No.461867

タルトタタンと二人の姉妹

Ibのオールジャンルコンテストのために書いた二次創作小説です。出来としてはいろんな意味で各方面に焼き土下座です。マジで。
注意:ギャリーさんキャラ崩壊
   設定を補足している面があります

2012-07-29 17:24:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1082   閲覧ユーザー数:1080

 
 

タルトタタンと二人の姉妹

 

「おいしい!!」

「ほんと?よかったわー」

あの美術館から帰ってきて、約束のマカロンを食べに行った。ギャリーおすすめのお店はおおきな通りから少しずれた、静かな住宅街の中にある、秘密の隠れ家のようなお店だった。

オープンテラスに二人で座って、メニューを見る。イヴはギャリーおすすめのマカロンの盛り合わせと、アイスティー。飲み物のアイスティーも、「マカロンはさっぱりした飲み物の方がおいしく食べられるわよ」というギャリーの言葉を意識して決めた。

「イヴはほんとにおいしそうにたべるわねー。でもこれからはちょっと気を付けないと、太っちゃうわよ?」

ギャリーが嬉しそうに言いながら、オレンジペコーをカップに注ぐ。ギャリーは小さなマドレーヌと、おすすめマカロンのセット。イヴが食べている、いろんな味のマカロンの盛り合わせより少し小さいかわいいマカロンが、4,5個お皿に盛られていた。

「普段はこんなに食べないもん。でもあんまりおいしくて」

「あらほんと?こんなにぷくぷくのほっぺしちゃって」

「ギャリー!!」

「うそうそ、ごめんなさい。イヴはとっても細くてかわいいわよ。ほんとに食べちゃいたいくらいかわいい。でもちょっと細すぎるくらい。もっと食べなさい」

どれが気に入ったの?と聞かれたから、思いつくままに黄色のマカロンと赤いマカロン、青いマカロンを指さした。

「カシスとストロベリー、それにレモンね。イヴは果物が好きなのね」

「うん、特にレモンが大好きなの」

あの夢みたいな美術館にいる時に、私を元気にするためにギャリーが暮れた飴の味だから。

「じゃああたしのもあげるわ、たくさん食べなさい」

「いいの!?ギャリーの分がなくなっちゃう」

「いいのよ、あたしの好きな物をイヴが好きになってくれる、それがあたしには嬉しいんだから」

そう言ってギャリーは自分の分のマカロンをいそいそと私のお皿に載せてくれた。

「ありがとう。ギャリー、大好き!!」

「あらあら」

イヴはあたしを喜ばせるのが本当に上手ねーと頭をなでなでしてくれた。嬉しい。ギャリーこそ、私を本当にうれしい気分にしてくれるのが上手だ。

「あら、飲み物がなくなっちゃったわね。新しく注文しましょうか」

すいませんとウエイターさんに手を上げるギャリーを見る。独特の紫の髪とよれよれのコート、ひょろっと高い身長。男の人のかっこよさとかは私にはまだわからないけれど、ギャリーはとても目立つ人だと思う。

「アイスティーのおかわりをお願いします」

そう告げるギャリーを上目使いに見やりながら、イヴは上機嫌でマカロンをかじっていた。その時。

ガチャン!!

「わっ!」

急にギャリーが私を覆い隠すようにして抱きしめた。

「イヴ!大丈夫!?」

何かが壊れるような音に、体がこわばる。

「申し訳ありません!!」

「…?」

ギャリーを見ていてぼーっとしていたイヴには一瞬何が起きたのかわからなかったが、気が付くとテーブルの上には茶色い水たまりができていた。そしてギャリーの袖が濡れている。

「すいません手が滑って!!」

どうやらお変わりのアイスティーを注ごうとしたウエイターが手を滑らせて紅茶を派手に零したようだった。コップはイヴのものだったため、本当ならイヴが紅茶をかぶっていたはずだったのだが、そこはギャリーが上手にかばってくれたみたいだった。

