No.463053 IS 〈インフィニット・ストラトス〉 蘇りし帝国の亡霊 第一話 到着トッキーさん 2012-07-31 22:16:53 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:814 閲覧ユーザー数:797 |
「ふう、やっと着いた…」
空港に降り立った彼———ブラスコヴィッツは、ため息混じりにそう呟いた。
それもその筈、本来数時間でドイツの地を踏むかと思いきや、何と半日近く足止めを食ってしまい、着いたのは夕方であった。
これは8日後に第二回モンドグロッソが行われる為に、何時も以上に厳戒体制が敷かれている為でもある。
更に彼自身が「男」である為に、女性が優遇される世の中に於いて、必然的に受付の順番が後回しにされたからだ。
(女尊男卑に於ける弊害…か)
昨今、女性優遇政策が続々と打ち出される中、男の境遇は目に見える程に下がっていた。
最もそれが著しいのは軍関係者である。
ISが登場してからというもの、それまで「最新鋭」と呼ばれていた戦闘機や戦車、イージス艦や潜水艦等の全ての軍用兵器はお蔵入り、若しくはISの射撃標的と化してしまっている。
そういった風潮の中で調子付いたのは女性であり、世界各国も有事の際に国家防衛の要となる素材を探し当てる事に必死になった。そして、どの国も率先して女性優遇制度を取り入れるしかなくなり、同時に一人でも多く優秀なISの操縦者を確保しようとした。
だがその結果、街には「自分が最高の人間である」かのように勘違いする女が増えた。
ISの適正結果も無く、戦争が始まったら誰よりも真っ先に逃げ出すような人間が、ただ「女性」というだけで男性に無意味に威張り散らすようになった。
失職者も———先述の軍関係者が中心に———大量に出たという話も聞いた。
昨日まで愛機に乗って空を駆っていたパイロットが次の日には——早くて数時間後には——懲戒免職を通告されたという話をよく聞く。
だがその中で「乗ってもいい」という話もあった。
最も、「給料無し。そして飛行する際は武装を一切認めない」というものであり、要は「空を飛びたいなら、有人のISの射撃標的になれ」と呼ばれる代物だった。そして皮肉にも今の世の中「男」が飛行機に乗れるとしたら、戦争と縁が薄い平和な旅客機という何とも気が抜けた話になっている。
だが、突然空を奪われた戦闘機パイロットはそうとも言えない。
観光客相手の遊覧飛行のパイロットになる者もいたが、それは本当に幸運であり、大半は自殺や、やけ酒に溺れた挙句ゴミ捨て場で野垂れ死にしたとも、強盗を働き死刑になったとも聞く。
彼の友人も空軍にいたが、そんな女尊男卑の流れで強制解雇された。だがその友人は幸運の部類に入っており、今では飛行機を使った農薬散布の仕事に付いていると聞いている。
(まぁ最も、今回は女尊男卑云々とは関係無いかな…?)
