夜天の主とともに 11.騎士甲冑
健一side
俺特製激辛コースできっちり粛清した翌日、シグナムさんたちから、あれにはちゃんと理由がというので聞くことにした。
俺は魔力はあるのに魔法の知識はない、だから自身の中の魔力を認識することができないらしい。知識もないのにいきなりぶっつけ本番でできるやつはほんの一握りだとのこと。
ならどうすればいいか?答えは直接魔法をその身で感じるというのが手っ取り早いらしい。だから昨日のようなことをやったという。
それについてシャマルさんがやってくれた喘息を抑える魔法をその身に受けたことでよかったんじゃないかと聞くと声をそろえて「あっ。」と言った。俺のあの覚悟はなんだったのか‥‥‥。
とりあえず一日休養ということで今日は久しぶりに図書館に来ている。今いるのはシグナムさん、シャマルさん、はやて、そして俺である。
「「騎士甲冑?」」
「ええ。」
シグナムさんの言葉に俺とはやては首を傾げた。
「我らは武器は持っていますが甲冑は主から賜らなければなりません」
「自分の魔力で作りますから形状をイメージしてくだされば」
「そっかぁ‥‥。そやけど私はみんなを戦わせたりせぇへんから‥‥‥あっ!!服でええか?騎士らしい服!な!」
「ええ、構いません」
「ほんなら資料探してかっこええの考えてあげなな」
「はやてのセンスが問われるな。頑張れよ」
「任しとき!!けん君のも一緒に考えたげるわ」
「えっ?俺のも?」
「そや。けん君も騎士になるんやらいるやろ?まぁけん君にも戦って欲しいないけど。それにけん君も戦うの好きやないやろ?」
「お察しの通りで。作ってくれるだけありがたいよ。俺が考えると絶対変なのなるし」
「ふふふっ♪伊達にけん君の幼馴染4年もやってないで。けん君のことなら何でもお見通しやで」
‥‥この子はどうしてこう気恥ずかしいことをスラッと言うかね。天然なのかな、いやマジで。いちいち意識してしまう俺の身にもなってほしいものだ。
「ん?どうしたん?」
「んにゃ、何でもない。にしてもイメージで作るとなるとやっぱあそこか?」
「さすがけん君、たぶんその通りやで。じゃここで少し資料っぽいの借りたら一度家戻ろか。ヴィータも連れてってあげなな」
シグナムさんとシャマルさんは首を傾げながら頭に?マークを浮かべた。
「あのはやてちゃん、家に戻った後にどこに行くんですか?」
俺とはやては顔を見合わせてにかっと笑った後、同時にシグナムさんたちの顔を見て言った。
「「おもちゃ屋や(です)」」
―――――八神一行移動中
ヴィータと合流して俺たちはおもちゃ屋に到着した。シグナムさんは家に残った。
なんでも主はやてが留守の間私が守るとかなんとか。一体誰が襲撃してくるんだろうか。
到着したおもちゃ屋の名は『トイザルス』。
何度来てもあの『トイ○ラス』のパクリじゃんと思うけどこの世界に『ト○ザラス』はないみたいだからこっちではこういうことなんだろう。
「ここは?」
シャマルさんが車椅子を押しながら辺りをきょろきょろしている。どうやらおもちゃ屋というものが何か知らなかったみたいだ。
ちょっとザフィーラさん聞いた話だと今までは戦いに満ちた世界ばかりだったらしい。当然こんな娯楽施設があるわけもないからやっぱり物珍しいのだろう。
「ええからええから。こういうとこにこそそれっぽい材料が‥‥」
ヴィータは特に興味がないのかボーっとはやてとシャマルさんの後ろを歩いてる。そこでヴィータが突然立ち止まり何かを見ている。
後ろから覗き込むとそこはぬいぐるみコーナーのだった。その中の妙にホラーがかってる白うさぎのぬいぐるみに興味津々のようだ。
「‥‥‥‥‥(ジッ――――)」
(俺が後ろに立っても気づかないとは、こういうとこは子供っぽいな)
「ヴィータそれ欲しいの?」
