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真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の娘だもん~[第19話]

愛感謝さん

無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。

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2012-07-31 20:33:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4134   閲覧ユーザー数:3702

真・恋姫✝無双~だけど涙が出ちゃう男の()だもん~

 

[第19話]

 

 

~曹操のその後・ある州、ある陣営~

 

「……」

 

野営の為に立てた天幕の中で、曹操は一人で御酒を飲んでいた。

まだ若い酒ではあるが、口当たりが良く香りも芳醇(ほうじゅん)な御酒であった。

今迄に無いその味わいに、いつしか曹操のお気に入りの一つになっている。

(さかずき)に注いである御酒を見詰めながら、曹操は豫州に(おもむ)いてからの事を振り返っていった。

 

 

 

朱儁・皇甫嵩の救援に豫州へ赴いてきたら、見慣れない軍備を持つ軍が賊の後方から突撃をかけようとしていた。

突撃した軍は戦端を開くや否や縦横無尽に戦場を駆け巡り、その姿は(さなが)ら洗練された剣舞のようだと曹操には感じられる。

その軍は劉璋が率いていると知った時、すぐさま会談をすべく曹操は劉璋陣営に赴いた。

漢中太守になるや否や、瞬く間に大陸随一の富豪都市にした人物。

聞きなれない制度を行ない、難攻不落な人物を口説き落とし、最近では王にまでなった劉璋。

 

曹操も内情を探るべく、華陽国(旧漢中郡)へ密偵を放ってはいた。

しかし、民に近い制度の情報は取得出来るのだが、中枢の情報になると途端に取得不能になるのである。

密偵を何度放っても防がれてしまうので、退かせざるを得なくなった。

 

そんな曹操自身の意中の人物に会った時、劉璋への第一印象は“平凡”であった。

見た目は綺麗であったけれど、ただそれだけの人物だと曹操には感じられる。

何故こんな人物に、後ろに(ひか)えている一角の人物たちが従っているのか? と曹操は理解に苦しむ。

家柄だけしか取り柄の無い人物なのか? と判断しかけた時、夏侯惇が途方も無い事を仕出かしてくれた。

いくら礼が不要と言われていても、皇族であり王の(くらい)にいる人物に対して、その言動は余りにも無礼すぎたのだ。

 

曹操自身の謝罪に対して劉璋の取った処置は、さらに予想外であった。

許すのでは無く、気に留めないと言うのである。

曹操はその時、自身が劉璋を見誤っていた事を理解せざるを得なくなる。

劉璋の真意が何処(どこ)にあるのか計り兼ねたが、無礼の言を不問にする意図は理解出来た。

だから感謝の意を表して、曹操自身の真名を預けた。

劉璋は少し驚きながらも真名を受け取り、劉璋自身の真名も曹操に預けてくれた。

 

数日後、曹操軍は朱儁・皇甫嵩たちと汝南郡や陳国の黄巾党討伐へ赴く事になる。

だから、長社で劉璋とは別れる事になった。

別れ際の劉璋の顔は何処か安堵していて、曹操の(しゃく)にさわる。

だから意趣返しに、曹操は再会の約束を劉璋に告げた。

その時に劉璋の口端がヒクついていたのが見て取れたので、曹操は少し溜飲を下げる事が出来た。

 

曹操・朱儁・皇甫嵩軍は、汝南郡で賊を討ってから陳国の賊を討伐しに向かう。

陳国での賊徒討伐戦で、豫州の黄巾党は粗方壊滅させる事が出来た。

今は連戦の疲れを取るべく、全軍に休息を取らせている。

いずれ朝廷から別命が下されるまでの、短い休息ではあるけれど。

 

 

 

「どうか為さいましたか? 華琳さま」

 

曹操が杯の酒を飲まずに考え事をしているのを見て、夏侯淵は心配して問いかけた。

いつの間に天幕内へ入室していたのか曹操は気が付かなかったけれど、夏侯淵の心配顔に曹操自身を気遣ってくれているのが見て取れる。

 

「いいえ。別に何でも無いのよ」

「そうですか」

 

曹操の大事ないと言う返答に、夏侯淵は安堵する。

そうすると、夏侯淵の鼻腔(びこう)に好ましい香りが(ただよ)う。

 

「おや? この香りは華陽の酒ですか?」

 

先ほどまでは気が付かなかった天幕中に充満する香りに、夏侯淵は曹操に確認するように問いかけた。

 

「ええ、そうよ。秋蘭も飲む?」

「頂きましょう」

 

曹操の問いかけに、夏侯淵は是非(ぜひ)もなしと返答しました。

夏侯淵自身にとっても華陽国の酒は、お気に入りであったのである。

 

 

「何を御考えでしたのですか?」

 

暫く御酒の味を楽しんでいたが、おもむろに夏侯淵は曹操に問いかけました。

 

「刹那のことよ、秋蘭」

「……そうでしたか」

 

曹操の言葉に夏侯淵は、相槌(あいずち)を打ちながらも考え込んでしまった。

姉である夏侯惇への処置には感謝していたが、夏侯淵自身も劉璋と言う人物を計り兼ねていたからである。

 

「どんな人物だと思われますか?」

「刹那のこと?」

「はい」

 

夏侯淵は自分の主である曹操に、劉璋をどのように思っているのか確認してみた。

暫く考えていた曹操は、夏侯淵に語りかけるように話しかけてくる。

 

