No.462854

『孫呉の龍 番外編 ”WILD HORSE”』 中編

堕落論さん

亀更新となりましたが中編でございます。宜しければ暫くの間、御付き合いの程を宜しくお願い致します。

駄作者の趣味で『水滸伝』の登場人物がクロスオーバーしています。苦手な方は今すぐ回れ右を……

2012-07-31 16:13:03 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2265   閲覧ユーザー数:1904

 

龍虎の部屋でのやり取りがあってから暫くして、建業の街の繁華街の中にある立派な屋敷の前に龍虎、一刀、雪蓮そして魯粛の姿があった。

 

「ここか『玉麒麟』ってのは……」

 

「ええそうよ。冥琳にも確認したから間違いは無い筈よ……でも、なんで私が龍虎の御供なんか……」

 

龍虎の問いに無理矢理連れて来られた形の雪蓮が、ややふくれっ面で答える。

 

「なんか商家の構えに見えないよね……ここって」

 

「はぁ~っ、名前は知ってましたが実際に訪れるのは初めてですよ」

 

商家と呼ぶには不釣り合いなほど大きな門構えで入口には屈強な張り番が両側に立つ屋敷を見ながら、一刀が横にいる魯粛に話し掛けると彼女は感嘆したような声で答える。

 

「ところで、龍虎殿に北郷殿。この場に雪蓮様がいらっしゃるのは分かるのですが何故に私まで一緒にいるのでしょうか?」

 

「そうだよ、龍虎。雪蓮さんがいるのはまだ分かるとしても、何で魯粛さんまでも連れて来たの?」

 

「ちょっと芙蓉に北郷。私が居るのが分かるってのはどういう事よ……」

 

「えっ、いや雪蓮さんと龍虎のさっきの姿を見たらさあ……」

 

やいのやいのと何気に騒々しい外野の声にうんざりとした口調で龍虎が答える。

 

「雪蓮も一刀も程々にしろよ。さっきから門番が此方を睨んでいるじゃねえか。それと子敬殿を連れて来たのは、ここで店主に子敬殿の面通しをしておく事が、今後の呉の為に必要だと思ったからだ……」

 

そう言った龍虎は、門番の前に進んで抱拳礼の形を取りつつ

 

「我の名は子義龍虎と申します。お目通りを求めたいとこの屋敷の主殿にお伝え願いたい」

 

「子義龍虎殿と申されたか……暫しお待ちくだされ」

 

龍虎の口上を聞いた門番の一人が小走りで屋敷の方へと向かった後、暫くして先程の門番と共に一人の青年が一行の目の前に姿を見せた。

 

青年は建業では珍しい雪の様な白い肌を持ち如才ない笑顔で龍虎達に向かって揖礼の姿勢を取りながら言葉をかける。

 

「貴殿が子義殿であられますか、もうそろそろ『玉麒麟』に参られる頃だろうと思っておりました。私はこの建業支店を任されております燕青と申します。以降お見知り置きを……」

 

燕青と名乗る青年の口上を聞いた龍虎は満足そうに微笑んで燕青に言葉を返す。

 

「ふっ……成る程、すべてお見通しと言う訳ですか……『浪子』燕青殿。ならば洛陽の本店におられるのは盧俊義殿ではないかと思われますが……如何?」

 

「ほうそこまで考えが及ばれるとは流石『紅き龍の御遣い』と菅輅殿に言わせるだけの事はありますね。かなりの武と智をお持ちの様だ……盤古様が目を掛け、あの御三方が肩入れするのにも納得がいきます」

 

「やはり貴方も……そう認識をして宜しいのですか?」

 

「まあ、その様なものだと考えて頂いても一向に差し支えは御座いませんよ……ハハハッ」

 

長年来の友人の様に語り合う、二人の意味不明のやり取りに痺れを切らした雪蓮が強引に話しに割り込んで来る。

 

「ちょっと、龍虎! アンタ何の話をしてんのよ? ちゃんと私と芙蓉にも理解出来る様に説明しなさいよっ」

 

