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真・恋姫†無双 ~照烈異聞録~ 第三十三話 第二部最終話『前編』 「再会、そして好敵手との邂逅」

 どもーっす、不識庵です。今日はお昼から仕事なんですが、出勤前に照烈異聞録の続きを投稿しておきます。

 この話ですが、にじファンに載せていた三十三話と幕間其の五をミックスし、加筆修正した物です。段々慣れてくると、欲が出ちゃってついつい書き足してしまうんですよね~(苦笑

 あ、拙作にコメントしてくださったのにも関わらず、中々レスを返さず申し訳御座いません。今日帰宅したらチョボチョボレスを返しますので、どうかそれまでお待ち下さいませ。(汗

2012-08-04 10:01:28 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2004   閲覧ユーザー数:1503

――序――

 

 ――時を遡る事数ヶ月前、帝都雒陽。市場の一角に構えるとある屋台にて――

 

 

「ハイヨーッ! お客サン! 牛肉麺(ニュウロウミェン)一丁上がりネ! 冷めない内に食べるヨロシ! 」

 

「うっひょ~っ! イイ匂いッ! 」

 

 

 でっぷりと太った体格の陽気そうな主人が、客と思しき男に麺が入った丼を小気味良く置くと、そこからは食欲をそそられる良い匂いが強烈に漂っており、男は早速貪るようにそれを啜り始めた。

 

 

「あなたーっ、こちらのお客さんに排骨麺(パーコーミェン)を一つお願いっ! 」

 

「アイヨーッ! 」

 

 

 妻と思われる細身の美人が小気味良く言うと、主人は威勢良くそれに答えて、すぐさま次の料理を作り始める。一見すると、麺料理を提供する屋台を営むごく普通の夫婦であったが、実は二人には大きな秘密が隠されていたのだ。

 

 

「オ~ホッホッホッホ。繁盛してるようですねェ? 」

 

 

 雑踏の間を縫って一人の男が屋台に姿を現す。男は四十過ぎ位の中年で、背は高くなく恰幅のいい体格をしていた。それに付け加え、ニッと広げた口元からは白い歯を剥きだしにさせ、目は笑ってないが口元は笑っていると、実に不気味な表情だったのである。

 

 

「アイヤーッ! これはこれは東方センセ! もし良ければ、食べて行くヨロシ! センセならいつデモただヨー! 」

 

「まぁまぁ、東方先生。どうぞどうぞ、こちらに。大した物は出せませんが、今すぐに用意させますので 」

 

「これはこれは、それじゃお言葉に甘えさせてもらいますよ? 」

 

 

 彼の姿を見て、店主夫婦が恭しく拱手一礼すると共に席の用意をすると、彼等から『東方』と呼ばれた怪人物は『よっこらしょ』とそこに腰掛けた。

 

 

「東方センセ、今日はどうしたアルか? 」

 

 

 愛想ではなく、本心からの笑みを男に向けながら店主が料理を作っていると、男は人差し指を口元に当て何やらボソボソと呪文のような物を呟いている。そして、行き成りそれを前に突き出し、大声で叫んだ。

 

 

「ドーンッ!! 」

 

 

 すると、どうだろう。周りの景色が一気に白黒になったどころか、皆動きを止めていたのだ。それは男の隣で『牛肉麺』を啜っていた客も同様で、彼は麺を啜ったまま動きが止まっており、その際に跳ねた汁も空中で止まっていたのである。

 

 

「ちょっと、すみませんね? 聞かれては拙いお話だったので、一時的にですが私達以外の時を止めておきました 」

 

「アイヤー! 流石は東方先生だけアルヨー! 」

 

「ええっ、十数年前、私は東方先生に命を救って頂きましたが、あの時も凄いと思いましたわ? 」

 

 

 どうやら『東方』なる怪人物は『術』を使った様だ。この時、『色』を得ていたのは術を使った東方本人に店主夫婦の三人だけだったのである。術が発動されたのを確認し、『東方』は店主夫婦の顔をジッと見据えると、ゆったりとした口調で二人に話しかけた。

 

 

「さてと……本題に入りましょうか? 皇帝陛下、そして『王美人』…… 」

 

「「ッ!? 」」

 

 

 行き成り東方にそう言われ、二人の顔が瞬く間に強張ると、『東方』は笑い声を上げた。

 

 

「オ~ホッホッホッホ! まさか、皇帝である『劉宏』様と、『美人王氏』様がこんな所で屋台を引っ張って商売をしているとは、だぁ~れも思ってませんからねェ? 」

 

「やれやれ、東方先生は相変わらずでおられる。それで、お話とは? 」

 

「ええ、まさか私達の事が何后や中常侍にばれたとか? 」

 

 

 悪びれもしない東方の物言いに、『劉宏』、『王美人』とそれぞれ呼ばれた二人が表情を真剣な物に改めると、当の東方は表情を一つも変えずに言葉を続ける。

 

 

「いえいえ、それは大丈夫ですよ? 幾ら狡賢い彼等でも、欲に目が眩んでいますからね? ですから、物の真贋を見定める事など到底無理という物ですし、私の術は邪な心を持った人には見破れないようになっておりますからねえ? オ~ホッホッホッホッ! ええとですねぇ、お話ですが、ようやく見つかりましたよ? 皇女、いえ皇子でしたね? 協殿下を安心して預けられる人物が 」

 

「ええっ? そっ、それは真ですかな!? 」

 

「ああ、ようやくあの娘を悪意蠢く宮廷から救い出す事が叶うのですね? 」

 

 

 彼の言葉に、劉宏と王氏がそれぞれ喜びで顔を綻ばせ、互いに手を取り合って見せた。

 

 

「はい、何せ私は貴方達の味方の積りですからご安心して下さい。ですが……お二人とも、これで宜しかったのですかな? その気になれば私が本来あるべき所に戻して差し上げますよ? 」

 

 

 相変わらず口元だけに笑みを浮かべつつ、二人に尋ねる東方であったが、対する彼等は何れも儚げな笑みを浮かべる。

 

 

「東方先生、陽が俗物どもの手から逃れ、人として立派にやって行けるのならこれ以上望む事はありませんよ? それに、どうやら私は『皇帝』なんぞより、麺を売る屋台の親父の方が性分に合っていますしね? 」

 

「私も夫と同じです。死の淵から蘇ったとは言え、子を成せぬ体になってしまいましたが、こうやってこの人と苦労を分かち合う事で、今この時生きていると言う事を肌で実感しております。それに、私達には『漢の子』たる陽が居ります。あの子が居てくれるだけで、これ以上子を望もうとは思いません…… 」

 

 

 しみじみと語る二人の姿に納得したのか、東方は深く頷いて見せると、別の話題を彼等に振り始めた。

 

 

「判りました……後ですね、劉洪さん。都で貴方の身代わりをやらせていた者ですが、可也危険な状態に陥っております。元々、自堕落で不摂生な生活をし続けた所為で残りの命数を減らして居たのにも関わらず、何やら『余計な事』をしてくれた連中が居たようです。間違いないと思いますが、後一年も経たない内に彼は泰山に召される事になるでしょうね? 」

 

「なっ、それは……!? 」

 

「主人の代わりに『帝』になった人が、そんな状態になっていたのですか!? 」

 

 

 彼が振ってきたその話題に、二人は驚きの余りうろたえていると、東方は更に言葉を続ける。

 

 

「はい、真に残念ですが紛れも無い事実です。それ故、私は現在『彼』に化けて、何后や中常侍をのらりくらりとかわしております。それで――先程の『人物』の件ですが、どうなされますかな? 」

 

 

 言うと、彼は黒く染め上げた帽子の鍔を摘み、未だにうろたえた侭の二人をジッと見やった。

 

 

「こうなれば、一刻の猶予もなりません。東方先生、貴方に全てお任せいたします。どうか、陽をその人物に引き合わせて頂きたい 」

 

「あの子の正体がばれてしまえば、漢王朝は何一族と中常侍達の完全な私物と化してしまい、この中華に暗黒の時代が訪れてしまうでしょう。そうなる前にどうかどうか……陽をお救い下さいませっ! 」

 

 

 どうやら覚悟を決めたのか、二人は東方を真っ直ぐ見据えて強い口調でそれぞれの思いをぶつけると、東方は満足そうに頷く。

 

 

「オ~ホッホッホッホ! 判りました、それではこの東方曼倩(とうほうまんせん)。あなた方のご依頼をお受け致しましょう。では、そろそろ術を解きますね? 余り時間を永く止めていると、今度は私がお叱りを受けてしまいますので……ドーンッ!!! 」

 

 

 そう先程と同じく指を突きつけて東方が声高に叫ぶと、止まったままの時が一気に動き出し始める。静寂だったはずの空間に再び城下町の賑わいが飛び交うようになった。

 

 

「それでは、私はそろそろ失礼します? あなた達が覚悟を決めた以上、私はそれ相応に報いなければなりませんからねェ? オ~ホッホッホッホ! 」

 

 

 高笑いと共に悠然とした足取りでこの場を後にする東方であったが、そんな彼の背中目掛け劉洪と銀嶺の夫婦がそれぞれ呼びかける。

 

 

「アイヤー! とっ、東方センセ! 待て欲しいヨ! その『人物』の事だけど名前位教えて欲しいネー! 」

 

「そうです、せめてその人のお名前をお教え頂けない物でしょうか? 」

 

 

 二人の呼びかけが届いたのだろうか、東方はクルリと首を真後ろに向けると、左目をパチンと悪戯っぽく閉じてその人物の名を二人に告げた。

 

 

 

「はい、その人物ですが、劉備、字は玄徳と言います。まだ十七歳のお嬢さんだそうですが、中山靖王劉勝の末裔との事ですよ 」

 

「劉備……字は玄徳……劉玄徳か。その玄徳なる娘に、私達の陽を託すと言う訳なのですな? 」

 

「ああ、叶うのであれば、陽が玄徳なる娘と親しくなって欲しい…… 」

 

「オ~ホッホッホッホ! それでは今度こそ御機嫌よう。またお会い致しましょう! オ~ホッホッホッホ…… 」

 

 

 そう言うと、今度こそ東方は独特の笑い声と共に二人の前から去って行ったのである。それから数日後――劉協こと陽は劉備こと桃香と運命的な出会いを果たす事となる。そして、劉宏と王美人に一市井としての人生を与えた東方なる怪人物だが、彼は名を|朔《さく》と言い、嘗ては漢の武帝の時代に活躍していた。

 

 その当時から彼は奇行を好んでいたが、その一方では実に優れた見識を持って居た為、これらの両極端な特性を持った彼は周囲から神格化され、遂には下界に住まう神仙の一人として扱われる。現世を離れ、泰山の住人になった現在でも、時折何かしらの気まぐれを起こしていたのだ。

 

 現に、劉宏と王美人に変に肩入れしているのも、要は彼のホンの些細な気まぐれにしか過ぎなかったのである。

 

 

「そうだ、後で折を見て祭遵さんの様子でも見に行きましょうかねェ? 何せ、私が教えた術をあっと言う間に理解するほど飲み込みの良い人でしたからねェ? おおっ!? それなら、祭遵さんに取って置きのイタズラ……もとい、贈り物を差し上げちゃいましょうかねぇ? 何せ、アレほどの『美人』ですし、どうせならもっと持ち味を良くした方が良さそうですからねェ? オ~ホッホッホッホッホ! 」

 

 

 何か閃いたようだ。雑踏に紛れながら、東方は両目をぱちくりさせると、又しても不気味な笑い声を辺りに響かせたのである。姓は東方(とうほう)、名は(さく)、字は曼倩(まんせん)。泰山の住人になってからも、彼の奇行に留まりは無い。

 

 

――壱――

 

 

 桃香こと劉玄徳率いる劉家の面々が、青蓮こと孫文台の元を脱した時と同じ頃。帝都雒陽(らくよう)の宮殿にある劉宏の私室では、その劉宏本人から呼び出しを受け、中常侍筆頭の張譲が跪いていた。

 

 

「張譲にて御座りまする。主上に置かれましては、大変ご機嫌麗しゅう御座りまする 」

 

「うむ、張譲よ良くぞ参った。ささ、もそっと近う寄れ 」

 

「……っ!? 」

 

 

 いつもの様に、表向きだけへつらって見せる張譲であったが、それに対し劉宏は張りのある声で応じる。声だけでなく口調からして、いつもの物と違う事に気付き張譲が面を上げてみれば、劉宏の雰囲気は全く別人の様であった。

 

 

「いつもそちには世話を掛けるの? さっ、張譲は朕にとって父も同然なのじゃ。もっと楽にするが良いぞ? 」

 

「はっ、ははっ…… 」

 

 

 普段は酒精の臭いを常時絶やさぬ暗君劉宏であったが、今の彼は微塵も漂わせて居らず、色白の蟇蛙のようなだらしない顔もきりっと引き締まっている。いつもは目脂塗れの汚れた双眸だが、この時は強い意志の光が宿っており、不健康そうな肥満体からは覇気を漲らせていたのだ。

 

 

「みっ、帝……いつもより顔色が良さそうですが、一体どうなされたのですか? 」

 

「何を申して居るか? 朕はいつも通りじゃぞ? 」

 

「これはしたり、申し訳御座いませなんだ。どうやら、臣の思い違いの様にて御座りまする…… 」

 

 

 いつもの惰弱で暗愚な物とは全くかけ離れた彼の姿に、思わず口に出てしまう張譲であったが、当の劉宏は片眉を吊り上げて訝しげに見やると、思わず張譲はひれ伏す。今の劉宏は余りにも精力的であったからだ。そんな張譲に一瞥すると、劉宏は後手に手を組みながら窓の外の景色を見やり、おもむろに口を開き始める。

 

 

 

「張譲よ、聞くが良い。朕は決めたぞ 」

 

「は? 何をお決めになられたので御座りましょうや? 」

 

「昔、そちが申した通り、朕は弁を皇太女と決めた。故に、その弁が安心して次の帝座に就ける様、朕は協を何処ぞの王に封じようと思う。そしてのう、その協を封土に遣わす事により、次の帝は弁であるという事を改めて万民に知らしめるのじゃ 」

 

「なっ、何と! 陛下の御慧眼に、臣はいたく驚きましたぞ!? その協殿下で御座いますが、何処の王に封じるお積りで? 」

 

 

 予想外の劉宏の発言に、度肝を抜かれたかのような表情で目を白黒させる張譲であったが、自分に背を向けたままで劉宏は更に言葉を続けた。

 

 

「協の封地じゃが……候補は二つほど挙げておった。一つは現在曹操に治めさせておる陳留、そしてもう一つは……偉大なる世祖の故郷である南陽じゃ 」

 

「陳留と南陽……その理由をお聞かせ下さいませ 」

 

