今日は律と買い物デート。
いつもの待ち合わせ場所で、13時に待ち合わせ。私は、5分前に到着。律は、10分遅れてやってきた。
息を切らして駆けて来る律……遅いぞ?、と言おうとしたが
「ごめんごめん…」
息の切らし方からホントに急いで来たんだなーって思ったから、許そう。
「‥大丈夫だよ。さ、行こ行こ!!」
私はTシャツから伸びた律の腕にどんっ!って。わざと抱き着いた。
「わっ!みおっ」
焦りながら照れる律。
「汗掻いてるから‥‥離れろよ…」
息を切らして駆けてきた律の腕は、確かにちょっと湿っていた。
「んー?私は別に構わないぞー?」
「そういう問題じゃなくて!」
「りつーいい匂いだなー」
「汗臭いってば…」
恥ずがりながらも、腕から離れない私を連れて歩く律。
汗でも何でも‥‥律の匂いは良い匂い、だよ。律。
お互い、少ないお小遣いを有効に……という事で。ショップ毎にセール品を中心に物色。
服は自分で選んで買う……って当たり前か。
自分で、というか律が「澪ー!コレ良くない!?」と探してくるヤツが中々良かったりする。
そして「澪に絶対似合うって!!」とか言われると、ついつい買ってしまう。ソレがまた、周りから評判良かったり…
……恋人は、私の事をよく分かってくれてるって事。…なのかな?
ショップ巡りもソコソコに。私と律はデートコースの定番、ゲーセンへ赴いた。
「澪ー!アレ、取ってやろっか?」
「みおみお!アレ一緒にやろうぜ!!」
律がUFOキャッチャーでウサちゃんのぬいぐるみ取ってくれたり、律に誘われるがままやってみたゲームがゾンビを撃ち殺しまくるゲームだったり……
…と。まぁ、色々ありながら。私の中のメインイベントがやってきた。
「澪!みお!!プリクラ!」
律が私の手を引いてやってきたのは、プリクラコーナー。
女子高生なら定番だ。出来上がった写真に落書きとか手を加えて可愛くしたりとか。
プリクラ帳とか皆持ってて、交換し合ったり…
…だが、私には別の野望があった。
「どーれにしよっかなー♪」
律はタッチペンを片手に、プリクラのメニュー画面とにらめっこしている。
「コレ…」
私は疾る気持ちを抑えつつ……もう一本のタッチペンで、画面を押した。
「み、みお!?」
律は、私の行動にとても驚いた様子。
確かに、ゲーセンで私主導の機会なんか、無い。大概律が勢いで済ませる。
そりゃあ、律も驚くかな……驚くには、まだ早いけど。
「あー、じゃあ澪に選ばれたから次はこっちー」
律はムキになった様子で、メニュー画面を進めて行く。
「よーし!撮るぞー」
背景やら何やらが決まり。プリクラの機械からカウントコールが鳴る。
3!
2!
1!
