真・恋姫✝無双~だけど涙が出ちゃう男の
[第22話]
「……この決着は……いずれ……つける…からね?」
ボクは息を切らせながら、北郷との言い争いを一時中断する
流石に息が切れてきましたし、まだ趙雲達との話し合いが終わっていないからです。
「……望む……ところ…だ…」
彼も息が切れて苦しそうでしたがボクの提案を受けてくれました。
ボクたちは、それぞれが居た場所に戻って白湯を飲んで
暫く息を整えてからボクは改めて趙雲たちに話しかけていきました。
「さて、待たせて済まなかったね」
「良いってことよ、兄ちゃん。結構、面白かったぜ? まあ、あんな寸劇じゃあ御代は払えねえけどなぁ」
「はい?」
ボクの聞き違いでしょうか?
程立から、何やら乱暴な言葉が発せられてきました。
「……程立には、何か気に障ることでもあったのかな?」
ボクは程立に不作法なことをしたのか問いかけました。
そんなボクに彼女は、何事もなかったように答えてきます。
「いいえー。風では無くて、
「宝譿?」
「はいー」
どうやら彼女は、自分の頭の上に在る人形に名前をつけて『宝譿』と呼んでいるみたいでした。
(まあ、重箱の隅をほじくることも無いでしょう)
ボクはそう思い、深く追求することを止めました。
人の趣味にケチをつける必要もないと思ったからです。
「それで皆は、これからどうする積もりなのかな? 仙女ではないけれど、ボクに仕えてくれるのなら歓迎するよ?」
ボクは気を取り直して、趙雲・戯志才・程立の3人を勧誘してみました。
史実では青史に名が刻まれているほどの人物たち。
配下になって貰えるのなら喜ばしい事だとボクは思いました。
「そうですね……。正直に言いまして、季玉様の力量を測り兼ねております」
戯志才がボクに返答してきました。
他の2人も頭を上下させ、同意を示します。
「……そうか。まあ。残念ではあるけれど、無理強いはしないから安心すると良いよ」
望みが薄そうな彼女たちの返答に、ボクは強制することは無いと告げました。
そんなボクの言葉に、戯志才は続けて話してきます。
「それで、どうでしょう。客将として雇って頂けないでしょうか?」
「客将?」
「はい。客将として雇って頂ければ、働いている内に互いの力量も分かって来ると思いますので」
「ふむ……」
彼女たち3人は気にかかる諸侯に客将として働いて、仕えるに足る人物を探しているようでした。
旅の路銀も稼げて一石二鳥なのかも知れません。
ボクは暫く熟考してから、そんな彼女たちに自身の決定したことを告げます。
「そういう事なら、申し訳ないけれど君達の勧誘は止めることにするよ」
ボクが断りの言葉を告げると3人は一様に驚きを
自分たちの提案が断られるとは思っていなかったようです。
「ほおぅ。季玉殿は我らの提案を御断りになると、そう
そんなボクに趙雲は、興味深い者を見付けたかのように楽しげに話してきました。
ですがその目は笑っておらず、舌舐めずりしている猛虎のようです。
「そうだよ」
「何故でありましょう? これでも我らは、それなりに役に立つと思うのですが」
「別に、君達の実力を疑っている訳じゃないよ?」
「……」
趙雲はボクに視線を合わせ、虚言を許さぬ気迫を持って対峙しています。
しかたがないので、ボクは3人に自身の考えを話すことにしました。
「知っているか否かは分からないけれど、ボクには誇れるほどの知力も武力もありはしないんだ」
「そうなのですかー?」
程立がボクの言葉の真偽を確認してきました。
ボクは彼女に目を向けて話していきます。
「うん、そうなんだ。だから、こんなボクに従ってくれている者たちへ、必ずしようと心に決めている事があるんだ」
「決め事ですかー?」
「うん。それはね、例えどんなことが起きようと、“信頼”と“感謝”だけは忘れないようにすること」
「……」
ボクは自身の心の内を
「ボクには
ボクは趙雲・戯志才・程立の3人を見廻し、言葉を
「客将というのは腰かけにしか過ぎない存在だ。なにか不都合な事があれば、どこかへ去ってしまう。そんな者たちに信頼は置けないし、感謝など出来る筈もないだろう?」
「我らは、そんなつもりで言った訳では……」
戯志才がボクの言葉を受けて、語尾を濁しながら小さく反論してきました。
