真・恋姫✝無双~だけど涙が出ちゃう男の
[第21話]
新しい仲間と皆が真名を交換し合ってから、厳顔・呂蒙・李典は騎馬隊を率いて李典の村へ先行して行きました。
周泰も偵察隊を出して共に情報収集に向かってくれます。
魏延と諸葛亮の準備が整ってボクたちが橋頭堡を出発出来たのは、厳顔たちから数日程遅れての事でした。
ボクたち一行は、何事も無く
村近くになったら、周泰か厳顔たちのどちらかが報告してくる事でしょう。
だからボクたちは旅を楽しむように、のんびり兗州東部に向かっていました。
ボクが騎乗している愛馬・調和も、そんな旅のような行軍を楽しんでいるようです。
「刹那様」
乗馬して傍らに並んでいる魏延が、ボクに声をかけてきました。
「何だい? 焔耶」
「桔梗さま達は、もう村に着いたでしょうか?」
「……騎馬隊といっても、流石にまだ到着していないと思うよ?」
「ふふふっ。そうですよね♪」
ボクと魏延は旅次行軍中、こんな取り留めもない話しをしています。
魏延は鼻歌を口ずさむなど、なんだかとてもご機嫌の様子。
このまま何事も無く村に到着出来れば良いなと、ボクは思っていました。
「ご主人様!」
魏延とのんびり話しをしていると、諸葛亮が声をかけてきました。
彼女の雰囲気からボクは何かあった事を理解します。
「何かあったのかい?」
「はい。
「規模は?」
「報告によると、少数の戦闘のようですね」
ボクは、すぐさま魏延に命じます。
「焔耶、部隊を率いて鎮圧してきて」
「分かりました」
「もし誰かが賊に襲われているのなら、救助と護衛を最優先にしてね?」
「はい」
魏延はボクの命令を了承すると、部隊を率いて行きました。
ボクたちは今日の行程を早めに切り上げて、野営の準備をしながら魏延達を待つことにします。
明朝早くに出立すれば帳尻は合うという諸葛亮の言を入れての決定でした。
野営の準備が終わり夕食の準備をしている頃には、日輪が地平線に沈みかけていました。
「刹那様、只今戻りました」
夕食の準備が終わりを告げる頃に魏延が戻って来ました。
魏延の後方を見てみると、女性3人と男性1人の人物が見受けられます。
どうやら彼らが賊に襲われていたみたいですね。
「お帰り、焔耶。……後ろの人達が救助者なのかい?」
ボクは経緯を確認すべく、魏延に問いかけました。
「はい。彼女たちが賊に襲われていたので、助け出しました。もっとも、余り必要なかったかもしれません」
「そうかい? でも、ご苦労様だったね、焔耶。君達も大変だったようだね。ここまでくれば大丈夫だから、安心すると良いよ」
ボクは魏延を労った後に救助者たちに言葉をかけました。
すると救助者4人のうち武芸者風の人物がボクに発言してきます。
「これは、これは。御高名な麗しき仙女殿に御目に掛かれるとは。この趙子龍、光栄の至り」
なんでしょうね?