突然の雪蓮の言葉に龍虎ではなく燕青が慇懃な態度で雪蓮達に向かい揖礼をとりながら

 

「これは失礼いたしました呉王孫伯符様。先程子義殿に申しました通り、手前はこの屋の主の燕青と申します。それに御一緒されている『白き御遣い』北郷一刀殿に魯校尉様もお初にお目にかかります」

 

「あっ……どうも北郷一刀です」

 

「あっ、あのっ、手前は魯子敬と申します」

 

「そんな挨拶なんてどうでも良いのっ! 燕青だったかしら、何故貴方が七日ほど前に呉に現れたばかりの龍虎や北郷の事を知っているの? それに盤古様って誰よ? 御三方って何の事なのよっ!」

 

苛つきを多分に含んだ剣呑な声で雪蓮が燕青に突っかかって行くのを横合いから、燕青に助け船を出す様に龍虎が止めに入る。

 

「おいっ! 雪蓮ちょっと落ち着けよっ。燕青殿は間違いなくこの時代の人間だよ。それに盤古や御三方ってのは取り敢えず俺達の協力者ってやつだ……なあ、一刀」

 

「ええっ……? そこで、俺に振るのかよっ! 俺だってお前の言ってる事なんか殆ど分かんないのに……」

 

話を急に振られた一刀が不満気な顔をするのをやれやれといった表情で龍虎は

 

「全く……あっちで勉強してた時に何度も参考として解析したじゃねえかよ」

 

「だから、何をだよっ……?」

 

「中国四大奇書の一つである『水滸伝』の梁山泊に集う者達の戦略や機知をさ……」

 

「えっ……? じゃあ燕青さんってもしかして……?」     

 

「ああ、そうだ。梁山泊での地位は第三十六位で、天罡星三十六星では末席にあたる好漢。そして、この時代での役割は貂蝉や卑弥呼と同じく外史の管理者の様なものらしいがな」

 

一刀にだけ聞こえる程の声で聞かされた事実に、一刀は開いた口が塞がらなかった。

 

 

門前での一連の騒動? の後に燕青の屋敷内に入った龍虎達一行は、商談に使用されるのであろう立派な調度品を誂えた応接室に通された。

 

あの後はなんとか事情を察した一刀の必死の説明によって、とりあえず雪蓮の口撃はかわせた。しかしあくまで取り敢えずと言うだけであって今もその口撃の主は、龍虎の横で睨むような目をして誰に対する訳でもない愚痴を呟いている。

 

「あのなあ雪蓮、いい加減に機嫌直せよ……相手側に悪印象与えるだろうが……」

 

「べぇ~つぅ~にぃ~機嫌悪くなんて無いわよぉ~、ただ、私の預かり知らない所で龍虎と北郷が話しを合わせて、私と芙蓉をうまく丸めこもうとしてる事に、ちょぉっ~とだけ腹が立っているぐらいかしら」

 

「それを機嫌が悪いと言うんだろうが。何度も言うようだが間違いなく燕青殿はこの国の商人であって、決して呉に災いを招く様な人物じゃあ無いんだから……」

 

「ふぅ~ん、流石に『紅き龍の御遣い』様は何でもよくご存じだ事……」

 

「おい、言葉の節々に刺が見え隠れしてるぞ……ったく」

 

二人の剣呑な雰囲気に一刀と魯粛は全く関与する事が出来ずに唯々嵐の……いや、ブリザードの過ぎ去るのを待つ様にして二人で固まっている。と、その時、奥の別室から館の主である燕青が大量の竹簡を手に持って現れた。

 

「皆様、お待たせいたしました……おや? 中々に修羅場の様で……」

 

「何を楽しそうに……貴方と俺の関係の件で此処まで話がややこしくなってると言うのに……」

 

「それは申し訳ありませんな、子義殿。ですがこれしきの事なぞ子義殿には、どうという事もありますまいに……」

 

「アンタねえっ、これしきの事ってどういう事よ! これしきの事って!」

 

「だから雪蓮、落ち着けって……それに燕青殿に向かってアンタって言うのは失礼だろうがっ!」

 

