No.463601 そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海2 金髪っ子22012-08-01 23:50:07 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1657 閲覧ユーザー数:1557 |
そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海2 金髪っ子2
「畜生……っ。どうしてこんなことになっちまったんだ……」
楽しいものになる筈だった海でのバカンス。
イカロスやニンフは勿論、日和や鳳凰院月乃なんかも呼んで皆でワイワイやるつもりだった。
おっぱいボインボインお尻プリンプリンの水着の美少女達に囲まれてうっはうっはのむっひょっひょのひと時を過ごすつもりだった。
ところがだ。
それぞれ都合がどうとかで1人欠け2人欠け、海に到着したのは当初の予定より大幅に少なかった。
たわわに実るおっぱいの量が減ってしまった。
だが俺に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。
俺達は観光用ヨットに乗って大海原へと繰り出した。ところがいつものお騒がせメンバーがこともあろうに船内で喧嘩を始めた。
そして危険指数は超1級品である奴らはお約束的な展開として船に大穴を開けてくれた。沈み行く船体。俺は水面へと放り出され……運良く浮いていた丸太に捕まって事なきを得たが、その後気絶してしまった。で、現在……。
「こんな無人島に流れ着くなんて俺は漫画の主人公かっての~~っ!!」
綺麗な淡い青い色をした海に向かって大声で叫ぶ。
何と俺は漂流してどことも知らない無人島へ流れ着いてしまったのだ。前に1度、会長達に騙されてそはらと2人きりで無人島生活体験もどきをさせられたことはある。が、今回は正真正銘の本物だ。本当に無人島に流れ着いてしまった。
「騒いでもお腹が減るだけだっての。そんなことよりもこの美味しそうな蟹を捕まえて食べれ……ぎゃぁ~~~~~~~っ!!」
蟹に指を挟まれたアストレアは大声で悲鳴を上げた。
そう、俺と一緒にこの島に漂着したのはアストレアだった。
「よりによって、島からの脱出に最も役立たなさそうなコイツと一緒なんだ……」
大きな溜め息が漏れる。
「おまけに……今のアストレアは羽がないから飛べないし。割と絶望的なんじゃねえ?」
かなり際どい真っ白いビキニに身を包んでいるアストレアの背中には今現在羽がない。
生き延びる為にあの綺礼で真っ白い翼を自ら切り落としてしまったのだ。
そうなってしまった経緯を俺は少しだけ思い出して見ることにした。
俺はアストレア、イカロス、カオス、ケイネスと共にクルージングを楽しんでいた。
『見て見て~。でっかいマグロが泳いでるわよ~』
前方の水中に見える魚影らしきものを指差しながら楽しそうにしているアストレア。
泳ぐ魚が珍しいというよりも食べ物が無限に海の中を行き来しているように見えるんだろうなと思い苦笑しつつも楽しくなる。
『お前泳げないんだからあんまり身を乗り出すなよ』
『子供じゃないんだからそんなことは分かっているわよぉ……わっ、わっ、わきゃぁっ!?』
言った側から落ちかけるアストレア。俺は慌てて手を掴んでヨットから落ちないように支えた。
エンジェロイドは羽が水を吸ってしまうので泳げない。しかもこんな水深が数千メートルになる地点で海に落ちれば、アストレアの体が水圧に耐えられずに死んでしまう。ちょっとした油断が死に繋がりかねないのだ。
『ありが……とう』
俺の手を握りながら素直に礼を述べるアストレアに不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。
『気を、付けろよ』
動揺を悟られないように素っ気無く返す。
こんな風に穏やかな時間が流れる筈だった。そうなって欲しかった。でも、現実は違った。
『面白い冗談を言うではないか。古来より一流の魔術師は幼女の力を借りて数々の偉業を成し遂げて来た。これ即ち、魔術師が幼女と精神的にも肉体的にも結びついて来た証である。故に幼女だ』
魔術師のあり方を巡ってケイネスとイカロスが対立し始めた。そしてケイネスはその争いの過程でカオスに目を付けたのだった。
『幼女よ。貴様を私の聖少女ジャンヌ・ダルクに認定してやろう。光栄に思うが良い』
『ほえっ?』
ペドネスに手を握られたカオスは口を半開きにして犯罪者を見ている。
『おいっ』
『分かってる』
