夜天の主とともに 14.親睦
健一side
夏休みも半分過ぎたころ、時刻は夕暮れ時。
俺はリビングの窓際、夕日が射し込む場所でジェットナックルを磨いていた。使ってやれる機会がないからせめてコイツのマスターとして磨いてやろうと思ったのだ。
「ごめんなジェットナックル。デバイスなのに使ってやるようなことなくて」
〈お気になさらずにマスター。私が使われないということは平和だということに他ならないのですから〉
「そう言ってくれるとありがたいよ。……なんかもっと好戦的なやつかと思ってたよ」
〈そんなことないですよ。私は戦わなくて済むのならそれが一番だ思います〉
「奇遇だね、俺も争い事は苦手なんだ」
〈似てますね、私たち〉
「……ふふ、そうだな似た者同士だ」
会話が止まりキュッキュッ、と磨く音が響く。こういう時間がけっこう好きだったりする。
〈騎士たちはどうしたのでしょうか?〉
「ヴィータは確か公園の方でゲートボールしてくるとか言ってたな。シグナムとシャマルははやてと一緒に夕ご飯の買い出し」
〈そうですか。‥‥騎士たちは本当に変わりました〉
「確かに初めて会ったときに比べたら変わったかな。ジェットナックルは昔のみんなを知ってるの?」
〈はい。私は闇の書とともにありましたから〉
昔のみんなか‥‥‥。俺は今のシグナムさんたちしか知らないから想像もつかない。何度も闇の書と一緒に転生を繰り返していたってことは聞いてたけど。
「どんな感じだったの?」
〈‥‥‥すいません、私も映像記録などは残っていません。ただ言葉で表すなら‥‥鋭くとがった刃物のような雰囲気でしたね〉
「そうなんだ。でも戦ってたことはジェットナックルも活躍としてたんでしょ?」
〈‥‥‥いえ、私は|一度も《・・・》使われることなく闇の書の中にありました。だから騎士たちも私を見たことがないのです〉
ジェットナックルの音程が若干沈む。マズイ、なんか地雷を踏んだっぽい。なんとか話題を変えないと‥‥‥‥‥。
普段あまり使わない頭をフル回転させてなんとかフォローなる言葉をひねり出そうとした。が、悲しいことになかなか捻り出てこない。
そんな姿を確認したのか情けないことにジェットナックルが助け舟を出してくれる。
〈先ほども言いましたがマスターがお気になさることはないです。昔は昔ですし、今はこうしてマスターとも出会えました。ずっと思っていたんです。マスターとするならあなたかはやてさんだと〉
「そこまで言われると照れるんだけど。にしてもずっとって?」
〈マスターがこの家に初めて来てからというもの私はずっとはやてさんとマスターを見てきました。今まで見てきたどの人間たちとも違うその穏やかさと優しさに惹かれました。そして思ったんです、マスターとするならばあなたかはやてさんだと〉
「ふ~んそうなんだ。まぁこれからもよろしくな。」
〈はい〉
いい相棒だなと思いながら俺はまた磨くことに没頭した。その途中でふと視線を感じた。リビング見回したが今は誰もいない。そこで窓の方を見ると視線の主がいた。
それは猫だった。塀の上でこちらをじっと見ている。
(そういえば俺が初めて来たときからもちょくちょくこの猫見かけた気がするなぁ。‥‥‥‥飯でもほしいのかな?)
「どうした健一?」
「ザフィーラさん。いや、あそこに猫がいて‥‥」
指をさしながら視線を戻すと猫はすでにいなくなっていた。
「いないようだな。」
「ですね。どこ行ってたんですか?」
「少し気分を晴らしに外に出ていた」
それを聞いてザフィーラさんが外を1人で散歩している姿を想像してみる。‥‥‥うん、なんかいろいろと危ない気がする。
「それはそうとデバイスの手入れか?熱心なものだな」
「使ってやれない分せめて磨くぐらいはって思って。そういえば前にも聞きましたけどザフィーラさんってデバイス使わないんでしたよね?」
「ああ。私は盾の守護獣だからな。戦うときは己の拳と蹴り、あとは防御魔法で守ることだからな。デバイスは必要としない」
「じゃあ‥‥俺に戦い方を教えてくれませんか?ジェットナックルは拳装着型だから戦い方似てると思うんです」
そういうと驚いたのか目を大きく見開いてた。そして少し何かを考えるような仕草をしてから言った。
「健一。シグナムやシャマルが騎士になってみないかと言ったそうだが……お前はなる必要はないのだぞ」
その真剣さを帯びた言葉に俺は思わず背筋をピンとした。ザフィーラさんに向き合うように座りなおして話を待った。
「この地球という世界は本当に良い場所だ。辺りが戦乱と狂気の渦に飲み込まれておらず、静かで穏やかだ。ここまで平和の世界は私は…いや私たちは見たことがない」
「…ザフィーラさん」
「そして此度の主は心優しきお方だ。我々に家族というとても大切でかけがえのないものを教えてくださった。無論健一、お前からもだ」
そう言うと突然ザフィーラさんが深く頭を下げてきた。そのことに当然俺は驚き慌てふためいた。
「ザ、ザフィーラさん頭上げてください」
はやてもこのことを聞きながらこれを見たらきっと同じようになっていたに違いない。何とか頭を上げてもらうように少しの間説得し、ようやく頭を上げてくれたところで話は再開された。
「確かにシグナムたちが言うようにお前には素質がある。しかし、素質があるからと言ってやらなければならないということはない。お前は体が弱いのだろう?無理をしてまでやることはない」
一しきり話したのか黙ったザフィーラさんを見ながら俺はその言葉を頭の中で何度も繰り返しながら考えた。そして俺の答えは出た。
「心配してくれてありがとうございます。でも違うんです。確かにきっかけはシグナムさんたちの言葉ですが、今はまだ全然だけどいつかははやてを守れるぐらい強くなりたいんです」
「まぁ戦うことがないとは思うんですけどね。戦い方を教われば心も鍛えられるかなって………ダメですか?」
俺の言いたいことは言った。この言葉をザフィーラさんがどう結論付けてくれるか。俺は固唾をのみながら答えを待った。そしてザフィーラさんが俯かせていた顔をあげた。
「…………いいのか私で?私は守りを重きに置いているのだが」
「だからこそです。誰かを守るっていう心構えこそ俺が一番知りたいことですから」
ザフィーラさんは少しの間考えるように俯いた。
「……そうだな、どこまで教えられるかわからんが心得た。私の教えられる限りのことは教えよう。ただひとつ、これからはさん付けはよせ。あと敬語もだ」
「いやでも、なんかこれ俺の癖っていうかなんというか」
「…………」
「…わ、わかった。じゃああらためてよろしくザフィーラ」
〈よろしくお願いします、ザフィーラ〉
「ああ」
健一sideend
そんな様子を遠くの塀から見ていたものがいた。それは一匹の猫で健一が見た猫だった。
猫はまるで家の中を監視するかのように場所を変えながらもその視線は八神家の一点のみを捉えつづけていた。
その視線はおおよそ猫がするようなものではなく何か憎しみのようなものが込められているようだった。
猫はしばらくの間その場で見続けていたが突如何かに気付いたようにピクンと頭を上げ空を見上げた。
そして何に対してか頷くとその猫は光に包まれ虚空へと消え去った。
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まだ日常編っす