「なによ龍虎、龍虎はどっちの味方なのよ……」

 

「どっちの味方も何も無えよっ! 燕青殿は俺達の協力者であって、それ以上でもそれ以下でも無えって!」

 

「まあまあ、御二人とも落ち着いて……確かにこの国を預かる孫策様から見れば、私の様な出自の知れない者が相当な危険人物に映るのは仕様が無い事なのでしょうが……」

 

燕青は龍虎と雪蓮を交互に見ながら言葉を続ける。

 

「孫策様。私とて今はこの世界で……いや、この建業で日々の糧を得ている身であって、私の下で懸命に働いてくれているのは殆どが呉の民です。私は建業支店での商いを預かると同時に、この店で奉公してくれる者達の生活も共に預かっております。それ故に私は奉公人達を皆、家族だと考えております」

 

燕青は一言一言、雪蓮を諭す様な口調で言葉を紡いでいく。

 

「ですから、私といたしましても、この呉を……いやこの大陸全土を先の大戦以上の災厄が見舞うかもしれないであろう事を黙って見ている訳にはいかないのですよ」

 

「奉公人達が家族ねえ、でも、口だけなら何とでも言えるわよ」

 

「おいっ、雪蓮! いくらお前でも言って良い事と悪い事があるぞっ!」

 

「龍虎は黙ってて! 私にとっても呉の全ての民は家族と思っているのよ。その家族達の安全を脅かすかもしれない輩を、はいそうですかと受け入れる訳にはいかないのよっ!」

 

孫呉の王としての毅然とした態度で凛と言い放つ雪蓮に対して龍虎が苦い顔をして言葉を放つ。

 

「雪蓮……それを言うなら俺や一刀も、その家族達の安全を脅かす者達って事になるんだけれどな……」

 

「うっ……そ、それは……」

 

「孫策様、それに子義殿……御二人とも其処までにされては如何ですか、北郷殿や魯粛殿が困られていますよ」

 

龍虎の言葉に対して雪蓮が口籠るのを見た燕青は、物静かな表情に笑みを湛え二人の間に割って入る様に言葉をかける。

 

「確かに孫策様の仰るように口では何とでも言えるもので信じるに値しないと言う、貴女様の言葉は真実でありましょう…………ですから私共の孫呉と御遣い殿に対する誠意の証として、この様な物を用意させて頂きました」

 

そう言うと燕青は、机上の大量の竹簡を二山に分けて、一方を龍虎と一刀の前に、もう一方を雪蓮と芙蓉の前に押し出した。

 

「確かに孫策様の仰るように口では何とでも言えるもので信じるに値しないと言う、貴女様の言葉は真実でありましょう…………ですから私共の孫呉と御遣い殿に対する誠意の証として、この様な物を御用意させて頂きました」

 

燕青から渡された大量の竹簡に雪蓮と共に暫く真剣に目を通していた芙蓉が驚嘆の声を上げる

 

「こっ、これは………燕青殿、この竹簡に記されている事は誠の事なのでございましょうや……?」

 

「芙蓉、一体何なのよ、素っ頓狂な声を上げて」

 

「雪蓮様、雪蓮様の竹簡には何が書かれておりましたか?」

 

「んっ……私が読んでいる竹簡には建業の農地改革の意見書に、海辺の塩田の改良方法についてかしらね……冥琳が見たら泣いて喜びそうなものばかりよ。芙蓉の方は何が書いてあったのかしら?」

 

「こちらは我々孫呉に仇成しそうな揚州の豪族達の動きや山越に関する詳細な報告書ですね……これに書かれてある事が真実であるならば燕青殿の細作は、かなり優秀な方達であると言わねばなりません。明命達の力を持ってしても此処まで詳しい情報は、我々には残念ながら手に入れる事は出来ません」

 

そう言って芙蓉は悔しそうな顔で俯いてしまう。

 

「如何でしょうか孫策様。これらの報告書や意見書は全てお持ち帰り頂いて結構でございますし、これ以降、逐一上がって来る報告書も石頭城に届けさせましょう。また、お望みとあれば今後、周泰殿と連絡を密に致す事についても我々は吝かではありませんが……」

