~ホテル・ローエンバウム~
「フゥ………かなり遅い時間になっちゃったけど、ミント、起きているかしら?」
ホテルに戻り、自分達が泊まっている部屋の前に着いたエステルはミントがまだ起きているか首を傾げた。
「………どうやらまだ起きているみたいだよ。部屋の中からミントと誰かの声が聞こえるし。」
「へ……あ、ホントだ。」
ヨシュアに言われたエステルは耳をすまし、誰かと楽しそうに会話しているミントの声に気付いた。
「…………ってあれ??ミント、一体誰と話しているのかしら??リフィア達じゃないようだし……」
「とにかく部屋に入って、確かめてみよう。」
「了解。」
そしてエステルとヨシュアは部屋に入った。部屋に入るとそこにはミントが天使――ニル・デュナミスと楽しそうに会話をしていた。
「あ、ママ!ヨシュアさんもお帰りなさい!」
エステル達に気付いたミントは嬉しそうな表情でエステルに抱きついた。
「ただいま、ミント。遅くなってゴメンね。」
「ううん!ニルさんと楽しくおしゃべりをしたから、全然待っていないよ?」
「ニルさん…………?」
ミントの口から出た知らない名前に首を傾げたエステルはミントと会話をしていた人物――ニルを見た。
「フフ……こんばんは。」
エステルに見られたニルは笑顔で挨拶をした。
「て、天使!?」
「本当に天使という存在もいたんだ………」
ニルの見た目から一目で天使とわかったエステルは驚き、ヨシュアは天使の存在を直にみて、驚いた。
「初めまして。我が名はニル・デュナミス。貴女がエステル・ブライトね。会いに行くのが待ちきれないから、来させてもらったわ♪」
「え?あたしに?」
「どうしてエステルの事を知っているんですか?」
エステルの事を知っている風に見えるニルを見てエステルは首を傾げ、ヨシュアは尋ねた。
「そうね。じゃあその子にも話して上げた事をもう一度話すわ。」
そしてニルはエステルとヨシュアに事情を話した。
「へ~…………貴女の前の主の人って、パズモやテトリと同じ人だったんだ………凄い偶然ね。」
ニルの話を聞き終えたエステルはニルから出た主の名前を聞き、驚いた。
「あら。やっぱりユイチリってテトリの事だったのね。テトリ、元気にしているかしら?」
「うん。………テトリ!」
ニルに尋ねられたエステルは頷き、テトリを召喚した。
「何か御用ですか、エステルさん。」
「えっと、貴女の仲間が会いに来てくれたから、せっかくだから呼んだんだ。」
「仲間………?」
エステルの答えに首を傾げたテトリはニルを見て、驚いた。
「二、ニルさん!?どうしてここに……いえ、この世界に!?」
「やっほ~、久しぶり。貴女こそ、自分の故郷に帰ったんじゃないの?」
「うう……実は………」
そしてテトリはニルにエステルの使い魔になった経緯や異世界にいる事情を説明した。
「あ、あはは………相変わらず貴女って、苦労しているのね………」
テトリの事情を知ったニルは苦笑いをした。
「うう………他人事だからそんな事が言えるのですよ………でも、今はエステルさんといっしょにいるおかげで毎日が楽しいですから、別にいいんです。」
「よかったね、エステル。テトリと仲がいい証拠じゃないか。」
「さすがママだね!ミントもママみたいになれるよう、がんばらないと!」
「えへへ……そんな風に言われると照れちゃうわね。」
テトリの言葉を聞き、ヨシュアやミントの褒める言葉にエステルは照れた。
「フフ………仲がいいようで何よりだわ。さて…………と。じゃあ、本題に入ろうかしら。」
エステル達のやり取りをニルは微笑んだ後、エステルを見た。
「そうね。………えっと、さっきの話を聞いて、今更聞くのもなんだけど契約してくれるの?」
「ワクワク………」
ニルに見られたエステルは期待した表情でニルを見た。またミントも楽しみにしていた天使が仲間になるかもしれない事に期待の表情をした。
「そうね。貴女なら文句なしで契約してあげてもいいけど、最後にやる事があるわ。」
「?何をするの?」
ニルの言葉にエステルは首を傾げた。
「………ここは狭すぎて駄目ね。郊外に出ましょう。」
「?うん。」
「エステル、今は巡回の兵士がいるから外に出るのは不味いと思うよ?」
「あ、そうね。じゃあ、エヴリーヌに転移魔術をお願いしましょう。」
そしてエステル達はリフィア達の部屋に行き、エヴリーヌに頼んでグランセル郊外の街道に転移した。また、プリネとツーヤは既に寝ていたのでそのままにしてリフィアも着いて来た。
~キルシェ通り~
その後エヴリーヌの魔術によって街道に転移したエステル達はニルの先導によって、開けた場所に出た。
「……うん。この辺でいいわね。」
ニルは周囲の開けた風景を見て、一人納得した。
「………いい加減教えてくれない?エヴリーヌ、さっさとホテルに帰って寝たいんだけど…………」
「ごめんね。………リフィア、エステルに貴女の魔力を分けてくれない?」
「ぬ?わかった。」
ニルに話を振られたリフィアは首を傾げた後、エステルに自分の魔力を分け与えた。
「………どうだ、エステル。」
「………うん。ありがと。リフィアのお陰で魔力は絶好調よ!」
リフィアに尋ねられたエステルはお礼を言った。
「体力や傷はどうかしら?」
「傷はあの後治療したし、体力も決勝戦で戦って以降戦っていないから、完全に回復しているわ。」
「フフ、それは何より………ね!」
そしてニルはいきなりエステルに自分の武器――連接剣でエステルを攻撃した!