「私は大丈夫。それよりギャリーの服が!」

「イヴが平気ならいいのよ。大丈夫。イヴが傷つくとあたしも痛いんだから」

こんなぼろぼろの服ですもの、別にかまわないでと必死で頭を下げるウエイターにも気を配りながら、ギャリーは安心したように笑った。その姿を見て思う。ギャリーは優しい、誰に対しても。

 

ウエイターが申し訳なさそうに去った後、イヴはしみじみとこうつぶやいた。

「ギャリーは本当に素敵な人ね」

誰にでも優しくて、頼りになって、面倒見もいい。あの美術館だって、本当はギャリー一人の方がずっと楽ちんに外に出られたのかもしれない。でも、ギャリーは足手まといにしかならない、知らない子供の自分を助けてくれた。

「私ギャリーみたいな人になれたらいいな」

満面の笑顔でそう言ったら、ギャリーはなぜかちょっと複雑そうな顔をした。

「…それはどうかしら」

イヴに聞こえないような小さな声で呟いた。

「え?」

「ううん、なんでもないわ。…ありがとね、うれしいけど、イヴはそのまんまでいいのよ」

頭をもう一度慈愛を込めて撫でるギャリー。嬉しくて、しょうがなくて、もう一度イヴは満面に笑った。

「…先ほどは申し訳ありませんでした。こちらお詫びの品になります。よろしければどうぞ」

イヴの皿のマカロンが無くなりかけた時、先ほどのウエイターが何かを差し出してきた。

「あら、別に平気でしたのに」

「いえ、こちらの不手際でございますので、ご迷惑でなければ、どうぞお食べください」

差し出された皿に綺麗に盛り付けられていたのは、一口サイズのパイのようなもの。

「一口サイズのガレット・デ・ロワでございます。食べた人に必ず幸せがやってきますように」

「…」

思わず黙り込んだ私に、ギャリーはすぐに気が付いてくれた。その若干青くなった私の顔色に、察しのいいギャリーはすぐに理由に思い至ったらしい。二人で顔を合わせた。そして沈黙する。その異様な静けさに、持ってきたウエイターは戸惑ったようだった。

「あ、の、もしご迷惑なようでしたら、このままおさげいたしますが…」

「…いえ、何でもないです。ありがとうございます、頂きます」

とりあえずそう言ったものの、どうしたものか。ギャリーは内心頭を抱えた。

「…イヴ、大丈夫?」

「…うん」

あの悪夢のような美術館でみた、ある童話を思い出した。『うっかりさんとガレット・デ・ロワ』あの美術館からは何とか脱出できたものの、あれを思い出させるようなものに触れると、ちょっとぞくっとする。

「これはあたしが食べるわ。代わりにイヴはあたしの分のマカロン、全部食べていいわよ?この薔薇の花のマカロンはここのお店の名物なの。とってもおいしいのよ」

「いいの?ごめんね、ギャリー」

「気にしないの」

そう言ってぱくぱくとギャリーはガレット・デ・ロワを食べ始める。一口サイズとはいえ手のひらくらいあるパイが、一口か二口かであっという間になくなっていく。こういうところは男の人だなぁなんて思って、ギャリーがくれた薔薇のマカロンをかじると、ふわっと薔薇独特のいい香りが口の中に広がって、とってもおいしかった。

「あ、ギャリー、口の周りにクリームがついてるよ?」

ナプキンでそっとぬぐってあげる。するとギャリーは照れくさそうに笑った。

「ありがとイヴ。お礼にこれあげるわ」

目をつぶって、と言われて言われた通りにしていると、すぐにギャリーにもう開けていいわよと声をかけられる。目を開けると、ギャリーがにこにこと笑顔でこちらを見ていた。

「どうしたの?ギャリー」

「うふふ、あたしの紅茶が入ったカップをそっと覗きこんで御覧なさい」

そう言われてギャリーのカップを覗き込むと、カップに入った紅茶の水面に、自分の顔が映っていた。いつもの自分の顔がぼんやりと映っている。その頭にぼんやりと白いものが見えた。不思議に思ってそれに手を触れてみる。そっと手のひらに載せると、思いがけず軽い。小さな陶器の王冠だった。