「ッ!?んなわけねぇだろ!てかなんであたしだけ呼び捨てなんだよ!!」
「えっとシグナムさんたちは大人っぽくてヴィータは子供っぽいから?」
「私は子供じゃねー!!!」
プンプンという擬音がつきそうな感じでヴィータは怒ってどっかに行った。むぅ‥‥怒らせてしまったようだ。
「ヴィータちゃんどうしたのかしら?」
シャマルさんが困惑顔をしてるとはやては一人得心顔でうなづいていた。そしてつい先日教えてもらった念話というもので俺に話しかけてきた。
『ふふっ、そういうことな。けん君あとは任せとき』
『なんか任せっぱなしな気がするけどよろしく』
そしてその帰宅途中。
「いい風ですね」
「ほんまや。」
「お天気もいいですし」
「絶好のお散歩日和やな」
「ねぇ、ヴィータ。そろそろ機嫌なおしてよ。俺が悪かったからさ」
「うっせ、黙ってろ」
その後ろを俺とヴィータが歩いてるんだけどおもちゃ屋から出てからずっとこんな感じでなかなか機嫌をなおしてくれない。本人はけっこう気にしていたのかもしれない。
『はやて、そろそろ頼む。これ以上はきつい』
『それはけん君の自業自得やと思うで。けどそろそろええかもね』
「ヴィータ、けん君から袋からもらって」
はやてがそう言うとヴィータがこっちを見て……わぉ、むっちゃ睨まれてる。
「その袋なんなんだよ?」
「ま、まぁ開けてみるといいよ」
相変わらずこっちを睨みながらヴィータは促されるまま袋を開けた。そして中身を取り出した時ヴィータは満面の笑みを浮かべた。
その手にあるのはあのちょっと不気味なうさぎのぬいぐるみ。よほど嬉しいのかぬいぐるみを持ち上げたまま固まってる。目をきらきらさせ、わぁと言いながら一気に笑顔になるヴィータ。
(こうして見ているとほんとに見た目相応というか子供というか。おっといけないいけない)
「はやて、あり…。」
お礼を言おうとしたはやてとシャマルさんは何も言わずにそのまま先に進んでいた。言うタイミングを失って立っているヴィータの頭にポンと手を乗せた。
「よかったな。あと、ほんとごめんね」
「‥‥‥健一もありがと」
小さいがはっきり聞こえる声で言うとヴィータははやてたちの下に走っていった。どうやら俺が言ったこともばれていた様である。
(守護騎士全員生活になじんでくれたみたいでよかった。ほんとここんとこ楽しい事ばかりだ)
帰宅後はやてはさっそく「みんなの騎士服考えるでぇ!!」と意気込み早々に自分の部屋に戻っていった。夕食時になったら呼んでくれとのことだった。どうやらアイデアがまとまるまで誰にも見られたくないようだ。
「大丈夫だろうか主はやては?」
はやての部屋をちらちらと見ながら心配そうにしている。
「大丈夫ですよシグナムさん。はやてのことだからきっと俺たちをびっくりさせたいんですよ。それよりもシグナムさん、シャマルさん。順番に先に風呂入っててください。俺夕食の準備するので」
「お言葉に甘えるとしよう。」
「たまには健一君も一緒に入る?」
横から入ってきて小悪魔的な笑顔で聞いてくるシャマルさん。この人絶対わかってて言ってるよな、間違いなく。
「冗談やめてくださいよ。入るとしてもザフィーラさんとです。というか今日はザフィーラさんと入ります」
「‥‥俺は入らんぞ」
「ダメですよ。まだ一度も洗ってないじゃないですか。きっとノミだらけですよ。」
「しかしだな」
これだけ言っても渋るザフィーラさん。犬はだったか猫だったかは水で洗われるのが嫌いと言うがそういうことなのか、まぁザフィーラさん狼だけど。
どなるとこちらも強硬手段に出るしかない。
「俺がやらなくてもはやてがやるって言うと思いますけどどうします?」
「‥‥‥‥‥‥よろしく頼む」
きっと異性のはやてと同性の俺とどちらにやられるかを天秤にかけたのだろう。その気持ちはよくわかるよ。