今、何かとても嫌な響きの言葉が聞こえてきました。
「え~と。良く聞こえなかったのだけれど、ボクが何だって?」
ボクは趙子龍と名乗った人物に確認してみました。
聞き違いである事を期待しながら。
「おや? 仙女殿は御耳が遠いので御座いますかな?」
「……仙女って、ボクの事なのかい?」
「左様」
「……」
どうやら、ボクの聞き違いでは無かったようです。
ボクは、詳しく聞いてみることにしました。
彼女の話しによると、最近になって金色の鎧を
その仙女に率いられた軍は賊を
冀州を経て兗州に来たところを魏延が鎮圧した賊集団に襲われたという事らしい。
彼女は常山郡真定の出身で、名前は趙雲(字:子龍)。
世が乱れて来たのを感じて自身の力を役立てるべく、諸国を巡って仕える
麗しい仙女にならば、仕えてみるのも
「あの~、朱里さん? ボクが世間で、仙女って呼ばれている事を知っていたのかな?」
ボクは傍らに居る諸葛亮に聞いてみました。
彼女には、周泰が集めて来る情報を常に解析して貰っています。
ボクへ報告が上がって来ていない事に、少し疑問を感じたからでした。
「はい」
「……そんな話し、ボクは聞いていないのだけれど?」
「え?! ご存じなかったのですか? 桔梗さんに、ご主人様へ言うべきかどうかを尋ねたら、御自分で言うから良いって言っていましたけれど」
「……」
ボクの心の中に、厳顔のニヤついた顔が思い浮かんできました。
報告しないでいる方が、面白い事になると踏んだに違いありません。
昔から厳顔は、ボクの事を
今この場に居ない彼女の所業に、ボクは何んとも言い難い複雑な気分になりました。
ボクの心情を余所にして諸葛亮が続けてボクに話しかけてきます。
「どうもですね、例の策の噂が変な方向で伝わっているみたいなんです」
「……例の策って、賊徒に降伏を
「はい」
「……」
確かに、ボクは陛下から賊徒討伐の君命を受けて豫州や兗州にやって来ました。
兗州から見れば、益州華陽国は西方に在るのも間違いとは言えません。
ボクや調和が金色の鎧を纏っているのも事実です。
でも、
(仙女って言われるのは、あんまりじゃ無いでしょうか?)
女性と間違えられてしまう容姿をしているとはいえ、ボクはれっきとした男です。
自身の性別が男であることを、世間に対して声を大にして叫びたい気持ちで一杯になりました。(泣)
「……期待して遥々来てくれたのに悪いけどね、ボクは仙女じゃ無いよ? 更に言えば、ボクは人だし性別も男だから間違え無いでね?」
ボクは趙雲を始めとした救助者一同に、自身が人の身である事を心の内で涙しながら告げます。
例え世間には言え無くとも、せめて身近に居る人達には伝えたいという切実な思いからでした。
ボクの発言に、趙雲と女性2人は
しかし残りの男性は酷くがっかりしたのか、物凄い落ち込みように伺えます。
男性の衣服が何やら光輝いている事を奇妙に思ったボクは、意識変換をして“情報”の送受信を行って男性の衣服の材質を調べてみます。
調べた結果は、明らかに今の世に在る筈の無い材質である事が分かりました。
何故ならボクの記憶では男性が着ている衣服は“学生服”であり、情報で読み取れた材質は“ポリエステル”だからです。
「刹那様。そろそろ夕食が出来上がるみたいですから、詳しい話しは食事をしてからにしませんか?」
ボクが男性を真剣な目で見詰めていると、魏延が部下からの報告で食事の準備が整ったことを知って伝えてくれました。
「そうだね。皆も一息入れた方が良いだろうし、そうしようか」
ボクは魏延の提案を受け入れて皆に食事を振る舞う事にしました。
野営地の天幕外で焚き火を囲んでの食事です。
皆で雑談しながら食事を取る、そんな楽しい一時を過ごしました。
食事が終わって白湯を入れた器を皆が受け取ってから、ボクは改めて趙雲たちと話していこうと思いました。
ボクは隣り合って座っている救助した男性に問いかけます。