「私はね、秋蘭。いままで出会って来た人物の器量を、常に計ってきたの。

 身分が高かろうとも、器が小さい者にはそれなりの対処をしてきた。器が大きいのに機会を得ていない者には、機会を与えて育ててきたわ」

 

今迄の自分自身の在り方を淡々と夏侯淵に話していき、少し間を置いてから曹操は言葉を(つむ)いでいきました。

 

「でもね。刹那には、その器を感じられないのよ」

「そう……なのですか?」

「ええ。今の私に器を計れないのか、それとも器そのものが無いのか……」

「……」

 

夏侯淵は曹操の言葉に少し驚いていた。

いままで曹操の人物評価の観察眼は外れたことが無いからである。

 

「だから、今は興味深い人物としか言えないわね」

「そうですか……」

 

夏侯淵は曹操の言葉に、さらに困惑を感じてしまっていた。

いつも何かあれば、曹操から納得いく答えが返って来たからである。

しかし今回の事では、曹操自身も分からないと言う。

いつしか天幕内で2人は、それぞれが無言で考え込んでしまっていた。

 

 

「ふふふっ……」

 

暫く静寂な天幕内であったが、それを破るかのように曹操から微笑が漏れ出していた。

夏侯淵は、そんな曹操を不思議に思って問いかけてみる。

 

「どう為さったのですか?」

「いいえ。ただ春蘭を助ける為とはいえ、あのとき土下座をしたでしょう?」

「……はい」

 

夏侯淵にとって、曹操が取った行動は感謝しきれないことではあった。

大事な姉である夏侯惇を、身を挺して助けてくれたのだから。

しかし同時に、敬愛する(あるじ)に土下座をさせてしまった事が無念でもあった。

曹操は、そんな夏侯淵の心情を(おもんばか)る事なく言葉を続けていきます。

 

「それで、前に土下座したのは何時(いつ)だったのかを思い出していたの。その時の事を考えていたら、少し可笑しくなってしまったのよ」

「前……ですか?」

「ほら。春蘭と3人で、御父様の大事な陶器を壊してしまった時があったでしょう?」

「……そんな事もありましたね」

 

幼き頃の思い出を曹操から告げられて、夏侯淵は自身も思い出して同意を示した。

夏侯淵自身にとっては、忘れていたかった苦い思い出ではあったけれど。

 

「陶器を割ってしまった事よりも、誤魔化そうとした事を反省させられたわね」

「そうでしたね……」

 

実父からの教えを受けた幼き頃の日々を、曹操は懐かしく思い出しながら夏侯淵に話していきました。

そんな主を優しい眼差(まなざ)しで見詰め、夏侯淵は同意を示していきます。

いつしか2人は、過ぎ去った日々を懐かしく想いながら笑いあっていました。

 

 

「華琳さま!」

 

天幕内の団欒(だんらん)的な空気を壊すかのように、夏侯惇が天幕内へ声を張り上げながら入って来ました。

 

「はあ~……。春蘭? 私は貴女に礼儀というものを教えたつもりなのだけれど、まだ分かっていないようね?」

 

曹操は先の劉璋との会談での一件の後、夏侯惇には礼儀とは如何(いか)なるものかを身を持って知らしめた。

しかし、夏侯惇は仕置きされて居るというのにもかかわらず、何故かそれを喜んでしまって懲りていないようである。

忠誠を誓ってくれる事には感謝しているが、さりとて曹操や夏侯淵以外を軽んじて無礼を働いてしまうのは頂けない。

今回は劉璋の人柄や非公式の場と云う事で助かったが、今後もそうであるとは限らないからである。

だから曹操は、どうすれば夏侯惇に礼儀を(わきま)えさせる事が出来るのか、その事に頭を悩ませてしまったのであった。

 

「え?! そっ、そんな事ありません。華琳さま!」

 

夏侯惇は仕置きされた時の事を思い出したのか、(ほお)を少し桜色に染めだした。

曹操はその有り様を見て、やはり夏侯惇が懲りていない事を悟る。

まるで仕置きを待ち望んでいるかのようだと、曹操には感じずには居られなかった。

 

「……まあ、良いわ。それで? 要件は何だったかしら、春蘭」

 

曹操は溜め息をつきながらも、夏侯惇に要件を聞き出していきました。

 

「はっ、はい! 兗州(えんしゅう)の東部から、村人が村を救って欲しいとやって来ました!」

「……兗州から?」

「はい!」

「そう……」

 

豫州陳国から見て、兗州の東部は地理的に真上あたりに位置する場所であった。

また、兗州の西部には劉璋が居る事を曹操は思い出す。

賊を生かして捕虜にするような人物が、同じ州に居る民の窮状(きゅうじょう)を見逃すとは思えないと曹操は考えた。

 

「春蘭。その村人を、ここに連れて来なさい」

「はい、華琳さま!」

 

長社で別れた劉璋との再会が、思いのほか早く訪れるのではないかと曹操は思った。

曹操自身の身の内に、そんな予感を感じていたからである。

 

「ふふふっ……。待っていなさい、刹那。今度こそ見極めてあげるわ、貴方の全てをね」

 

曹操は劉璋との再会に思いを()せて、いつに無い高揚感をその身に感じずには居られなかった。

 

 


 
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