ボクは、そのまま彼女たちに話し続けます。
「別に君達のことを、そうだと言っている訳ではないよ? ただボクが客将という存在を、そのように思っているというだけの事なんだ」
「「「……」」」
「それにね。華陽軍の将兵たちはボクにとって大事な仲間であり、家族なんだ。そんな大事な者たちを、根無し草の客将に指揮を委ねる訳にはいかない。だから、君達の提案を断るという訳なのさ」
ボクが3人に話し終えると、彼女達は黙ってボクの言ったことを
暫くの間、焚き火に使用している薪の弾ける音だけが聞こえていました。
「季玉の為したいことって、何なんだ?」
今迄黙って話しを聞いていた北郷がボクに疑問を呈してきました。
ボクは彼と向き合ってから話しをしていきます。
「そうだね……。一言で言うのなら、『在り方を問う』と言ったところかな?」
ボクの言葉に北郷は意表を突かれたようで、小さな驚きを
彼は続けてボクに話しかけてきます。
「在り方って、どういう事なんだ?」
「価値観や見解を自分以外のモノに預けていた今迄の概念を変えて、全ての出来事を自身で感じ方を決めて体験していくという事かな?」
北郷はボクの言ったことを、余り良く理解出来ていないようでした。
だからボクは、彼に詳しく説明していきます。
出来事は、ただそこに“在るだけ”の中立の存在である事。
それを“良い事”や“嫌な事”にしてしまうのは、自分の見解や感想といった“思い”が先にあって、そうなってしまう事。
もし自分の感じ方を統御したいのならば、頭で何も決めつける事をせずに、身体の感覚を感じて見詰めるという方法がある事。
そして“事実”と“感情”を一つのモノと誤認している“思い”を、“隙間”を創ることで分ける事。
“事実”は自分以外のモノだから変えられないので、“感情”を味わって受け入れる事。
などを話していきました。
「だからボクは、新しい概念を人々に伝えて『在り方を問う』のさ。自分以外のモノに権利を委ねて感じ方を任せるのか、それとも自分で責任を取って感じ方を自身で決めるのかという事をね」
ボクは続けて皆に向けて話していきます。
「そして。人生に良い事や嫌な事が存在しないという事は、“幸福”や“不幸”も存在しないという事を意味するんだ」
皆は一瞬、ボクが何を言ったのか理解出来ないようでした。
ボクは、それを踏まえて皆に話していきます。
「何故なら人は、人生で起こる“良い事”を“幸福”とし、“嫌な事”を“不幸”として人生を体験しているから。
しかし人々は、その事に気付かずに“権利”を預けてしまっている。“幸福な事”があれば幸福になり、“不幸な事”があれば不幸になると思ってしまっているんだ。
そうやって長い年月に
「「「「……」」」」
「人は不安に
何故なら、問題を生み出したのと同じ意識水準では、その問題を解決することは出来ないから」
「「「「……」」」」
「だから、“不幸な事”だと思っている出来事を“事実”と“不安”とに分ける。そして不安と言う感情を受け入れることで、事実を“在るだけ”の存在だと
そして、ボクは皆に結論を伝えていきます。
少しでもボクの想いが、皆に伝わってくれることを祈る気持ちで。
「人生には、幸福も不幸も存在しない。
ただ、中立の出来事を幸福な事や不幸な事にしてしまっている、自身の“思い”があるだけなんだ」
ボクに誰一人言葉を返すことは無く、沈黙が辺りを包みこんでいます。
それぞれが自身に問いかけているようでした。
ふと焚き火に目を向けると、炎が細くなって来ているのが見て取れます。
ボクは薪をくべ足しすべく、焚き火の方へ向かって行きました。
「……でも。その方法で本当に
薪をくべ足しして元の場所に戻ったら、北郷がボクに自分の疑問を問いかけてきました。
ボクは彼の問いに答えていきます。
「例えば北郷。君は今、見知らぬ世界へ飛ばされて来て不安だし、自分の人生は不幸だと思っているだろう?」
「それは……」
「別に、取り
北郷はボクの返答に黙ってしまい、口を
ボクは続けて彼に話していきます。
「でもね。そうやって不安を感じ続けていては、君の人生は不幸のままだ。そして人生で起こる出来事は、その思いを裏付ける証拠として君には感じられてしまう。
何故なら中立の出来事は、常に自身の思いで変えられてしまうから」