「先程ボクが仙女じゃ無いと知ったとき君はとても気落ちしていたけれど、何か思うところでもあったのかい?」
ボクの問いかけに男性は、白湯を飲むのを止めて視線を合わせて話してきます。
「……俺の名前は北郷一刀。信じて貰えないかもしれないけど、この世界の人間じゃ無いんだ。俺にも良く分からないんだけど、ある日当然この世界に落とされたんだ」
北郷一刀と名乗った人物は、ボクに自身に起きた事の経緯を話していきました。
それによると彼は未来からやって来て、そこでは『聖フランチェスカ学園』の学生であった事。
学園で古い鏡を盗もうとした男と対峙した際に何かに巻き込まれて、この世界にやって来た事。
こちらの世界で賊に襲われているところを趙雲・戯志才・程立に助けて貰った事。
自分の知っている歴史的人物たちと、この世界の人達は少し違っている事。
趙雲たちが仙女と噂される人物に会いに行くというので同行させて貰った事。
元の世界に帰る方法が分からず、方法を知る為に
「賊に身ぐるみ
北郷は経緯をボクに話し終えた後に、両腕で自身の身体を抱きしめて何やら震えだしました。
余程怖い思いをしたのかもしれません。
「天の御遣いって、最近
ボクは趙雲に確認してみました。
「然り」
「……でも、あれって本当の事なのかい?」
管輅という占者が言ったかは定かではないけれど、『天から御遣いがやって来て、戦乱に喘ぐこの世界を救う』などと云う噂が世間に流れていたのです。
今迄ボクは、そんな噂は眉唾物だと思っていました。
「しかし、私たちは北郷が天から落ちて来たのを見ているのです」
ボクの疑問に戯志才と名乗った女性が答えて来ました。
メガネをクイッと手で上げる
そんな彼女にボクは問いました。
「天から北郷が落ちて来たの?」
「そうです」
「君は、天から落ちて来ている彼を目撃したのかい?」
「……いえ。正確には、星が落ちて来た所に居た彼を確認したのです」
どうやら彼女たちは、前後の経緯から北郷が天の御遣いだと判断しているようでした。
「……言い難いのだけれど、天の御遣いの話しは余りしない方が良いと思うよ? それは、彼の為にならないと思うから」
ボクは今後の北郷の人生を
「どうしてですかー?」
程立と名乗った女性が、間延びした口調でボクに問うてきました。
彼女の頭に何やら不思議な人形が乗っていましたが、見ない振りをしてあげようとボクは思います。
何故なら、寂しさを紛らわせる方法は人それぞれだと思うからでした。
そんな彼女に、ボクは自分の考えを話していきます。
「北郷が天の御遣いを名乗ると、謀反の罪で彼に極刑が言い渡される可能性があるからさ」
「謀反ですかー?」
「そうさ。この世界には、皇帝という天子がおわすのだからね。黄巾党首領の張角も天公将軍を称して漢王朝に反旗を
程立は、彼を張角と同じ目に遭わせたいのかい?」
「なるほど、それは嫌ですねー」
程立は、ボクの話しを理解してくれたようで何よりでした。
ボクは北郷の方に目を向けて、彼に話していきます。
「それとも、君は天の御遣いを名乗って一旗上げるつもりなのかな?」
「冗談じゃない! 俺は、自分で御遣いなんて名乗った事なんて無いぞ!」
北郷はボクの言葉に慌てて否定の発言をしてきました。
彼の顔が思いなし青褪めているのが見て取れます。
この分なら大丈夫だとボクは安堵しました。
良かったです。
流石に一度助けた相手を処罰するのは目覚めが悪いとボクは思いました。
「そうだな……。もし君さえ良かったら、ボクの所にでも来るかい?」
行く宛ての無い北郷に、ボクは華陽国に来る事を提案してみました。
このまま彼を放っておくと、争いの種になり兼ねないと思ったからです。
「……良いのか? そんな安易に決めて。迷惑じゃ無いのか?」
「ふふっ。北郷が何もしないのなら問題無いさ。それに、君には行く宛てなんて無いのだろう?」
「それは、そうだけど……」
「勿論、無理強いはしないよ? 君が良かったらと言う話しさ。君も、どこか落ち着く場所が欲しいんじゃないか?