「うむ、その理由じゃが、陳留は曹操の素晴らしい手腕により、兗州で一番栄えてる所だと聞かされておるし、臣下の方も実に切れ者揃いと聞く。そこなら協を安心して預けられると思うたのじゃ。南陽は……先程も申したが、あそこは世祖の生まれ故郷じゃ。何やら、協は世祖と瓜二つの容貌をしていると諫議大夫(馬日磾(ばじつてい)の事)が申しているのを覚えていたのでな? 故に、世祖に瓜二つの協をそこの王に封ずれば、泰山におわす世祖も大変お喜びになろうと思うのじゃ 」

 

「成る程……真に無礼ではありますが、それらの内どちらに封じられるお積りで? 」

 

 

 激しく動揺する心を抑え、張譲が尋ねてくると、劉宏は首だけを後ろに向けて言い放つ。

 

 

「うむ……それについては散々考えあぐねたのじゃが、朕は南陽にしたい。諫議大夫の話では、何やら南陽は黄巾どもが暴れたり、他にも袁術が少々無理をしたそうで、可也荒らされたと聞かされておるしの? 故に、世祖の生き写しである協をそこに封じ、南陽の民草に安らぎを与えたいのじゃ 」

 

「……陛下の四海より深き慈愛のお心に、協殿下と南陽の民草は大いに歓喜して涙しましょう……それでは、殿下をお支えする相を決めねばなりませぬと 」

 

 

 その張譲の言葉を待っていたかのように、劉宏は体ごと向き直ると、彼は力強い口調で張譲に命じ始めた。

 

 

「皇子たる協を支える者じゃ、故に朕が決める。実はの、候補に上げておる者は一人居るのじゃ。朕と同じ『劉』の姓を持ち、私心無く漢に忠節を尽くす者が居たと、諫議大夫を通じて盧植から聞かされての? やがて盧植がその者を雒陽に連れて来よう。故に、朕はその者に直接会うて見たいのじゃ 」

 

「……それは何者ですかな? 」

 

「盧植と同郷で、且つそれの愛弟子との事じゃ。何でも、中山靖王劉勝を祖に持ち、まだ十七歳の娘と聞かされておる。名は劉備、字を玄徳と申すそうじゃ。盧植の言に寄れば、劉備なる者は愛国の心に溢れており、また弱き者に手を差し伸べ、強き者に対しては果敢に立ち向かい、正に智勇徳を兼ね備えた者らしい。あの盧植にそこまで評された娘であれば、協を彼の者に預け、行く行くは立派な王に育てて欲しいと思うのじゃ 」

 

「な、何と……然し、その劉備なる者の事ですが、かの中山靖王の末裔とは名ばかりではないかと? 恐らく劉姓を語りし単なる無位無官の田舎者なのでは? 臣と致しましては賛成致しかねまする。ここは、臣にお任せ頂きたく…… 」

 

(なっ、何を言ってるのだこの蟇蛙はっ!? 行き成りそんな事を言われて納得できる訳も無いだろうに! 業突く張りなとこだけは母親似の癖に、頭の方は似なかった阿呆の弁に比べ、協は母親譲りの聡明さを持っているんだぞっ! そんな協に切れ者の側近を宛がってみろ! 忽ち弁の声望は地に落ち、再度協を次の帝にしろと言う声が、殊更(ことさら)大きくなるだけじゃないかっ!? この蟇蛙、まさか漢の国、いや僕達十常侍を滅茶苦茶にする腹積もりなのかっ? )

 

 

 劉備、即ち桃香の事を熱く語る劉宏の姿に、張譲は只々圧倒されるばかりである。然し、張譲としても劉協の傍に優れた人物を置き、変に力を付けさせられたら厄介である。下手をすれば、今度は自分達の立場が危うくなりかねないからだ。

 

 

「フフッ、矢張りな? そう申すと思うておったぞ? 」

 

「なっ!? 」

 

 

 恐らく、張譲の発言を予想していたのだろう。余裕めいた笑みを浮かべ、劉宏は張譲の顔に人差し指を突きつけると声高に叫ぶ。

 

 

『ドーン!!! 』

 

『うっ、うわああああああああああああああああああああっ!! 』

 

 

 その叫び声は、普段の妙に甲高い物とは全くの正反対で、まるで泰山地獄の支配者たる東嶽大帝の叫びともとれるほど低く響く物であった。それをまともに浴び、驚いた勢いで倒れこんでしまった張譲であったが、この時彼は虚ろな目で呆然としていたのである。

 

 

「オ~ホッホッホッホ! 流石は十常侍筆頭と言われただけはありますねェ~! 自分達の利益にならない事には頑として首を縦に振らないとは、ある意味尊敬してしまいますよ? さて、それでは早速お仕事に取り掛からないと行けませんねえ? 先ずは、依頼通りこの人には私の言う事を聞いて貰うとしますか? 」

 

 

 としたり顔で意地悪く笑みを浮かべる劉宏。何故か、この時彼の声や喋り口調は全くの別人と言える物であった。そして、『劉宏らしき男』は倒れた張譲の耳元で何か囁き始めると、呆然としたままの彼はそれに黙って頷く事しか出来なかったのである。そして――

 

 

「では、張譲よ。早速朕の申した通りにするのじゃぞ、良いな? 後、南郡の劉表から報せがあっての? 何でも、南陽を任せていた袁術めが可也税を掛けていたそうじゃ。故に、彼奴からは『取り過ぎた物』を全て清算(・・・・)させよと申し伝えておけ。もし、命に従わなくば朕の名により官職剥奪の上厳罰に処すると良しなに伝えておくのじゃぞ? 」

 

「ははっ、御意にて御座いまする…… 」

 

 

 と、いつも通りの口調で『劉宏らしき男』に言われ、正気を取り戻した張譲であったが、彼は何事も無かったかのように場を後にする。そして、早速その日の内に張譲経由で劉宏の勅令が伝えられると、直ぐに皇子協は劉宏の御前に召し出され、父の口から直接勅令を言い渡された。

 

 

「協よ、そちを本日より南陽王に封ずる。そちを補佐する相は朕自ら決める故に安心するが良い。相が決まるまでの間、そちは出立の準備をしておくのじゃ。全てが整い次第、そちは相を伴い封地へ赴くのじゃぞ? 」

 

「御意にて御座います。王に封じて頂けるとは、協はまこと果報者にて御座います。ならば、協は王として南陽より主上と皇太女殿下をお支えしたく存じます 」

 

「うむ、流石は協じゃ。立派な返事じゃの? 泰山におわすそちの母上も大層喜んであろうよ? 」

 

「はい、泰山におわす母上の為、協は一日も早く立派な王になりますっ! 」

 

 

 溌剌とした返事を返す皇子協の姿に、三公を始めとした他の朝臣達は目を細めて、何度も満足げに頷く。然し、これを面白くなさげに見る連中が居たのだ。

 

 

「チッ! 妾が次の帝だと言うのに、たかが妾腹の子に過ぎぬ協が王に封じられた程度で、何故ここまでチヤホヤされねばならぬのじゃ!? 面白くない!! 」

 

「弁、気持ちは判るが言葉を慎むのじゃ。安心するがええ、次の帝はそなたを置いて他に居らぬ。帝は協を王に封じたが、アレは事実上の都からの追放じゃからの? 故に、今は我慢するのじゃ。それに……少しは言葉を慎むが良い。帝の耳にでも入れば、そなただけでなく妾の立場も危うくなるでな? 」

 

「うっ……判りました、母上…… 」

 

 

 協よりやや年上と思われる娘が、舌打ちと共に毒吐いてると、それを彼女の隣に居た母らしき女に諌められ、『弁』と呼ばれた娘はばつが悪そうに顔を顰める。

 

 この『弁』であるが、協の異母姉にして、皇太女たる劉弁でこの時齢十五。母何后や伯母何進譲りのくすんだ銀髪と、きつい顔立ちの持ち主である。黙って見ていれば、弁は『美少女』の部類に入るやも知れないが、彼女の場合生まれ持った性分が災いし、何一つ魅力的な物を持ち合わせていなかったのだ。

 

 母や伯母と同じく、我欲と自己顕示欲の塊で、おまけに選民思想甚だしく浅慮である。母何后とOBAKA進、もとい伯母何進は狡知に長けていたが、弁はまことにOBAKAであった。次の皇位継承者と目されていたものの、伯母や母だけでなく、『あの』劉宏や十常侍からも不安材料にされていたのである。

 

 

「全く……協の事を面白くないと申すのなら、協を貶める為の策の一つでも練れば良い物を……真に嘆かわしい事じゃ 」

 

 

 一方、弁に釘を刺したこの年齢不詳でいかにも『毒婦』と言った女だが、彼女こそが劉宏の后の『何后』その人で、実家は南陽で屠殺を営んでおり、下賎の出自であった。然し、何后は同郷の宦官で後に中常侍の一人に任命される|郭勝《かくしょう》に多額の賄賂を贈呈すると、彼の伝手を頼りに後宮入りする事となる。

 

 抜け抜けと後宮に入った何后は、生まれ持った美貌と『寝技』を巧みに用いて元々骨が抜けていた劉宏を更に『骨抜き』にしてしまうと、彼の寵愛を受ける様になった。そして、時を同じくし、当時劉宏の后であった宋氏が|王甫《おうほ》なる宦官の讒言により寵を失い廃后とされて自害させられると、すぐさま何后は次の皇后に立てられたのである。

 

 激しい気性の持ち主であった為、何后は後宮の和を度々乱していた。だが、彼女は持ち前の狡知を巧みに使い、一旦寵愛が傾き協を産んだ美人王氏を毒殺し、時には寵愛を受けていた別の女官を血祭りに挙げその肉を料理にしたりと邪魔な存在を次から次へと闇へ葬り去り、大漢の后としての現在の地位を確固たる物にしたのである。

 

 

「まぁ、良い。どの道、次の世は弁の世。即ち、我等何一族の世なのじゃ。協に手を下すとしても、弁が次の帝になってからでも遅くはあるまい? 寧ろ、その間我等に靡く者達を増やせば良いのじゃからな? 今はこの哀れな協に少しばかりの幸せな夢を見せてやるのも一興じゃのう? フフフフフフフ…… 」

 

「はい、母上様。それにしても……弁は帝座に着くのが待ち遠しく思います。出来れば……父上に於かれては、一日も早く|身罷って《みまかって》欲しい物です 」

 

「これ、斯様な事を申すでなかろうに! 良いか、今の言葉は聞かなかった事にしておくぞ? その発言、正に協を皇太子にする口実を与えるような物じゃからなっ!? 」

 

「も、申し訳ありません、母上…… 」

 

 

 思慮の足らない弁の発言に、何后が眉を吊り上げ叱責すると、弁はシュンと黙り込んでしまった。この浅はかな娘に、何后は心中穏やかならざる物を感じる。

 

 

(ほんに……弁は思慮が足らな過ぎるわ。顔や姿形は妾に似て居るが、どうやらおつむの方はあの蟇蛙に似たと見る。弁の存在が、我等何一族の繁栄に影を落とさねば良いのじゃがのう…… )

 

 

 この時何后が抱いた不安は、後日ほぼ的中する事となり、それどころか弁と協の姉妹は全く正反対の人生を歩む事となってしまった。片や『野心家の手により傀儡と化した暗君』、片や『良き忠臣を得た明君』として――

 

 

(若しかして……これって、僕が半年前に見た『夢のお告げ』が起こる前兆なのかな? だとすれば、劉玄徳なる者に逢えるんじゃないんだろうか? ああ、早く劉玄徳に逢いたい…… ) 

 

 満面の笑みと共に、父に対し拱手行礼を行う劉協は字を伯和(はくわ)、真名を『陽』と言いこの時十三歳。彼女と桃香が運命的な出会いを果たすその時まで、後少しと迫っていた。然し、その一方で――

 

 

「なっ、なななななななっ!? これまでの南陽に於ける過剰徴税額として五百万銭(約十五億円)を全て返還せよとなっ!? こっ、これは何かの間違いじゃーッ!! 」

 

「え~~~っ!? 美羽様が不当に税を課したなんて、言いがかりですよー! ぶーぶー!! 」

 

「勅命であーるっ! これでも帝はそなた達に寛大なご慈悲を賜ったのだ。若し出来ぬのであれば、そなた達は帝の御名のもと死を賜るであろう。返すのか、それとも返さぬのかあっ!? 」

 

「う、う~~!! 判ったのじゃ、返せばよいのであろ!? 七乃ーっ!! この使者殿に我が家の金蔵から百万銭(約三億円)出して渡すのじゃーっ!! 」

 

「五百万銭であーるっ! 卿は百万と五百万の聞き分けも出来ぬのかっ!? 」

 

「う゛っ……ごっ、五百万銭じゃーっ!! 早う、早う出すのじゃーっ!! 」

 

「あ~ん、流石は美羽様。意外に賢明な判断を下すなんて、単なる『オバカ』じゃなかったんですねー♪ よっ、憎いよ。この自称『汝南袁氏』の跡取り娘ー♪ でもぉ、ウチの蓄えは精々百五十万ですよー? 不足分はどうするんですかー? 」

 

「う~~っ!! 背に腹は変えられぬッ! かくなる上は父様に何とかしてもらうのじゃーっ!! 何で、何で妾が斯様な目に遭わねばならぬのじゃーッ!! 」

 

 

 と、悲鳴を上げ癇癪(かんしゃく)を起こす美羽に相変わらずの七乃。結局、自業自得とは言えども、美羽はこれまで不当に搾取した分を全て返還させられる羽目となったのだが、自分の所にそれほどの蓄えが残っておらず、結局実家に泣きついて何とかしてもらったのだ。

 

 返還されたそれは全て陽の手に渡るのだが、彼女はそれを全て荒れ果てた封土の再建や民衆の救済に使う様命じ、その結果南陽の民衆はこの新王たる陽をこぞって支持する様になったのである。

 

 また、それとは逆に美羽は資金難に陥ってしまった。無論、厳格な父の息が掛かった者が新たな家臣に組み込まれていたので、それを補う為の重税を掛ける事も叶わず、贅沢は愚か軍備を整える事や任地の開発も侭ならぬ状況が当面続く事となってしまったのである。

 

 これらの結果、美羽は汝南の民衆から口悪く噂されると、只でさえ低かった声望を余計落とす事となってしまったのだ。分不相応の贅沢の代価を支払わされた美羽は名を貶め、一方の不当搾取分を返還された陽は名声を高める。これは正に皮肉以外の何物でもなかろう。

 

 

――弐――

 

 

「桃香ちゃあ~~んっ!! 」

 

「え?」

 

 

 さて、それと同時刻。桃香こと劉玄徳とその仲間達が虎口を脱し、自分達の陣に戻ったその時、一人の少女が駆け込んでくる。それは桃香の従妹にして、『樊県義勇軍』の総大将である奏香こと劉徳然であった。