「わっ!?」
ニルの攻撃に驚いたエステルだったが、即座に回避した。
「ちょ……何のつもり!?」
「ニルさん!仲間になってくれるんじゃないの!?」
ニルの攻撃を回避したエステルは棒を構えた。ミントはニルの攻撃に驚き、信じられない表情で尋ねた。また、ヨシュアやリフィア達もニルの行動に驚いた後、それぞれの武器を構えた。
「フフ………これがニルなりの契約者の見極め方よ。」
「………それは一体どういう見極め方なんだい?」
ニルの答えにヨシュアは警戒した表情で尋ねた。
「その答えは一つ!契約者自身がニルを納得させられる強さを持つかどうかよ!」
「…………天使の癖にエヴリーヌ達みたいな考え方に近いなんて変わっているね。」
ニルの答えを聞いたエヴリーヌは呆れて溜息を吐いた。
「な~んだ、そういう事か!オッケー!!あたしの強さ……見せてあげるわ!」
一方エステルは好戦的な笑みを浮かべて、棒を構え直した。
「フフ………できればそこの竜の少女と貴女が契約している子達全員でかかって来てもらっていいかしら?」
「へ?そんな事したら、勝負が不公平になってしまうんじゃないの?」
ニルの以外な申し出にエステルは驚き、尋ねた。
「フフ………それぐらいしないと、ニルには勝てないわよ?」
「むっか~!!いいわ!そこまで言うならやってやろうじゃない!後で後悔しても知らないわよ!?」
ニルの言葉に怒ったエステルはニルを睨んで言った。
「天使に二言はないわ。」
「………パズモ、サエラブ、テトリ!みんな、出て来て!!」
ニルの答えを聞いたエステルはパズモ達を召喚した。
「みんな!協力して、あたし達の力をニルに見せてあげましょう!」
(わかったわ!)
(……ほう、能天使か。……エリザスレインほどではないが、中級を冠する天使には違いない……クク、面白い!!)
「あう~……やっぱりこういう展開になってしまいましたか………」
エステルの号令を聞き、パズモは頷き、サエラブは久しぶりの強敵の存在に好戦的な笑みを浮かべ、ニルの性格を知っていたテトリは溜息を吐いた。
「ミント!行くわよ!!」
「うん!勝って、ニルさんとお友達になろう!」
そしてミントも剣を抜き、戦闘態勢に入った。
「ヨシュア、これはあたし達の戦いだから、手を出さないでくれる?」
「……なんとなくそう言うと思ったよ。でも、危なくなったら僕も参戦するからね?」
「うん!」
エステルに戦闘に参加しないよう言われたヨシュアは苦笑しながら言った。
「エヴリーヌ、周囲に戦闘の音がもれないよう、結界を張るぞ!」
「はいはい。めんどくさいけど、見回りの兵士達に戦闘の音が聞こえてこっちに来たら、もっとめんどくさい事になるしね。」
リフィアとエヴリーヌは協力して、周りに結界を張り始め、ヨシュアは念のためにリフィア達の護衛についた。
「フフ……これで貴女達の実力が見れるわね。………改めて名乗るわ。………我は能天使、ニル・デュナミス!人の子よ……天使である我を従えられる器であるかを、自らの武と絆の力を持って我に示してみなさい!」
そしてニルは連接剣の切っ先をエステル達に突き付けて、厳かな口調で言った。
「みんな、行くわよ!」
「うん!」
(ええ!)
(うむ!)
「ニルさんは治癒魔術も使えます!それと強力な神聖魔術も使えるので注意して下さい!」
そしてエステル達とニルの戦いが始まった…………!
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第145話