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真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の娘だもん~[第20話]

愛感謝さん

無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。

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2012-08-01 20:25:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3690   閲覧ユーザー数:3360

真・恋姫✝無双~だけど涙が出ちゃう男の()だもん~

 

[第20話]

 

 

いまボクの部屋には、華陽軍の将軍たち一同と村人がいました。

軍師たちの事情聴取が終わったらしく、村人をボクの部屋に連れて来たからです。

今後の行動を相談する為の情報を共有すべく、皆に集まって貰ってから会談を始めました。

この部屋は元々の太守の執務室らしく、部屋の作りもそれなりに成っていました。

ボクは机を挟んで村人と応対し、ボクの左側に諸葛亮が、右側に周泰が控えています。

他の将軍たちは村人を挟むように控えていて、ボクたちの会話を聞いていました。

 

「初めまして。ボクの姓は劉、名を璋、字は季玉。ここの軍の総大将を務めているよ」

「お初やで。ウチの姓は李、名を典、字は曼成(まんせい)や。よろしゅう御願いします」

 

ボクは官名よりも責任者である事を話した方が良いと思い、村人にはその旨を告げました。

李典と名乗った村人ですが、返答の挨拶が方言である事にボクは少し驚きました。

更に李典と言う歴史上の人物の名前が出た事よりも、ボクは下着なのか水着なのか良く分からない物を着けた李典の胸の方が気になっていました。

豊満な胸をもっと見て下さいと言わんばかりの格好だと、ボクには思えたからです。

 

「コホンッ」

 

ボクが李典の胸に見とれていると、諸葛亮が咳をして視線でボクを注意してきました。

気が付かなかったのですが、ボクはチョット鼻の下を伸ばしていたようです。

でも、そんなに怒んなくたって良いですよね?

健康な青少年ならば、女性の胸に目が向くのは仕方が無い事だと思うのです。

男性の皆さんならば、この気持ちを分かってくれますよね?

ボクは『コホンッ』と咳をして取り(つくろ)ってから、李典に経緯を聞いてみる事にしました。

 

「え~と、李曼成? どこでボクたちの事を知ったのかな?」

「村から一番近くにある街の太守からや」

「太守?」

「そうや。そこに援軍を頼みに行ったんやけど、手一杯でアカン言うねん。そんで。ここに軍が居るから頼んでみたらどうや? って、言われたんや」

 

李典の話しを聞いて、ボクは頭が少し痛くなってきました。

管轄の村の防衛を他者に押し付ける太守って、なんなんでしょうね?

職務放棄も(はなは) だしいと思います。

 

 

(しかし、どうしたものでしょうね……)

 

ボクは今後の事を、どうするか思案していきました。

 

ボクたちは兗州で賊徒征伐をしつつ、他州(とくに冀州)の情勢を調べていました。

当初、冀州では官軍が優勢だと云われていたのですが、先頃に盧植将軍が更迭されてからは敗戦が続いているそうなのです。

代わりの将軍は董卓と云うらしいのですが、(ほとん)どヤル気が無さそうに伺えるのです。

何故なら、盧植将軍が黄巾党首領の張角を広宗で包囲していたのに、董卓将軍は包囲を解くだけで無く戦闘で敗退したからです。

そのまま包囲殲滅が可能だったと云うのが、うちの軍師たちの一致した意見でした。

その為、ボクは兗州東郡の橋頭堡に一軍を待機させて他州との補給路を維持しつつ、近々冀州へ進軍するつもりでした。

 

 

「なあ! 頼むわ。早ようせんと、村が襲われてしまうかもしれへんのや!」

 

ボクが彼是(あれこれ)考えていると、業を煮やした李典が叫んで来ました。

李典の顔と言葉は、どこかボクを責めているようです。

 

「君は何を(あせ)っているんだい?」

 

ボクは李典の感情の高ぶりを余所にして、冷静に問いかけました。

 

「……何をって。せやから、さっきから村が危ないんやって言うてるやろ!」

「君は村が賊に襲われる事を望むのかな?」

「望むわけあるかい!」

「では何故、不安を感じて望まない事を口にしているのかな?」

 