握っていた手を離し、アストレアと2人でケイネスを牽制に掛かる。だが、俺達が起こそうとしたアクションは不発に終わった。
『……そんなこと、私が絶対に許しませんっ!』
イカロスが大きく翼を広げながら俺に向かって跳躍して来た。
『なっ、何をするんだ。突然っ!?』
イカロスは突風を巻き起こしながら降りると俺の首根っこを掴んだ。
『うわらばぁああああああああぁっ!?』
そしてイカロスの羽がアストレアの顔に思い切りぶつかり悲鳴が聞こえて来た。
振り返るとアストレアが柵を乗り越えて海に向かって投げ出されていた。
『間に合えぇえええええええええええぇっ!!』
俺はイカロスが掴んでいたTシャツを自ら引き千切って拘束を解き、そのまま一気に海へと飛び込んだ。
『たっ、たっ、助けてぇええええええええええぇっ!?』
俺が海に飛び込んだ時、アストレアは既に溺れ掛けていた。羽が海水を吸って重石になってしまっている。アストレアが自力で助かる可能性はなさそうだった。
『待ってろっ! 今助けに行くぞっ』
慌てて泳いでアストレアの元まで駆け付ける。顔が完全に沈んでしまったアストレアを正面から抱きながら慌てて水面へと引き上げる。
『おっ、重えぇ…………っ!?』
抱き上げたアストレアは鉄の塊のように重かった。とてもじゃないが、これはアストレアを船まで引っ張っていけそうになかった。
『嫌ぁあああああぁっ!! 溺れるぅううううううぅっ!!』
おまけにアストレアは溺れる恐怖からパニック状態に陥ってしまっている。俺にしがみ付いたまま暴れ続けている。これは俺も死ぬんじゃないか。それをハッキリと感じた。
それを回避する為には、アストレアが背負っている重石をどうにかしなければならない。
『クソォッ! 羽さえ何とかなれば……』
一瞬でも羽を海面から引き出してその瞬間に飛び立てないか。そんなことを考える。けれど、羽が重過ぎて現実味がない話に思えた。
『羽をどうにかすれば良いのね。クリュサオ~~ルッ!!』
『へっ?』
目の前で起きたことがよく分からなくて間の抜けた声を出す。何とアストレアは剣を右手に構えると一気に自分の背中を切り付けたのだった。
スパンと切り離される海水に浸かった白い翼。翼は海底へと向かって加速しながら沈んでいった。
だが、それと同時にアストレアの体が急に軽くなった。
「これなら…………うぉおおおおおおおぉっ!!」
アストレアを腕に抱えながら必死に船から落ちたらしい丸太に向かって泳ぐ。そして2人して丸太に捕まることが出来、後は漂流してこの島に辿り着いたという訳だった。
「お前、羽を斬り落としちゃったけど大丈夫だったのか?」
蟹を諦め今度はヤドカリを狙っているアストレアに尋ねる。
「大丈夫って何が?」
「翼を切っちゃったことだよ」
アストレアはヤドカリから目を離して自分の背中を見た。そこにはもう既に綺麗な翼がなくなっている。
「う~ん。あそこで翼を切らないと絶対に溺れ死んでいたからなあ~……っ」
アストレアは口を結んで難しい表情をしてみせた。
「生きてるってことでは良かったし、もう飛べなくなっちゃったってことでは困った問題だしなあ」
アストレアが大きく首を捻る。
「切ってしまった翼はもう元に戻らないのか?」
「切れた翼を再生できるのなんてイカロス先輩とカオスぐらいのもんよ」
「そっか」
一旦口を閉じる。
ふと、翼を失って落ち込んでいたニンフのことを思い出した。
「でも、ニンフ先輩みたいにその内に急に生えるかも知れないし」
「その内ねえ……」
アストレアの言葉を聞いて思ったことは2つ。
1つは強いなっていうこと。アストレアはニンフに比べて打たれ強い。
2つ目は危機感に乏し過ぎるっていうこと。飛べないってことはここから脱出出来ないことを意味するのにだ。
それは即ちこんな無人の島では簡単に死に結び付いてしまう。にもかかわらずその危機意識が弱すぎる。
「まあ、智樹もいるんだし、何とかなるわよ。きっと」
アストレアは爽やかに笑ってみせた。
その笑顔を見て俺はまた不覚にもコイツのことを可愛いと思ってしまった。
「イカンイカン。俺は何を一体血迷っているんだ。今はこの島から空美町に帰る手段を探さないといけないのに……マッタク」
首を横に振りながら雑念を打ち消す。
今はどうやって生還するか。それが大事だ。
「生き延びてさえいればその内にイカロス先輩やニンフ先輩が助けに来てくれる。だからその時を待ちましょう」
「だよな。ていうかそれしか俺達が助かる道はないよな」
他力本願ながらも現実的なアストレアの言葉に同意する。俺達には超高性能レーダーを積んだニンフやマッハ24で飛べるイカロスがいる。