そしてお風呂も入り、作業途中だったはやても呼んでいつもの夕食を始めた。はやてはすぐに自分の部屋に戻って作業再開。俺はまだ一般常識が乏しいみんなに重要なことから一つ一つ説明してその日はみんなすぐに寝た。
次の日。
「できたぁー!!」
朝から元気な声が八神家に響き各々がその声で目を覚ます。
リビング着くとはやてがすでにそこにいた。そして付き添うようにザフィーラさんもいた。主を1人させるわけにはいかないと護衛ということらしい。
だからなにが襲撃してくるんだろう。
「朝っぱらからどしたの?」
「フフフッ、聞いて驚かんといてェよ。みんなの騎士服完成しましたー!!」
「おぉー!ってもしかしてはやて徹夜?」
よく見れば目の下には少しだけ隈があり、トロンとした表情になっている。若干疲れ気味のような感じなのも気のせいじゃないだろう。
「んー、まぁそんなところやけど。そんなのええからみんな呼んできて」
「もう来てます」
「どうしたのはやてちゃん?」
「ふぁ~‥‥ねむっ」
いつの間にか3人とも起きていた様だった。一人すごく眠そうなのがいるが。
「みんな騎士服できたで~」
「ほんとかはやて!?」
さっきまでの眠そうな顔はどこにいったのかはやてに詰め寄るヴィータ。シグナムさんたちもヴィータほどではなかったが嬉しそうな顔をしている。
「じゃイメージ送るでぇ~」
するとたちまちシグナムさん、シャマルさん、ヴィータ、ザフィーラさん(人獣モードの)の来ていた服が騎士らしい服になった。ヴィータのがゴスロリぽかったのが気になるが。
それよりも‥‥
「ザフィーラさん‥‥‥しぶくくてかっこいいです!!」
「‥‥‥‥‥」
すると何も言わずいつもの狼に戻ってしまい顔を背けた。
「あらあらザフィーラったら照れてるの?」
「へぇ~ザフィーラが照れるなんて珍しいこともあるもんだな」
シャマルさんとヴィータがそんな様子が珍しいのか面白がってからかう。
「‥‥‥うるさい」
図星のようだった。どうやら本当に照れてるらしい。
意外な一面だな。
それにしてもさすがはやてだ。騎士服だからどんなの作るかと思ったけどみんなかっこいい。
「さてそれじゃ最後は‥‥‥けん君や!!」
「待ってました!と言いたいんだけど俺まだ慣れてないから自分で騎士服形成とかできないよ」
「う~んそっかぁ。私もまだよくわからんからそれはやってあげられんしなぁ」
「でしたら主はやて。私たちに一度健一の騎士服のイメージをさっきのように送ってみてください。そこから健一のデバイスに直接データを送ればあとはデバイス自身が形成してくれるはずです」
なるほどそれは妙案ですな。だけどなんで全員に送るんだろう。
「なるほどな。でもそれやったらシグナム一人に送ればええんとちゃう?」
「それが‥‥」
「私たちも先に見たいんです!」
「あたしだけ先に見れないのやだ!」
「‥‥‥‥‥」
ただの野次馬だった。ザフィーラさんにいたってはもう流れで見ること決定になっているみたいだ。
「わかった。じゃあみんな送るで」
再度はやてが目を閉じシグナムさんたちにイメージを送る。そしてその反応は様々だったが好反応だった。
「ほうこれは‥‥」
「さすがです、はやてちゃん」
「かっこいいじゃねーか」
「いいな、確かに」
どうやら本当に期待できそうだった。いつも発言が若干間があくザフィーラさんでさえ即答なのだ。期待が俺の中で高まっていく。
「シ、シグナムさん。はやくジェットナックルに」
「ああ、わかった。今送る」
ジェットナックルに手をかざすと紫色のオーラのようなものが腕輪へ流れ込んでいく。
〈Barrier Jacket image‥‥‥received〉
「これでいいだろう」
「じゃあさっそく!!ジェットナックル」
〈Anfang〉
薄緑の光を放ち俺を包み込んでいく。