李典はボクの言う事が理解出来ないようでした。

だからボクは、彼女に説明していきます。

 

「大抵の人達は君と同じように、何か嫌な事が起こると不安を感じて焦り出す。それは、殆ど条件反射のように反応していると思えるくらいに。でもそれは、ボクに言わせれば不安な事を望んでいるかのように思える。

 何故なら出来事は常に中立の存在であり、不安感は自分の感想だから」

 

李典はボクの言う事が旨く理解出来ていないようでした。

だからボクは、続けて話して行きました。

 

「賊に村が襲われた事は、既に起こってしまった過去の出来事だ。その出来事を『どう感じ、どう思うか?』は、君が決められる事だ。

 更に君は、“未だ起こっていない出来事”に不安感を抱いている。君は、それが無条件に不安という感情を選んでいる事だと気付いていない。それは、自分以外のモノに価値観や見解を任せてしまっているという事なのに」

 

李典は困惑してボクの話しを聞いています。

今迄ボクが言ったような事を考えもしなかったといった感じでした。

 

「感想という感じ方は、自分で“選択”出来る事だ。

 だから、君が“未だ起こっていない出来事”を“不安だ”と感じるのか、それとも“大丈夫だ”と感じるのかは君が決められる事だ」

 

「……」

 

「勿論、そう感じたからといって事態は変わらないかもしれない。でも、不安に飲み込まれているよりも、安心している方が建設的だ。

 その方が良案も出て来る可能性があるとボクは思うよ?」

 

李典はボクの言う事を聞いて、口を(つぐ)んで仕舞います。

ボクの言うことを李典なりに理解出来てはいても、心では納得出来ていないようでした。

不安感や焦燥感などの色々な思いが彼女の中で渦巻いて、どう対処して良いのか計り兼ねているように見受けられます。

だからボクは、李典に提案してみようと思いました。

 

「もし君が自分の感じ方を統御したいのなら、見詰(みつ)めてみると良いと思うよ?」

「……見詰めるって、何をや?」

「君が感じている不安や焦燥などの思いを、ただ味わってみるのさ。頭で何も決めつける事をせずに、ただ身体の感覚を感じるという事だよ。そうすれば、君は“事実”と“感情”が分けられる事に気付くようになる。

 そして分けることが出来たのなら、そこに“隙間(すきま)”が生まれる」

 

李典は(いぶか)しげにボクの話しを聞いています。

ボクは、そのまま言葉を紡いでいきました。

 

「本来は別の2つのモノを、1つのモノとして誤認しているのだから、誤認している1つのモノを、元の2つのモノに戻す事だって出来る筈だろう?」

 

「……」

 

「“事実”はボクたちに変える事は出来ない。それは自分以外のモノだからね。自身に変える事が出来るのは、常に自分の“感想”と言う感じ方だけだ。

 だから感情を見詰めて、味わって、“隙間”を創ることで分けるのさ」

 

李典は今迄言われたことが無い概念を伝えられて、戸惑っているようです。

どう受け止めて良いのか分からないみたいでした。

 

「……まあ。この方法を受け入れるか如何(どう)かは、君が決めれば良いさ。ボクは強要も強制もしないよ。

 それを決めるのは、君の権利なのだからね」

 

色々な事を一遍(いっぺん)に言われて、李典は情報の俯瞰(ふかん)が出来ていないようでした。

少し独りになって、自身を見詰める時間を取らせた方が良いだろうとボクは思いました。

 

「取り敢えず、曼成の要請は理解した。後は、こちらで決めさせてもらうよ。

 それに今日はどのみち軍は動かせないから、ここに泊っていくと良い。明日、ボクたちが如何(どう)するか君に伝えるから」

 

ボクは呂蒙に言って、李典を空いている部屋に案内して貰うことにしました。

李典は呂蒙に連れられて、部屋から出て行こうとしています。

 

「李曼成」

 

ボクは李典の背中へ言葉をかけました。

 

