No.462171

リリカルなのは×デビルサバイバー

bladeさん

5thDay 交渉

2012-07-30 00:28:34 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1852   閲覧ユーザー数:1815

 

 時空管理局と接触したあの日は、カイトにとって、ちょっとしたターニング・ポイントとなった。

 

「おはよう、天音くん」

「…? おはよう」

「おはようございます」

「あぁ、おはよう」

 

 臨海公園での会話が切掛となったのか、アリサとすずかがカイトに挨拶をしている。当然これは悪いことではなく、良い変化といえるだろう。

 そしてその様子を、周りのクラスメイトも納得しながら見ていた。

 

 『あぁ、バニングスさんが月村さんを引き連れ、クラスに未だ馴染んでいない、転校生に声をかけてるんだ』

 

 こんな感じで誰が言う訳でもなく、クラスの一人一人が自己完結状態で答えを出していたからだ。

 とはいえ、この変化というのはカイトの周りの人間の変化であり、カイト自身が変化した訳ではない。その為、カイト自身には変化が見られず、いつもどおり一人で、ヘッドホンから流れる音楽に意識を集中していた。

 

 そして、変化はもうひとつある。

 

「――ょぅ……」

「……? あぁ、おはよう」

 

 カイトがヘッドホンをしていたせいか、あまり声が聞き取れなかったものの、視界に映るそのツインテールは紛れもなく、高町なのはだった。

 そして明るい笑顔と、軽く手を上げていることから、カイトは、なのはが自分に挨拶している。と、判断したのだった。

 

 なにか話があるかもしれない。

 

 そう思い、カイトはヘッドホンを取る。

 

「おはよう、カイトくん。ヘッドホンをしてたのに、よく聞こえたね?」

「……なんとなく、挨拶したいんじゃないかと思った。それに、話したいこともあるだろう、とは思っていたし」

「うん。だから、昼放課に話ができないかなって思うだけど、大丈夫?」

「問題はないよ。それじゃ、おやすみなさい」

 

 会話を早々に終え、カイトはヘッドホンをつけ、机に突っ伏す。

 そんなカイトの様子に、なのはは頭に?マークを浮かべながら、自身の席に着いた。

 

* * *

 

 気まずさ。というのを、感じたことがある人は、当然居るはずだ。

 どんな性格の持ち主でも、そんな状況になるのは、いやだろうし、避けたいと思う。それが当然のこと。

 その気まずさを、現在進行形でカイトは感じていた。

 

「……」

「……」

 

 様々な人がカイトを見ているが、その中で最も見ているのが、アリサとすずかだ。

 カイトもその視線に気づいているものの、面倒くさいのか、授業を聞いている振りをしながらも、何も考えずぼーっとしている。

 

 放課になっても、カイトへの視線は途切れることはない。いや、クラスの半数はもう興味をなくしているのだが、アリサとすずかはなのはの親友であり、自分たちが知らない間に(それも喧嘩中に)いつの間にか、仲良くなっていた(アリサ達視点で)事に関して、気にかけているのだろう。

 

 最も、ずっと見られているカイトからすれば、いい迷惑なのだが。

 

* * *

 

 昼放課開始のチャイムが学校中に響き渡る。

 起立、礼をした後、弁当箱と水筒を持って、速攻でカイトは屋上へと向かった。

 屋上には人が少ないし、何よりアリサ達の視線を鬱陶しいと感じ始めていたからだ。

 

 屋上へと移動するさなか、先日交換したメールアドレス……つまりは、なのはの携帯へと、屋上に居るとの情報をメールで送る。

 きちんとメールが送信できたことを確認し、携帯をポケットへと入れて改めて屋上へと向かう。

 

* * *

 

 子供の身体には少々重い、屋上の扉を開ける。

 あまり、生徒が来ないように工夫した結果が、この重い扉なのだろうが、年々平均身長やらが伸びている昨今、あまり意味のないものになっている。

 

 カイトは屋上でも、あまり人気のない場所へと移動する。後は、なのはを待つのみだ。

 

 数分後、誰かが扉を開けようと、必死に扉を押しているのが、カイトには分かった。

 だが、屋上の扉を開けるのに苦労するのは、学園の中でも一年や二年。もしくは、一部の三年……。三年?

