十三話
全員を書斎に通し、中に設置したソファーに座らせる。長机を囲むように二人掛けと一人掛けの四つを置いてあるので問題なく座れた。ちなみに話を聞く前に執事スキルをフル活用した紅茶を出し、喜ばれたのは余談だ。
そして全員の喉が潤った後、ここに来た経緯と今まで何をしていたのかの話を聞いた。やっぱり人の噂というものは早いもので、怖いくらいの伝達スピードだ。噂になるにしてももう少し大人しくいくと思った俺としては、やっぱり迂闊だったのかもしれない。そんなことを考えながら少し顔を下に向けると、やけに彼らが汚れていることに気づく。とりあえず有無も言わさず風呂に入れた俺は悪くない。
「いやー、良い湯だったわ。浴室も広いし、見た目もいいし、タオルはふかふかだったし……最高ね!」
「お気に召してなによりだ。暇なときはまた来ると良い。いつでも歓迎だ」
「本当!?やった!」
「ここは『どらいやー』があるから毛の渇きが早くて助かるにゃ。ちょっと今回は失敗したけどにゃ
……」
タオル片手に喜ぶニーナと自分の毛を弄っているノワール。彼の言う通り脱衣所には鏡とドライヤーも設置している。これの使い方は一応教えておいたのだが、ノワールはなぜか毛が立ってしまった。今櫛とかで直しているけど、とりあえず顔が丸く見えると言っておこう。ちなみに女性陣には好評だった。
「そういえば、後ろの鎧も動くのか?さっきまでいろんなところにあったのとは違うみたいだけど」
「ん?あぁ。こいつも動くぞ。しかも黒騎士よりも高性能にしてあるし、再生するようにしてるから何度でも追いかけてくるぞ。しかもステルス機能で黒騎士も含めて魔法で検知されないから不意打ちも可能だ。ただ、回復に時間がかかるけどな」
「えげつねぇ……」
書斎の四方にある黒と赤の色をした悪魔的デザインの鎧を指差して言うジャック。これは各所に設置したダークソウルの黒騎士ではなく、skyrimのデイドラの鎧だ。性能を最高位に設定し、再生機能をつけたため、例え魔法で粉々になろうとも復活する。少し時間がいるものの、完全に復活する。この四体には屋敷の巡回よりも住人の警護をメインにして設定してあるので、俺がもし動けない状況になったとしても余裕でだらけておける。あとは俺の部屋にもおいてあり、装備は両手剣、片手剣と盾、両手斧、戦槌だ。めっちゃ禍々しい。
そのあとしばらく話をして、彼らは今日泊まっていくことになった。食事をして騒いだりしてとても楽しかったし、久しぶりにあれだけ笑った気がする。部屋も男女で好きなところを使ってもらい、今日はすぐに寝た。
――その夜、カイト邸にて――
「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」
荒くなった息を柱の陰で整える。手持ちの装備は使い切り、最後の命綱であった短剣は、先程叩き折られてしまった。真っ黒の軽装備に身を包んだ男はその場にへたりこみ、どうしてこうなったのだろうと過去の記憶を引っ張り上げる。
簡単な仕事のはずだった。一日で建造されたという嘘か本当かわからないこの真新しい屋敷の金目の物を盗み出すという簡単な仕事。こんな豪勢な屋敷なのだ、財産の一つや二つ必ずあるだろうという男の仲間の提案だった。まだ住んでいるのは一人きりという調べもついていて、先程まで友人と騒いでいてもう寝たというのもしっかりと確認した。脅威たるものは何もなく、罠も見つからないというのは信頼できる仲間の一人が確かに言っていた。言っていたのだ。
「なんだってんだよ……どうしてこんなことにぃ」
目に涙を浮かべる男とその仲間達は、その道では有名な盗賊団だった。数々の貴族の屋敷を巡り、警備をすり抜け、罠を回避し、多くの財宝を盗んできた。その時抵抗する奴は腕自慢の自分が殺したし、魔法の使える仲間が暗殺したりした。すべては順調、経験から言ってもこの屋敷はちょろいもんだと思っていた。
しかしいざ蓋を開けてみればどうだろう。屋敷には黒い騎士鎧が無言で闊歩し、自分を入れて8人いた仲間は1人また1人と減っていった。がしゃりがしゃりと金属音をたてながらどこまでも追いかけてくる黒騎士。あるものは剣で肩から両断され、あるものはハルバートで胸を貫かれ、あるものは上の階からいきなり飛び降りてきた騎士の斧で頭から叩き潰された。共に反撃をした腕自慢の仲間は騎士の持つ盾で長剣を殴るようにしてそらされた後、手に持った剣で胸を抉られた。即死だった。
魔法も使った。確かに他よりは効果が見えたものの、騎士達は意にも介さず突っ込んできた。放った炎の渦は直撃し、普通の人間ならば鎧の中で焼け死んでいるはずにも関わらず、騎士は煙を上げるだけで、その高温になった斧で魔道士を焼き斬った。肉の焼ける嫌なにおいが今でも鼻に残っている。
その場から逃げて残り2人の仲間と共に通路に出た。そこには点々と距離を置いて同じ鎧があったが、触ってみても動かないのを確認したので安心して一息つく。状況を確認し、早くここから脱出する旨を伝えようと振り返ると、ハルバートを横凪ぎに振ろうと動き出している騎士が仲間の後ろに見えて、わき目も振らずに逃げ出した。後ろから聞こえる仲間の悲鳴と肉を斬る音が耳にこびりついている。