「なんや?」

 

李典は振り返って、ボクに返答してきました。

 

「一つだけ、君に言っておきたい事がある」

「……言うておきたい事?」

「自分の大事な者たちを助けて欲しいと言う君の要請は、ボクの大事な者たちに命を懸けろと言っている事と同義だと理解しているかな?将兵たちにも、帰りを待つ大切な家族が居る事を忘れないで欲しい。そんな彼らへ、君に何が出来るのか考えておいてくれないか?」

 

口を噤んで何かを言うことも無く、李典は会釈をしてから部屋を出て行きます。

李典は少し悲痛的な顔をしていました。

 

 

 

「相変わらず、ご主人様は鬼畜ですわねぇ」

 

李典と呂蒙が部屋を出て行ったのを確認してから、黄忠はボクに酷い発言をしてきました。

黄忠の顔は、どこか面白がっているような呆れ顔です。

 

「……何がですか?」

「曼成さんに、最後に言った言葉ですよ。あんな事を言われたら、思いつめてしまうのじゃありませんか?」

「……それだけの事を彼女は言って来たと、理解して欲しいですね。本来、ボクたちに曼成の村を助ける義務は無いのですから」

 

黄巾党討伐の君命を受けているとはいえ、本来は益州の軍が他州に出張ってくること事態が越権に近いのです。

州や郡・国内の事は、そこに配属された刺史や太守が対処すべき事なのですから。

ここの橋頭堡も、一時的に徴収しているようなものでした。

 

「しかし。そう言ってはいても、若は助けてやるのでありましょうな?」

 

厳顔がボクに発言して来ました。

そのニヤつき顔は、まるで『全て分かっておりますよ?』と言わんばかりです。

ボクは厳顔に心の中で舌を出してから、皆に告げていきました。

 

「李曼成のことを措いても、ボクはこの要請を受けることにします。取り敢えず明日の朝になったら、桔梗と亞莎は騎馬隊を率いて先行して欲しい。曼成に村への道案内をさせれば、問題は無い筈だよ」

 

ボクは厳顔と呂蒙に、騎馬隊を率いて村へ急行させる事を命じました。

呂蒙には、後で厳顔に話して貰えば良いと思います。

 

「賊と一戦するもよし。賊の方が多いのなら、村人達を連れて橋頭堡へ退いてくるもよし。ボクが行くまで全て一任するから、桔梗に判断は任せるよ」

 

「ふふっ……。承知致した」

 

ボクの命令を厳顔は、楽しそうに了承の意を表しました。

続けて、ボクは黄忠と龐統(ほうとう)に命じていきます。

 

「紫苑と雛里は橋頭堡に残って、実務全般と他州との補給路の維持を任せる。 第2軍を残していくから、君たちの判断で動かしてくれて構わないよ」

 

「分かりましたわ」

「分かり…ました」

 

黄忠と龐統は、お任せ下さいとボクの命令を受諾してくれました。

ボクは続けて、周泰に命じていきます。

 

「明命は、先行部隊とボクたちが合流出来るように偵察部隊を動かして欲しい。曼成の村の所在地は言うに及ばず、賊の規模や動向が分かればもっと良いね。大体(だいたい)の村の場所は、事情聴取の時に聞いてある筈だから確認してね?」

 

「はい」

 

さらに魏延と諸葛亮に顔を向け、ボクは彼女たちに命じていきます。

 

「焔耶と朱里は、ボクと一緒に残りの全軍を率いて行くからね。その準備をお願いするよ」

「「はい」」

 

ボクは将軍たちにして貰いたい事を命じて、そのまま解散を告げました。

皆は自身のやる事をする為に部屋から出て行き、ボクの部屋は急に静かになってしまいました。

一息入れたくなったボクは、御茶を入れてその味わいを堪能しています。

色々喋って喉が渇いていたので、とても美味しく感じられました。

 

「早く平和な世になって、のんびり余生を過ごしたいものですねぇ……」

 