 そこでカイトは気づいた。転校してきてから、自然と耳に入ったり、知る情報の一つ。身体能力の事を。

 

「まさか……高町さんか?」

 

 体育の時間で、50M走や握力測定などをして、運動能力を測ることがある。走る前の待ち時間などで、大体ではあるが、クラスの能力値というのは、分かるものだ。

 女子のトップはすずかで、下位に位置するのがなのはだということも。

 

 屋上の扉の方へとカイトは歩いて行く。

 やはり誰かが扉を開けようと、唸っていて、その声の主はなのはだった。

 

* * *

 

「ごめんね? 手間かけちゃって」

「いや、気にしないでいい。開けれない可能性を考慮しなかった俺が悪い」

 

 屋上の片隅にて、カイトとなのはは昼食を取っていた。なのはが少々息切れ気味なのは、一生懸命扉を開けようとしていたからである。

 

「うん。その前に、一つ聞かせて欲しいの」

「ん?」

「あの、天使の羽根をフェイトちゃんに渡した人を殺す。って」

「あ~……なるほど。それは、気になるか」

 

 殺す。この言葉をなのはの前で言ったのは、臨海公園での一件しかない。だからこそ、カイトはちょっとだけ悔やんでいた。もう少しオブラートに包んだ言い方をすればよかったかな? と。

 

「殺すっていうのは、言い過ぎだったけど、最悪の事態としてってことだ。話をして、俺の想定しているような事が起きなければ、決して殺したりはしないよ」

「そっか! ならいいんだ」

 

 殺すことにはならない。その言葉に喜んでいるのか、なのはは笑顔を見せている。

 

「それで、高町さんはどうするの?」

「え?」

「管理局……というより、アースラの面々って言ったほうが、正しいかな? 彼らと協力するのもありだと思うし、逆に協力しないのもひとつの手。どっちもメリットとデメリットはあるだろうしね」

「あ、うん……昨日の夜と、授業中でもそうだったんだけど、ユーノくんとその事で話し合ってたんだ」

 

 授業中に話し合っていた。以外にも不真面目な行動を取っていたなのはに、少し驚きつつも、カイトは話を聞いている。

 

「でも、答えは出なくて…。それで、カイトくんの考えを参考にしようかなーって思ったんだけど」

「俺の考え、ねぇ。管理局に関しては、協力関係になっても、ならなくても、どっちでも良いんだよなぁ……」

 

 管理局との協力関係になった時のメリットは、ジュエルシードの発見を迅速に行える点だろう。ジュエルシード自体はカイトに益をなさなくても、ジュエルシードを狙って、フェイトが現れる。これによりあの羽根の持ち主との接触をとる事ができる可能性があがる。

 デメリットについては、一時的とはいえ組織に属することになり、行動を妨げられる可能性が上がる。更に言えば、管理局にとっての、悪魔使いという存在について。これもまた問題と言える。

 

 ならば、非協力関係になった場合はどうだろうか? 何時でも迅速に動くことが可能であり、尚且つ柔軟な行動を取ることができるだろう。

 ただ逆に、情報収集能力がカイトには欠けており、フェイトという少女と接触する事が難しくなるのは当然のことだろう。

 

 どちらにしても、メリットとデメリットは存在しており、どちらのメリットも、魅力的なものだ。

 それらを決めるのは、難しい事ではあるが、ここでしてはいけない選択は何も選ばない。という選択だろう。

 そして、管理局側にも選択肢は存在する。

 

 ここまで考えをまとめた所で、今の考えをカイトは言う。

 