「ガレット・デ・ロワに入っていたフェーヴ(陶器)よ。コインの代わりに使われるもので、これを引いた人は今日一日王様かお姫様になれるのよ。それで好きな相手をお妃さまや王子様にすることができるの」

「…かわいい」

「そう素敵でしょう?こんな素敵なものが入ってるなんて」

これでイヴは今日一日お姫さまね。

きっとこれは今だあの美術館のことにおびえる自分を元気づけようとしてくれたんだろうと、良くわかった。本当に、ギャリーは優しい。

「あげるわ、大事にしてね」

「…ありがとう、本当に。ギャリー、本当に大好きよ」

 

「お腹いっぱい。ギャリーありがとう」

「どういたしまして」

マカロンをおなか一杯に食べて、幸せな気分。

「また連れてきてね、ギャリー」

「もちろんよ、でも、ここの他にもイヴが好きそうなおいしいお菓子のお店があるのよ?タルトタタンって知ってる?イヴ?」

「タルトタタン?」

「そう、おいしいわよ」

「じゃあ、そこにも連れて行ってね、ギャリー」

「お任せを、お姫さま」

ギャリーとまた会える。そう思うと、なんだか自然に心が浮き立った。でも、その次はあってくれるのかなとも思う。ちょっとそれは何だか不安だった。

「約束よ、ギャリー」

「はいはい」

その時ギャリーのコートの内側に何か光る物がチラリと見えた。

「ギャリー、コートの内側になに入れているの?」

「ああ、これ?」と、ギャリーはコートの内ポケットから一冊の本を取り出した。結構大きい本だけど、良くコートの内側に入れられたなぁと感心しながら受け取る。きれいな緑のつるつるした紙の本で、表紙にはきれいな金色で「タルトタタンと○○の○○」と書いてある。私には難しい字は読めないから、ギャリーに読んでもらったのを声に出して繰り返した。

「タルトタタンとふたりのしまい?」

「そう、あたしが書いた本なのよ」

「ギャリーが?」

「昔からお話しを作ることが好きだったのよ、あたし。趣味だけどね。あの作品展に行ってたのも、なにか作品の種になりそうだったから」

それが今度ちょっとだけだけど、本にしてもらえることになって、それの見本をもらってきたの、と嬉しそうにしているギャリーを見て、私は手に持っている本が読みたくなった。

「ギャリー、今度会う時は、この本を読んで?」

「うーん、イヴにはまだ早いかしらね。もうちょっと大人にならないと」

その言葉に頬を膨らませた。

「そんなことないもん。ギャリーが読みながら教えてくれたらわかるよ!」

「えー…、そうねえ…、じゃあ…、イヴがこの本を一人で読めるくらいの年になるまであたしと会ってくれたら、読ませてあげるわ」

「…ほんと!?」

ということは、これからもずっと、イヴと会ってくれるという約束だと気付いた。少なくとも、大人になるまで。

「ほんとに、ほんとね!?」

「もちろん。それまで会ってくれたらだけどね?」

「会うよ、絶対!絶対だよ?」

「じゃ、約束ね?」

「うん!」

 

「「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます!」」

 

「絶対忘れないでね、ギャリー?」

「わかってるわ、その代わりイヴも忘れないで。嘘もついちゃだめよ?」

 

うそついたら、針千本飲ましちゃうから。

 

「忘れないよ」

「じゃあ、またね?イヴ。そろそろおうちに帰らないと。暗くなってお母様が心配しちゃうから」

「うん、またね」

手紙書くね、と言い残して、私は何だかいつまでも夢の中にいるような気分で家へと続く道を歩き出した。今度はギャリーはどこに連れて行ってくれるのかな、その時までにできれば今度はもっとおしゃれしていきたいな、と考えながら。私はとても幸せだった。

 