光が晴れて自分の姿を見ようとしたらいつの間にかシャマルさんに目隠しされていた。シャマルさんが押すようにして俺を鏡の前に立たせた。そして俺は鏡に写る自分の姿を見た。
「これは‥‥」
灰色の少しぶかぶか感があるズボン、カンフーパンツというやつだろうか。その腰と膝に軽量で鋼色の装甲が取り付けられている。
そして上の方は鼻まで覆う黒のぴっちりとしたインナーシャツ、連想しやすそうなのはナ○トで出てくるカ○シみたいな感じだ。
息苦しいかと思ったけどこれも魔法だからなのかそんなことは全くなかった。普段と変わらず呼吸できる。
それに重ね着するようにこれまた下のズボンみたいにチャイナ服を彷彿させるような黒い服。肩には腰と膝にあるものと同様の装甲はつけられている。
袖は長くジェットナックルを隠すほど長い。両手を合わせてお辞儀をするとさらにチャイナっぽい。
ただ普通の男性用のチャイナ服とちょっと違うところがシグナムさんの騎士服のように前垂れがあるということだ。どっちかというと女性用の気がするけどカンフーパンツと組み合わせることでその違和感はまったくない。むしろ合ってると思う。
総合して評価するとつまり‥‥かっこよかった。センス抜群である。
「どうや、気に入ってくれた?」
「はやてありがと!!すごくかっこいいよ。さすがはやて」
「いや~そこまで言われるとうれしいわ」
そこでずっと黙ってみていたシグナムさんたちが口を開いた。
「主はやて、これは健一が拳で戦うタイプだから拳法家のような姿にしたんですか?」
「そうや、殴る蹴る言うたらやっぱりチャイナやろ。といっても戦うことなんかなんやけどな」
それは若干偏見ではとも思ったがどちらにしろ気に入ってるので俺からも何も言わないことにした。
「こういう騎士服もいいですね!」
「全体が黒っぽくて黒いマスク、なんかアサシンっぽくもみえるな」
「なかなかいいと思うぞ」
みんなも改めてみた俺の姿に好評価だ。そして今気づいたが以前感じたジェットナックルの腕と足の重さがあまり感じなくなっていた。ちょうどいい感じだ。まだ少し思いがあとは慣れだろう。
「これからよろしくな、ジェットナックル」
〈Ja〉
シグナムさんたちが自分たちの騎士服についてお互いに話していたので俺はバリアジャケットを解除してそのままソファーに座るはやての横に座った。
「ホントありがと、はやて」
「どういたしまして」
少し疲れたような声で答えるはやて。無理もない、九歳なのに徹夜なんて無理すれば疲れるしなにより眠いだろう。
「今日は家事全般俺がやっとくよ。だからはやては今日はゆっくり休め」
「でもそやときつくない?」
「みんなにも手伝ってもらえばなんとかなるよ」
「う~ん‥‥そやなぁ。じゃあ‥そうさせてもらおうかな~。なぁけん君?」
「ん?」
「一つお願い事しても‥‥ええ?」
「いいよ、今なら何でも受付中だ」
「膝貸してもろぉてもええ?」
「……はい?」
はやての思わぬ言葉に俺は固まってしまった。なんでこう恥ずかしいことを簡単に言うのか?
「…だめ?」
「い、いやダメってことはないんだけど…俺の膝なんかでいいの?」
「昔はよぉしてくれたでしょ?なんかわからないけど心地ええいうか、寝やすいんよ」
そういえばしたなぁ確かに。そういえば逆のパターンもあったような、と想像しそうになったことで頭をブンブン振って頭の奥にやった。
「まぁそういうことなら俺なんかの膝でよければいくらでも」
「ありがとぉ‥‥‥じゃあお言葉に甘えて…」
そう言って俺の膝に頭を乗せるとまもなく静かな寝息がはやてから聞こえた。そんな姿のはやてにおれは頭をなでながら頬が緩んだ。
「お疲れ様、はやて」
八神家に暖かな日差しが差し込んだ。
今日も八神家は平和です。
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