「……まっ、とりあえずあっちの要求次第かな。俺にとって受け入れがたい物意外であれば、協力する。そうであれば、はねのける。……とか言ってるけどさ、そもそもあっちが関わるな、って言ってくれば、そもそも一択になるわけで」

「アハハ。それもそうだね、クロノくんは私達が関わるの否定的だったし」

「管理局が、警察や軍みたいなものだとしたら、クロノの考えも当然なんだろうねぇ」

 

 そう、管理局側のもう一つの選択肢とは、俺たちをこの件に関わらせないようにする、というものだ。

 この選択をしてきた場合、カイトとなのはの答えは一瞬で決まる。

 

「楽、と言えば楽だよな?」

「うん、でもそれだと迷惑をかけちゃうことになるよね?」

「俺からすれば、どうでもいいけどな」

「だめだよ! 周りのことも考えないと!」

 

 それは最もな意見ではあるが、気づいているのだろうが? 周りを気にかける=なのははこの件から引くという選択を選ばされる事に。

 

「どちらにしろ、こっちの意見はちゃんと言う。少なくともそうしないと、話し合いの場では意味が無いと、俺は思う」

「そうだね。後は、話し合い次第かな?」

「それが一番難しいけどね」

 

 カイトとなのはは笑い合う。最もその笑みは、明るい笑顔のようなものではなく、苦笑いといえるものだったが。

 

 話が終了したと同時にチャイムが鳴り始める。

 

「あぁ、そうだ。一つ言いたいことがあったんだ」

 

 カイトが弁当箱を片付けながら言う。

 なのはもまたカイトと同じように、弁当箱を片付けながら、首を傾ける。

 

「なにかな?」

「アリサとすずか。全部話せとは言わないが、ちゃんと話をしろよ? でないと俺に、詰め寄ってきそうだし、あいつら」

「あ、あはは。ごめんね?」

「まぁいいよ。ちゃんと話しとけよ?」

 

 弁当箱を片付け終わり、カイトは立ち上がって、扉へと向かい開ける。

 そして閉めようとした時――。

 

「あ! カイトくん閉めないで!」

「……すまん。忘れてた」

 

 扉を開けたまま、教室へとカイトは戻っていった。

 

 ちなみに、やはりと言うべきか、カイトが教室に戻ってきた時、突き刺さるような視線がカイトを襲った。犯人はもちろんアリサ(プラスですずかだが、こちらはそれほどでもない)だった。ため息をつきたい、衝動に駆られるも我慢し、カイトは自身の席へと座るのだった。

 

* * *

 

 海鳴市に存在する料亭、カイト達はそこに居た。

 学園の校門に止められた黒い車に、カイトとなのはは乗り、連れられてきたのが、この料亭だった。

 ちなみにユーノは、全てをなのはに託したらしい、それでいいのか。

 決して、安そうな料亭ではない。まるでドラマとかで、裏取引やらをする舞台のような料亭だった。

 女将に連れられ、カイトはなのはと共にリンディとクロノが居るという部屋まで歩いていた。

 

「お客様、こちらです」

 

 星座をしながら、障子を開ける。

 そこには先日見たリンディとクロノが、座布団の上で座っていた。

 

「こんにちは、二人共」

「……ども」

「はい、こんにちは」

 

 リンディの挨拶に対し、二人も合わせるように挨拶をする。

 

「二人共立ってないで、座るといい」

「あ、はい」

 

 クロノに示され、二人もまた座布団の上に座る。

 座布団の素材も、安くはなさそうだ。

 

「さてと、それじゃ早速本題に入ろうか?」

 

 様々な料理が流れこんでくるなか、クロノが話を切り出した。

 

「あぁ、気にしないでいいよ。ここで話している事は理解できないだろうから」

 

 思考を遮るような、何かしらの魔法でもあるのだろうか? そう考えた所で、カイトは思考を止めた。考えた所で、意味は無いのだから。

 

「昨日、僕達の方で話しあった、ひとつの結論を君達に言おう」

 

 クロノの言葉に、カイトとなのはは耳を傾ける。

 