一人になったあたしは自分が住んでいるアパルトマンへ向かって歩きながら、ほくそ笑んだ。

「なかなか上出来だったんじゃないかしら、今日は」

手には自分の心をむき出しにして作った自信作の童話がある。これを見て、未来のあの子はどんな顔をするのかしら。

かわいいあの子のことをうたうように語った。誰も聞いていないけど。

「ひとりぼっちで怖がりで、悪いものにつかまっちゃう。かわいそうねイヴは」

ゲルテナ作品なんかにあの子はあげない。あんなにかわいい子なんだから。あんなにあたしの作品にピッタリな子なんて見たことなかった。だから、あんな世界で死なせたくなんか絶対なかった。今はもう安全だけど、せっかくなら、あたしの作品の中にいてくれないかとずっと思っていた。

「さあ、次はどうしようかしら」

次にイヴに出会う時のことを考えながら、あたしは意気揚々と家路を急いだ。

 

「タルトタタンと二人の姉妹」

 

タルトタタンを作った姉妹はあわてんぼうな姉としっかり者の妹の二人でした。

姉妹は森の奥のお店でアップルパイを作って売っていました。二人はとても仲良しで、妹はほんのちょっぴりあわてんぼうでも、誰にでも優しくて、頼りになって、面倒見もいい素敵なお姉さんが大好きでした。お店は森の奥でお客さんは少なく、二人は貧乏でしたが、二人はお互いを想い合って仲良く暮らし、生活はとても幸せでした。

「私達、ずっと一緒よね?」

お姉さんがそう聞くと、妹はこう答えました。

「もちろんよ、私たちは何があっても離れないわ」

そんなあるときお店が忙しくて、あわてんぼうのお姉さんが、うっかりパイにいれる中身だけのまま火にかけてしまい、しっかり者の妹が慌てて中身を確認した時には、もうお店に行かなければならない時間でした。そこでしっかり者の妹は、とっさにパイの皮を上にかぶせてそのまま焼き、お店で売ることにしました。するとどうでしょう!その失敗作のはずのさかさまな作り方のケーキはとってもおいしく、たちまち大人気になりました。

「あなたのおかげだわ!」

「姉さんがすごかったのよ」

二人は仲良く手を取り合って、お店の成功を喜びあいました。森の奥でお客さんがずっと来なかった時は、世界に二人きりになったような気がして心細かったのですが、このおいしいケーキがあれば、妹ももしかしたら自分まで、幸せに暮らせるようになるかもしれないと、お姉さんは夢を見ました。

そしてタルトタタンが今日も人気なある晩に、妹さんはこう言いました。

「姉さん、実は私のことをお姫さまみたいにとても大切にしてくれる人ができたのよ」と。

それを聞いて、お姉さんは妹がこの家から出て行ってしまうことを知りました。とてもさみしかったけれど、妹が外に出て幸せならばと、お姉さんは祝福することにしました。

「でも、また会えるわよね?絶対に」

「もちろんよ。約束するわ」

「ほんとに?絶対忘れないでよ」

「絶対よ。私たちは二人で一つだもの。姉さんこそ」

「会うよ、絶対!絶対だよ?」

「じゃ、約束ね?」

「うん!」

そういってお姉さんは、泣きながら大きなタルトタタンを焼きました。二人のお祝いに、妹とその人と三人で、食べようと思って心を籠めて焼きました。

「さあ出来たわ!お祝いのタルトタタンよ!」

妹は嬉しそうに笑顔で言いました。

「ありがとう姉さん、私もタルトタタンを焼きたいわ」

 

「どうしたんだい?お姉さんに僕を紹介してくれる約束だったのに?」

「ちょっと姉さんが見当たらないの。姉さんはあわてんぼうだから、私と一緒にいないとだめなのよ」

「そうかい、残念だな、お姉さんに会いたかったのに」

「そうそう、でも、これ姉さんが焼いてくれたお祝いのタルトタタンがあるのよ」

「とてもおいしそうだね、じゃあ二人で食べようか」

「私はいいわ。今タルトタタンを一つ丸ごと食べちゃったの」

「ほんとだ、君の口の周りは真っ赤だよ?よく熟れたリンゴだったんだね」

 

 

 
 

 
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