚数が多かろうと、動作を操る大元が一人なのだから、制動にも限界がある。そう判断したギンガはあえての突撃を決行。迫るプレート一枚一枚を殴り、蹴り、防ぎながら突破して見せ、ロードされた一発分のカートリッジの魔力とともに、ギンガはカズヤへ向けて拳をふるう。対してカズヤの選択はM-10を待機状態に戻すと、自身もギンガの張ったウイングロードの上へと降りた。そして手元に残しておいたプレートを操作。ギンガと自身の間に一枚を置きA-20βのカートリッジロードからプロテクションを発動した。
「ハァアア!!」
直後に気合と共に叩きつけられるギンガの拳。一撃で砕かれるということはなかったものの、拮抗の始まる序盤からミシミシと悲鳴を上げ始めるカズヤのプロテクション。しかし、ギンガは当然容赦せず、新たにカートリッジを使い、カズヤのプロテクションを突破しようと更に踏み込み、それに合わせてカズヤはプロテクションを消した。そのすぐ後ろ、プロテクションと違い『受け止める』のではなく『受け流す』事で攻撃を防ぐ、プロテクションと同程度メジャーな魔法。ミッド式のそれはラウンドシールドと呼ばれる新たな盾がギンガの前に張られていた。
再度叩きつけられるギンガの拳。今度は受け止められず受け流され、ギンガはつんのめるようにカズヤへ向かって倒れ始める。そんなギンガに対し、カウンターを決めようとしたのだろう。ラウンドシールドを消したカズヤが、こちらへ向かって倒れてくるギンガに向かい足を振り上げると、ギンガはそれをぎりぎりのところで避け――。
ゴンッ!
「ネブッ!?」
「ちょっ!ギンガさん離れて!」
「足場無しに動く術なんてないわよ!」
「ですよねっ!M-10!M-10!」
大慌てでM-10を発動しようとしたカズヤ。自分から離れすぎていなければ、任意の場所に発動できるそれを自分の背中を抑えるように発動し、すかさず魔力を込めて飛行を開始。流石に今回は焦ったのか、M-10の上で仰向けになっているカズヤもその上でうつ伏せになっているギンガも戦々恐々と言った様子。
因みに屋外演習場ということもあって上方向への制限は無かったせいで、落下開始地点は地上15m程。ビル六階程である。そんな高さから落ちれば、まあただではすまなかっただろう。
「さ、流石に焦りました……」
「そうね……」
「てかギンガさん、最後の頭突き、無理矢理じゃなかったですか?訓練でやる事じゃ無いですよ」
「えっと、つい」
「ついでヘッドバットは俺の特権ですよ!」
「そんなものを特権にするんじゃありません!」
相変わらずカオスなやりとりだった。お互いにM-10の上に倒れたまま、一歩間違えば色々と着きそうなくらい近距離で、あーでもない、こーでもないと暫く言い争い。
そんな中で、ふとギンガがある事を思い出す。
「そういえば、模擬戦の最中だったわよね?」
「……ですね。忘れてました」
「どうする?続ける?」
「続けるとしたらどこら辺から?」
「この瞬間から」
「ギブです。マウント取られて勝ち目無いですから。てか、早く降りてくださいギンガさん、重いです」
ゴッ!
「何か言った?」
「全然軽いです!むしろ気持ちいいくらいですよ!……あれ?改めて意識すれば、柔らかいものが当た――」
ゴスッ!バキッ!
「スイマセン、調子に乗りました。本気で負けでいいので、一旦地面に降りますから、もう殴らないで」
「よろしい」
ゆるゆるとM-10を降下させ、問題無い高さまで降りたところで、ギンガが飛び降り、続いてカズヤ。せっかくヘットバット以外では無傷だったのに、不用意な一言で結局いつも通りになった彼は、腰のポーチから冷えピタを数枚取り出すと、殴られた頬へ貼る。その慣れた手つきに、哀感を覚えてしまう。どれだけボコボコにされているのか。
「ギンガさん。普段から良くして貰ってますけど、模擬戦でももう少し優しくしてくれてもいいと思いません?」
「自業自得よ」
「毎回ボロボロのせいで、来て一週間と少ししか経ってないのに隊舎の医務室の使用率ナンバーワンなんですよ?おまけに自宅の救急箱と財布へのダメージがヤバイです」
「全く。真面目にやってれば、そこまで酷い怪我しないでしょうが。ヘットバットしたり、不用意な発言したり」
「それが原因でギンガさんの逆鱗に触れているのは自覚しているのですが」
「最悪じゃない」
「つい」
「ついじゃない」
はぁ、とため息をつき、ギンガはバリアジャケットを解除。ローラーも脱ぎ、カズヤへ返す。
「それで?なんでわざわざ予備の方のローラー使わせたのよ。私が昨日預けた方は?」
「ちょっとデータ収集がしたくて。すいません」
言いながらカズヤもバリアジャケットを解除し、E-01を起動。ギンガが先程まで履いていたローラーにケーブルを接続し、データを収集していく。
しばらくそれを眺め、「ちょっと待っていてください」とそれだけをギンガに告げてその場を去る。
「え、あ、ちょっと!」
呼び止めるも既に遅く。カズヤは屋外演習場を去っていた。残されたギンガはシャワー位は浴びる時間あるのかしら?と首を傾げ、それからバリアジャケットの下に着ていた訓練服の襟元を持って匂いを嗅いでみる。特別汗臭いと言う訳ではなかったが、それでも匂いがないわけではなかった。幾ら管理局員と言っても女の子のギンガとしては、気にならない筈もなく。ギンガは足早にシャワー室へ向かった。
