No.463679

恋姫外伝~修羅と恋姫たち 十六の刻

南斗星さん

いつの時代も決して表に出ることなく

常に時代の影にいた

最強を誇る無手の武術『陸奥圓明流』

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2012-08-02 01:59:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4641   閲覧ユーザー数:4129

【十六の刻 明命】

 

 

 

 

 

 

「――おい起きろ、蓮華様がお呼びだ」

あの立ち合いから半月ほどたったある日、断りも入れず疾風が寝泊りしている部屋に入るなり甘寧はそう低い声を出した。

「――なんだ騒がしいな…ふあっ」

居眠りをしていたのだろうか、大きな欠伸を漏らした疾風は寝返りをうって甘寧に背を向けた。

「…蓮華様がお呼びだと言ったのが聞こえなかったのか。」

「今は眠いんだ…飯時になったら起きる」

「貴様!」

一向に起きようともしない疾風に甘寧は怒気を上げるが、疾風は何処吹く風とばかりに気にもしない。

「…ふうっ」

甘寧は自身を落ち着かせようと大きく息を漏らすと怒気を抑え話しかけた。

「なにやら困った事が起きたようなのだ…頼む蓮華様のお力になってはくれ」

そう言いながら頭を下げると疾風はやれやれと頭を掻きながら身を起こした。

「…面倒ごとは苦手なんだがな。」

「そう言うな…蓮華様が臣下でない貴様を頼るなど余程の事なのだろうからな」

そう言われた疾風は一つ大きく伸びをすると、欠伸をかみ殺しながらもようやく起き上がったかと思ったら徐に服を脱ぎだした。

「な、ばっ馬鹿者!いきなり服を脱ぎだすなど何を考えている。」

それを見た甘寧が慌てる様に後ろを向く。

「何って、着替えをするのだが?」

疾風はそう言うと借りている寝間着から自身の服に着替えた。

「それならばそうと一言あってもいいだろうが…。」

甘寧は顔を赤らめながら、疾風には聞こえぬような声でそう愚痴を零す。

「うん?何か言ったか」

「な、何でもない…行くぞ」

そう言うと逃げ出すように部屋から出る甘寧。

その後を追う様に出る疾風。

甘寧は今の顔を見られたくないのか、振り向きもせず早足で歩いていく。

そんな甘寧の後を疾風も黙って付いて行った。

 

 

 

 