ボクは御茶の味を堪能しつつ、自分のささやかな野心を口にしました。

自分で言っといてなんですが、(いささ)か年寄りじみているかな? と思ってしまったボクでした。

 

 

 

 

翌朝、昨日と同じ面子(めんつ)がボクの部屋に集まりました。

ボクの目の前に居る李典は、神妙な顔つきでボクを見ています。

 

「さて、李曼成。ボクたちが如何するかを告げる前に、まずは君の回答から聞こうか?」

 

ボクは李典の回答如何(いかん)に関わらず、要請を受けるつもりではありました。

でも、李典がどのような答えを返して来るのか興味があったので、先に話しをさせる事にしたのです。

 

「……ここに来るまでは、ずうっと腹が立ってたんや。高い税を(しぼ)れるだけ絞り取っておる癖に、いざ事が起こったら知らんぷりや。そんな奴等なんか、許せん思うても仕方ないやろ?」

 

李典は今迄抱えていた思いをボクに話して行きました。

 

「ここに来ても又タライ回しやと思うたら、居ても立っても居られんかった。

 せやけど、あんさんは不安を感じるのはウチの思い違いやと言うとったやろ?

 ホンマ、最初は何言うとんねんって思ったわ」

 

「ふふっ……。そうかい?」

 

「そやで。けど、あんさんの話しを聴とったら、そうなんかなぁって思うて来たんや。

 そんでな。部屋で独りになった時に、言われた通りに見詰めて見たんよ。始めは何も変わらへんかったんやけど、その内にな、感じが変わったんや。胸のつかえが取れた感じがして、とても安らいだ気分になったんや」

 

「……」

 

「そしたらな、何でウチはこんなイラだってたんやろう? って、気付いたんや。イラだっていたい訳やあらへんのに、変やなぁって。

 そんでな。あんさんが言うとったのは、この感じの事なんやなぁと分かったんや。

 村が危ないのは相変わらずやと思う。せやけど、焦っとる感情は受け入れられたんやと思うわ」

 

李典なりにボクの言った事を理解して、実践してくれたのでしょう。

例え万言尽くして語られたとしても、自身で体験しなければ腑に落ちることは無いと分かって貰えて良かったです。

 

「それで……? 曼成は、どうしたいのかな?」

 

ボクは、李典に決心した答えを聴く為に問いかけました。

李典はボクの問いかけに、真剣な顔つきで答えて来ます。

 

「……ここの皆には迷惑やっちゅう事は、よう分かっとるつもりや。けどウチは、やっぱり村の皆を助けたいねん。

 せやから、ウチに出来ることは何でもします。下働きでも何でもしますさかい、助けて下さい! お願いします!」

 

李典はボクに頭を下げて、懇願してきました。

周りにいる将軍たちは、そんな李典を優しく労わるように見詰めています。

 

「ボクたちは益州の軍だ。ボクの配下に加わるという事は、兗州を離れなければならないという事。

 それは村の皆と分かれる事だと、君は理解しているのかい?」

 

ボクは李典に最後の確認を問いかけました。

顔を上げてボクと視線を合わせてから、李典は自身の覚悟を告げてきます。

 

「かまわへん」

 

李典は決断を下した事に後悔していないようでした。

その瞳の輝きは、とても澄んでいて強い光を放っていたからです。

 

「……そうか。君の仲間入りを心から歓迎するよ、李曼成。ようこそ華陽軍へ。歓迎会は仲間の大切な家族を助けた後になるから、そのつもりでね?」

 

「え?! ……それじゃあ?!」

 

李典はボクの言わんとする事を理解して、とても喜んでくれました。

よほど切羽(せっぱ)()まっていたのかもしれません。

 

「皆も、そのつもりで頑張ってね? 楽しみは後に取っておこう」

 

ボクは周りに居る将軍たちに笑顔で話して行きます。

皆は笑顔で了承の意を表してくれました。

 

新しい仲間の為に、皆は奮起して事に当たってくれる事でしょう。

仲間を想い合う(きずな)こそが、何ものにも代えることの出来ないボクたち華陽軍の一番の強みなのですから。


 
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