彼がそんな前向きとも言える考えに至ったのは、先述のドイツで行われる第二回モンドグロッソが関係する。
確かに厳戒体制が敷かれているが、それよりも「ブリュンヒルデ」を一目見ようと、陸路や海路、そして空路も全て観光客———勿論女性が多く見られる———で溢れており、当日ドイツに着く事は極めて稀という事態に陥っているからである。
その点からすれば、彼も実に幸運であると言えよう。
「さて。待ち合わせは、と…」
「すいません。一寸失礼します」
「は、はい?」
突然一人の女性———知的な感じがする美女だ———が話し掛けてきたが、彼は内心 その事に動揺していた。今の時勢「男」というだけで、大した理由もなくいきなり逮捕されるという事もザラではないからだ。
「あの…?」
「『ロンドンは今日も霧雨らしいですね?』」
「え?あ、ああ!『それでもニューヨークに比べれば、まだ美しく感じますよ』。ドイツの警察の方ですね?」
「はい。私は連邦警察のキャロライン・シュナイダーです」
「私は『ケヴィン・J・ブラスコヴィッツさん、ですよね?』そうです。ご存知でしたか」
「事前にあなたに関する資料に目を通しましたから」
「なるほど」
「それにしても凄い経歴ですね。21歳で海兵隊に入隊。イラクで戦われた後にOSAにスカウトされ、アフガンやロシアにおけるテロリストの掃討作戦等、数多くの作戦に参加。OSAに移るまでにパープルハートは勿論の事、ブロンズ・スターメダルやシルバースター、海軍十字章も授与される。次はメダルオブオナーでも目指しますか?」
「ハハ、ご冗談を。それにしても、こんな美女に私の名を覚えてもらえるとは、幸栄ですね」
「あら、嬉しい。口説てるおつもりかしら?」
「いえ、思った事を口にしただけですよ」
そんな時、空港の入口付近から黄色い悲鳴が聞こえてきた。彼等がふと目をやると、護衛——勿論これも女性だ———に囲まれた何処かの国のIS代表がゲートから出てきたのを、ファンが見つけ、歓声を挙げたのだ。
その代表も、歓声を受けて満更でもない表情を浮かべていた。
その後ろで、別の女性客の荷物を山程抱えている男性を見なければ、彼も口笛位は吹いたかもしれない。
「立ち話もなんですし、場所を変えましょう」
「ええ」
そうして、二人は最寄りの駐車場に停めてある車に乗り込んだが、その時から車内の空気が冷たいものへと変わった。
「それにしても、僅か数ヶ月で被害者が37人。しかも全員が刺殺体で発見されるとは…ジャック・ザ・リッパーの再来ですかね?」
「笑うに笑えない冗談ですよ?被害者の中には、本当に心臓を抉り取られるように傷を受けたのもあるんです」
「なるほど…」
渡された資料に目を通すと、数々の惨殺死体の写真が飛び込んできた。その中には、職場や出張先で見掛けた顔もあった。
確かにそこには心臓を抉り取られるように傷を付けられた死体もあったが、それはまだ良い方であり、中にはバラバラの遺体もある。そして写真の人物達は皆一様に恐怖と苦痛に恐れ慄く表情を浮かべていた。
この事が意味するものは一つ———この写真の人物達は、生きながらにして体を切り刻まれたのである。
「酷いな…」
「ええ。この事件があってから、皆夜の外出を控えているんです。ですが、それでも事件が起きてしまうんです。中には、本当にほんの1〜2分家を出ただけで被害にあった人も…」
「ドイツも形振り構わなくなった、か」
「ええ。もし選手の誰かが傷付いたりでもしたら、我が国の威信に関わる事になります。何とかして殺人犯を捕まえないと」
「確かに…下手すると、ドイツは世界中から非難を受ける。いや…非難どころじゃなくなる」
「ええ、ですから…」
「分かっています。私も身内が数人殺されてるんだ。意地でもこの手で捕まえて見せますよ」
「それを聞いて安心しました」
「しかし今日はもう遅い。明日死体の発見現場を見て回りましょう」
「宿は何処も混んでいて、開いてないですよ?なんなら私の家に泊まりますか?」
「ははっ、ご冗談を。警察署の宿直室でも借りますよ」
「あら、残念。振られましたね」
「はははっ、何時か食事でもご一緒に」
そして二人は警察署前で別れ、彼は警察署の宿直室で一晩厄介となった。
『報告書 ケヴィン・J・ブラスコヴィッツ。
今回の捜査の協力者である、キャロライン・シュナイダーと接触する事に成功した。
また今回の事件の資料に目を通したが、死体の写真を見る限り犯人の残虐性がはっきりと表れている。
恐らくあそこまで酷い殺し方は、近年稀に見ると言っても過言ではない。本当にジャック・ザ・リッパーが再来したかのような印象を受ける…』
彼はOSA本部へ挙げる報告書を仕上げ、少しカビ臭いベッドへと横になった。自分では分からなかったが、余程疲れていたのか、すぐに睡魔が襲い彼は夢の中へ落ちていった。
それを見つめる、青白く光る眼に気付く事無く…。
『フフフ、ヒヒハハハハ…』
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今回から本編です。