 

 奏香の方としては、とても逢いたかった従姉の姿を目の当たりにし、感激の余り自分より遥かに大きい桃香の胸に飛び込むと、捲くし立てる様に大声で叫ぶ。

 

 

「桃香ちゃん、本当にお久しぶりだよね? 私、とっても会いたかったんだよ~! 」

 

「へ? え、えーと……どちら様かな? どうやら私の真名を知ってるようだけど……? 」

 

「えぇ~っ!? 全然覚えてないの? ホラ、私だよ~従妹の奏香だってばぁ~! 」

 

 

 最初、自分の胸に飛び込んできた少女が何処の誰かは桃香には判らなかった。然し、奏香が自分の真名を言うと、直ぐに桃香は自分より一つ年下の従妹の事を思い出す。思いも寄らぬ懐かしい顔に、桃香は相好を崩して見せると、強く奏香を抱き返して彼女の顔をじっと見詰めた。

 

 

「奏香、奏香……ああ~っ! 若しかして元起叔父さんとこの徳然ちゃんっ!? きゃ~っ! お久し振り~! 確か……五年振りだよね? 長沙の叔母さん夫婦に養子に引き取られたのが、それ位前だったし……それにしても、奏香ちゃん昔っから可愛らしかったけど、もっと可愛らしくなったよね? それと、その長沙の叔母さんの事だけど……お弔いに行けなくってゴメンネ? 」

 

「ううんっ……しょうがないよ。叔母さん夫婦だけど、夫婦揃って事故に遭っちゃったんだもの……。でもね、今は新しいお父さんと仲良くやってるし、大切なお友達も出来たんだからっ! 」

 

「そっか……積もる話もあると思うし、私も皆を紹介したいからゆっくりお話しようか? あ、白蓮ちゃんに陽春老師も居るから、後で会わせて上げるね? 」

 

「うんっ! 私の方もね、桃香ちゃんに会わせたい人達がいるのっ! 」

 

 

 優しい『姉』の顔で桃香がそう言うと、奏香は嬉し涙を流しながら満面の笑みで頷いてみせる。それは、まるで甘える『妹』の様であった。

 

 

「はぁ~流石に桃香の従妹だけあるな? 物凄く元気な娘じゃないか。そう言えば、一つ年下の従妹が居るって桃香が前に言ってたっけ? 」

 

「そう言えば、あの娘……確か劉徳然と名乗っていたわ。何でも、荊州南郡は樊県の県令の養女で、そこから義勇軍を率いて母様に協力していたのよ。先日彼女と少し話をしたから、顔は覚えていたの。でも、まさか彼女が桃香の従妹だったなんてね? フフッ、世間って広いようで案外狭いものよね? 」

 

「ああ、確かに同感だな? 」

 

 

 と一刀と蓮華。この時の二人は青蓮の陣を脱した時のままであったので、一刀は上半身を肌蹴た白帷子姿だったし、蓮華の方は丸裸の上に黒く染め上げた戦袍を纏っただけの悩ましい姿である。おまけに、蓮華は一刀に『お姫様抱っこ』で抱きかかえられたままであったのだ。

 

 微笑ましげに桃香と奏香を見やる一刀と蓮華であったが、今度は別の方から声が上がる。二人が声のする方を見てみれば、そこでは一人の少年が、愛紗と鈴々に駆け寄っていたのだ。この時の雄雲は鎧兜に身を包んでおり、意外と太い右手には青龍偃月刀を携えていて、何処か義雲の出で立ちに似通っていたのである。

 

 

 

「愛紗ーっ! 鈴々ーっ!! 」

 

「んんっ? 雄雲ではないかっ!? 何でここに? それに、その出で立ちは……? 」

 

「おおーっ! 雄雲なのだー! うにゃ? どうしたのだ雄雲ー? 何だか義雲のおっちゃんみたいな格好してるのだー? 」

 

「ヘヘッ、まっ、話せば長くなるんだけどさ。取り敢えずはお守りで来たって感じかな? ところでさ、鈴々。義雲って誰なんだよ? 」

 

「鈴々っ、雄雲はまだ仲拡二哥(アルクォ)の事を存じてないのだ。迂闊に真名を声高に言うでないっ! 」

 

「うにゃ~ゴメンなのだ…… 」

 

「あはは、相変わらず鈴々は抜けてるよな? あ、もしかして、二人は誰かと義兄弟の契りでも交わしたのか? 」

 

「ああっ、こちらも話せば長くなる。後でじっくり話そう…… 」

 

 

 

 愛紗と話す雄雲の顔は心底嬉しそうであったし、愛紗の方もまるで弟と接するかの様に良い笑顔を浮かべていて、鈴々もいつもと違った雰囲気を見せていた。また、それと同時に朱里と雛里、そして成り行き上創宝と共にここに居る優里の三人も、予州で生き別れになった|風雷《ふぉんれい》こと姜伯約と|菊里《じゅり》こと徐元直との再会を果たしていたのである。

 

 

「朱里ッ! それに雛里もッ! 二人とも本当に、本当に無事で良かった~~っ!! 」

 

「朱里、雛里……どうやら無事だった様だな? こうしてお前達と再会出来て、ようやく俺達も人心地つく事が出来そうだ…… 」

 

風雷(ふぉんれい)兄さんに菊里(じゅり)姉さんっ!! うっ、ううっ…… 」

 

「風雷兄さん、菊里姉さん……ふっ、ふえっ…… 」

 

「風雷師兄(シーション)、菊里師姐(シーチェ)……私も居るのですが? 」

 

「え? 優里、優里も何でここに居るの? 確か、奉公の為長沙に行っていたと思ったんだけど……? 」

 

「済まない、優里。俺も菊里もキチンとお前の姿を見ていなかった。……ところでだが、優里。何でそんな格好をしている? 」

 

「師兄……余りにも馬鹿馬鹿しい理由がありまして、今はこれっぽっちも喋る気になれません。どうか悪しからずご了承下さい 」

 

 

 涙を流し、菊里と抱き合いながら互いの再会を喜ぶ朱里と雛里に対し、彼女等から一歩引いて焦燥し切った表情の優里。彼女の場合、OBAKAな主人に振り回されただけでなく、将来の仕官先まで失ってしまったのだ。こんな状態の彼女に、再会を懐かしむ余裕など無いのは一目瞭然という物である。

 

 

「懐かしい人達との久し振りの再会か……良いもんだなぁ 」

 

「ええっ、そうね? 正直桃香や朱里たちがチョッと羨ましいわ 」

 

 

 再会を懐かしむ者達の姿を目にし、思わず目を細める一刀と蓮華であったが、ふと一刀の脳裏に先日遭遇した悪友及川の顔と、その彼の台詞が鮮明に蘇ってくる。

 

 

『……なぁ、かずピー。ワイは目覚めたんや。『ホンマモンの天の御遣い』なって、予言通りにこの世を再び安寧に導いたるってなぁ!? 』

 

(参ったな、こんな時にアイツ(及川)の顔思い出すなんて……懐かしい顔との再会は、決して良い事ばかりではないか? 俺に限った事じゃないと思うが、ある意味皮肉だな? )

 

「一刀……どうかしたの? 」

 

 

 嘗ての悪友だった頃の面影は無く、胸中に激しい野心の炎を燃やす今の彼の姿に、一刀は顔を顰めると忌々しげにかぶりを振った。そんな一刀を目の当たりにし、彼の腕の中の蓮華が不安そうに覗き込んでくる。

 

 

「ッ!? いっ、いやっ、何でもない、何でもないんだ……。今頃になって、君の母様に睨まれた事でビビってしまっただけだからさ……ハハハッ、なっさけねぇ~のぉ~! 」

 

「……そう、判ったわ。ねぇ一刀、もし辛い事があったら何でも言って。桃香だけじゃない、私も貴方の心の支えになりたいの…… 」

 

「有難う、蓮華…… 」

 

(ゴメン、蓮華。俺達の所為でお母さんや実家と訣別してしまったのに、君はこんな俺をいつも気遣ってくれている。本当に有難う。だけど、今アイツの事を君に話す訳には行かないんだ……本当にゴメン…… )

 

 

 行き成り蓮華に顔を近付けられ、一刀は一気に現実に引き戻されると、咄嗟に思いついた言い訳を言うと、自虐的に乾いた笑い声を上げた。然し、蓮華はそんな彼を優しく包みこむかの様に、柔らかく微笑んでみせる。

 

 一刀にとって、彼女の気遣いはとても有り難い物であった。況してや、自分達の影響で蓮華だけでなく、一部の孫家の人間をこちら側に巻き込んでしまったと言うのに、蓮華はそれを億尾にも出していない。嬉しく思う反面、本当の事を話せない罪悪感が一刀を激しく苛んだ。

 

 

「お~いっ、北の字や~いっ! 」

 

「ッ!? 兄上ッ!? 」

 

「お義兄様? 」

 

 

 とある方から一刀を呼ぶ声が聞こえて来る。抱きかかえた蓮華ごと一刀が声のする方に目を向ければ、自分達と同じく緋色の長衣に包んだ雪蓮を抱きかかえた一心の姿があった。何時もの如く、人懐っこい笑みを浮かべる兄の顔に、一刀は自分の心を苛んでいた物が一気に掻き消されるかの様な感覚を覚える。

 

 

「なぁ、北の字よぉ~! 辛気臭ェ顔すんのは良いが、今のおめぇさん、顔と体が全くの真逆だぜ? クククククッ……! 」

 

「プッ、ククッ……そうね、私も『こんな真似』する男始めてみたわよ? 一刀って、ある意味一心より『器用』よね? 」

 

「えっ? 」

 

「一刀、何かしてるの? 」

 

「いっ、いやっ、俺は特別何もしてないが? 」

 

 

 彼の姿に何か可笑しい物があったのだろうか。一心だけでなく、彼に抱きかかえられた雪蓮までもが笑いを噛み殺しているのが窺える。一方の一刀であったが、何が可笑しいのか全然理解できずにうろたえていると、蓮華も怪訝そうに彼を窺ってきた。

 

 

「なぁ、北の字君。ちょっといいかね? 」

 

「喜楽老師? 」

 

 

 今度は別のとある方から喜楽が歩み寄ってくる。彼はわざとらしく咳払いを一つすると、苦笑交じりで一刀に指摘した。

 

 

「まぁ、確かに君はまだ若いし、今の蓮華ちゃんの格好が艶かしく、そんな蓮華ちゃんを抱きかかえてるのは判る。だけどさ……己が『泰山』を思いっきり、それも『モロ見え』で勃たせたまんまってのはどうかと思うんだがねェ? それに自陣に戻って来たんだし、いい加減着替えた方が良いと思うな? どうせならそのついでで、一回『ソレ(・・)』を落ち着かせてくる事をオススメするぜ? いやぁ~、まさか陣中に於いて己が一物をモロ出しで滾らせる奴なんて、生まれてこの方初めて見たよ? 」

 

「はい? ……んなあっ!? なっ、なんじゃこりゃあああああああっ!? 」

 

「えっ、えええ~~っ!! ちょっとヤダァ! 一刀ってば、一体ナニを考えてるのよっ!? 」

 

 

 喜楽に指摘され、抱きかかえた蓮華を落とさぬ様そっと持ち上げ、首をゆっくり下の方に向けてみれば、何とそこには一刀のご立派な『泰山』が雄々しい姿を曝け出している。オマケに、褌からはみ出ており、モロ『丸見え状態』であったのだ。

 

 確かに思い当たる節はある。無我夢中の状況だったとは言え、自分は常時ほぼ丸裸同然の蓮華を抱きかかえたままであったし、ちょっと顔を傾ければ戦袍越しで彼女の魅惑的な体型をじっくり見る事が出来たからだ。頭の中でアレコレと悩んでいた彼ではあったものの、常時そんな蓮華に中てられていた訳だから、体の方はある意味『正直』だったと言えよう。

 

 皆が見ている前で、己が泰山を曝け出してしまった物だから、当然一刀は某刑事ドラマに登場した人物で、殉職した刑事の如く絶叫するしかなく、蓮華の方も顔を真っ赤にして彼を責め立てる。この彼等の姿は、一心達だけでなく桃香や朱里など再会を懐かしんでいた者達からも見られる羽目になってしまった。

 

 

「かっ、一刀さんっ!? まっ、まだ夜にもなってないんだけど? 幾ら何でも『急かし過ぎ』だよっ!? 」

 

「ゆっ、雄雲ちゃん! アレってまさか『男の人』の物なの? それも凄く大きいし……まさか雄雲ちゃんもアレくらいになるの!? あれ? 雄雲ちゃん。どうしたの? 」

 

「……ゴメン、奏香。今は何も聞かないでくれ……あのデカイ奴のは『論外』だから……クウッ、何だか男としてある意味負けた!! 」

 

「は、はわわわわわわ~~っ!! ほ、本に描いてあった通りだよね、雛里ちゃん? 」

 

「あっ、あわわわわわわっ!! うっ、うんっ。若しかすると、本に描いてあった絵より大きいかもしれないよ、朱里ちゃん? それに、菊里姉さんも顔を隠しつつ、指の隙間からしっかりと眺めてるよ? 」

 

「なっ、何なのこの人ッ!? とっ、年頃の乙女の前でそんなモノ曝け出さないでよっ!! ウウッ、でもついチラチラと見ちゃう自分が嫌になる…… 」

 

「やっ、矢張り仲謀様を喰っただけはあるっ! 何て卑しいモノを曝け出しているんだっ!? この『下劣野郎』には節操が無いのかっ!? 」

 

「おおっ! これは何と見事な一物ッ! 流石は仲謀姫と契っただけの事はあるッ! 仲郷殿が泰山なら、拙者のは小さな盛土にしか過ぎぬでは無いかっ!? オマケに、拙者のは少々皮が余っているし……同じ漢としてこれほど惨めな気持ちはないっ!! 」

 

「あれが、先程朱里が話していた劉仲郷か……この男、出来るッ!! 」

 

「かっ、一刀様……その真昼間から、斯様な『モノ』を曝け出すのはどうかと思うのですが……それも、蓮華殿相手に……ッ!! 」

 

「うにゃ~、流石は一刀お兄ちゃん。真昼間も元気で大変よろしいのだー! 」

 

「おっ、おいっ一刀!! 真昼間から一体『ナニ』考えてんだよっ!! 頼むから堂々と曝け出さないでくれよ~~! 」

 

「ほほう……流石は我等が『種馬』の一刀殿だけある。斯様な状況にも関わらず、まさか頭の片隅で女とまぐわう(・・・・)事を考えていたとはな? ……かくなる上は今宵も抱いてもらうしかなさそうだな? フフッ 」

 

