No.461994

恋姫無双 槍兵の力を持ちし者が行く 閑話「出会い」

ACEDOさん

 今回は過去話になります。
 ちなみに今回はすべて華琳SIDEです。

2012-07-29 21:18:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4476   閲覧ユーザー数:4036

――

 今、私は一人洛陽の近くの森の中にいる。

 何故こんな所にいるかというと、気分転換の為だ。

 昔から天才や神童等呼ばれ、そして次期曹家当主として世間に認知されてから気の抜ける暇がほとんどない。

 偶に春蘭、秋蘭と話したりもして気分転換もしているけど二人とも私塾に通ってないから何時もというわけではない。

 だから、一人の時はこうして近くの森や川に行くわけだけど……

 

 「どうして貴方が此処にいるのかしら?」

 

 目の前には釣りをしている李高がいた。

 李高、昔は男でありながら神童と呼ばれ、私塾に入った人物。

 しかし、私塾に入ったものの、すぐ抜け出したり、寝てたり、賭け事をしていて呼ばれ始めたあだ名は『落ちこぼれ』等の不名誉な物ばかり。

 

 「ん?その声は曹操か。

 いやなここら辺がよく釣れると聞いたからさ、試しに釣ってみようて思ってな。お前もやるか?」

 

 「残念だけど私はそんな趣味はないの。見た所いいのが釣れてないようね?諦めたら?」

 

 「いやーきついね。だがもう少し粘るよ。分の悪い賭けは嫌いじゃないんでね」

 

 本当にこの男の飄々とした話し方を聞いてるとなぜだかイライラしてしまう。

 まったく、麗羽や曹家に擦り寄ろうとする連中から離れたと思ったらこの男と会うなんてね。

 そもそも男というので信用できない。顔はそこそこ良いようだけれどそれだけに感じられる。

 それに神童と呼ばれていたのだから何か優れた資質があったのでしょうけれど、それを伸ばさないのも腹が立つ原因だ。

 

 「はあ、もういいわ勝手にしなさい。じゃあね」

 

 「そうかい。……あっ。そうだ。このあたり、近頃なんだか物騒だからな。気を付けて帰れよ」

 

 私は李高に別れを告げて、落ち着ける場所を探しに行った。

 途中、アタシが一人なのを心配した忠告が聞こえたけど無視した。

 

 

 

 

 

 「そろそろ戻ろうかしら」

 そろそろ日が暮れるころ、私はふと気になって李高の所に行こうとした。

 あいつがちゃんと釣れているかどうか少し興味があるし、釣れてなかったら何を言ってやろうかしら。

 

 

 そして李高が釣りをしていた所には李高だけではなく3人の賊がいて剣を片手にアイツを脅していた。

 自分で注意しといて不様ね。

 

 「釣りをしているところすまねえが、身ぐるみ全部置いてって貰おうか」

 

 「へへへ、そうだぜ。死にたくなければ全部置いていけ」

 

 「死にたくなければ、無駄な抵抗はやめるんだな」

 

 「いやー、皆さん落ち着いて、落ち着いて。平和に、話し合いで解決しましょう。痛いのはいやですからね。……と言うわけで見逃して「ふざけるな!」貰えるわけないですよね」

 

 はあ、呆れた。賊相手に話し合いなんて出来るわけないじゃない。

 けれど何かおかしい。普通は賊が目の前にそれに複数いたら男は大体怯えるのだけど、アイツはそんな感じには見られない。あの目は怯えてる目じゃなくむしろ見逃してやるという感じだ。

 少し面白くなってきたわね。さすがに目の前で顔見知りを見殺しにするのは嫌だから飛び出して助けようと思ったけどもう少し様子を見ていてもいいかもしれない。

 

 「へっ、臆病者が。まあいいや、おい!お前らとっととこいつ殺して持ってるもん全部かっぱらうぞ」

 

 「「へい!」」

 

 「あーあ、こっちは面倒くさいし、今は、あんまり人を殺したくないし、力を見せたくないんだけどな。しょうがないか。

 あんたらの事情は知らねーけど……死んでくれ」

 

 アイツはそう言いつつ、傍に置いてあった赤い棒を持って殺気を出す。

 私はその殺気を感じた時、向けられてないのに怖いと感じてしまった。

 そこにいたのは周りに『落ちこぼれ』と言われ続けた凡人ではなく、今まで会った中で一番の才の輝きを持つ『武人』としての李高がいた。

 

 「ふ、雰囲気を変えたぐらいで俺達がびびるわけないだろ。やっちまうぞてめえら」

 

 その声を合図に賊達が剣を片手に突っ込んでくる。

 それに対して李高は構えるだけ。しかしよく見ると赤い棒と思っていた物の端には槍の刃と石突きがあり、全て赤く塗られた槍だとわかる。

 そしてその構えは通常の構えより低く、例えるなら獲物を狙う猫、そして隙がない。

 そして……

 

 「しっ!」

 