 

「ちょっと待って、話が旨すぎるわ……確かに我々にとっては喉から手が出るくらいに欲しい情報ではあるけれども、それらを大盤振る舞いして一体貴方に何の得があるのかしら? 言っとくけど三国の平和の為なんて綺麗事は一切受け付けないわよ」

 

その目に獰猛な光を湛えたまま雪蓮は燕青に向かって挑みかかる様に問い返す。一方の燕青は、雪蓮の恫喝にも取れる様な雪蓮の問い掛けを歯牙にもかけずに、その柔和な笑みを絶やさず問いに応える。

 

「勿論、孫策様がお考えに成る様に、我々もなんの見返りも考えずに貴女方に協力を申し出ている訳ではございません」

 

「やっぱりね………そんなこったろうとは思ったわ。でも……三国の平和の為とか言われるよりは納得いくかしらね」

 

「そう言って頂けると幸いかと……」

 

「で、この国で最も力を持っていると言われる商家の『玉麒麟』さんは、色々な情報と引き換えに私達に何を望むのかしら?」

 

「はい、我々が望む事は、今後の建業復興の為の種々様々な事業への優先的な参入、それと龍の御遣い子義龍虎殿との交誼を、この燕青個人が結ぶ事の了承を孫策様に直々に了承して頂きたいと言う事の二点でございます」

 

「ふう~ん……だ、そうだけど……芙蓉、この提案、貴女はどう考えるかしら?」

 

「そうですねえ……」

 

雪蓮からの問いに芙蓉は暫し瞑目して考えた後に

 

「建業復興事業の件ですが……土木、干拓、開墾等、建業の民の安寧を図る為の施策は、どれを実行するにしても現在の呉の懐状況では苦しいと言わざるを得ませんし、それだけの事業を国単体では出来かねますので、建業の商家には協力を仰がねばならないでしょう」

 

芙蓉はそこまで一気に喋ると、目の前に置いてある茶を一気に飲み干して

 

「しかし、建業の商家に頼ると言っても、実際、その様な事が出来る商家は皆無に近い状態です。結果的に『玉麒麟』を優先的に事業に参入させたとしても、建業の商家組合からの反発等は起こらないと考えられますね」

 

「そう……では、もう一つの要望である龍虎との私的な交誼についてはどうなのかしら?」

 

「そちらの方も、これはあくまでも私見ですが……龍虎殿は雪蓮様が呉に迎え入れられたとは言え、未だその扱い的には相談役、或いは客将の域を出ておりません。したがって燕青殿との私的な交誼も汚職や癒着と言った様な疑いの眼差しで見られる事は無いのではないかと……」

 

「取り敢えずの問題は無い訳ね……」

 

一連の会話を纏める様に呟いた後、雪蓮は考えを纏める様に瞑目した。暫しの間重苦しい緊張感が流れる中で、雰囲気に耐えられなくなってきた一刀が何か言葉を口にしようとした時

 

「良いわ。貴方のその申し出を受けるわ。冥琳には事後承諾って事でまた怒られそうだけれど……まあそこは芙蓉と龍虎がなんとかしてくれるのよね」

 

そう言って雪蓮は龍虎と芙蓉を見て悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「わ、私が冥琳を説得ですかあ……はあ~っ」

 

話を振られた……と、言うよりは無理難題を押し付けられた芙蓉は、悲壮感漂う声を出し天井を見上げて大きな溜息を吐き、龍虎は苦虫を噛み潰したような表情で渋々頷いた。

 

はいどうも、子供の夏休みが始まって仕事と家族サービス(主に長女の遊び相手ww)が非常に辛い堕落論です。本日は長女と『狼子供の雨と雪』に行ってきました。明日はカラオケボックスに連れて行けだそうです(泣)精神力と体力とおかねが尽きそうです……まあなんだかんだで中編を更新いたしましたので、見てやって下さいな。

 

 

それでは次回の講釈で……ちょっとお疲れ堕落論でした。

 

 
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