「あらあらまぁまぁ、流石は義雲様の義弟だけありますわね? 『そちら』の方も義雲様に引けを取りませんわ。ウフフフフフフフフ…… 」

 

「むうっ……紫苑よ、その様な事声高に申す物ではないぞ? 」

 

「流石は北の字だな、やっぱオメェの性欲はけだもの並みだぜ! いやぁ~この俺様も恐れ入るな!? 」

 

 と様々な人たちから奇異の目で見られ、続くようにドッと笑い声が辺りを包むと、一刀もそうだが蓮華の方も恥ずかしさで顔を俯かせる事しか出来ない。そして――

 

 

「うっ、うわあああああああああああああああああっ!! 」

 

「いっ、いやあああああああああああああああああっ!! 」

 

「おーい、北の字に蓮華ちゃん! 落ち着くまで、少し『休んで』こいよー! だあっはっはっはっは! 」

 

「蓮華ーっ! 貴女も一刀の嫁候補の一人なんだから、一刀の『ソレ』をキチンと『処理』してあげるのよー? ププッ……もう駄目、我慢できない! アハハハハハッ! かっ、一刀って、伝説作りそうね? 」

 

 

 哀れ、他の面々の笑い声を背に受け、彼等は叫びと共に一目散にこの場から駆け出す事が今の精一杯だったのだ。この後直ぐに蓮華個人の天幕に駆け込んだ二人であったが、二人が気を落ち着かせ、そこから外に出てくるまで一刻(約二時間)を要したのである。

 

 

――う……ん……はあっ……―

 

――はぁはぁ……ぜぃぜぃ……れっ、蓮華。もっ、もうこの位でカンベン……――

 

――駄目よ、一刀……あと三回はしないと、またさっきみたいに飛び出ちゃうわよ? フフッ……――

 

――あっ、あと三回ッ!? フッ、フルマラソンよりきつかっ……――

 

 

 その間、何故か妙にくぐもった声とかが微かに外に聞こえてきたが、この二人が『ナニ』をしていたのかは割愛しておこう。この後、着替え直した蓮華の顔は妙に肌艶が良く、逆に一刀の方は何やら古ぼけた漬物の様に萎びた顔になっていたのだが、これは余談である。

 

 

――三――

 

 

「ふぅ~~! あ~今日は色々あったなぁ~! 蓮華ちゃんのお母さんの事とか、数年振りに逢った奏香ちゃん達に、朱里ちゃん達の方も兄弟子さん達と再会できたしね? 」

 

 

 あの後、落ち着いて戻ってきた一刀と蓮華を交え、奏香や風雷達だけでなく雪蓮の家来になると宣言した創宝と優里も交えて歓迎の宴が催された。創宝と優里は、自分等の新たな主公たる雪蓮に対し拱手行礼で跪くと、改めて彼女と主従の関係を結ぶ。

 

 

『伯符様! この朱義封、伯符様のお志に打たれました! ひいては、伯符様のお力になるべく、粉骨砕身お仕えする所存ッ! また、こちらの拙者の従者たる諸葛子瑜も拙者と同様思う存分こき使って下さいませ! 』

 

『ううっ、何でこうなっちゃったんだろ? 長沙を出立する前、奥様からお給金の賃上げを言い渡されたから、これからも頑張るぞーって思っていた矢先だったのに……若の馬鹿…… 』

 

『フフッ、そうね。でも、まだ貴方にはまだ力が足り無さそうに思えるわ。ねぇ、義封。貴方には私の側近で親友たる太史子義や、この義勇軍の人達にお願いしておくから、当面彼等の下で研鑽を積みなさい? 諸葛子瑜、貴女の方もよ? この義勇軍の人達は凄いわよ? 天下に名高き『幽州の三賢人』や凄腕の豪傑が沢山居るんだから! 』

 

『はっ! この朱義封! 『長沙一の勇者』足るべく、更に精進いたす所存! 』

 

『はい、思わぬ形で『幽州の三賢人』に鞭撻を賜る事が出来ました。今更ながら妹に負けたくないと言う気持ちも出て来ましたので、もっと精進致します……私のお給金…… 』

 

(う~ん、義封の方は兎も角、アレに巻き込まれた子瑜の方はとても不憫よね? これは、陽春様と菖蒲様に『口利き』を頼んだ方がいいかしら? )

 

 

 只、勢い任せで雪蓮に付いて来た創宝に対し、優里は完全な『巻き込まれ』である。青蓮から独立した形で『孫家の当主』となった雪蓮は、彼等の事を慮ると、陽春こと盧植に菖蒲こと鄒靖にこの二人にも心を砕く様頼み込んだ。

 

 そこで、学者として著名な陽春こと盧植と、中央の武人として名高い菖蒲こと鄒靖は、二人の連名で長沙の朱治こと海棠(はいたん)宛てに『当面自分等の預かりとする故、どうかご心配無き様に』との文をしたためて送ったのである。また、それに添えられた雪蓮直筆の文を読むと、海棠(はいたん)は大層喜び、今にも空を飛ぶが如き勢いであった。

 

 

『嗚呼ッ! 雪蓮様が真面目にお努めを果たしておられるわっ!! あのバカ息子が、優里を道連れに雪蓮様達と共に青蓮様の元を去ったと聞かされ、死んで詫び様と思ったけど、今はそんな事はどうでも良いわ! 『あの』雪蓮様が、当主としての自覚を持ってこの文を送ってくれただけでも大収穫と言う物だし、あのバカ息子と可愛くて賢い優里が『幽州の三賢人』の下で研鑽を積もうとは……ッ! 嗚呼、叶うのであれば、母として彼等の成長振りを直接この目で見てみたいものねっ!? 』

 

 

 喜びに耐え切れず、遂に海棠はとある行動に出る事となり、それは青蓮や雪蓮だけでなく祭までをも大いに驚かせたのだが、それはまだ先の話である。

 

 

「まさか、奏香ちゃん達だけでなく、朱里ちゃん達の兄弟子さん……姜伯約さんと徐元直さんだったよね? あの二人も私達に協力を申し出てくれるなんて、とても嬉しいな……。それに、雪蓮さん達の方にも、新しい家来の人が出来たみたいだし……よーしっ、もっと頑張らなくっちゃっ!! 」

 

 

 そして、今こうして桃香は夜分遅くの入浴を一人楽しんでおり、ようやく全ての緊張から解放された瞬間を満喫していたのだ。狭い鉄砲風呂故に、余り体を伸ばせなかったが、それでも両腕を思い切り上に伸ばすと、ゆっくり頭の後ろで両手を組んでみる。その際、彼女の大きな乳房がプルンと小気味良く揺れていた。

 

 

「ねぇ、私も一緒に入って良いかしら? どうやら、温かいお湯が残ってる風呂桶はそこだけ見たいなのよね? 」

 

「はい? 」

 

 

 突然声を掛けられ、思わず目を瞬かせながら桃香が声のした方を向くと、そこには自分より頭一つ小さい少女が一糸纏わぬ姿を曝け出している。然し、小柄な体に似合わず、体型の方は実に均整が取れたもので、乳房の方はやや小振りであったが実に綺麗な形をしていた。

 

 顔の方も実に類稀なる美貌で、ややきつめの目元には煌々と炎が揺らめいており、正に覇気に溢れている。恐らく、普段は髪を纏めているのだろうか、肌理(きめ)の細かい金色の髪には、波打つような纏め癖がついていた。

 

 

「判りました。ご覧の通り、私は太目ですけど、今場所を作りますから……さぁ、どうぞ? 」

 

 

 「義勇軍や陽春老師達の軍の兵に、こんな娘っていたかな?」と内心思いつつ、砕けた笑みで応じて見せると、桃香は少し体を動かして人一人入れる場所を作る。「ありがとう、それじゃ邪魔させて貰うわね?」と少女が答えると、小柄な彼女はスッポリと桃香が作った場所に潜り込み、温かい湯の恩恵に相好を崩して見せた。

 

 

「ふうっ……初めて入るけど、この簡易浴槽は実に機能的ね? 少し狭いけど簡単に持ち運び出来る構造をしてるようだし、これなら水源が近くにある場所に布陣してれば、戦の時でも気軽に入浴出来るわ…… 」

 

「えーと……済みません。無礼を承知でお尋ねしますけど、もしかしてここの人じゃないんですか? 」

 

「あ、悪かったわね? ここのお風呂が大変良いって噂を聞いた物だから、ここの人間の振りをしてきたのよ? だから、謝っておくわ 」

 

 

 少女の台詞に引っ掛かりを覚え、恐る恐る桃香が尋ねると、彼女は小悪魔めいた笑みで頷いてみせる。そして、次に彼女が名乗ったその名に、桃香の中に衝撃の落雷がほとばしった。

 

 

「自己紹介しておくわ。私は曹操、字は孟徳……貴女が劉玄徳よね? 先日の張角等の処刑の折、盧将軍と鄒将軍の付き添いで来ていた貴女の顔を何となくだけど見咎めていてね? 後で盧将軍に尋ねてみたら、貴女が劉玄徳だと聞かされて正直驚いてしまったわ? 」

 

「えっ……!? 」

 

(この女の子が曹操!? 色んな人達の口から名前を聞かされていたけど、この子が曹操だなんて……!! 確か、この前会った一刀さんの友達だった及川さんって人が居るのは、曹操さんのところだった筈!? ……噂通りだ、物凄い覇気が感じられるっ!? こんな小さい体の一体何処にこれだけの覇気があるのか不思議だよね? )

 

 

 驚きの余り、顔を強張らせる桃香であったが、そんな彼女にお構い無しと言わんばかりに曹孟徳――華琳はすすっと桃香に近寄ると、今にも唇を重ねそうな位に顔を近付けさせる。そして、華琳はクスクスと小さく笑い声を上げると、そっと囁き始めた。

 

 

「え、ええっ!? 」

 

「フフッ……貴女が私の事で様々な噂を聞かされてるように、私の方も貴女の噂は耳にしているのよ? 『高祖劉邦或いは世祖劉秀の再来』とか、『漢王朝の忠臣』、『中山靖王劉勝の末裔』、『幽州より現れた希望の光』ってね? それに付け加え、古の雲台の再来宛らとも言える傑物達を従えてるだけでなく、自らも陣頭で果敢に白刃を振るったそうじゃない? 貴女の様なおっとりとした感じの娘にその様な真似が出来るとは到底信じ難いけどね? 」

 

「…… 」

 

「ッ!? 」

 

 

 桃香こと劉備、華琳こと曹操のこの二人だが、性格や体型だけでなく、全てが全てに於いて正に対極的である。然し、そんな彼女等にも唯一共通している事があった。それは両者とも意志が徹底的に強い所である。

 

 最初は華琳に圧倒されっぱなしの桃香であったが、自分を否定されるような事を言われてしまうと、両眼に強い意思の光を宿らせて華琳を真っ直ぐ見返し、王者の風格を全身から解き放って見せた。

 

 

(なっ、何なのっ!? この娘、最初は噂倒れの単なるお人好しだと思っていたのに……今は全く違う! まるで全ての者を包み込むかの様なとても温かい物を放っているわ! クッ、矢張り噂通りだったみたいね!? )

 

 

 完全に他者を圧倒する絶対的な覇気を身に纏う華琳に対し、全ての者を温かく包み込む王者の風格を身に纏う桃香。最初の内は、只単に少し脅かして見せようと思った華琳であったが、意外な形でその目論見が覆されてしまい、華琳は無意識の内にギリッと歯噛みしてしまう。然し――

 

 

「あ~あ、やめやめっと! 行き成りつっけんどんに言われちゃったから、思わず孟徳さんを睨んじゃいましたけど、止めにしますね? それに、今の私達は『裸のお付き合い』をしている訳なんですから、ここは普通にお風呂に浸かりませんか? 」

 

 

 と先程までの真面目な表情から一転し、桃香は何時もの無邪気な笑みで華琳に言う。

 

 

「フッ、フフッ、アハハハハハハッ! 確かにそうね? 今の私達は裸の付き合いの最中なんだし、野暮な真似は抜きにした方が良いわね? 」

 

 

 桃香の笑みに毒気を抜かれたのか、華琳は心底愉快そうに笑い声を上げると、再び湯に浸かり始めたのである。

 

 

――四――

 

 

「ねぇ、玄徳……貴女、只の義勇兵で終わる積りは無いのでしょう? 」

 

「え? 」

 

 

 そこから少し時が過ぎた。いつの間にか華琳はその小さな体を桃香の肩に寄り添わせており、細い右腕を虚空に延ばして何かを掴む仕草をして見せる。突然の彼女の言葉に、桃香はキョトンと小首を傾げて華琳を見やった。

 

 

「何で……そう思ったんですか? 」

 

「……アレだけの傑物を揃え、他にも長沙太守孫堅の娘だけでなくその家臣からもの協力を得た程の貴女が、そのまま故郷に戻るとは到底思えないわ。それに、まだまだやり足りなさそうな感じに思えるんですもの? 」

 

 

 少しばかりの戸惑いを交えて桃香が言うと、華琳は「何を言ってるのやら」と言わんばかりの呆れ顔になって見せる。すると、桃香は気恥ずかしそうに笑って見せた。

 

 

「はい、幸いにも私は盧将軍や鄒将軍と(よしみ)があります。ですから、お二方の伝手を頼りに何かの役職につけて貰おうかなーって思ってるんです。それに、私には夢があるんです。ですから、自分の『夢』を叶える為にも、先ずは地盤を築かないといけませんから 」

 

「……『夢』? どの様な『夢』を抱いてるのかしら? 良ければ私に教えて貰えないかしらね? 」

 

 

 桃香の言った『夢』に引っ掛かりを覚え、すかさず華琳が尋ねてくるが、そんな彼女に桃香はしれっと返してみせる。

 

 

「……教えても良いですけど、その代わり孟徳さんの方もご自身の『夢』を私に教えて貰えませんか? 私だけに話させるのは不公平ですよ? 」

 

「参ったわね……これは一本取られたわ? 」

 

 

 桃香が返した言葉に、華琳は思わず苦笑すると共に天を仰ぎ見て、彼女はボソッと小さな声で言い始めた。

 

 

「ねぇ、玄徳……もし、この世に『英雄』になる人物が居るとすれば誰だと思う? 」

 

「え? 『英雄』ですか? 」

 

「そう、『英雄』よ……貴女の知ってる限りで良いわ。だから、『英雄』足りえる人物の名を挙げて貰えるかしら? 」

 

「……判りました。私は貴女ほど人物に詳しくはありませんけど、私なりに知ってる人物の名を挙げて見ますね? 」

 

 

 真っ直ぐ自分を見詰める華琳の真剣な表情に、桃香はそれが冗談ではない事を悟ると、これまで自分が触れ合ってきた人物や情報を教えてもらった人物の名を次々と挙げ始めたのである。

 

 

 