 槍を突いた。そして構え直すと同時に賊が3人全員が倒れる。

 アイツがしたことは極めて単純ただ三人の心臓を突いただけ。けどその突きは余りに速いものだった。

 そしてその姿に見惚れてしまう自分がいる。

 

 「で、なんか用かい?曹操さん?」

 

 っ、気付かれた。いえ、始めから気付いていたのでしょうね。

 出来る限り気配を消していたというのに流石と言うべきかしら。

 恐らく今の姿が李高という男の真の姿。今まで自分の才を隠していたこと、そしてあの武を見てしまった以上どうしても欲しい。

 

 「あら、ごめんなさい。少し興味深い物を見ようとしたのだけれど……邪魔だったかしら」

 

 「いや、見てたのなら助けろよ。

 俺はこれでも面倒くさがりやのことなかれ主義の人間なんでね」

 

 「誤魔化すことはやめなさい。

 まさか今の殺気と武が火事場の馬鹿力とか言わないでしょうね」

 

 「いやー、こっちはそう言いたかったんだが……

 今のことなかったことにしてくれないか?」

 

 「いいけど、一つだけ条件があるわ。

 私の物になりなさい。そうすれば黙ってあげるわ」

 

 その言葉を聞いた李高はあからさまに嫌そうな顔を浮かべている。フフフ、私に見つかったのが運の尽きと思いなさい。私があんな武を見せられて放っておくわけないじゃない。

 

 「……だから面倒くさいんだよ。

 ……しょうがない。曹操、あんたの理想を教えろ。」

 

 あの目、そして雰囲気、私を試すつもり?

 面白いじゃない。

 

 「いいわ。教えてあげる。我が理想は覇道を進み、天下を統一して、民が安心して暮らせるような世を作る。

 どう、満足かしら?」

 

 そう返すと李高は驚き、顔をうつむかせ、黙ってしまった。けど、よく見ると震えている。

 おそらく笑っているのだろう。

 

 「……馬鹿にしているのかしら?」

 

 私の理想が私に合ってないとでも言うつもりかしら。

 

 「ククク…いやすまない。まさか曹操、お前から…

 ハハハハ!もう無理だ!我慢出来ねえ!

 いやまさかアイツから聞くと思ってたものを、まさかお前から聞けるとはな。まったく。予想外にも程がある。

 いや、合格だ。合格だよ曹孟徳。

 悪くない。ああそうだ。悪くない気分だ」

 

 そう笑いながら話す李高はまるで探していたものを見つけた子供ものような雰囲気だった。

 

 「とまあおふざけはここまでで、少し質問だ。

 曹操、戦で一番血を被る奴は誰だと思う。」

 

 「当然、私達命令を下す上にいる人物よ。」

 

 何を当たり前のことを聞くのかしら。

 だけど、これは一種の評価を下す質問なのだろう。

 答えを聞いた李高は満足気な顔を浮かべ、槍を横に下ろし、私の前にひざまついた。

 

 「我が名は李高 雲犬。真名は蒼。我が目指す理想は『常に前に進む人の住む国』だ。曹操、あんたならそんな国を作るだろう。

 我が槍と我が真名、そして我が理想をお前の理想に捧げ、また支えきれない重荷は共に支えよう。

 最後にお前はただ『戦え』と言え。ならば俺はお前の為に槍を振るおう。」

 

 そう宣言する蒼に思わず見惚れてしまったのも悪くはない。

 まったく、元々、男には真名を預けないと思ってだけど、今の蒼になら預けてもいいわね。

 

 「わかった。私の真名も預けるわ。私の真名は華琳よ。これからは私の為に武を振るいなさい。」

 

 こうして私は蒼と会い、共に歩み始めた。

 

――

 

 「―琳様。華琳様。」

 

 「あら秋蘭、ごめんなさいね。少し思い出に浸っていたわ。

 それで桂花、新しい警備体制を布いてから治安はどうかしら?」

 

 「はっ。例の区分された警備の制度ですが、成果を上げているようです」

 

 荀彧、真名は桂花。初対面で私を試した可愛い娘。

 今は私の軍師となって働いてくれている。

 それにしても蒼が残した本は良く出来ているの一言だ。内容はどの本にも書かれておらず、革新的なものまである。さっき言っていた治安計画もこの本の内容だ。

 

 「良くやったわ。桂花。あとで、ご褒美を上げる」

 

 「か、華琳様~」

 

 ふふふ、本当に可愛い娘。

 

 

 蒼、貴方の噂は此処まで来ているわ。

 民にはただの傭兵としか認知されてないようだけど。賊の間では「『紅蓮団』の紅狼」なんて恐れられているわよ。多分アイツはそんな二つ名を付けられたなんて気付いてないのでしょうね。

 それを知ったら、どんな態度をとるのでしょうね。

 

 

 それより心配なのはアイツの回りに女がいないかどうかね。

 アイツの本質を知ったら落とされるのは確実だから。

 とにかく、アイツが女を連れて帰ってきたらお仕置きしなきゃね。

 


 
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