「あっ疾風御免なさいね、急に呼び出したりして」

孫権が待つ大広間へと甘寧と共に入った疾風を笑顔で向かえた孫権だったが、急に申し訳ないような顔になるとそう切り出した。

「それはもういいさ、それより何の用だい?」

「その前に貴方に会わせたい人がいるの…明命!」

孫権がそう呼びかけると、部屋の天井から一人の少女が姿を現し孫権の前に降り立った。

「お呼びでしょうか、蓮華様」

明命と呼ばれた小柄な黒髪の少女は、その身に背負った自身の背丈ほどもあろうかという長刀をかちゃりと鳴らしながら孫権に頭を下げながら控えた。

「紹介するわ疾風、この娘の名は【周泰】我が孫呉の重臣の一人よ、明命挨拶なさい。」

「はい蓮華様」

孫権に促された娘は下げていた頭を上げ疾風に向き直った。

「お初にお目にかかります陸奥様、我が名は周泰 字は幼平と申します若輩の身ですがどうぞ宜しくお願いします。」

元気一杯にそう言うと勢い良く頭を下げてくる周泰に対し、疾風は苦笑いを浮かべた。

「俺の事は疾風と呼び捨てでかまわないよ、それにもっと気楽に接してくれ…畏まれられるのは好きじゃないんだ」

「し、しかし蓮華様の客人に対してそのような態度で接するなど…」

「明命、疾風が構わないと言うのだからそうしてあげてちょうだい。」

頭を掻きながら少し照れくさそうに言ってくる疾風に対し戸惑った表情を浮かべた周泰だが、すでに疾風のそんな態度に慣れていた孫権が疾風の言う通りで構わないと告げる。

「わ、わかりました。では疾風様とお呼びいたします。私の事は明命とお呼び下さい。」

いきなり真名を預けてくる周泰にさすがの疾風も少し驚いたような表情になる。

「それは真名だろう…そんなに簡単に預けていいのか?」

しかし当の周泰いや明命は、お日様のような笑顔を満面に浮かべ元気一杯に答える。

「はい!疾風様は蓮華様をお助け下された御方ですし、それにお話しをされてとても良い御方だと感じました。だから是非真名で呼んでいただきたいのです。」

「…まあお前さんがいいと言うなら俺に是非はないよ。宜しくな【明命】」

そう言いながら疾風が差し出した右手を明命は勢い良く握り返しながら

「はい!疾風様」

そう嬉しそうに笑うのだった。

 

 

一方でそんな二人のやりとりを横目で見ながら自身も真名を預けたそうにしている孫権と、それを目線でそれとなく制す甘寧の姿があったとか…。

 

 

 

 

 

 

「――それでこの明命なんだけど、この娘には主に情報収集や伝令などを担当してもらっているの。」

疾風と明命が互いの紹介を終えたのを見計らって、孫権がそう切り出した。

「それで今回は姉さん――孫呉の当主である【孫策】からの伝令を持ってきてくれたのだけれど…」

孫権はそこで言葉を切ると申し訳なさそうな顔を疾風にと向ける。

「それで?」

「少し困ったことが書いてあって…。」

そう言うと孫権は明命から受け取ったこの時代では貴重であろう紙を使った伝書を広げる。

当然疾風にはこの国の文字はまだ読めないので、それを一見した後視線を孫権へと向けた。

「書いてあることを簡単に話すと『此度官軍より黄巾党の主力を討伐する為の援軍の要請が全国の諸侯に対して発せられ、当然あの袁術にもその命が下ったのだけれども…面倒だからと言って私達に押し付けてきたのよ』」

そう溜息混じりに語る孫権。

見れば甘寧も怒るというより呆れた顔をしていた。

「まあそれ自体は別に構わないのよ…姉さんも『名をあげる好機ね』と言ってたらしいし…問題はその姉さんなのよ…。」

そう言いながら大きく溜息を吐く孫権。

「実は姉さんに疾風に助けられたことや思春を一蹴出来るほど強いということを伝えてしまったのよ。」

横目で疾風をちらりと見ながら申し訳なさそうにする孫権だが、疾風自身は気にしていないと手振りで伝える。

「それでその姉さんなのだけれど…普段はとても頼りになる人なんだけれど、その妙に子供っぽいと言うか我侭な所があって…是非とも貴方と会ってみたいから今回の遠征に貴方も同行させるようにって…」

「そうかならば俺も行くとしよう」

申し訳なさそうな視線を下に向ける孫権に対し、口元に微笑を浮かべた疾風が即答した。

「え、そんなにあっさり承諾してくれるなんて…いいの?こちらから言い出して何だけど、疾風は私達の家臣と言うわけではないし…元々受けた恩を返したくて逗留してもらっていたのに、家族の我侭に付き合ってもらうなんて、申し訳ない気がするわ。」

嫌なら断っても構わないと目線で問う孫権に、片目を瞑って見せる疾風。

「大陸中から諸侯が集まってくるということは、その下の武将も来るんだろう?ならきっととてつもなく強いやつらが来るってことだろうさ…俺はそいつらに興味がある…それだけさ。」

そう言い部屋を立ち去ろうとする疾風だが、ふと立ち止まるとその口から誰に言うでもない言葉が三人の耳に漏れ聞こえてきた。

「…もしかしたら俺の中の『化物(けもの) 』に付き合ってくれるやつが見つかるかも知れんしな。」

一瞬ぞくりとする感覚を部屋に這わせた後、今度は振り向くことなく立ち去ったのだった。


 
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