十話
シン……と静かになった周りを見渡して、さっそくミスったのを確認した。自分の笑顔が固まっているのと、周りがひそひそ話し始めているのがよくわかる。あ、首がずり落ちた。
「え、え~っと……その指揮官クラスのガリアンは、本当にカイトさんが?」
「はい」
「も、もちろんファーガスお爺ちゃんとかに手伝ってもらってですよね?」
ずり落ちた首を拾い上げて腕輪に入れ、兜をカウンターに置く。それをまじまじと見ながらどこかビクビクと聞いてくるミミナさん。明らかに『こんなの初心者じゃありえねぇ!嘘だろ、付き添いの人とだろ!?』という感じだ。ここで適当なことを言っておけばなんとかこの場はなるだろうが、結局俺が中で暴れていたというのは変わらないわけで。
「失礼な。ちゃんと単独での成果です。むしろファーガスが証人ですよ?なぁ?」
「う、うむ。確かにそうじゃが……お前さん、もうちっと場所を考えてくれんかの。この後個室に行って試験があるから、いたずらに目をつけられぬようにしようと思っておったのに、全く」
この阿呆、と言わんばかりに睨まれた。ファーガスには苦労をかけるが、後々わかることなのだし今か先かの違いだけだ。それでも準備とかあったのだろうから迷惑かけたのは違いないけども。
「悪かったよ。だが、どうせいつかはバレるんだ。いつバレるかビクビクするより開き直ったほうがいいだろ?」
「お前さんの言うことももっともではあるが、それでも直接本人が言うことと噂で周りに言われるだけとでは対応も変わろうに。これからお前さんも大変になるぞ?せっかく少しでも楽にしてやろうと思ったのにのぅ……」
「だから悪かったって」
せっかくのファーガスの厚意を無駄にしてしまったか。これに関しては素直に謝るしかないけど、謝ってる最中にどさくさに紛れて酒をおごる約束を取り付けられてしまった……まぁ、それは腕輪から出せばいい。最悪作れとか言われても出来ないこともないし。
「あ、あの!カイトさん、この兜は指揮官クラスのガリアンのものです。あの魔物は仲間内で軍隊のような形態をとっていて、指揮官クラスには大体50~100のガリアンがついて回っています。ガリアンの個体ランクはCランク。これを100相手取った、という証明にもなります。しつこいようですが、この数も倒したということでよろしいですか?」
「はぁ……はい。そうですよ。それ以上をぶち殺しました。なんなら証拠も出しましょうか?」
「い、いえ!いいですよ!というかここじゃだめです!」
何やら真っ青な顔をして引き留められたので出すのをやめる。すると他のギルド員がこそこそ話し始めて何人かが中に消えていった。
「そ、それではカイトさん!個室への移動をお願いします。私も行きますし、そこでもう少し話を詳しく聞かせてください。お爺ちゃんもね?」
「うむ。では行くとするかの」
ばたばたしたが、さっさと人目のつかない場所に連れて行ったほうがいいと判断したんだろう。ミミナさんは急かすようにして俺たちを連れて行った。
個室に入り、さらに詳しく聞かれること小一時間。大体のことはファーガスが話してくれた。途中からはギルドマスターのドワーフ、ミミナちゃんの父親まで出てきてさらに1時間弱。もういい加減疲れてきたころにようやく解放された。いや、自業自得なんだけど、変に疲れた。
「まぁそれでろくな試験もなくDランクからカードがもらえるんだからいいじゃないか。期限も2週間。楽勝じゃぞ?」
「そうなんだけどさ……」
とりあえず仮のカードを発行してもらって今日は終了になった。すでに兵舎に戻っている。そしてギルドでその時に言われたのが、試験替わりに一つ依頼をこなすことだ。
