No.461904

真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の娘だもん~[第15話]

愛感謝さん

無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。

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2012-07-29 19:22:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3788   閲覧ユーザー数:3436

真・恋姫✝無双~だけど涙が出ちゃう男の()だもん~

 

[第15話]

 

 

(どうして、言わずにはいられなかったのかなぁ……)

 

宮廷の謁見の間での出来事をボクは振り返っていました。

何故あの時に陛下へ献言をしたのか、ボクは自分の気持ちが理解出来なかったのです。

 

「どう(いた)しました、若?」

 

自分の部屋で壁に背を預けながら酒の入った(さかずき)を片手に考え込んでいると、いつの間にか厳顔が部屋に入って来ていました。

厳顔の顔を見ると、そこにはボクを気遣うような様子が(うかが)えます。

ボクは厳顔に(そば)へくるように(うなが)し、新しい杯を彼女に渡して酒を注いでいきました。

 

「昼間のことを振り返っていたんだ……」

「……そうでしたか」

 

ボクは自身の考えていた事を厳顔に話し、今に至る出来事を振り返っていきました。

 

宮廷を辞去して館に帰って来たボクは、益州牧と華陽王になったことを皆に話しました。

皆は一様に驚いたようでしたが、次々に『おめでとう御座います』と祝ってくれました。

その後ボクは詳細を話して、賊徒討伐の君命が下りたことを皆に告げます。

皆は神妙な顔をして、それぞに自分の為すべきことをし始めました。

ボクは別段することも無いので、部屋に引き(こも)ることにしました。

酒に弱くて普段は(たしな)まないボクでしたが、なんとなく今日は飲みたい気分になっていたからです。

酒を飲みながら彼是(あれこれ)考え込んでいたら、いつの間にか夜になっていたようでした。

 

 

「部屋から出て来ないので、皆が心配していましたぞ」

「え?」

「前に申し上げた筈ですぞ?『配下に心配を掛けて下さるな』と」

「ふふっ……。そうだったね」

 

ボクは厳顔の言葉を聞いて、部屋の外で様子を(うかが)っている諸葛亮と周泰に入って来るように言いました。

2人は『はうぅ』とか『にへへ……』と照れながら部屋に入って来ます。

 

「ごめんね、2人共。心配かけたみたいでさ」

「も、もったい無いお言葉です」

「あぅあぅ……。そんなことないです」

 

ボクが謝ると、2人は恐縮してしまいました。

お詫びにとボクは杯を取り出して、それぞれに酒を注いであげます。

酒を皆で飲みながら、暫く互いに取り留めも無い話しをしていました。

 

「若は何を悩んでおいでですかな?」

 

すると、おもむろに厳顔が本題を切り出してきました。

 

「悩みと言うか、納得したいだけなんだ」

「納得?」

「うん。謁見の時、陛下に献言したのはどうしてなのか……」

「「「……」」」

 

ボクが自分の胸の内を話すと、皆は考え込んでしまいました。

独り(ごと)を言うように、ボクは続けて話していきます。

 

「益州牧の印璽を受け取って、そのまま辞すれば良かったんだ。それなのに、陛下を見ていたら言わずにはいられなかった……」

 

皆はボクの言葉を黙って聴いてくれていました。

そうしていると、周泰が両手を合わせて“(ひらめ)いた”とばかりに言い出します。

 

「刹那様は、陛下を思いやって差し上げたのではないですかぁ?」

「思いやる?」

「はい!」

 

ボクは周泰の言葉を聞いて、そうかもしれないと思いました。

陛下はどこか投げ遣りで、無力感を(ただよ)わせていました。

そんな陛下に、ボクは亡き父・劉焉の面影を重ねていたのかもしれません。

生前はそれほど親密では無かった父。

年に一度会えれば良い方で、下手をすれば数年会うことは無かった。

それでもボクを太守にしてくれて、蜀地域の鉱山や塩井の管理を任せてくれた。

父なりの想いの表現だったのかも知れませんが、ボクにはそれが分からなかった。

 