「先ず、長沙太守の孫文台様はどうでしょうか? 先程直接本人に会いましたけど、噂通り智勇に優れており、物凄い覇気を漲らせたお方でしたよ? 」

 

「長沙の孫堅か……そうね、確かに彼女も『英雄』足りえる資質を持っているわね? でも、彼女の場合先の南陽太守だった『猿娘』に良い様に使われてる節があるわ。あんな取るに足らぬ奴の手足に成り下がってるようでは、『英雄』になるのは到底無理と言うものね? 」

 

「じゃあ、冀州は渤海(ぼっかい)太守の袁本初様は? 四代三公を高らかに謳い上げる『汝南袁氏』の正統後継者だと聞いてますし、家柄なら申し分ないかと? 」

 

「却下よ、却下! 貴女、まさか冗談で言ってるのではないのでしょうね!? あんなのが『英雄』になれたら、只の物乞いでも英雄になれるわよ? アレは『家柄の七光り』で今の立場に就いただけの、単なる『オバカ』よ? 」

 

「うーん……だったら、荊州南郡太守の劉景升様は? 『江夏の八俊』の一人に名を連ねるほどの高名な儒学者ですし、景帝の末裔でもありますよ? 」

 

「そうね……劉表は行政手腕なら及第だわ。でも、彼の場合は『智』を優先する反面『勇』に欠け過ぎている。太守や刺史程度ならそれで良いかもしれないけど、大局的に物事を動かす力は無いわね? それに、聞いた話では劉表の所は後継者問題で揺れてるそうよ? オマケに、劉表本人は老齢に差し掛かろうとしているし、恐らくだけど今に家を割る事が起こるかもしれないわね? 」

 

「では、益州刺史の劉君郎様はどうでしょう? 」

 

「劉焉ね……彼の場合は、自分の任地である益州の完全支配しか考えていないわ。そう、古の世祖に滅ぼされた※1公孫述(こうそんじゅつ)の再来と言っても過言ではないし、あれこそ正に『井の中の蛙』その物でしょうね? また、益州の内部には彼の支配に不満を唱えてる者はごまんと居る筈だし、彼も劉表と同じで老齢になろうとしてるから、恐らく彼が死ねば益州は混乱する事でしょうね? 」

 

「それじゃ……西涼の方々はどう思われます? 刺史の董仲穎(とうちゅうえい)様の下には智勇に秀でた家臣団が居ますし、その補佐役として武威郡太守の馬寿成様や漢陽郡太守の韓文約様も一角ならぬ方々ですよ? 」

 

「ふむ……西涼の董卓や馬騰達ね? だけどね、私は刺史の董卓本人に直接見えた事があるけど、あの娘には『覇気』や『野心』が全くと言って良い位に無いわ。どんなに優れた人物が傍に居ようとも、上の者にその気が無ければ宝の持ち腐れと言う物よ? 

 

 あと馬騰や韓遂だけど、彼等の下には人材が居なさ過ぎるわ。五年前の『涼州の乱』で彼等がアレだけ暴れられたのも、中央にろくな人材が居なかった証拠よね? 現に、皇甫将軍が孫堅と董卓を率いてやっと鎮圧する事が出来たのだから。仮に私が五年早く生まれていれば、あんな地方の叛乱簡単に鎮圧して見せたわよ 」

 

「ふへぇ~、孟徳さんって凄いですね? 良くもそこまでその人達の人物像を理解していると思うと、尊敬してしまいますよ? 」

 

 

 様々な人物を列挙して見せた桃香であったが、それ等に対し華琳が全て逐一指摘して見せると、その人物鑑定眼の鋭さに桃香は素直に感嘆した。

 

 

「やれやれ……貴女は判ってないのかしらね? 今の世で英雄足りえる者なら、直ぐ近くに二人も居ると言うのに…… 」

 

「え? そ、それは……誰と誰なんですか? 」

 

 

 だが、一方の華琳は呆れを交えつつ桃香の顔をジッと覗き込んだがそれも束の間の事で、行き成り勢い良く立ち上がると、桃香に指を突きつけて声高に叫ぶ!

 

 

「……決まってるじゃない。天下に英雄足りえるものが居るとするならば、それは曹孟徳と劉玄徳――即ち貴女と私よっ! 」 

 

「え、えええっ!? 」

 

 

 思いもよらぬ華琳の言葉に、激しく動揺する桃香であったが、当の華琳本人はそれに構う事無く言葉を続けた。

 

 

「フフッ……玄徳、恐らく貴女も睨んでるとは思うけど、黄巾が滅んだとは言えどもまだまだ天下は混迷を極めると思うわ? 高祖劉邦が興し、世祖劉秀の手により四百年の歴史を築いたこの『漢』だけど、既に直し様の無い亀裂が入っている。こんな事を言うのは不遜かも知れないけど、無理に生き永らえさせるより一度死した方がマシと言うものだわ? そうなってくれば……この一度死した中華を再び元の姿に蘇らせる必要があるのよ。その資格を持ちえる者は……この私曹孟徳、そして……劉玄徳、貴女しか居ないわ? 」

 

「……何故、そう思ったんですか? 」 

 

「フフッ、貴女は私と同じ目をしていたからよ。そう言えば玄徳、さっき貴女は私に言ったわよね? 私の『夢』も教えて欲しいと 」

 

「はい 」

 

「ならば、教えて上げるわ。私の夢は新たな世を作る事っ! そうっ、家柄や血筋に縛られず、己の力で全てを決められる新しい世を作る事が私の夢よっ! その為なら、私は如何なる悪名や汚名をも喜んで被って見せるし、仮に死して泰山地獄に落ち様とも一向に構わないわねっ!? ……それにね、私は気に入った物は人であろうが物であろうが全て手に入れたくなる性分なのよ? 例え嫌と言っても、私は力技を用いてでも無理矢理手に入れる積りよ? だけど、私に噛み付く者は例え親であろうが子であろうが容赦はしないわね? クスクスクスクス…… 」

 

「っ……! 」 

 

 

 熱く意気込んで大いに語ると、華琳は口元に手を添え小悪魔めいた含み笑いを上げ始める。彼女のその姿に、桃香は自身の魂がギュッと握り潰されそうな感覚に襲われ始めた。然し、ここで怯んでは居られない。自分はこれから一刀や愛紗だけでなく、自身の夢に己の未来を託してくれる仲間とこれからの道を歩まなければならないのだ。

 

 もう一人の自分自身――即ち、兄と慕う一心の生涯を盗み聞きした事が切欠とは言え、彼女の中にも『揺ぎない想い』が生まれている。桃香はそんな自分自身を裏切らぬべく、キュッと奥歯を噛み締めて気合を入れ直すと、自身も勢い良く立ち上がって華琳を真っ直ぐと見据えて見せた。

 

 

「成る程……それが貴女の『夢』だと言うのですね? 」

 

「……こうして見てみると、貴女本当に『でかい』わね? 今の貴女の姿、私にとって嫌味以外の何物でもないわ? 」

 

「? 」

 

 

 この娘に負けてなるものかと、自身も勢い良く立ち上がって見せた桃香であったが、それに対し華琳は思いっきり顔をひくつかせている。その理由であるが、華琳は実に小柄だ。身の丈の方も六尺程度(約140センチ)しかなく、家中に於いて彼女より小柄な者は、ほぼ皆無だったのである。

 

 逆に、桃香の方であるが、彼女の身の丈は七尺(約164センチ)あり、同年代の女子の平均身長よりやや高かった。おまけに、乳房の大きさも華琳より二回り以上大きく、体格の面に於いてなら華琳より遥かに勝っていたのである。

 

 こんな状況であったから、当然桃香は自分より一尺背が低い華琳を見下す形となり、付け加えて華琳の視界には桃香の顔どころか、彼女の大きな大きな乳房がこれでもかと言わんばかりに見せ付けられていたのだ。

 

 

「クッ……あの『オバカ』とは違った意味で、貴女からは不愉快さを感じるわ……ッ! 」

 

「へ? へ? 」

 

 

 標準並みの背丈に大きな乳房――華琳が幾ら足掻いても手に入れられぬ二物を持っている桃香に、この時華琳は何故か敗北感めいた物に打ちひしがれていたのである。そして――事もあろうか、華琳はこれまでの緊張感に満ちたやり取りから全くかけ離れた暴挙に出始めたのだ。

 

 

「このっ!! 」

 

「ひゃうわっ!! 」

 

 

 何と、華琳は行き成り桃香の大きな乳房をむんずと鷲掴みにし始めたのである。これには溜らず、桃香は思わず声を上げてしまった。

 

 

「フ、フフフフフフフフフ……貴女の『夢』を聞かせてもらおうと思ったけど、もう良いわ! これからは『只の娘』として……貴女と遊ぼうかしらねえっ!? 」

 

「いっ、行き成り何をするんですかっ!? 」

 

「問答無用よ! 私が幾ら足掻いても手に入れられない二物を持ってる貴女の存在が不愉快になっただけだからっ! さあっ、覚悟は良いかしらッ!? 玄徳ッ!! 」

 

「うーっ! なら……私も容赦しませんよ? 阿孟徳ッ!(孟徳ちゃん) エイッ!! 」

 

「ヒャアッ!? よ、良くも私の胸を触ってくれたわねっ!? それと、『阿孟徳』等と馴れ馴れしく私をそう呼ぶなっ!? 不愉快の極みだわっ!! 」

 

 

 やられたらやり返す――これが喧嘩の原則だ。違った意味での敵愾心を両目に宿し、自分にじりじりと迫ってくる華琳目掛け、桃香は素早く動くと、自分がやられた様に彼女の小振りな乳房を鷲掴みにしてみせる。そして、これまでの高圧的な彼女を真っ向から否定するように『阿孟徳』呼ばわりしてみせると、見る見る内に華琳の顔が朱に染まり、その小さな体には途轍もない殺気を纏って見せた。

 

 だが、それで怯む桃香ではない。尊敬する兄一心を始め、彼の仲間達から『喧嘩のやり方』をも教わった彼女は『英雄を論じる相手』から一転し、単なる『喧嘩相手』と化した華琳を一喝する。

 

 

「私も同じですっ!! 大体っ、貴女はまだ十六歳なんでしょ? 私は貴女より一つ年上なんだよ!? なのに、その年上の人の字を呼び捨てするなんてとっても非常識だし、何よりも失礼だと思わないんですかっ!? 」

 

「クッ……私に説教するなっ!! 余計にイライラするじゃないのっ!? 」

 

「そっちこそ、えっらそーに言わないでよっ!! さっきから黙って聞いてれば、貴女は一体何様の積りなのっ!? 」

 

 

 こうして、この二人の『将来の英雄』は互いに揉みあいながらも器用に風呂桶から抜け出し、後は床の上で取っ組み合いを始める。仮に、この二人が邂逅した所が戦場や陣中と言った別の場所であったらこうはならなかったであろう。

 

 然し、今の二人は『風呂場』、それも丸裸である。こんな状況だから、女として恵まれた体を持った桃香に対し、自分の体格に劣等感(コンプレックス)を持った華琳がこう出てしまうのはある意味『自明の理』とも言えたのだ。

 

 

「こうなれば、私の技で貴女を泰山に誘ってあげようかしらっ!? 良く見てみれば、貴女中々可愛い顔をしているし、望むのであれば私の側女(そばめ)の一人に入れてあげるわよっ!? 」

 

「何をするのかは想像付きますけど、御免蒙りますっ!! 私だって、『侠』を率いる頭目の妹ですっ! 只の田舎娘と思ってると、痛い目に遭うのはそっちなんだからっ!? 」

 

 

 華琳は『女同士』の睦み合いを自身の最高の娯楽の一つに入れており、『その手の方法』で女を自分の虜にする技を得意としている。下世話な言い方をすれば、この時華琳は『その手の方法』を桃香に試そうとしたのだが、如何せん『只の喧嘩』になってしまうと桃香の方に分がある。

 

 況してや、桃香の方も戯れ半分で蓮華や翠と言った同性同士と閨で『遊ぶ(・・)』事も時折あった。例えば一刀が不在だったり、或いは彼の体調が優れない時はそうやって互いの欲求不満(・・・・)を解消させたりもしていたのだから、華琳が何をするのかは直ぐに読めていたのである。

 

 如何わしい形に指を曲げた華琳の手を払いのけ、桃香はその両手首を掴むと一気に彼女をねじ伏せて見せたのだ。況してや、桃香は一刀が来る以前から義雲達の手により鍛錬を施されている。今の彼女の膂力は、大の男一人ねじ伏せる事なぞ造作でも無かった事だし、同性同士の喧嘩なら負けない自信はあったのだ。

 

 

「これでも……私だって可也鍛えているんだからっ!! 」

 

「なっ、何て馬鹿力なのっ!? はっ、離せッ!! 離しなさいっ!! これは命令よっ!? 」

 

「今の私達は、『只の娘』でそれも喧嘩の真っ最中ッ!! 喧嘩に命令もへったくれもないのに何を言ってるのっ!! 」 

 

「ぐぬぬぬぬ~~っ!! 」

 

「ハアッ、ハアッ、ハアーッ……! 」

 

「クッ……この私がっ、それも嘗て『曹家の※2阿瞞(あまん)(瞞ちゃん)』とまで呼ばれた悪童だったこの私がっ、こんな田舎娘に無様にねじ伏せられるなんて……屈辱以外の何物でもないわっ!! 」

 

 

 嘗て、華琳は親も匙を投げる程の悪童であった。故に、こういう形での喧嘩も慣れていた筈なのに、桃香にはそれが全然通用しない。顔を紅潮させ、肩で息をしながら自身に圧し掛かる桃香の顔を見た瞬間、生まれて初めて喧嘩で負けた事を思い知らされ、思わず華琳は涙ぐんでしまう。

 

 

「良いっ、阿孟徳ッ!? よーく聞いてッ! この私の、劉玄徳の夢をっ! 」

 

「っ!? 」

 

 

 然し、そんな彼女など知った事かと言わんばかりに桃香が声を荒げて見せると、華琳はびくんと体を震わせて見せた。この時の彼女は『王者』でも何でもなく、只の一人の娘として、自身の思いの丈を華琳にぶつけて見せたのだ。

 

 

「私の夢はっ、争いの無い世を作り、再び『漢』の世を強く蘇らせる事なのッ! その為なら、私は沢山の人達からどんなに恨まれ罵られたって構わないッ! そう、この大陸に生きる全ての皆の為にっ!! 」

 

「……そう、それが貴女の夢だと言うのね? 良く判ったわ…… 」

 

 

 流石にこの頃ばかりになると、華琳も冷静さを取り戻しており、いつもの人を食ったような涼やかな顔で桃香の瞳を真っ直ぐと見据える。そして、華琳は自身がねじ伏せられてるのにも関わらず、挑発的に口元を歪めて見せた。