……………………
………………
…………
それから時間にして一時間ほど。結局シャワーを浴びて、体を拭き、結構気を使っている髪の毛を整えて。制服に着替えている間にそれほど経ってしまい、ギンガは急ぎ足で屋外演習場へと戻る。
(流石に怒ってるかしら)
余り怒っている姿を見ず、そんな姿を想像しづらいカズヤではあったが。それでも一時間は待たせすぎたと思い、隊舎から屋外演習場へと続くドアから出ようとしたところで、声が聞こえてきた。
「ギンガさん、戻ってこねー」
『Nachdem alles gehen Sie, es zu suchen?(やはり探しに行きますか?)』
「うーん……。でも入れ違いになってもアレだしなぁ」
話し声。男女のものであった。片方はギンガは知っている声。カズヤのもの。しかしもう片方の女性の声はギンガに覚えがない。ついでに使用言語に関しても、意味こそわかるが聞きなれない物である。
「もう暫く待って、来なかったら探しに行こう。お前も早く会いたいだろ?」
『Nun.Ich interessiere mich für eine Person, die von in Grund kommt, Kazuya zu behalten das Abwarten der ganzen Zeit.(そうですね。カズヤを此処まで待たせる不埒者には興味があります)』
「まあ、俺もどれくらい待っててとは言わなかったし。シャワーでも浴びに行ったんだと思うぞ」
ドンピシャである。誰と話しているのかは分からないが、自分が話題に上がった以上、入らない理由もなく、ギンガは戸を開けた。その先、屋外演習場にいたのは、何故かカズヤのみであった。
「……?カズヤ」
「あ、ギンガさん。お帰りなさい。着替えちゃったんですか?」
「ええ。それよりカズヤ。今、誰かと話してなかった?」
「あー、はい。話してました。その話し相手の件で貴女に」
首を傾げるギンガへ、カズヤが差し出した物は小さめのアクセサリーケース。大きさ的に指輪でも入っているんだろうかと、ギンガは考え――硬直した。思考が暴走することもない、完全なフリーズ。何これどういう事なの?程度のことは考えられるが、でもそこまで。状況の理解はまるで追いつかない。
カズヤが自分に、指輪が入ってそうなアクセサリーケースを差し出している程度には、理解しているのだが。それが何を示すのかは、全く。
「えっと……ギンガさんにこれを渡したくて」
「……ふぇ!?」
変な声が出た。
「ギンガさん?」
「うぇえ、な、何!?カズヤ!?」
「いえ、ですから。これをギンガさんに受け取って欲しいんですよ」
差し出すその手にはアクセサリーケース。カズヤの表情は、どこか不安げで。少なくともギンガは見たことがない表情だった。
「ダメ、ですか?」
「うぐっ」
受け取らない理由は……ギンガにはない。これがただのプレゼントなら、だ。しかし状況的に鑑みて、明らかに告白とか、それを飛び越えてプロポーズのように見れなくもない。
(ど、どうしよう……)
ようやく思考が追いついたギンガが、心中でオロオロ。
よもや告白よりも先にプロポーズを経験する羽目になるとは思わなかった。しかも相手は部下で、弟のような存在で。妹であるスバルと凄く仲がいいカズヤ。もちろん嫌いかと言われれば答えは否であり、寧ろ好きであるが。それは恋愛感情ではなく友愛やら親愛やらといった類。ならばこの指輪は自分ではなく他の誰かが受け取ったほうが良いのでは。例えばスバルやティアナ。だがしかし。カズヤは今まさに自分に指輪を差し出している以上、気恥しいが、彼の想いが自分にむいているのは事実。それは素直に嬉しいし、今後上官と部下という関係でやっていく以上、ここで受け取らないでギクシャクしてしまうと仕事に差し支えるかもしれない。しかし差し出すカズヤの表情は不安そうながらも至って真剣。ならばそう言った事は考えず、自分の意思を素直に示したほうが良いのでは。ならば自分の意思とは何だ。自分が彼に向けている感情は、前後に『現状は』などの将来性を感じさせる修飾語が入っているかはさなかではないが、やはり恋愛感情では無い。しかし今更お友達からという関係でもない。既に友人関係ではあるわけだし。ならいっそ、嬉し恥ずかしのアベックという関係から始めるのがベストではないか、と此処まで一気に考えたギンガは、意を決してカズヤを見る。
……全く関係ないが、アベックって言い方が古いな。
「カズヤ」
「はい」
その表情に浮かぶのは不安。しかしカズヤには悪いが、やはりこの指輪は受け取れない。
とりあえず、恋人同士から始めましょう、とそう言おうとしたのも束の間
「ありがとう」
何故か体は受け取っていた。
「いえ」
「……」
あれれー?おかしいぞー?と某少年探偵のようなことを考えるギンガ。
しかし受け取ってしまった物を押し返すのも失礼だし、正直中も気になっていた。
私は悪くないと他の誰もない自分へ言い聞かせながら、ギンガは箱を開いた。
『Schließlich.Es ist spät.Wen halten Sie von sich?(ようやくですか。遅いですよ。何様のつもりですか?)』
滅茶苦茶口(?)の悪い指輪がそこにいた。
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