物を与える事でしか表現出来ない、そんな悲しい方法。

思いやりの言葉をかけて、その人の心を(いた)わる方法。

想いの表し方は人それぞれなのだと、ボクは改めて実感しました。

 

「ありがとう、明命」

「いっ、いいえ! とんでもないです!」

 

納得できたボクが周泰にお礼を言うと、恐縮してしまいました。

周泰がボクの(わだかま)りを解決してくれた功績に免じて、宿での風呂の一件をバラした事はチャラにしてあげようと思います。

実は、ちょっと根に持っていたボクでした。

ごめんね? 周泰。

 

 

 

「ですが、これから大変ですね……」

 

周泰との会話の頃遭いをみて、諸葛亮がボクに話しかけて来ました。

その姿は、これからの事を考えているのか、どこか憂いを覚えているようです。

 

「何がだい?」

「益州統治や黄巾党の討伐。更には、その……諸侯との権力闘争などです」

「そうでも無いさ」

「そう…ですか?」

 

諸葛亮はボクの言葉が腑に落ちないようでした。

だからボクは説明していきます。

 

()す事、為したい事があるのは“事実”として存在する。

その“事実”を“大変だ”と言う見解で見て、感じてしまうから、“大変な事”になってしまうと。

大変だと感じるのは自分の“感想”でしかない。

大変だと感じるか、するべき事だと感じるかは“自分で決められる”事だと。

 

この概念は領民に道徳教育を(ほどこ)して人格や精神の醸成を(うな)がすことや、これからの領地経営・世界の均衡を保っていく事の根幹にかかわるのです。

だからボクは、身近にある事を用いて詳しく説明していきました。

 

「大抵の人達は“嫌な事”があるから“嫌に感じる”と思っている。でも実際は逆で、“嫌に感じる”から“嫌な事”になってしまうんだ」

 

「「「……」」」

 

「悲しい事だけれど、大抵の人達は自分が『どう感じるか?』という“権利”を放棄している。自分以外のモノに、感じ方を任せてしまっているんだ」

 

諸葛亮だけで無く厳顔や周泰も、ボクの話しに耳を傾けて聴いてくれていました。

 

ボクは、いつも幸せを感じていたいと思っています。

自分だけで無く周りの人達にも、いつも幸せを感じて貰いたいと思っています。

しかし、それは『どう感じるか?』という“権利”を自分に取り戻さないと駄目なのです。

他のモノへ感じ方を依存(いぞん)していては実現出来ないからです。

 

 

 

「しかし、その考え方は皆に受け入れられますかな?」

 

厳顔はボクの話しを聴いた後に、自分の考えを言ってきました。

だからボクは、素直に自分の考えを言います。

 

「……そうだね。すぐには無理かもしれないね。だけど一つしか方法を知らない人達に、知らせる事は出来るだろう?

 違う方法もあるという事をさ」

 

「ふむ…」

 

「知らせた後に、それでも今迄の方法を取るのなら、その人達の“選択”だよ。どの方法を取るかを決めるのは、その人達の“権利”なのだからね」

 

皆はボクの話しを真剣に(とら)えて、どう受け留めるかを決めているようです。

ボクは皆の人生が、少しでも良いものになってくれる事を願いました。

 

出来事は、ただそこに“在るだけ”の中立の存在。

それを“良い事”や“嫌な事”にしてしまうのは、自分の見解や感想が先にあって、そうなってしまう事。

 

ボクは大陸に住まう全ての人達に、今迄とは違う概念もある事を伝えていきたいと改めて思いました。

 

 

 

「ふぅ~…」

 

ボクは、何やら白熱しすぎて頭がボーッとして来ました。

飲んでいた御酒も一役かっているのかもしれません。

 

「お疲れで御座いますかな?」

「…そうかもしれない」

 

厳顔が、酔いが回ったボクを気遣ってくれました。

こういう気遣いは、流石に年のこ……げふんっ、げふんっ。

……失礼致しました。

 

「それでは、暫くぶりに(ひざ)枕でもして差し上げましょうかな?」

 