 

 

「だけど――それなら、貴女の夢は私の夢とほぼ同じじゃないの? だったら私に協力なさい、悪い様にはしないわよ? だけど、何を今更『漢』にこだわっているのやら…… 」

 

「言葉を返すようだけど、貴女の夢って『力のある者』しか生き残れない世を作る事にも取れるんだけど? 私は、弱い人達にも手を差し伸べ、そう言った人達も幸せに生きていける世の中を作りたいだけっ! それに……私も劉姓を名乗る者の一人だし、『漢』が死に掛けた今だからこそ、自分の義務を果たさなければならないのっ! 」 

 

「甘いわね!? 高祖劉邦が起こした漢も、時を経ると共に腐り果て、挙句に王莽(おうもう)に簒奪されるという憂き目にあったわ!? 世祖が再び興した『漢』だって、今の現状を見てご覧なさいっ!? 内には下らぬ権力闘争が渦巻いてるし、外には黄巾どもの跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)を許す結果になった! 一体、これの何処に蘇らせる価値があると言うの!? 」

 

「それでも私は漢を信じるっ! ううんっ、私の中にはまだ漢が生きているっ!! 私だけじゃない、こんな私を信じてくれる仲間達の心にも漢は生きているっ!! これらの漢を死なせない為にも、私は絶対に漢を蘇らせ、再び漢の名の下に皆を一つに纏めたいんだからっ!! 」

 

「クッ、舌の方も意外に回る様ねっ!? この高祖被れの夢想家がっ!! 」

 

「そっちこそ、王莽被れの簒奪者(さんだつしゃ)気取りの積りッ!? 貴女の夢だって、聞き様によっては単なる妄言としか思えないよっ!! 」

 

「言ったわねっ!? こいつっ!! 」

 

「そっちこそーっ!! 」

 

 

 両者とも互いに譲らずとは正にこの事であろう。組み伏せられた華琳が力任せに身をよじり、その勢いで桃香が拘束の手を緩めると、今度は華琳が桃香に圧し掛かって平手で頬を打ったかと思えば、今度は桃香が腕の長さを活かして華琳の頬を打ち返す。

 

 圧し掛かったり圧し掛かられたりと、互いに主導権の奪い合いをしながら、二人はゴロンゴロンと度派手に転がり合っていたのだが、やがて終焉の時が訪れる。最後には二人とも力尽きてぐったりと床に倒れこんでしまったのだ。

 

 

「……貴女、意外とやるわね? 久し振りに私に無様な喧嘩をさせただけでなく、全く勝てなかったのは貴女が初めてだわ? 」

 

「そう言う貴女だって……恐らくだけど、只の喧嘩だったら天下一になれるんじゃないのかな? 」

 

 

 そう語り合う二人の顔は妙に清々しく、何やら憑き物が落ちたかのようで、ここで初めて二人は年齢相応の少女の姿を互いに見せていたのである。

 

 

「玄徳殿……貴女、気に食わないけど気に入ったわ。フフッ、変な言い方だけどね? 」

 

「何それ? でも、私も同じだよ? 私も貴女の事は気に入らないけど、気に入っちゃったかな? 」

 

「何よそれ……変なとこで気が合うじゃない? フッ、フフッ、アハハハハハハハハッ!! 」

 

「たっ、確かに、そっ、そうだよね!? ウフッ、ウフフッ、アハハハハハハハハハハッ! 」

 

 

 そして、二人は高らかに笑った。笑いに笑い、一生分笑ったと言っても良い位に心の底から笑い合った。

 

 普段は家の長として、常時腹芸や本心を隠す事の多かった華琳であったが、この時ばかりは、普通の娘として無邪気な笑顔を見せており、一方の桃香も夢を叶える為とは言え、最近心が疲れていたのだが、華琳と言う本音をぶつけ合える相手と取っ組み合いの喧嘩をした事により、溜っていた澱みを綺麗サッパリと流し落としたのである。

 

 

「ねぇ、玄徳……今でも私は貴女の夢は認められないけど、ならばそこまで言った以上やってみせなさい? 私も貴女に笑われぬよう、時が来れば自分の夢を叶えて見せるわ 」

 

「それは私もだよ? 今でも貴女の夢は認められないし、私の方だって自分の夢を叶えて見せるんだからっ! 貴女がどう言う事をして見せるのか、とくと見させてもらうからねっ!? 」

 

 

 笑いが収まったのか、二人は寝っ転がったまま互いの顔をじっと見詰め合うと、それぞれ言葉をぶつけ合う。それは正に『宣戦布告』その物であった。

 

 

「フフッ……まさか、良き好敵手を得れるとはね? 今日は大収穫だったわ 」

 

「孟徳さん…… 」

 

「華琳よ、次私を呼ぶ時は『華琳』と呼んで頂戴。中華の『華』に、※3琳瑯(りんろう)の『琳』と書いて華琳よ? 」

 

「えっ!? そ、それって真名じゃ? 」

 

 

 恐らく、そろそろ頃合と見たのだろうか。自陣に引き揚げるべく、華琳がその華奢な体を起こすと満足げに笑みを浮かべる。そして、意外な事に彼女は桃香に自分の真名を告げたのだ。突然言われた彼女の言葉に桃香が目を白黒させていると、華琳はキョトンと小首を傾げてみせる。

 

 

「あら? 何か可笑しいかしら? それに、貴女位の揺ぎ無い志を持った者なら、自分の真名を預けるに相応しいと思ったからよ? で、貴女はどうなのかしら? 」

 

「うん、判ったよ? それじゃ、私も貴女に真名を預けるからね? 私の真名は『桃香』、『桃の香り』と書いて桃香だよ。華琳ちゃん 」

 

「フフッ……貴女だけなら『ちゃん』付け呼ばわりされても構わないわね? 」

 

 

 若しやすれば、生涯にわたり死闘を繰り広げるかも知れない自分に真名を預けた華琳に、桃香は改めて彼女の凄さを思い知らされた。そして、桃香も覚悟を決めて自身の真名を『将来の宿敵』に預けると、華琳はゆっくりと頷いて見せる。

 

 

「そう、桃香ね。判った、覚えておくわ。ならば、桃香。又次の機会にでも会いましょう。恐らくだけど、更なる混迷の時まで少し時はある筈。その時はゆっくり酒でも酌み交わしたいわね? 貴女は知ってるかもしれないけど、私の所には『天の御遣い』なる者が居てね? その者が※4『啤酒(ピィチュウ)』なる麦から作った酒を献上してくれたのよ。とても苦いけど、冷やして呑めば最高の喉越しよ? だから、貴女にも振舞って上げるわ? 」

 

「フフッ、判ったよ。なら楽しみにしてるね? 私の方もお米と麹から作った『清酒(チンチュウ)』を持っていくから。とっても美味しいし、華琳ちゃんも喜ぶと思うよ? 」

 

「へぇ……それは楽しみね? なら、その時まで互いに壮健でいましょう。では再見、桃香? 」

 

「再見……華琳ちゃん 」

 

 互いに不敵な笑みを見せ合い、華琳は踵を返すと堂々とした足取りで浴場を後に……しようと思ったのだが、ここでトンでもない出来事が彼女を襲った!!

 

 

「なっ!? アッアッアッ……きゃあああああ~~っ!! 」

 

「かっ、華琳ちゃんっ!? 」

 

 

 余り億尾に出さぬ様、常時気をつけてはいたのだが、実は華琳はチョットした事でドジを踏む事がある。少し気を緩めてしまった物だから、思わずそれが出てしまい、華琳は濡れていた浴室の床で足を滑らせると、前のめりで倒れそうになってしまったのだ。

 

 慌てて身を起こした桃香が華琳を助けようとするが時既に遅し。床に顔面をぶつけそうになる華琳であったが、それは意外な形で防がれたのである。

 

 

「うむうっ!? 」

 

「おごおっ……!? オ、オイの切なけ部分に……◎×■∞β……ッ!! 」

 

「かっ、一刀……? 」

 

「へ? 一刀さんと蓮華ちゃん? 」

 

 

 何と、華琳の顔は突然彼女の目前に現れた一刀の体の『とある部分』で受け止められたのである。その一刀であるが、隣には蓮華を従えていたのだが、これには理由があった。

 

 深夜だからゆっくり一人で浸かれるだろうと思い、仮設浴場に向かっていた一刀であったが、そこでバッタリと蓮華と出くわし、彼女から『一緒に入らない?』と猛烈な接近(アプローチ)を掛けられたのである。

 

 無論、これを断る彼ではなかった。『ヨロコンデーッ!』と喜色満面で絶叫すると、一刀は早速『逸る心』を抑えつつ『臨戦体制』で蓮華を伴い欲情、もとい浴場に入ったのだが、悲劇は正にこの時起こってしまったのである。

 

 

「◎×△■@〒~~ッ! あ゛、アアアアアアアアアアアアアッ、ア゛ーッ!! 」

 

「むむむむっ!! うぐぐぐぐ~~うっ!! 」

 

「一刀、大丈夫っ!? たっ、大変ッ! 一刀の『大事な部分』に女の子の顔がめり込んでるわっ!? そっちの貴女も大丈夫? お願い、二人ともしっかりしてーっ!! 」

 

「うひゃああああああっ!? 一刀さんに華琳ちゃんも早く離れて~~っ!! それっ、とっても『あうと』だよ~~~っ!? 」

 

 

 これがどんな状況で、且つどう言う顛末になったかは本人達の名誉の為割愛しておく。

 

 然し、この時一刀の脳裏には『とある和楽器』の音が絶えず流れており、他にも天使の格好で天に召される自分自身の姿や、挙句の果てには筋骨逞しい二人組の大男が、『おっめでとぉ~ン! これでアナタも私達『漢女(おとめ)』の仲間入りよぉ~~ン♪』と気色悪く笑いながら迫ってくる光景が鮮明に映し出されていたのである。さらに――

 

 

『FIVE! 』

 

 

 宇宙空間に浮かぶ巨大な宇宙ステーション。

 

 

『FOUR! 』

 

 

 深海を突き進む小型の潜水艇。

 

 

『THREE! 』

 

 

 宇宙目指し空を切り裂くロケット。

 

 

『TWO! 』

 

 大空を我が物顔で飛行する巨大な輸送機。

 

 

『ONE! 』

 

 

 最後に、爆音を立てながら発射されるロケット機。

 

 

「◎×▲@*※#……チュッドーンッ!! あふんっ♪ 」

 

「うむうっ!? 」

 

 

 と変な脳内演出の後に、妙に『スッキリ(・・・・)』した顔で一刀が呻いてみせると、忽ち彼の『とある部分』に顔を埋めていた華琳が目を白黒させた。

 

 

「~~~ッ…… 」

 

 

 一体何があったのであろうか。哀れ、彼女は彼にそのまま突っ伏す形で気を失ってしまったのである。

 

 

 

 ――その一方、時同じくして一心個人の天幕に於いて――

 

 

「陛下っ……! この黄公衡(こうこうしょう)、斯様な娘の姿になれど、陛下にお逢いしとう御座いました……ウッ、ウウウウウウウウッ……!! 」

 

「公衡よ、そなたにはまこと済まぬ事をしてしまった。身勝手の余り、私はそなたを裏切ってしまい、挙句に死より辛い目に遭わせてしまった……だのに、それでも私への篤い忠節、この玄徳そなたにはかける言葉も思いつかぬぞ? 」

 

「陛下を裏切り、仇敵の魏に降りし不忠者の私に何と勿体無きお言葉……っ!! ならば、この黄公衡改めて陛下へ生涯忠誠を誓いまするっ!! 」

 

「……いや、公衡よ。そなたの忠節は嬉しく思うが、それは私にではなく桃香――即ちこの世の劉玄徳に誓ってくれぬか? 今の私は劉玄徳ではない。劉伯想と言う、只の侠にしか過ぎぬからな? 然るに公衡よ、これからはそなたの才をあの娘の為に役立てて欲しいのだ 」

 

「ははっ! ならば、この黄公衡。諸葛丞相や関将軍等と共に、この世界の玄徳様を全力でお支え致しまする…… 」

 

 

 一心の前で跪いた霧花(うーふぁ)こと黄公衡が、歓喜の余り大粒の涙を流す。宴の後、霧花は『どうしてもお話したい事がある』と一心に小声で話し掛けてきたのだ。

 

 一瞬訝しげに思った一心であったが、何か勘付いたのであろうか。彼は義雲を始めとした漢達にそっと声を掛けて回ると、以前の盧植の時に行った密談と同じ様な状況にしたのである。改めて義雲や照世達の姿を前にし、驚きを隠さぬまま彼女は一心の目を真っ直ぐ見据えてこう言い放って見せたのだ。

 

 

『お初にお目に掛かる、劉伯想殿。既に自己紹介はしたが、私は黄権、字は公衡と申す者で、劉徳然殿の義勇軍で参謀を勤めている。以後お見知りおき頂きたい。然るに、伯想殿にお尋ねするが、万が一人違いであればお許し頂きたい。……伯想殿、若しやすれば貴方は劉玄徳様では御座いませぬか? 』

 

『なっ……!? 』

 

 

 この言葉に、場に居た者全ての表情が固まる。然し、すぐさま何か悟ったのか。本来の表情で柔らかく微笑むと、一心は優しく彼女に語り掛けた。

 

 

『左様、私は劉備、字は玄徳……これが私の本来の名だ。そして……そなたは公衡本人だな? 声や姿形は娘の物になってはいるが、その気取った風の語り口調は今でも覚えておったぞ? 』

 

『おおっ、おおっ……矢張り、貴方様は先帝陛下だったのですねっ!? 』

 

 

 かくして、時と世界を越え再びめぐり合った一心と霧花。以降、霧花は一心への篤き忠節を胸の奥底にしまいつつ、桃香こと『劉玄徳』に対し終生変わらぬ忠誠を誓ったのである。

 

 

 

――五――

 

 

 ――そして、あれから数日後。帝都雒陽に向かう行軍の最中に於いて――

 

 

「あ~、あの時は酷ぇ目に遭ったよなぁ~。下手すりゃ、あのまま曹操に噛み切られて(・・・・・・)、『宦官』にされちまうとマジで思っちまったよ…… 」

 

 

 いつもの様に、漆黒の具足姿で愛馬黒風に跨った一刀であったが、この時彼は先日あった出来事を思い返し、顔をげんなりとさせていた。

 

 

「あ、あははははははは……まぁ、『のーこめんと』という事にしとくね? 」

 

「へぇ……あの時の一刀、そうは見えなかったんだけど? 」

 

 

 そんな一刀の姿に、彼と轡と並べていた桃香は苦笑いを浮かべており、同じく轡を並べていた蓮華はジトッと彼に半目を向けていたのである。

 

 

