~???~
「…ねえ、お兄ちゃん…………。…………お兄ちゃんってば………………。えへへ、今度のお誕生日、楽しみにしててね?お兄ちゃんが喜びそうな物をプレゼントしてあげるから♪」
赤毛の少女が自分の兄である自分と同じ赤毛の少年に嬉しそうな表情で言った。
「へえ……。オレが喜びそうな物ねぇ。なんか美味いご馳走でも作ってくれるのかよ?」
「も~、なんでそうなるのよう。お誕生日プレゼントっていったら形が残る物に決まってるじゃない。」
少年の答えを聞いた少女は頬を膨らませて答えた。
「そういうもんか?うーん、形が残ってオレが喜びそうな物……。狩りに使えるナイフとか。」
「ナイフは村長さんからもらったばかりでしょー。答えは、わたしの手造りのアクセサリーでーす!まだ完成してないんだけどね。」
「ちょ、ちょっと待てよ!アクセサリーって女じゃねえんだからさぁ。」
少女の話を聞いた少年は慌てた様子で言った。
「もー、お兄ちゃん、遅れてるんだからぁ。男の子だってワンポイントアクセサリーを付けたらとってもオシャレなんだよ?ぶあいそーなお兄ちゃんでもモテモテ間違いなしなんだから♪」
「あのなぁ……」
からかうような表情の少女の答えに少年は呆れて溜息を吐いた。
「……ダメ、かなあ?わたし、いつもお世話になってるお兄ちゃんにお礼がしたくて……。一生けんめい作ってるだけどな……」
「うぐっ……。カ、カワイイのとか派手なのじゃねえだろうな?」
少女の嘆願する表情を見た少年は言葉を詰まらせた後、尋ねた。
「えへへ、心配ご無用よ。お兄ちゃんにも似合うようなシンプルでカッコイイ形だから。お兄ちゃん、背が高いし、すっごく似合うと思うんだぁ。」
「あー、分かった分かった。せいぜい楽しみにしてるから頑張って造ってくれよな。」
嬉しそうにしている少女を見た少年は苦笑しながら言った。
「えへへ……うんっ!ね、アガットお兄ちゃん。」
「なんだ、ミーシャ?」
「いつもいつも、ありがとう。わたしのことを守ってくれて……」
少女――ミーシャが少年――アガットに笑顔を見せたその時、アガットは目覚めた。
~ラヴェンヌ村・アガット宅・夜~
「あ…………夢、か。ここは……」
目を覚ましたアガットは周囲を見渡した。
「……うん、こんなものかな。」
その時少女の声が聞こえた。
「ミーシャ……?」
アガットが声がした方を見ると
「アガットさん!?よかった……目を覚ましたんですね!?」
台所で料理を作っていた声の主――ティータが嬉しそうな表情でアガットに近づいて来た。
「チビスケ……」
「あのあの、身体の方はだいじょうぶですか……?」
「ああ、別になんとも―――痛ツっ……」
ティータに答えたアガットは体を起こそうとしたが、傷がうずいた為、顔を顰めた。
「ダ、ダメですよ~!おとなしく寝てなくちゃ。まだ傷がちゃんと塞がってないんですから!」
「ヘッ、このくらいのケガ、どうってこたぁねえっての。ほっときゃすぐに治るって……」
「ダ、ダメぇ!」
痛みを無視して起きあがろうとするアガットを見たティータは大声で叫び、両手を広げてアガットがベッドから出るのを止め、そして決意の表情で言った。
「わたし、お姉ちゃんと約束したんですからっ!アガットさんが良くなるまで絶対ベッドから出さないって!」
「お、おい……」
「う~っ……」
「わかった、わかったつーの。」
ティータの様子を見たアガットは諦めて、しぶしぶベッドに寝ころんだ。
「……ほっ…………」
アガットの様子を見たティータは安堵の溜息を吐いた。
「ったく……ムキになりやがって。そういや、もう夜なんだな。エステルたちはどうしたんだ?」
「えっと、お姉ちゃんたちは一旦ボースの街に戻りました。将軍さんとの約束があるらしくて。」
「将軍との約束だぁ?」
訳がわからない様子のアガットにティータはエステルからモルガンの考えが動いた事の伝言を伝えた。
「……なるほど、あのモルガンを動かしたか。それじゃあ、そろそろギルドに軍からの連絡が入ってる頃だな。よーし、さっそく俺も……」
ティータの話を聞いて頷いたアガットはベッドから起き上がろうとしたが
「……………………(じー)」
「……っと思ったが、さすがに今日は遅すぎるな。明日の朝にでもボースに戻るとしようぜ。」
ティータの睨みに諦めた。
「で、でも……」
「たっぷり寝たから体力もかなり戻ってきた。怪我もカスリ傷ばかりだから普通に動いてても勝手に治る。大丈夫、心配すんな。いざとなればそれこそエステル達に治癒魔術をかけてもらう。」
心配している様子のティータにアガットは問題ないことを言った。
「無理……してないですか?」
「あのなぁ、俺は遊撃士だぞ?結社だの竜だのを相手に無理できるほど図太くねぇよ。……これ以上、お前を危険な目に遭わせるわけにもいかねえしな。」
「え……」
アガットの言葉を聞いたティータは驚いて声を出した。
「ま、おせっかいなお目付役を怒らせる度胸はねえってことだ。素直に信用してくれや。」
「も、もう……アガットさんたら……。でも本当に元気そーな感じですね?」
アガットの話を聞いたティータは呆れた後、安心した様子でアガットを見た。
「だから言ってんだろーが。てめえの身体はてめえが一番分かってるんだっての。」
「えへへ……よかったぁ。…………あ………………」
アガットの説明を聞いたティータは安堵の溜息を吐いた後、急に泣きそうな表情になり、涙を流し始めた。
「なっ、なんだぁ!?」
ティータの様子を見たアガットは慌てた。
「えくっ……うくっ……」
「だ、だから本当に大丈夫だっての!女神に誓ってウソは吐いちゃいねえよ!」
泣き始めたティータを見たアガットは大慌てで言った。
「えくっ…………ち、ちがうんです……。ホッとしたら……わたし……胸が一杯になっちゃって……。うううっ……。うわあああああああん……!」
「あー……。ったく、仕方ねえなぁ」
大声で泣き出したティータを見たアガットは溜息を吐いた後、ベッドから出てティータの頭を撫でた。
「……悪い。色々と心配かけちまったな。1人で突っ走った挙句、勝ち目のないケンカをやらかして……。しまいにはお前にあんな無茶をさせちまうとはな。」
「……そうだよぉっ!アガットさんのバカぁっ!わたし……わたし……ホントに心配したんだからぁっ!」
頭を撫でているアガットにティータはしがみ付き、両手でアガットの胸をポカポカと叩いて泣きながら叫んだ。
「ああ、そうだな……。本当に……大馬鹿野郎だぜ。」
「うわあああああああん……!」
そしてティータは少しの間、アガットの胸の中で大声で泣き続けた……………
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第269話