そう言って厳顔は、ボクの頭を優しく抱えて自分の膝元へと導きました。

 

「え? いっ、いや。良いよ。そんな事…」

 

幼い頃は、いつも厳顔がこうやってボクを(いた)わってくれていました。

ボクにとって厳顔は、母親か姉のような存在でした。

のんべぇで仕事をすぐサボる、そんなチョット困ったところもある家族的存在。

ボクはそんな昔の思い出を、少し懐かしく感じていました。

 

「強引だよね……。桔梗はさぁ……」

 

まあ(これ)(これ)で良いかと、ボクはそのまま寝てしまうことにしました。

後の事は厳顔がどうにかするでしょう。

御休みなさいと、ボクは意識を手放していきました。

明日も又、皆と共に幸せで在ることを想いながら……

 

 

 

 

 

~ある館、ある部屋~

 

 

「不思議な方ですね、ご主人様は」

 

諸葛亮は寝てしまった劉璋を優しく見詰めながら言いました。

 

「ふふふっ。昔から、どこか余人とは違って居られたがな」

 

厳顔は昔を懐かしむような言い方で、諸葛亮に返答しました。

手のひらで劉璋の頭を愛おしく()でる(さま)は、どこか母親を彷彿(ほうふつ)とさせています。

 

「桔梗さんは、刹那様とは長いのですか?」

 

周泰は厳顔に劉璋との経緯を聞いてみました。

 

「そうじゃなぁ……。亡き君郎殿が州牧(しゅうばく)として益州に赴任して来て以来かのう。

 ……時が経つのは早いものじゃ」

 

厳顔は劉焉と共に在った昔を思い出しながら、言葉を(つむ)いでいきました。

 

「前々益州刺史(しし)郤倹(げきけん)は、民を(かえり)みることなく私腹を肥やす(やから)じゃった。今上帝(きんじょうてい)はそれを憂いてか、君郎殿の献言を得て彼を州牧と為して郤倹を討たせようとしたそうじゃ」

 

「だから益州は州牧制なのですね……」

 

諸葛亮は、益州が刺史では無く州牧であるのを疑問に思っていたのでした。

厳顔の言葉を聞いて、やっと納得出来たのです。

 

「もっとも。郤倹自身は反乱を起こされて死んでしもうたから、余り意味はなかったがのぅ……」

 

厳顔は、どこか反乱者の末路を(あわ)れむように言いました。

そのまま彼女は、劉璋との出会いの経緯を話していきます。

 

「反乱を鎮圧したり治安を回復させたりと、君郎殿は何かと忙しくて若を顧みる余裕も無くてな。

 それで護衛兼守訳として、わしが若の面倒をみる事になったのじゃ」

 

「ふふっ、そうだったんですかぁ」

 

周泰は自分が仕える(あるじ)の過去を聞いて、少し嬉しくなりました。

経緯を話し終えた厳顔は、おもむろに劉璋へ優しい視線を向けます。

 

「物覚えや腕っ(ぷし)はからっきしなくせに、誰も気付かないような事をサラッと言う。

 若の(そば)に居ると、本当に退屈せんぞ」

 

「ふふっ、そうですね♪」

 

厳顔の愚痴(ぐち)るような言葉に、諸葛亮は自分も同感だと相槌(あいずち)を打ちました。

周泰も頭を上下させて同意を示しています。

 

部屋の中で酒宴を楽しむ3人は、いつしか劉璋を(さかな)に笑顔で笑いあっていました。

 

 

 

 

為すこと、為したいことは多く、それは泰山(たいざん)のように大きい。

 

終わりの(いただき)は遙かに高く、そこへと(いた)る道は(けわ)しいだろう。

 

それでも皆と(とも)に、一歩、一歩と(あゆ)んでいけば、いつか頂に至ることだろう。

 

そこからの景色を皆と分かち合う日を楽しみに。

 

明日からも共に、少しずつでも前へと歩んで行こう。

 

 

 

それぞれの心の内に、そう決心する3人でありました。


 
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