「『アレ』は事故(・・)だっ、事故ッ!! 大体あんな状況あり得ないだろっ!? どう考えてもっ! 」

 

「クスッ、判ってるわよ。アレはどう見ても事故だものね? だけど、一刀は可愛い娘を見ると直ぐ鼻の下を伸ばすし、だから少し釘を刺しておこうと思っただけよ? ……でも、本当は可也気持ち良かったんじゃないのかしら? 事故とは言え、『アレ』だものね? ……私だったら、『あんな事』だけじゃなく、もっと凄い事を幾らでもしてあげるのに……。でも、まさか曹操にあんな事されるなんて……一刀の無節操っ! 」

 

「あはは、確かに華琳……孟徳ちゃんって結構可愛い顔してるしね? ……でも、一刀さん。『ああ言う事』して欲しかったら、して欲しいってちゃんと言ってね? 事故とは言え、他の見ず知らずの人にああされるのって、見てたこっちとしても気分の良い物じゃないから……私だって、朱里ちゃんからその手の本借りて一応勉強はしているんだから 」

 

「う゛っ……しっきゃっ! わがん漢の本能がこれほど憎らしいとおもたコッな無かっ!! 」

 

訳文:『う゛っ……畜生っ! 自分の漢の本能がこれほど憎らしいと思った事はないっ!! 」

 

 

 これには溜らなくなり、思わず蓮華目掛けて声高に叫ぶ一刀であったが、判っていたかの様に蓮華はクスクス笑って見せると、それに吊られる様に乾いた笑い声を上げる桃香。然し、それでも二人は釘を刺す事を忘れてはいない。蓮華と桃香から散々やり込められ、一刀は己の不甲斐無さを涙ながらに嘆いて見せた。

 

 『このままでは拙かっ!』――そう判断すると、一刀は何とか無理矢理話題を変えるべく、その中心人物であった曹操の話に持って行った。

  

 

「しっ、然し、あの娘が曹孟徳か……一見小生意気そうだけど、小柄な普通の女の子としか思えなかったよ? 」

 

「そうね……母様を始めとして色んな人達から彼女の事は聞かされていたけど、まさかあんな小さな女の子が『陳留の曹操』とは到底思えなかったわ? 」

 

「うん……私もね、曹操って人に関しては蓮華ちゃんのお母さんみたいな人を想像していた。でも、実際会って見れば、あんな可愛らしい娘だったんだもの 」

 

「けど……一刀、彼女に関してどうするの? あの時の曹操の目『本気』よ? 」

 

「だよね? まさか曹操があんな事に出るなんて正直驚いちゃったかな? 」

 

「……それに関してだが、幾ら言われようとも『答え』は同じだ。俺は曹操なんかの物になる気は更々無いよ? 」

 

 

 不安そうに蓮華と桃香が窺ってくると、憮然として答える一刀であったが、彼の脳裏にその時の事が鮮明に蘇ってくる。

 

 あの後『後始末』に追われた彼女等は、慌てて華琳を着替えさせると、桃香の天幕で寝かせる事にした。暫くして意識を取り戻した華琳であったが、一刀の顔を見るや今にも殺しそうな勢いで襲い掛かった物の、何とか桃香により説得され事なきを得たのである。

 

 そして、何とか気持ちを落ち着かせた華琳は、行き成り一刀に指を突きつけ、こう声高に叫んで見せたのだ。

 

 

『劉仲郷……例え事故とは言え、お前はこの曹孟徳を穢してくれたわっ!! かくなる上は、お前は私の婿、否ッ!! 我物となり責任を取って貰うッ!! ……私の慈悲の心に感謝なさい、本来なら貴方の一物を引き千切って宦官にしてくれる所だけど、これでも大目に見てあげてるのよ? 』

 

『はぁーっ!? なっ、ナニ抜かしてんだコイツ!! アレは事故だろうに!! 大体、勝手に滑って俺の『切ない部分』に顔をめり込ませたのはお前だろうが!! 』

 

『っ……!? うっ、うるさいっ!! 私だって女よ? 私にだって『女の恥じらい』位はあるわっ!? それに……男の裸を見たのだってアンタが初めてなんだし、男相手に『あんな事』をさせられたのもアンタが初めてだったわ!? だから、アンタには私の物になる責任があるのよっ!! うっ……まだ口の中が気持ち悪いし、『気持ち悪い何か』が喉に絡んでるわ…… 』

 

『んなっ……無茶苦茶抜かしてんじゃねえっ!! この天上天下唯我独尊女がッ!! 』

 

『こっ、このーっ!! 私がそうしろと言ったら大人しく『はい』と答えればイイのよっ!! 』

 

『何だとォ!! このっ、自己中性悪ドチビがっ!! 』

 

『いっ、言うに事欠いて『ドチビ』ですってぇっ!? 良くも……良くも人の気にしている事をッ!! このチ◎コしか取り得の無い独活の大木がっ!!  』

 

『ちょっ、ちょっと二人ともやめて落ち着いてっ!! それと、華琳ちゃんっ! 一刀さんは私の大切な人なんだから勝手に持ってかないでっ!! 』

 

『そうよっ! 曹孟徳、貴女に言っておくわ! この劉仲郷は私の将来の夫なのよっ! 』

 

 

 慌てて二人の間に割って入る桃香と蓮華であったが、すかさず彼女等は一刀の前に回り込むと、彼に指一本触れさせてなるものかと言わんばかりに華琳に凄んでみせる。

 

 

『……そう言えば思い出したわ、『劉仲郷なる好色漢』の噂をね? まさか、この隻眼の大男が彼の劉仲郷だったとは正直驚きだわ? それにしても……桃香に孫仲謀、貴女達に聞くわ。何で、こんな『片目の醜男(ぶおとこ)』に惚れ込んでるのかしら? 貴女達ほどの器量良しならもっと吊り合いそうな男が居よう物なのにね? 』

 

『『……ッ!? 』』

 

 

 その言葉が火種になったのか、桃香と蓮華の口元から奥歯のきしむ音が鳴った。二人は眦を吊り上げると、華琳目掛け殺気を交えた視線をぶつける。

 

 

『華琳ちゃん……今の言葉訂正してもらえるかな? 仲郷さんは『片目の醜男』じゃないよ? この人の光を喪った右目だけど、私や皆を護った為に出来てしまった、ある意味『勲章』でもあるんだよ? だから、華琳ちゃん。一刀さんに謝って!? 』

 

『曹操……天下に名高き曹家の当主で、且つ陳留太守の要職に就いてる貴様でも今の言葉は聞き逃せぬ。貴様は我が※5情人(チンレン)たる仲郷を醜いと言ったな? どうやら、貴様の目は『表向きの美しさ』しか見えぬようだ。なら、私の方も言わせて貰うぞ? 醜いのは……『人の心の美しさ』を見極められぬ、貴様自身の方だっ!! 』

 

『クッ、言ってくれるじゃないの!? 』

 

 

 桃香と蓮華から散々詰られ、忌々しげに歯噛みする華琳。然し、それも一瞬の事で彼女は口元に手を添えると、クスクスと意地悪そうな含み笑いをして見せた。

 

 

『クスクスクス……貴女達がそこまで入れ込んでるとはね? ならば、私は力ずくで貴女達からその男を奪って見せるわ? 今は大人しくしててあげるけど、機会あらば即座に奪ってみせる! 良く覚えておきなさい? 』

 

『なっ!? 絶対に、絶対に……華琳ちゃんなんかに渡さないよっ!? 』

 

『ええ、桃香の言う通りよ? 曹操ッ! 全てが全て貴女の思い通りになると思わないでっ!? 』

 

『……あ、あのー……俺も当事者なんだけど? 』

 

『一刀さんは黙っててっ!! 』

 

『一刀は黙っててっ!! 』

 

『はっ、はひいいいいっ!! 』

 

 

 『強奪宣言』をした華琳をオッソロシイ形相で睨みつける桃香と蓮華。彼女等から放たれる『得体の知れぬ物』に堪えきれず、恐る恐る一刀が声を掛ける物の、逆に彼女等から一喝されてしまい結局は大人しく引っ込まざるを得ない。その三人のやり取りを目の当たりにし、華琳は興味深そうに目を細めてみせた。

 

 

『フフッ、随分と尻に敷いてる様ね? でも、貴女達にこれだけ想われている男……改めて興味が出てきたわ? 私はね、昔から欲しいと思った物はどんな手段を使ってでも手に入れてきたのよ。だから、何れその男も私の物にして見せるわ? その時まで、精々束の間の契りを楽しむことね? それでは、三人とも御機嫌よう。機会あらば又会いましょう?  フフフフフフフフフ…… 』

 

 

『『『…… 』』』

 

 

 そう言い残し、高らかに笑い声を上げながら去って行く華琳の背中を、三人は黙って見送る事しか出来なかったのである。後日、三人にとって華琳は共通の強敵となるのだが、まさかその彼女との出会いが、余りにも乱痴気騒ぎめいた物で始まったと言うのはこの時思いも寄らなかったのだ。

 

 

「フウッ……まっ、あんな事言った曹操だけど、取り敢えずは頭の片隅に入れる程度で良いんじゃないのか? それに、アイツが噂通りの人物なら変な真似はしないと思うし、それよりも初めて都に凱旋するんだ。ソッチの方で|へま《・・》をやらかさないように気をつけようぜ? 」

 

「うんっ……確かにそうだよね、一刀さん? そう言えば、菖蒲様や陽春老師が帝の御前に引き合わせて上げると話していたんだっけ? ウウッ……何だか緊張してきちゃったよ~! 」

 

「ええっ、確かに一刀の言う通りだわ? それと、桃香。帝の前でへまをやらかさないように気をつけるのよ? 」

 

「蓮華ちゃん……お願いだから、とどめをささないでよぉ~! 」

 

 

 重苦しい雰囲気を払拭するべく、一刀は柔らかく微笑みかけながらまた別の話題を振って見せたが、それに対し桃香は思わず顔を顰める。何故なら、陽翟を出立する日朝食の席で陽春と菖蒲から、義勇軍の代表として総大将の桃香に言葉を掛けて貰うべく、今上帝劉宏の御前に引き合わせるとの旨が通達されたからだ。

 

 無論、無位無官の上劉姓を名乗るだけの桃香に取り、これは自身の地盤を築く上では又と無い機会であった。だが、その反面何か粗相を仕出かすのではないのかと不安に襲われていたのである。

 

 意地悪く蓮華からもとどめを指すような事を言われてしまい、馬上で桃香が思い切りへこんで見せると、一刀と蓮華はこぞって笑い声を上げた。然し、その一方で――

 

 

「おいっ、何度言ったら判るかっ!? いい加減俺から離れろっ! 俺はお前の様な尻軽娘は好みでないっ!! 」

 

「やぁ~ん、そんなつれない事言わんといてぇな♪ ウチをあんなに負かした漢、アンタが初めてやったんやし、ウチは自分より強い漢にしか惚れへんのやで? それにな、ウチはまだ生娘やし、体も出るとこはバーンと出てるからお買い得やと思うでぇ~!? 」

 

「やめよっ! やれ生娘だ体だなどと、そう言う下品な物言いをするから余計好きになれぬのだっ!! 」

 

「も~う、伯やんのいけずぅ~! いいモン! だったら、霞ちゃん伯やんの寝込み襲っちゃうモンっ! 」

 

「は、『伯やん』だと…… 」

 

 

 と馬上の壮雄と轡を並べつつ、執拗に腕を絡めてくる霞こと張文遠。何故、この二人がこうなっているのかは、以下の様な経緯がある。それは昨晩の事、董家を代表する猛将の一人である霞が単身桃香達の陣へと乗り込んできたのだ。

 

 

『劉玄徳はんの義勇軍ってここやな? ウチは西涼の張文遠ッ!! ここに関羽って奴がおるやろ!? ウチは関羽と勝負がしたいんや! せやから、はよ関羽を出しぃや!! 』

 

 

 何と、何処で嗅ぎ付けてきたかは知らぬが、霞の目的は愛紗と勝負する事だったのである。勢い良く啖呵を斬ってみせる霞であったが、そんな彼女の前に一人の美丈夫が立ちはだかった。

 

 

『夜遅くに勝負を挑むとは、貴様には常識と言う物が無いのか!? その雲長だが、生憎今『休んで』いる。悪い事は言わぬ、『味噌湯(ウェイツァンタン)』で顔を洗って、一昨日出直して参れッ!! 』

 

 

 その美丈夫であるが、その時当直を担当していた壮雄で、彼は何時も通りの獅噛兜に白銀の鎧の軍装姿で並々ならぬ威圧を放っていたのである。因みにこの時の愛紗であるが……

 

 

『かっ、一刀様ぁ~~!! 』

 

『ムッシュムラムラァ~~!! 』

 

 

 と一刀と『一騎討ち』に励んでおり、この時二人の『打ち合い』は百合目に入ろうとしていたのだ。

 

 

『随分言ってくれるやないかいッ!! お前は一体何モンやっ!? 』

 

『俺か? 俺は馬越、字は伯起。玄徳殿の下で武を振るう者の一人に過ぎぬ 』

 

 

 然し、流石は霞である。壮雄の威圧に怯むどころか、却って自身の闘志を燃え上がらせて見せると、ギンと鋭い眼光を両目に宿して睨み返してみせた。『中々いい目をしている』――そう思うと、壮雄は霞に名乗りを上げ、不敵そうな笑みと共に口角を吊り上げて見せる。

 

 

『馬越やとぉ? そう言えば、武威の馬寿成はんからそんな名の奴が劉玄徳はんの下に居るっちゅう話を聞かされた事あるわ。それに、確かあんさんもめっちゃ強いとも聞かされてるでえ? ほな、決めたわっ!! 関羽の代わりとして、あんさんと勝負したろうやないかっ!! 』

 

 

 どうやら、琥珀から壮雄の人となりを聞かされていたらしい様で、壮雄の名を聞いた瞬間彼女の興味は愛紗から彼に移った。彼女は愛用の得物『飛龍偃月刀』をビュンビュンと振り回すと、ガシリと音を立ててそれを小脇に抱えて見せ、壮雄目掛け大声で叫ぶと勝負を挑んだのである。

 

 

『……判った、お前がそう申すのならその勝負受けてやろう。おいっ、もっと篝火(かがりび)を焚けッ!! これでは暗過ぎて勝負にならぬわっ!! 』

 

『ははっ!! 』

 

 

 それを受け、一瞬言葉を失う壮雄であったが、ここまで来た以上収める事は出来ぬかと判断するや、彼はそれを受ける事にしたのだ。そして、傍らに控えていた当直の兵に命じると、自分達の周囲に大量の篝火を配置させたのである。

 

 

『さあっ、これで問題は無かろう? ならば、貴様の武どれだけの物か見せて貰うぞ!? 』

 