ぐいっ
「へ!?」
私は律をグイッと抱き寄せ
「ッ…」
ちゅっ
「…!?」
……キス、した。
パシャッ☆
私の野望は、達成されたが
『…………』
撮影は、4テイクだった。
終えると画面に4テイク分の写真が表示された。
……全て、キス。
1テイクから4テイクまで。私と律はキスしていた事になる。
私は、意を決して。律は、呆気に取られて……
…そのまま、固まっていた。
撮影を終えて「ばっ!!」って離れる二人。
この後には、撮り終えたばかりの写真に色々カスタマイズするっていう、いわゆる「お楽しみ」な時間があるんだけど…
互いに「なんとも言えない表情」で、見合って。
直ぐ様、目を逸らして。プリクラの画面に視線を移した。
落書きなんかしてる心境じゃない、とばかりに。律はタッチペンでひたすら「次へ」を連打。
私は、自分でしておきながら「その先」なんてまるで考えてなくて………
……とりあえず手に取ったもう一本のタッチペンを手に、焦る律の様子を見送った。
一通り、手順を済ませて。数十秒でプリクラは出来上がった。
私達は「なんとも言えない表情」のまま、手をつないでて。律は、片方の手でプリクラを手に取った。
「……」
「……」
なんとなく、無言で……一応、目で合図だけ、して。
出来上がったプリクラを切り離す事無く、私達はゲーセンを後にした。
「……」
「……」
プリクラから私達は黙ったまま。
「……」
「……」
一応、手は握ったまま。公園に来ていた。
「……律」
私が声を絞り出す。
「……何?」
律も声を絞り出す。
「律、ソレ…」
私は、律がゲーセンから手に持ったままのプリクラを指した。
今までの‥‥沈黙の根源だ。
「…………わかんない…」
「…へ?」
「今の私の気持ちが、わかんない…」
私が律の顔を斜めから見ると‥‥‥律の目は、涙目だった。
「っ……」
がばっ
とりあえず私は、衝動的に律を抱き寄せた。
「……律‥‥どうした?」
私は出来る限り優しい声で、語り掛けた。
「…………みお‥‥‥」
いつもの律とは、正反対の…ちいさな。ちいさな声が、腕の中から聞こえてきた。
「……そっか」
公園の、白いベンチ。
律は前屈み気味で手を組んで、難しそうな顔。
そんな様子の律の話を、私は全て聞いてあげた。
私達の、関係。
女性同士。
でも、恋人同士。
でも、やっぱりおかしいかもしれない。
けど、澪の事は大好き。
それに、澪はプリクラでキスしてくれた。
あんなに恥ずかしがりやの澪が。
嬉しい。すんごく嬉しい。唯が入部してきてくれた時と同じくらい‥‥いや、比べ物にならないくらい、嬉しかった…。
……でも、おかしい。
律は普段、気丈に振る舞っていてもやっぱり溜め込む性格。
私も律も、互いに足りない所を色々埋めてあげて、埋めてくれる。
放課後ティータイムに居れば皆は受け入れてくれる。
けど、外に出れば―――
そんなジレンマが、律にはあったらしい。
ソレだけに、私の意を決したプリクラでのキスは衝撃的だったらしい。
気持ちが‥‥どうにもならなくなったらしい。
そして、二人でベンチに座っている。
私はそんな事気にしない………けど、律は気にしていたらしい。
所詮人間。相手の気持ちが分かる…なんて事は、有り得ないから。
私は、律に抱き着いた。
「……澪!」
声と共に、律の身体が緊張した。
「律ー。考え過ぎは、良くないぞ?」
「…?」
私の恋人は困惑した。
「私は、律が好き。律は、私が好き。ソレで…イイじゃないか」
唯が言いそうな事を、私なりに言い変えた。
無神経な言葉ほど、響く言葉は無いって。唯の言動に教えられたのを思い出した。
もちろん、気持ちがこもっていればこそ、の話だが。
「…ソレも、そうだな!」
私の恋人は、はははっと笑い飛ばして。私に応えた。いつも見せる、笑顔。
だが、そんな顔はまだ繕った顔だと。私は知っている。
人一倍、人を思いやれる律だからこそ出来る、自分を繕って皆を元気付ける、笑顔。
「……バカ律」
ちゅっ
「……っ!?」
私は繕った顔に、キスを叩き込んだ。
私の恋人は、面食らったらしい。身体が狼狽えた。
「さぁ、行くよ!!」
私は律の手を掴んで、ベンチから走り出した。
「ど、ドコ行くんだ!?」
「わかんない!!」
はっきりしない律に…‥私は、はっきり答えた。
私をココまで連れてきてくれたのは、律や、唯。ムギや梓。みんなだ。
次は…私が、連れて行く番。
独りよがりだろうけど……皆と。律と、一緒なら。何処へでも行ける気がした。
びっくりした様子の、律。びっくりしてても、私の手はぎゅっって、握り締めていた。
私も、小さな律の手をぎゅっって、握り締めた。
………‥キスプリは、二人の宝物にしようって。一方的に決めた。
◆
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高校律澪。
好き合う女性同士。
現実は世知辛いけど、妄想の中でぐらい幸せに過ごして欲しい。
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