生き延びてさえいればいずれ救出がやって来てくれる可能性は高かった。
「あっ、でも、ニンフ先輩は1週間ぐらいダイダロスの所で検査受けているし、イカロス先輩のレーダーじゃ武器とかない限りほとんど反応しないんだっけ」
アストレアはとても悲しくなる情報を付け足してくれた。ちなみにその唯一の武器になる筈のクリュサオルは海中深く沈んでしまっている。
「そうだった。今ニンフはいないんだった……」
ニンフが今回の海企画に不参加になった理由を思い出す。
「でもそうなると、1週間のサバイバルが具体的な目標になるな」
「1週間ぐらいなら何とかなるわよ。きっと」
顔を見合わせて小さく笑ってみる。サバイバルを続ける際の目安が出来ただけでも良かったと思うことにする。
何もない小さな島。だけど、1週間ぐらいならサバイバル能力に長けた俺達なら何とかなる。
そう思いながら俺達のサバイバル生活が始まった。
俺達の生活はとても順調なものとは言えなかった。
「うぉおおおおおぉっ!? す、スコールだぁあああああぁっ!?」
「智樹っ! あの岩場の窪みに避難しようっ!」
「た、高波~~~~っ!?」
「波を防いでくれる岩の後ろに隠れるぞっ!」
気候が不安定で、しかも高台も大きな木さえも存在しないこの島では毎日、いや、日に何度も命の危険に見舞われた。
そして危険なのは気候だけじゃなかった。
「なっ、何で巨大なサメがこの島を囲みながらグルグル泳ぎ回っているんだぁ~~っ!?」
「この岩を投げてアイツらの気を惹くからその内に陸に戻ってきてっ!」
「くっ、クラゲぇっ! 巨大なクラゲの大群がぁ~~~~っ!?」
「俺の手に早く捕まれっ! 全力で逃げるぞぉ~~っ!」
海に出て漁をしようにも危険な海の生き物が俺達を狙っていてなかなか海に出られない。そはらとサバイバル体験した時よりも遥かに危険がデンジャラスな生活だった。
そんなこんなで命の危機を痛感し続けながら俺達は何とか生き延びていた。俺とアストレアは力を合わせてこの危険地帯を生き抜いていたのだった。
そう、アストレアと力を合わせながら。
無人島暮らしを始めて6日が経っていた。
「予定なら明日ニンフがダイダロスの所から戻って来るんだよな?」
「検査が順調に終わればその筈だと思う」
アストレアと2人体育座りの姿勢で青い海と青い空を見ながら会話する。
いつ何時どこからどんな危険が迫って来るのか分からないのでこの姿勢から俊敏に対応するのが習慣になっていた。それがこの島で生き残る為の鉄則だった。
「あっ。大きな波」
「本当だな」
波がやって来る方向を見ながら最適な遮蔽物がどこか見当をつける。大きくない岩でも角度さえしっかり注意していれば早々体ごと流されたりはしない。
俺達は早速島の中を移動する。1周100メートル程の小さな島なので移動はすぐに完了する。そして岩の後ろに隠れ手を繋いで波の襲来に備える。
「来るぞ」
「うんっ」
大波が岩にぶつかる音がする。それとほぼ同時に俺達が隠れている岩の左右を凄い勢いで水が流れていく。
「きゃあぁっ!?」
隣にいるアストレアから悲鳴が上がる。でも繋いでいる手は離されておらず体が流されるという事態にはなっていない。
水が引いたのを確認してからアストレアへと振り返る。
「水でも顔に掛かったか?」
「うん。他の岩に当たって飛び跳ねてきた波の一部が思いっきり掛かったあ」
泣きそうな声を出すアストレアの状態を確認する。
すると、すぐにトンでもない事態であることに気が付いた。
「お前……ブラ、どうしたんだ?」
アストレアの白いビキニブラがなくなっていた。言い換えれば先っちょまで全部が丸見えになっていた。
91cmを誇るそれはもう立派な胸が俺の前に降臨されていた。
「えっ? きゃあぁあああああああああぁっ!?」
アストレアが慌てて両手で胸を隠す。だがその動きの反動で濡れた地面に足を滑らせて地面に尻餅をついてしまった。
「だっ、大丈夫か?」
アストレアに向かって手を伸ばす。アストレアは顔を真っ赤にして俺を見上げている。
「う、うん」
アストレアが右手を伸ばして来た。左手で隠そうとしているその豊かな胸は1本の腕では隠しきれずに色々と見えてしまっている。
さすがにこの状況でそれを指摘するのがいけないことであるのは俺にも分かる。
それに、俺は顔を真っ赤にして恥ずかしがっているアストレアにもの凄く……惹かれていた。
1週間生死を掛けた共同生活をしている内に今までよりずっと身近な側にいて欲しいと思う存在になっていた。
「あ、ありがとう」
アストレアの手が俺の手に触れる。
心臓が異常なまでに高鳴った。