「……」
「一方、君の思いを変えて定義し直せば人生は変わる。
例えば『普通の人生ならば、過去に行くなんてことは出来なかった。なんて運が良いのだろう』とかにね。そうすれば、君に起こる出来事は全てが楽しい喜びに満ちた体験になり、素晴らしい人生に感じられるだろうね」
北郷はボクの返答に考え込んでしまいました。
ボクはそんな彼に言います。
「勿論、この概念を受け入れるか否かは、君が決める事だよ? それは君の権利なのだからね。ボクは強要も強制もしない」
「……」
「ボクはこの概念を人々に伝えて、問いかけるだけなのさ。『どう在りたいか?』という事をね。そして、人々が選択出来るように領内を守り発展させて、気付きの『わ』を広げて行く。
それが、ボクの為し遂げたいことだよ」
ボクは自分の想い、為したいことを皆に伝えました。
後は皆に判断を委ねます。
何故なら何かを考えて主張することまでは自身の権利ですが、それを他のモノに押し付けることは出来ないと思うのです。
他のモノの主張を受け入れるか否かを決めるのは、自身の権利に他なりません。
ボクは自分の意に沿わぬことを他のモノから強要されるのを好まない。
だから他のモノに対しても同様にしたいと考えていました。
「……く、くくく……はははは!」
暫く誰も言葉を発することが無かった静寂さに、趙雲の笑いを耐えている声が聞こえてきます。
その笑い声は次第に大きくなって、
そして趙雲はボクに豪快な笑顔で話してきます
「いやはや、これは愉快! この趙子龍、貴殿に巡り会えたことを天に感謝したい気持ちで一杯ですぞ!」
「そうかい?」
「左様! 古来より武力を持って大陸を支配・統治した英傑は数知れぬが、概念の変更を持って事を為した者など居りませぬ。
まさに、前人未到! 季玉殿は、
趙雲はボクの目前に歩いて来て、地面に片足を着けて両手の指を胸の前で組み合わせて、お
その顔は、さきほどとは打って変わり真剣そのもの。
そして彼女の瞳の眼光は、決意の表れを示しています。
「どうかこの趙子龍を、旗下にお加え下され。我が槍を捧げ、
「……良いのかい?」
「御意」
「では、これから君の力をボクに貸して欲しい。趙子龍」
「はっ。ありがたき幸せ」
趙雲はお辞儀するのを止めて顔を上げ、ボクと視線を合わせてきました。
彼女の口元は微笑しており、瞳は澄んでいます。
ボクたちは暫く目と目で語り合っていました。
「ずるいですよ、星。抜け駆けとは」
「そうですよー」
戯志才と程立が趙雲の後ろから文句を言ってきました。
でもその顔は微笑んでおり、思いは言葉と裏腹のようです。
「何を言う、稟。こういう事に、後も先も無いではないか」
趙雲は立ち上がって同じく微笑みながら2人に反論しました。
視線を少し趙雲と交わし合った2人は、ボクに拱手をして話しかけてきます。
「私の本当の姓は郭、名を嘉、字は奉孝です。故あって偽名を名乗りました事、先ずお詫び申し上げます。また、浅はかな申し出も取消させて下さいませ。どうか私も、劉季玉様の旗下にお加え下さいますよう御願い申し上げます」
戯志才と名乗っていた彼女は、ボクに自身の本名を告げてきました。
続けて程立がボクに話しかけてきます。
「風の本当の姓は程、名を昱、字は仲徳と言うのです。稟ちゃんと同じく、旗下に加えて下さいー」
戯志才・程立改め、郭嘉と程昱はボクの配下になる事を望んでいるようでした。
ありがたい事です。
「ボクに2人の力を貸して貰えるのなら、嬉しく思う」
「はっ。ありがとう御座います」
「ありがとうございますー」
ボクは頼もしい仲間たちと出会えて、一緒に事を為して行けることに感謝の気持ちで一杯でした。
例え一人で出来ないことであったとしても、皆と共にならば出来る気がします。
「ご主人様。どうぞ、この
諸葛亮が用意した杯を皆に配っていきました。
気を利かせて固めの杯の準備をしてくれたようです。
将来は良いお嫁さんになるに違いありません。
杯に御酒が注ぎ終わったのを確認して、ボクは皆に告げていきます。
「新しい仲間との出会いを祝して。『乾杯』!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
皆で杯の御酒を呑んでいきます。
