「ああ、やっていられませんねぇ」
陣幕の中で俺は溜息をつく。
現在俺は治安回復の為に兵を率いて出動している。
一介の医者の助手に過ぎない俺が小勢とはいえ部隊を率いて出張っているのは人手不足からだ。
普段なら師君(張魯)の妹の張衛や閻圃、楊昂、楊任、楊柏といった祭酒で事足りるのだが、曹操と馬超の争いに楊昂は援軍として出張ってしまっている。
他に張衛は漢中に詰め、閻圃は巴に、楊任は斜谷関、楊柏は剣門山へと夫々備えとして出向いている。
お陰で、部隊指揮の経験のある俺と七乃にお鉢が回ってくる羽目となった。
「正直、医療と趣味以外積極的に関わるつもりはなかったんですけどねぇ。これも浮世の義理と言う奴ですか」
聞こえないように愚痴ると、立ち上がって部下に指示を出す。
俺の部隊の目的は、馬超が率いて、曹操に敗れた後は荒掠を行う氐族の始末である。
彼らが単なる侵入者なら話は簡単、順番に鏖殺すればよいのだが、中には彼らに呼応した住民もいる。
涼州、秦州、雍州といった北西部一帯に氐族が侵入してきたのは確かだが、全てが塞外から来た者ではなく、長らく住み着いていた者たちも多いのだ。
下手をしたら相手と兵士が顔見知りの事もある。
だから、まずは投降を呼びかける。
しかし、それには間違いなく応じないので、次に一戦して破る。
俺の配下の兵士は弱いが、範囲を拡大した麻痺の雲(スタン・クラウド)で行動不能となった敵を取り押さえられない程ではない。
指揮官クラスは偶に呪文に抵抗、俺に襲い掛かってくるが、七乃がいなしている隙に浮遊(レビテーション)で城壁の高さまで浮かせると大変聞き訳が良くなる。
こうして、俺は相手を取り込みながら、後方地域を慰撫していった。
そして子午道の近辺に至り、そろそろ漢中に帰還しようかと七乃と相談していたところで、少数の手勢を率い、戦塵に汚れた女性が俺に話しかけてきた。
「張公祺殿(張魯)の配下とお見受けする。私は馬孟起、張公祺殿の元に案内いただけるだろうか」
これが錦馬超か。敗残の身とはいえ、五虎大将は迫力が違うな。
「私は陳簡と申します。貴女の事は張師君より承っております。どうぞ我らにご同道下さい」
「なあ、陳簡殿。どうして貴軍の兵糧は三度三度、海産物なのだ?いや旨い事は旨いんだが腑に落ちなくてな」
何度目かの食事時、馬超が疑問を呈する。
「一寸した不手際の後始末でして」
青髭の旦那の置き土産であるが、そこは言葉を濁しておく。
ちなみに青髭の旦那は貂蝉を一目見るなり「なんとおぞましい」と言ってしまった為、貂蝉と「お話」の後に英霊の座へ帰還となった。
勿論旦那は抵抗したが、俺のイレギュラー召喚のせいか螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)から現れるのは真っ当な海産物の山。ラヴクラフトなんてなかった。
お陰で、兵糧に余裕がある。ジル元帥には足を向けて寝られんね。
「腐ったら肥料にでもするんですが、この人が氷を生む道術を使えるものですから、ばっか食いもいいところですねぇ」
七乃はいささか不満そうであるが。
馬超は「大量の魚が生じる不手際」に得心行かない様だったが、普段味わえない珍味の前にやがて考えるのをやめた。
取りあえず漢中は平和になりつつあった。
(^.^( ゚д゚) >(c´_ゝ`) <コ:彡 (゚ペリ乙
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私は一介のメイジに過ぎません。
だから働きたくないでござる -
無理? デスヨネー
と言うわけで一寸出張してきます。