頭が火照り半分夢心地でアストレアの手を取って引き上げる。そして俺は、気が付くとアストレアを正面から抱き締めていた。
「あっ、あの……智樹? 一体、ど、どうしたの?」
アストレアは声も体も震えていた。
でも俺は離したくないと思った。逆により一層強く力を込めて彼女を抱き締める。
「えっと……智樹?」
アストレアは戸惑いの声を上げる。けれど、今までみたいに力で振り解いたり、蹴る殴るの行動に移ることはなかった。
アストレアは俺を受け入れている。
そう思ってしまった瞬間に、俺の中の何かがカッと燃え上がった。そして俺はその衝動を驚くほど素直に口にしていた。
「俺……アストレアのことが好きだ」
海に着てからずっとアストレアのことが気になっていた。昔はただのお馬鹿仲間に過ぎなかったのに今はそれだけじゃなくなっていた。
女の子として意識している。
今回の波は俺にそれをはっきりと悟らせてくれた。
「好きだ。愛してる……っ」
アストレアを強く抱き締めながらもう1度自分の想いを口にする。
誰もいない孤島だからか俺はいつになく大胆に、そして素直になっていた。
「私も……智樹のことが…………好き…………」
俺の腕の中でアストレアは小さく返事した。
「それじゃあ、俺達は両想いだな」
「そう、なるわね」
顔を見合わせる。真っ赤になったアストレアの顔。その赤み掛かった瞳には同じく真っ赤になった俺の顔が映っていた。
「なら、俺達は恋人同士……だよな」
「そ、そうなるんじゃないのかしら。恋人って何だかまだよく分からないけれど」
ますます真っ赤になっていく俺達。
「じゃ、じゃあ、恋人らしいことと言うことで……キス、していいか?」
「キス…………って何だかよく分からないけれど、智樹がしたいんなら……良いよ」
キスが分からないと言いながら口を閉じて目を瞑るアストレア。
俺はその言動を肯定とみなしてゆっくりと顔を近付けていく。
そして── 俺達の唇が重なった。
唇を通じてアストレアがどれだけ俺のことを想っているのかが伝わって来た。
俺もアストレアへの想いを唇を通して伝えようと更に激しく彼女の唇を貪る。
「アストレア……好きだ」
「私も、智樹のこと好きっ!」
アストレアが小声で俺への愛を呟いた瞬間だった。
アストレアの全身が激しく光った。
しばらくして光が止み、アストレアは戦闘用の青い鎧を纏った姿で立っていた。
そして、そして──
「嘘っ。翼が、新しく生えて来てる……っ」
驚きの言葉通りにアストレアの背中には大きな翼が生えていた。
「翼が戻って良かったな」
アストレアに笑い掛ける。
「うん。だけど……」
アストレアは顔を僅かに俯かせた。
「翼が戻っちゃったら……智樹との共同サバイバル生活もこれで終わりかなって思うとちょっと悲しくなっちゃって」
寂しげに語るアストレア。そんなコイツを俺はとても愛しいと思った。
「心配するな。だって俺達……恋人同士だろ。俺はずっとアストレアの側にいるぜ」
ニカッと笑ってみせる。
「うんっ♪」
アストレアはとても嬉しそうに笑ってくれた。
その笑みは俺をとても幸せにしてくれた。
「あっ! でも……」
アストレアの顔が急激に曇った。
「どうした?」
「私達の仲をイカロス先輩やニンフ先輩達が認めてくれるかなって思って」
「そっ、それは…………」
考える。アストレアと恋人になったと2人並んで桜井家に帰った後に起きるであろうことを。どう考えても…………“死”の1文字しか浮かんで来ない。
「空美町に戻るんじゃなくて、もっと住み易い無人島に引っ越さないか?」
俺の体はガタガタと震えていた。
「そ、そうね。私達がイカロス先輩やニンフ先輩を相手にするにはまだレベルが足りないわよね」
アストレアもまたガタガタと全身を震わせていた。
「よしっ。それじゃあもっと食べ物が多くて命の危険が少ない島を目指して移動しようぜ」
アストレアの手を握る。
「あっ、私知ってる。こういうのって新婚旅行って言うんでしょ?」
繋がれた2人の手を見る。
「まあ……それでも良いっか」
俺達がしようとしていることはそれとあまり変わらないかもと思い直す。
「じゃあ、俺達の新婚旅行に出発だ」
「うんっ♪」
アストレアが俺を抱えて大空へと飛び立っていく。
こうして俺達の新婚旅行という名の逃避行は始まりを告げた。
了
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結局更新が水曜に。
忙しすぎる今日このごろ。
今回もひたすら海。
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