すると、趙雲・郭嘉・程昱の瞳が大きく広がって何やら驚いているようでした。
「どうかしたのかい?」
ボクは驚いている3人に問いかけてみました。
趙雲が代表して返答してきます。
「いやなに。この酒の味に少し驚きましてな。神仙の水のように
「ふふっ、そうかい? この御酒はね、ボクの所の自信作なんだ。結構評判が良いんだよ?」
華陽の酒が思いの外、世間に評判が良いことをボクはちょっと自慢しました。
「この味ならば、うなずける話しで御座いますな。……しかし、酒のアテが無いのは残念でござる」
「そうかい? ……じゃあ、酒の肴に保存食のメンマでも食べる?」
「なんと?! メンマが、あるのですか?!」
「うん。ボクの所でね、新しい調味料で漬けたメンマを作ったんだ。それを持って来ているから、食べてみるかい?」
「ぜひ、御
なんでしょうね? この趙雲の食いつきようは。
ボクは不思議に思いながらも持って来て貰ったメンマの入った壺を趙雲に渡しました。
壺を受け取った趙雲は箸でメンマを取り出して口にしていきます。
そして瞳を閉じて、何やらメンマを
「ええっ?! 何? 大丈夫なのかい?!」
暫くの間メンマの味を噛みしめていた趙雲。
ですが、いきなり閉じた瞳の目尻から涙を流し始めたので、ボクは驚いて彼女に問いかけました。
「……素晴らしい……」
「は?」
「このメンマ、まさに至高の一品。趙子龍、感服つかまつった。」
「そっ、そう?」
なんでしょうね? メンマの味で涙を流すって。
ありえないと思います。
ボクは趙雲の心情が理解出来ませんでした。
「星ちゃんはですね、メンマに生涯を捧げているのですよー」
「はい?」
程昱は趙雲がメンマをどれほど好きかと言うことをボクに語ってくれました。
しかし、彼女の話しを聞いても
「これからは、どうか『星』と御呼び下され。主殿」
半信半疑なボクに趙雲はいきなり自身の真名を告げました。
しかも、ボクの身体に彼女自身の肉体をにじり寄せて。
ちょっと良い香りがボクの嗅覚を刺激していました。
ボクは困惑しながら彼女に返答していきます。
「……いやぁ。幾らメンマの味が良かったからといってもね? それで真名を渡すっていうのは、ちょっと違うんじゃないかなぁ?」
「おや? 主殿は私の誠意を御疑いですかな? なんでしたら、今宵は
趙雲は今晩寝るときにボクと
その瞳は、本気と書いてマジと読むという具合に真剣でした。
「趙子龍! お前、ちょっと
ボクがどうしようかな? と悩んでいると、顔を真っ赤にした魏延が横から文句を言いながら趙雲とボクの間に割り込んできます。
どうやら助かったようでホッとしました。
「ふむ。なんでしたら、文長殿も御一緒にいかがですかな? 私は別に構いませぬが。3人一緒と言うのも、また乙なものでござる」
「ええ?! いっ、いや。それは……」
……全然、事態は好転していませんでした。
なんなんでしょうね?
ボクを
それにしても、趙雲にとってはメンマが余程大切なものなのでしょう。
普通は、そんなことで真名を他人に告げたりしないと思うのです。
ボクには理解出来ない何かが、そこに在るのかもしれませんね。
もっとも、あまり理解したいとも思いませんが。
何に幸せを見い出すかという事は、本当に人それぞれなのだと、改めて実感したボクでありました。
[補足説明]
本文中の『問題を生み出したのと同じ意識水準では、その問題を解決することは出来ないから』と言う文は、理論物理学者:アルベルト・アインシュタインの名言の一文を意訳したものです。
〈原文〉The problems that exist in the world today cannot be solved by the level of thinking that created them.
〈訳〉今日我々の直面する重要な問題は、その問題をつくったときと同じ考えのレベルで解決することはできない。
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無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
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