それに彼女たちと、いつまでも一緒にいられる訳でも無いのだろうしね」
北郷は暫く迷っていましたが、最終的にはボクの提案を受け入れました。
取り敢えずではあるけれど自分の身の置き所が出来たことで、北郷の顔には少し安堵感が見受けられるように成りました。
いきなり訳の分からない世界に連れて来られれば、緊張してしまうのも無理ないのかもしれませんね。
「……そう言えば、まだ君の名前を聞いてなかったんだけど、教えてくれないか? それと君の所って言う場所が、どこなのかも教えて欲しい」
北郷は自分が行く場所とボクの名前を聞いてきました。
彼の言葉でボクは、自身が名乗っていない事に気付きます。
「ああ、ごめん。まだ言って無かったね。
ボクの姓は劉、名を璋、字は季玉。華陽王と益州牧をやっているよ。本拠地の華陽国は元の名を漢中郡と云って、場所は益州にあるよ」
「え?! 劉…季玉…? それに……益州?」
「うん、そうだよ」
ボクが自分の事を話すと、北郷は何やら困惑気味に問うてきました。
そして、何かを確認するようにボクに聞いてきます。
「あのさあ……。もしかして季玉の親の名前は、劉君郎って言ったりするのかな?」
「そうだよ。父上の名前が劉君郎だよ。良く知っているね?」
ボクが北郷の問いに肯定の意を伝えると、なにやら彼は黙りこくってしまいました。
そして彼は、おもむろに地面へ崩れ落ちて行きます。
「え? おい、大丈夫かい?」
ボクは北郷の近くにより片足を地面に着けて、崩れ落ちている彼の頭を抱きかかえました。
耳を澄まさないと聴こえてこない小声で、彼は何やら
「もう駄目だ……。なんだよ、劉季玉って。最悪じゃないか。ああっ……。やっぱり俺は、ここで死んじゃうんだ……」
なんでしょうね? 酷い言われようです。
凄く失礼な事を言っていますよ、彼。
ボクの感想を余所にして北郷の呟きは更に続いていきました。
「劉季玉なんて反乱を起こされるわ、部下に裏切られるわで良いところなんて
彼が呟く言葉の内容は、ボクが記憶している史実と同じである事に少し驚きました。
本当に彼が未来からやって来たことを、ボクはこの時に確信します。
しかし呟き続ける彼の瞳は、どこか虚空を見詰めていて焦点があっていません。
どうやら彼は正気を失っていて自分で何を言っているのか良く分かっていないようです。
暫く彼の失礼な言葉を聴いているうちにボクはちょっとムカついてきました。
そこまで言われるほど酷くは無いと思うのです。
「痛?!」
ボクは抱えていた北郷の頭を地面にある小石の上に落としました。
小石に後頭部を突かれた彼は痛みの余り正気に戻る。
正気になった彼に、ボクはそのままの姿勢で告げていきます。
「随分な物言いだけれどさ、北郷君。君だって間抜けさ加減では、負けていないんじゃないかな?」
ボクの発言に北郷は上半身を地面から上げて、中腰姿勢で視線を合わせてから文句を言ってきます。
彼は後頭部を右手でさすりながら涙目でありました。
「俺のどこが間抜けだって言うんだよ?!」
「どうせ、下手な正義心か虚栄心で不審者を捕まえようとしたんだろう? それでこんな場所まで飛ばされて来るなんて、間抜け以外の何者でも無いじゃないか」
「うぐっ……」
北郷はボクの発言に図星を突かれたのか、言葉を詰まらせたようでした。
それからボクと北郷は、どちらがより間抜けなのかを言い争います。
周りの皆が止める言葉に耳も貸さない、そんな言い合いでした。
しかし、ボクは彼に文句を言いながらも、どこか心の内に温かみを感じていました。
劉璋として生を受けて以来、ボクと言い争ってくれる存在など今迄いなかったからです。
本当の意味で身分を気にする事無く言い合えるという事が、とても新鮮に感じられました。
こんな楽しい時が、いつまでも続けば良いのにとボクは思っていました。
腹立ちと温かみが同居する、そんな奇妙ではあるけれど悪くない気分を感じながら。
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無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
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