もう限界だった。本当なら、いつもなら今頃宝を手にして宴会をやっているはずだった。しかし現実は違う。長年連れ添った仲間達を一瞬のうちに目の前で失っていった。この短時間で男の精神力は極限状態にまで落ちいっていた。と、そこへ――
――がしゃん
「……え?」
――がしゃん、がしゃん、がしゃん
隠れている柱の後ろから、今最も聞きたくない音が響いてくる。それはどんどん数も増えていき、近づいてきているというのがよくわかった。この時点でへたり込んでいた体が立ったのに、男は自分の生存本能に感謝した。
――がしゃん、がしゃん、がしゃん、がしゃん、がしゃん、がしゃん
「ひっ……!ひぃぃ……!!」
男はわき目も振らずに走り出す。ここにこのままいても捕まるだけだ。とにかく逃げないと、と必死になってかけていった。1階と2階玄関口付近に黒騎士が集まっているのが見えた。テラスも窓もすべて抑えられている。出られそうなところは全て見ていったが、全部的確に騎士が配置されていて逃げることができない。そうやってなんとかばれずに走り続けることしばらく。息の上がり始めた男が2階部分の廊下の角を曲がった先に、3体の黒騎士がいた。
――がしゃ……がしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃん
「うわぁあああああああああああ!!」
もう限界だった男はすぐさま反転し、悲鳴を上げながらひたすら走った。長い廊下をまっすぐに行き、突き当りの扉を蹴破るようにして開けると、そこにいた玄関口の騎士達すべてに気づかれる。幸いテラス方面に固まっていたので反対方向に一気に駆ける。しかし、途中に置いてある騎士の鎧がまたも動きだし、通り抜けざまに武器をふるってくる。それをなんとか転がりながら避けていき、中央扉の中に入っていく。目に前にはまた長い廊下だ。息をするのも苦しいし、足もだんだん上がらなくってきているものの、男は残った精神力を振り絞って走っていく。後ろには多くの鎧がひしめいているのは振り向かなくてもわかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
そうしてとうとう突き当りの扉に到達し、ぶつかるようにして開いてすぐに閉める。鍵を閉めて近くにあった机とソファーをバリケードに置いていく。体が悲鳴を上げていても無視して動いた。そしてそれが終わると自身もソファーを押さえる。すると丁度といった具合に扉に衝撃が加わってきた。騎士が体当たりでもしているのだろうか、ありえないくらい強い衝撃が男を襲う。どん、どん、どん、と何度も何度も襲ってくる衝撃を、男は耐えた。今まで祈ったこともない神にまで祈ったし、これで助かれば足を洗って神に仕えるとまで宣言した。
そうしてどれくらい経っただろうか。しばらく受け続けていた衝撃がピタリと止む。そして扉の向こう側からは鎧の遠ざかっていく音がしてくる。しばらく押さえたままの体制で呆然としていたが、その場にまたへたり込んだ。『勝った、終わったんだ……』男はそう思った。先程祈った神に感謝する。本当に極限まで薄れてきた意識の中で可能な限り神に感謝した。そうしてしばらく祈ったあと、動かなくなった自分の体に苦笑する。今日はここで休んで、朝になったらこの屋敷の主人に直接謝って投降しようと考える。自分は捕まるだろうが、それでもここにいるのよりはかなりマシだった。
(これでこの悪夢も終わる。死んでいったあいつらには悪いが、俺は死にたくないんでね)
はぁ、と深く息を吐く。体中の力が抜けた。張っていた緊張の糸が切れたのだろう。瞼も重くなってきた。このまま寝てしまおうか。いや、そうしよう。ここはどうしてか安全のようだし、体もひどく疲れている。膝をついたその体制で、ゆっくりと瞼を閉じていく。心地よい眠りが男を誘い、静かに意識が遠のいて――
――がしゃん、と音がした。
ちょっとホラーな感じに初挑戦。
結構微妙な感じがするのは許してください……(泣)
最後に盗賊が入った部屋は書斎です。デイドラ万歳!(笑)
おまけ。翌朝のカイト君
朝起きたら、家が殺人現場だった。
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!?」
「ちょ、昨日の夜は物音一つしてなかったわよ!?」
「にゃー……鎧に返り血が」
「……君の家は飽きがこないね、本当に」
死体処理と衛兵やファーガスへの説明でその日がつぶれた。仕事を増やすなと怒られたが、俺は何も悪くない……。
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何かと不幸な人生をイケメンハーレムの友人のせいで送ってきた主人公、漣海人。しかも最後はその友人によって殺され、それを哀れんだ神達は力を与えて異世界へと飛ばしてくれた!!とにかく作者の好きなものを入れて書く小説です。技とか物とかそういう何でも出てくるような物やチートが苦手な方はご注意を。