 協力か、否か。それとも、カイト達の行動自体を、抑えこむ――か。

 

「答えは唯一つ、僕たちは君達と協力関係を結びたい」

「……意外だな。昨日の今日で、答えが変わるとは」

「これは、"僕たち"の答え。"僕"の答えとは違う。けど、どうでもいいことだよ」

 

 自身を殺す。それはきっと、組織の人間として、正しい答え。

 

「気に入らないな――」

「なんだって?」

「いや、なんでもないさ、なるほど。そういう答えを出すか」

 

 管理局側の答えは、"譲歩"だ。であれば、"譲歩"された側の取るべき行動、取るべき姿勢は一つしか無い。

 

「分かった。俺も、管理局に協力しよう」

 

 カイトが同意したとき、クロノとリンディの表情が幾分、明るくなる。

 「だけど――」と、カイトは言葉を続ける。

 

「時が来るまでは、アンタ達の指示に従おう。しかし、もし俺の意思を妨げるようなことがあれば――反旗を翻す。俺から言えるのは、それだけです」

 

 その眼は確かに、リンディとクロノを怯ませた。いや、怯ませたのではない、おびえさせた。

 その眼から発せられたもの、それは正しく、殺気だったから。

 

 カイトは言いたいことを、全て言ったようで、目の前の料理に手を付け始めていた。

 自身のせいで、空気が悪くなったのを、当然感じていたが、あえて空気を読まず、食べ始めた。

 そんな中、一人の少女の声が、部屋に響き渡る。

 

「私も、カイトくんと同じです。私は、ジュエルシードを集めて、フェイトちゃんを助けたい、それだけなんです」

 

 カイトとは違い、それは純粋な願いであり、意思だ。

 そして、カイトとは違い、真っ直ぐな…好感を持てるその瞳で、リンディとクロノを見ていた。

 

「……分かった。協力の条件については、草案を僕たちが出すから、納得出来ない部分を君達が修正してくれ」

 

 カイトとなのはは頷く。

 細かい契約内容について、口を出せるほどカイトたちは年を食ってない。

 

「さてと、それじゃカイトくん、なのはさん、それにクロノ。お料理を食べましょうか?」

 

 少々冷えてしまっている料理たち。

 それを見ながら、リンディは言った。

 

「あ、はい!」

「……そうですね」

 

 一人もう既に食べているという事実を無視しつつ、リンディ達三人は合掌…「いただきます」と言った。

 

* * *

 

 料理も食べ終わり、カイトたちを家に返した後、リンディとクロノはため息をついていた。

 

「お疲れ様、クロノ」

「はい、母さん……」

 

 満身創痍に見えるクロノと、一見普通に見えるリンディ。

 

「でも一応交渉は成功したというのは、喜ばしいことね」

「ですね……。将来有望な魔導師見習い、そして歴史に記された悪魔使いの再来。どちらも、管理局に多大な利益をもたらす」

 

 そう、これこそクロノ達が"譲歩"した理由。

 最初に、"拒絶"をし次に"譲歩"する。これは交渉する時の手段の一つだ。

 

「少なくともこれで、悪魔使いのデータを取ることはできる。それだけでも十分なくらいの、お宝とも言える情報だ」

 

 そして二人の考えはこうだ、……あわよくば。

 

 悪魔使いの力を……"悪魔の力"を、管理局の手に。

 

「そこまでは無理だと思いますけどね、母さん」

「そうね~」

 

 二人が思い出すのは"殺気"だ。

 殺気だけで、人が殺せるのならこの二人は既に、一二度殺されている。

 

「それじゃクロノ、休憩はここまでにして、アースラへと帰還しましょうか? エイミィも待ってるだろうし」

「はい、母さん」

 

 局員二人は、料亭を後にする。

 空にはまるく、光り輝いている月が見えている。もう、子供は寝る時間、されど……クロノとリンディの夜は、まだ終わらない。

 

 


 
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