「ミセス・シュヴルーズ!当直はあなたなのではありませんか!」
ハヤテだ。いまは先生たちの責任の擦り付け合いを見ている
「これこれ、女性を苛めるものではない」
「しかしオールド・オスマン!ミセス・シュヴルーズは当直なのに、ぐうぐう自室で眠っていたのですぞ!責任は彼女にあります!」
オスマン氏は長い口ひげを撫でながら責任の所在を追及する教師を見つめた
「ミスタ…なんじゃっけ?」
「ギトーです!お忘れですか!」
「そうそう。ギトー君じゃったな。キミはちと怒りっぽくていかん。では、この中にまともに当直をしたことのある教師はおるのかの?」
教師たちは全員顔を伏せるか、目をそらした
「さて、これが現実じゃ。責任があるとするなら、我々全員じゃ。この中の誰もが…もちろんワシを含めてじゃが…。まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど夢にも思っておらんかった。なんせここにおるのは、殆どがメイジじゃからの。誰が好き好んで虎穴に入るかっちゅう訳じゃ。しかしそれは間違いじゃった」
オスマン氏は壁にぽっかりあいた穴を見た
「この通り賊は大胆にも忍び込み『破壊の杖』を奪って行きおった。つまり我々は、油断しておったのじゃ。責任の所在は、我々全員にあると言わねばなるまい」
みな一様にオスマン氏の次の言葉を待った
「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」
オスマン氏が尋ねた
「この三人です」
コルベール氏がさっと進み出て、自分の後ろに控えていた三人を指差した
ルイズにキュルケ、タバサの三人である
一応俺も現場にはいたが、使い魔なのでカウントされていない
そんな俺を見てルイズとキュルケがすまなそうにしている
「ふむ、キミたちか」
オスマン氏は俺をじろじろ見つめた
おそらく、俺の魔力を測っているのだろう
「詳しく説明したまえ」
ルイズが前に進み出た
「あの、大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです。肩に乗っていた黒いローブを纏ったメイジがこの宝物庫から何かを…。おそらくその『破壊の杖』だと思いますけど…。盗みだした後また肩に乗りました。ゴーレムは学院の壁を越えて歩き出して…。最後には崩れて土になってしまいました」
「それで?」
「後には土しかありませんでした。肩に乗っていたメイジは影も形もありませんでした」
「ふむ…」
オスマン氏は再びひげを撫でた
「後を追おうにも手がかり無しと言うわけか…」
そこでオスマン氏は何かに気づいたようにコルベール氏に尋ねた
「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその…、朝から姿が見えませんで」
なんでそこで怪しいと思わないかな?
「この非常時にどこに行ったのじゃ?」
「どこなんでしょう?」
そんな風に話をしていると、ミス・ロングビルが現れた
「ミス・ロングビル!どこに行ってたんですか!大変ですぞ!事件ですぞ!」
コルベール氏がまくし立てるが、ミス・ロングビルは落ち着き払った様子で答えた
「申し訳ありません。朝から急いで調査をしておりましたの」
「調査?」
コルベール氏はきょとんとした様子で問う
「そうですわ。今朝方起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして宝物庫はこの通り。すぐに壁のフーケのサインを見つけましたので、これが国中を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」
大怪盗?先生たちは『賊』としか言ってないよ?
「仕事が早いの。ミス・ロングビル」
コルベール氏が慌てて先を促した
「で、では結果は?」
「はい。フーケの居所が分かりました」
「な、なんですと!?」
コルベール氏が、素っ頓狂な声を上げた
「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル」
「はい。近所の農民たちに聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒いローブの男を見たそうです。おそらく彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」
「黒いローブ?それはフーケです!間違いありません!」
ルイズが叫んだ
オスマン氏が目を鋭くしてミス・ロングビルに問いかけた
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日、馬で四時間くらいかと」
…………この人は本当に優れたメイジなんだろうか?
「すぐに王室に連絡しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」
コルベール氏が叫んだ。しかしオスマン氏は首を振ると、目をむいて怒鳴った
「ばかもの!王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ!その上身にかかる火の粉を振り払えぬようで、何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた!これは魔法学院の問題じゃ!当然我らで解決する!!」
ミス・ロングビルは
オスマン氏は咳払いをすると、有志を募った
「では、捜索隊を編成する。我と思うものは、杖を掲げよ」
誰も杖を掲げない。困ったように顔を見合わせるだけだ
「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」
ルイズはうつむいていたが、やがて杖を掲げた
「ミス・ヴァリエール!」
ミス・シュヴルーズが驚いた声を上げた
「何をしているのです!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて……」
「誰も掲げないじゃないですか!」
ルイズは強く言い放った。そんなルイズに俺は微笑んでいた
ルイズを見て渋々キュルケも杖を掲げた
「ツェルプストー!キミも生徒じゃないか!」
コルベール氏も声を上げた
「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」
キュルケはつまらなそうに言った
キュルケが杖を掲げた後、タバサも掲げた
「タバサ。あなたはいいのよ。関係ないんだから」
そのキュルケの言葉にタバサは小さく
「心配」
と答えた
キュルケは感動した面持ちで、ルイズは唇をかみ締めながらお礼を言った
「「ありがとう、タバサ」」
そんな三人の様子を見て、オスマン氏は笑った
「では、頼むとしようかの」
「オールド・オスマン!わたしは反対です!生徒たちをそんな危険にさらすわけには!」
「では、君が行くかね?ミス・シュヴルーズ」
「い、いえ。わたしは体調が優れませんので…」
「彼女たちは敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いておるが?」
タバサはぽけーっとして話を聞いてるのか聞いてないのか分からない
教師たちは驚いてタバサを見つめた
「本当なの?タバサ」
キュルケも驚いている
詳しくは覚えていないが、確かシュヴァリエは純粋に実力で与えられる称号だったはずだ
俺は原作知識で知っているが、タバサの年で与えられるのは少ないのだろう
そのあとオスマン氏はキュルケを見た
「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法もかなり強力と聞いておるが?」
キュルケは得意げに髪をかきあげた
そしてルイズの番だが…
「その…、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、その、なんだ、将来有望なメイジと聞いておるが?さらにその使い魔は!」
そこでいったん区切り俺のほうを見ながら
「傭兵ながらあのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンと風のラインであるミスタ・ロレーヌと決闘して勝った。という噂だが」
その後をコルベール氏が興奮した様子で引き取った
「そうですぞ!何せ彼は始祖の使いmムグッ!」
オスマン氏は慌ててコルベール氏の口を塞いだ
「グホッ!いえ、何でもありません!はい!」
教師たちはすっかり黙ってしまった
「この三人に勝てるというものがおるなら、前に出てきたまえ」
オスマン氏は威厳ある声で尋ねたが、誰もいなかった
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
ルイズとキュルケ、タバサはまじめな顔になり、同時に
「「「杖にかけて!」」」
と唱和した
俺は貴族ではないので
「剣にかけて!」
と言った
「では、馬車を用意しようそれで向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」
「はい。オールド・オスマン」
「彼女たちを手伝ってやってくれ」
ミス・ロングビルは頭を下げた
「もとより、そのつもりですわ」
第十話です。誤字脱字などがあったらご指摘ください
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第十話です。
遅くなって申し訳ありません