『ほへぇ~! アンタも結構判っとるやん? ほな行くでぇえええええええええええっ!! 』

 

『望む所よっ! この俺の剛槍を受けて見るが良いッ!! 』

 

 

 兵達が固唾を呑んで見守る中、霞と壮雄は激しく打ち合った。打ち合いが進むにつれ、兵の間からも熱気が沸き起こり始め、『(チョン)ーッ!!(突っ込めーッ!!)』『(シャン)ーッ!!(行けーッ!!)』等との喚声が飛び交うようになったのである。

 

 

『ほほう? 流石は西涼董家が誇りし猛将の一人だけはあるようだな? 中々いい太刀筋だ!! 』

 

『にゃにおうっ!! 余裕こいてられんのも今の内だけやでっ!! 』

 

 

 余裕を浮かべる壮雄に対し、感情を露にする霞。彼の態度に頭に来たのか、霞は更に激しく壮雄に打ち込んだ。

 

 

『うりゃあああああああっ!! せやあっ、はあああああああっ!! このっ、さっさとくたばらんかいっ!! 』

 

『どうしたどうしたあっ!? それで本気を出した積りかっ!? これなら関羽や張飛の方がもっと強く打ち込んでくるぞ!? 』

 

『くっ……!! ええ加減黙らんかいっ!! ゼーッ、ゼーッ、ゼーッ…… 』

 

 

 然し、幾ら霞が激しく打ち込もうが、対する壮雄は汗一つかいていない。この時、霞は熱くなる余り冷静さを欠き始めていたのだ。オマケに、ここまでになってくると打ち込みも全て力任せになっており、いつしか彼女は肩で息をするようになっていたのである。

 

 

『どうやら息切れの様だな? ならば張遼よ!! 『幽州の玉馬越』と呼ばれしこの俺の本気の剛槍ッ! とくと受けて見るが良いッ!! 』

 

『なっ、何やとおっ!? 』

 

 

 それを見逃さぬ壮雄ではなかった。彼は剛槍をビュオウッと一振りして見せると、勢い良くそれを小脇に抱え、両足をグッと肩幅に開き、左手を前に突き出して構えて見せるや『コオオオオオオオッ』と大きく息を吐く。彼のその姿は、獲物を一気に一呑みにせんとする猛獣宛らであった。

 

 

『どうりゃあっ!! 』

 

『ちょっ、なっ、何やのそれっ!! イカサマやんっ!! 』

 

 

 叫びと共に繰り出した壮雄の突きであったが、それは恐ろしいほどの威圧感を放っている。同じ槍使いの雲昇の突きが天空に煌く雷光なら、壮雄の突きは正に荒野に吹き荒れる竜巻その物であった。

 

 武人として数多の死線を潜ってきた霞であったが、これは避け切れぬと直ぐに判断すると、彼女は得物で何とかそれを捌こうとする。然し――

 

 

『あうっ!! 』

 

 

 結局捌き切れず、霞は得物を弾き飛ばされただけでなく、その勢いでもんどり打って転がされてしまった。何とか受身を取り、直ぐに起き上がろうとする物の、彼女の面前には壮雄の剛槍が突きつけられていた。

 

 

『どうやら、勝負あったようだな? さぁ、悪い事は言わぬ。他の者に気取られる前に、早々にここを立ち去るが良い 』

 

『くうっ……悔しいけど……ウチの負けやッ! 』

 

 

 悔しげに呻く霞であったが、この時思いもよらぬ出来事が彼女を襲う。どうやら、壮雄の技のキレが鋭すぎた所為か、彼女の髪留めが砕けて一気に髪が解けてしまい、それどころか彼女の胸を巻いていたサラシにスッと切れ目が入ってしまうと、そこから弾ける様に彼女の大きな乳房が飛び出してしまったのだ!!

 

 

『なっ!? 』

 

『ヒッ、いっ、いややああああああああああああああああっ!! 』

 

 

 思わず壮雄の目がそこに行ってしまうと、霞の方も溜らず両腕で胸を隠して人知れず大声で悲鳴を上げてしまう。前世で『蜀の五虎将』の一人に挙げられ、『西涼の錦馬超』とまで謳われた流石の壮雄でも、これにはひとたまりも無かったのだ。

 

 

『見っ、見たんっ!? ウチのお、おおおおお、オッパイ見たんかーっ!? 』

 

『斯様な状況では目に入るのは当然の事であろうが!? 今更何を抜かしているっ!? それよりも、斯様な物を曝け出すな! ここには女に餓えてる男どももいるのだ。これで早く隠すが良いっ! 』

 

『…… 』

 

 

 目を逸らしつつ、壮雄が自身の纏っていた戦袍をそっと霞にかけてやると、彼女の顔が見る見るに赤らんでくる。それは、まるで恋する少女宛らのようであった。

 

 

『ふ~ん、女のオッパイから直ぐ目ぇを逸らすなんて、アンタ意外とかわええトコあるんやね? 』

 

『ばっ、馬鹿を申すなっ!! 俺はそれなりに立場のある人間だ。然るに、女の乳房を凝視し続ける訳にも行かぬ。さぁ、判ったのなら早く自陣に戻るが良いぞ? 』

 

 

 ばつが悪そうにそっぽを向いてみせる壮雄に、霞は蠱惑的な笑みを浮かべて見せると、彼女はすすーっと彼に擦り寄ってみせる。すると、彼女は彼にボソッと小声で囁いて見せた。

 

 

『ウチ、強いけどかわええとこあるアンタに惚れてもうたわ。せやから、ウチの真名をアンタに預けたるわ。ウチは霞ちゅうねん。せやからアンタの真名を教えてぇな? 』

 

『なっ、何を言うかこの娘っ!? 行き成り惚れただの真名を教えろだのと、一体何を考えているのだっ!? 』

 

 

 壮雄の圧勝かと思われた一騎打ちであったが、思わぬ所で形勢逆転が入る。霞の雰囲気に壮雄は完全に及び腰になってしまい、霞は霞で壮雄に『構って~』と甘える猫の様にじゃれ付き始めていたのだ。

 

 

『ちいっ!? これ以上俺を梃子摺らせるなっ!! さあっ、判ったのならとっとと帰れっ!! さもなくば今度は本気で殺しに入るぞっ!? 』

 

『あんっ、もうっ! 伯起のいけずぅ~~!! 』

 

 

 『これ以上この女の毒気に中てられてなるものか!』――そう思うと、壮雄は乱暴に霞を払いのけ、面白く無さそうに唇を尖らせる彼女に一瞥もくれずに、足取り荒くこの場を後にしたのである。

 

 然し、当の霞本人は全くと言って良い位懲りては居なかった。彼女はその翌朝からも劉家の陣に押しかけ、『はーくーきーちゃーん、あーそーびーまーしょー!』と大声で呼び掛けると、イイ加減ウンザリと言った表情の彼にずーっとベッタリくっ付いてたのである。

 

 

「全く……何でこうなってしまったのだ……固生は白蓮と『良き仲』になれたのに対し、俺は斯様な女に勝手に惚れられるとは…… 」

 

「なぁなぁ、伯やん。都に着いたらウチと遊ば(・・)へん!? 若し何やったら、別の『遊び』でも無問題(モウマンタイ)やでぇ~! それに……伯やんだったら、ウチの操どころか、ウチしか夢中になれへん様にしたるさかいになっ!? 」

 

「生憎だが、俺にその様な気は無いぞ? 頼むから少し黙ってて居てくれ…… 」

 

「もうっ、相変わらずツンケンしとるんやからぁ~!! ぶーぶー!! 」

 

 

 然し、この時ばかりは流石の壮雄も、霞の熱烈な責めに辟易していたのだ。そんな二人に近寄ってくる二つの騎影がある。それは固生と白蓮であった。

 

 

「良かったですなぁ、兄上。情熱的な彼女が出来たようで? 弟としては真に嬉しい限りです 」

 

「ああ、結構お似合いじゃないのか? 張文遠と言えば、西涼董家に名高い猛将で且つ『神速の張遼』の異名を持っているし、『幽州の玉馬越』と謳われる位の壮雄殿と釣り合いが取れそうに思えるんだが? 」

 

「んなっ!? 固生に白蓮ッ! 二人とも一体何を抜かしているのだ? これのどこが『お似合い』だと言うのだ!? 俺は断じて認めぬぞっ!! 」

 

「ふぅ……兄上、もう少し現実を見ましょうよ? 」

 

「そうだな……壮雄殿、これを逃したら壮雄殿に言い寄る娘は今後でなくなると思うぞ? 」

 

「ッ~~~!! 」

 

「ホラ見てみ? 弟はんの方が伯やんより判っとるやん~♪ やっぱウチと伯やんは結ばれる運命だったちゅう訳やねん♪ 」

 

 

 正に『勝ち誇った者』の顔をした固生に対し、白蓮は本当に心配するかのように真顔で壮雄を見やる。この二人の有り様に、壮雄は複雑な想いで歯噛みすることしか出来なかったのである。

 

 

 

※1:光武帝の時代の群雄の一人。赤眉の乱の混乱に乗じて益州を支配して地方王朝を建てたが、後年光武帝により滅ぼされた。

 

※2:曹操の幼名。『吉利(きつり)』とも呼ばれている。

 

※3:玉がこすれあって美しく鳴り響く様。美しい詩文を例える意味の言葉。

 

※4:ビールの中文訳。

 

※5:愛しい人とか恋人の意味。

 

【『(チョン)』や『(シャン)』等のスラングの情報提供】:故郷を離れ、中国の地で奮闘されてる代給品様。

 

 

 

 

 最後に、余談であるがここに劉家軍の人間及び孫家の協力者達の身長を列記しておく。一尺は約23.3センチ、一寸はその十分の一で約2.33センチの設定にしている。

 

 

 桃香:七尺(164センチ) 

 

 一刀:八尺二寸弱(190センチ)

 

 蓮華:七尺一寸弱(165センチ)

 

 一心:七尺八寸強(182センチ)

 

 雪蓮:七尺五寸強(175センチ)

 

 愛紗:七尺四寸(172センチ) 

 

 鈴々:六尺三寸(146センチ) 

 

 星:七尺三寸(171センチ) 

 

 紫苑:七尺五寸(174センチ) 

 

 翠:七尺四寸(172センチ) 

 

 蒲公英:六尺七寸強(157センチ) 

 

 朱里:六尺三寸強(148センチ)

 

 雛里:六尺三寸(146センチ) 

 

 松花(そんふぁ):六尺九寸(161センチ)

 

 義雲:九尺一寸(210センチ) 

 

 義雷:八尺三寸弱(193センチ) 

 

 雲昇:八尺(186センチ)

 

 永盛:七尺九寸強(185センチ) 

 

 壮雄:八尺三寸弱(193センチ) 

 

 固生:七尺七寸強(180センチ)

 

 照世:七尺九寸(184センチ) 

 

 喜楽:七尺六寸(177センチ) 

 

 道信:八尺(186センチ)

 

 祭:七尺三寸(171センチ)

 

 明命:六尺五寸強(153センチ)

 

 小蓮:六尺三寸強(147センチ)

 

 創宝:七尺六寸(177センチ)

 

 優里:六尺四寸(149センチ)

 

 

【オリキャラ情報】

 

姓名:東方朔(とうほうさく) 字:曼倩(まんせん)

 

特徴:ずんぐりむっくりした体格。いつも黒尽くめの服装をしており、口元は笑ってるが目は笑っていない。笑い上戸なのか、よく『オ~ホッホッホ』と高笑いをしており、時折『ドーンッ!!』と声高に叫ぶこともある。欲深な奴を破滅に追い込むのが好きらしい。

 

統率:オ~ホッホッホ! 武力:ドーンッ! 知力:オ~ホッホッホ! 政治:ココロのスキマ、お埋めします。魅力:オーッホッホッホッホッ!

 

外見イメージ:世界的に有名な二人組の漫画家の片割れが描いた『セールスマン』

 

CVイメージ:大平透

 

 

姓名:劉洪(りゅうこう) 

 

職業:屋台の親父

 

特技:麺の湯切り。大抵の麺料理が作れる。

 

特徴:でっぷりした体格で、怪しげな語り口調。時折語尾に『にゃも』が入っていたとの証言が。

 

外見イメージ:『葉っぱ』が誇る大河ロマンゲームに登場した、嘗ての『聖上』さん。但し、こちらの方がお目々が綺麗。

 

CVイメージ:大川透

 

 

姓名:汪銀嶺(おうぎんれい)

 

職業:屋台の女将

 

特技:スマイル100%の接客。スマイルなら0ゴールドで提供されます。旦那には及ばないが、ある程度の麺料理ならこさえられる。

 

特徴:ほっそりした体型の美人。お上品な雰囲気の持ち主。然し、彼女も時折語尾に『にゃも』が入っていたらしい。

 

外見イメージ:先述のゲームに登場した女主人。

 

CVイメージ:田口宏子

 

 

 

 

【一言】:この作品を投稿し、寄せられる感想や意見の中に『男の魏延と焔耶を早く出せ』と言うのが良く見られますが、焔耶の方は出すにしても第三部以降と決めていました。

これに関してですが、既に話の流れは決めておりますので、それを無視した事はあんまりしたくないんですよね。

 

 男魏延に関しては……正直出す気無いんですよね。扱いづらいなと思ったのと、彼を出してしまうと今度は男の厳顔出せって話になりますから。演義や横山三国志の影響で悪役のイメージが定着してる彼ですが、実際は優れた将だと言うのは存じております。かの陳寿からも「彼の行動は謀反目的ではなく政敵抹殺にあった」とフォローされておりますが、その一方で「災いを招き咎を受ける羽目になったのは自らの責任ではないとも言える」と言われてるんですよね。

 

 自分の私見ですけど、戦上手であったが性格に難があり且つプライドも高かったから、諸葛亮から見れば可也扱いづらかったのではないのかと思います。

 

 他にも『貴方の場合、『僕が考えた綺麗な蜀』を書きたいだけじゃないのか?』なんて手厳しい意見も寄せられましたけど、こればっかは甘受するしかありません。とどのつまり、自分の書きたい物を書いてるにしか過ぎませんから。

 

 さて、にじファンに載せていた照烈異聞録ですが第二部もあと一話で終わりです。今チョボチョボと第三部の最初の話を書いてる最中です。まぁ~~~あっちこっちで『俺の蜀TUEEEEE!』『チートの嵐』だなんて叩かれてますが、それでもあっちこっちのサイト駆けずり回って資料を集め、他にもそれ関連の本買ったり、中国語関係のサイトとか覗いてピンイン発音を調べ、更には武器関連のサイトも調べたりと、それなりに心血を注いでおります。

 

 矢張り、人を叩くよりこうやって何かに一生懸命取り組んでいた方が気持ちが良いですよねェ~。それでは、これにて失礼!


 
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