ランクとしてはC。そこで俺を2ランクすっ飛ばしで採用するかどうかを見るんだとか。それの監視の人も付くし、実地試験ってところだろう。内容は地表との出入り口付近の森に出てきたガリアンとゴブリン混合部隊の討伐。まだ直接的な被害は出ていないが、発見できたのでさっさと危険を取り除くためと聞いた。5~10の数が予想されており、普通ならパーティを組んでやる依頼だそうだが、今回は指揮官クラスをぶち殺したと言っている俺が試験対象になるのでとりあえずこれをこなさせようというところらしい。
「いつ行くのかはお前さんの自由じゃが、試験官とは別に少し監視の目がつくのは我慢してくれい。この試験には推薦者の儂は同行出来んからのぅ」
「わかった。まぁ逃げたりはしないから安心してくれ」
「そう信じとるよ」
それからしばらく会話したり約束通り酒をあげたりしていると、昨日ぶりにグスタフさんが入ってきた。手には何やら書類を持っていて、俺たちの状態を見てため息をつく。
「お前達……自由すぎるぞ。疲れてるからとやかく言うのをやめるが、カイト、お前の処分が決定した。もう自由だ」
「え……早すぎやしませんか?」
「確かにな。なんでもトライアン第二王子が進言したそうだ。国にとっての脅威の一つを知らぬとはいえ一心に受けてくれた者に何たる無礼!即刻解放せよ!、とさ。一度会ってみたいとおっしゃっておられたから、いつか呼ばれるかもな」
まさか王族が止めてくれるとは……正直いろいろと巻き込まれたりしそうなので会いたくないが、そうも言ってられないか。素直に感謝の気持ち自体はあるんだけど、最初に会った王族がアレだったからなんとも。
なので詳しく聞いてみると、そのトライアン王子は仁君として有名らしい。民のために動き、戦いを好まない優しい人なんだとか。でも強者を貴ぶ方のドワーフからの受けは当然良くはなく、派閥が分かれている。しかも兄である第一王子ゲリム王子は真逆の性格をしており、王としての才はあるが暴君になりかねないそうだ。こちらには血の気の多いドワーフが多くついており、同時に黒い噂も絶えない。ついこの間第三王子が正体不明の何者かに襲われて亡くなったとか……絶対こいつじゃん!
「トライアン王子は確かに仁君ではあるが、同時に弱腰と見られることも多々ある。優柔不断なところも多少あるしの。民の信頼を得て、ゆっくりと地盤が固まっていくじゃろう。それだけじゃろうが。その点で言えばゲリム王子は決断力もあり積極的に国の利益のために動くじゃろう。たとえ強引な手段を用いてもな。だが確実に国は荒れるじゃろうよ」
劇的な変化を望むのか、同じような平凡な毎日を望むのか。前者は独裁者になるだろうから個人的には嫌だな。後者は住民からしてみれば刺激が少ないだろう。魅力が弱くなるというのもある。安定した暮らしと平和は人に欲を出させる。現代がいい例だ。まぁ、平凡な暮らしを望むのなら別だが。
「まぁなんにせよお前は自由だ。しばらく監視は付くだろうがな。それと、国からの恩赦と罰も決まった。恩赦は斧神討伐及び多数のガリアンの討伐によるもの。罰は知らぬ、そして事故とはいえ勝手に地底回廊に入って民衆に不安を与えた事へ、だ。何か質問は?」
「罰の内容が理不尽……いや、なんでもないです」
グスタフさんの目が急に怖くなった。よっぽど早く帰りたいんだろう。その当てつけを俺にしないでほしい。原因は俺だけどさ。
「まず恩赦だが、トライアン王子よりお前に斧神の懸賞金とこの国への居住権が与えられた。この紙がその内容と証書だ。家もこの間ころ……亡くなった貴族のお屋敷が空いてたからそこを使っていいそうだぞ。必要最低限の物以外は国に押収されてるから家具は自分でそろえろ」
不吉すぎる!絶対グスタフさん殺されたって言おうとした!早くも家が手に入って金もかなりあるのはうれしいが、これはないだろう!明らかに潰すのが面倒だから押し付けた感が凄いするじゃないか!しかもしっかり金目の物は奪っていってるし!王子からしてみれば善意なのかもしれないが、もっと他のがあったと思うぞ!それに俺をこの国に留める気満々だ!
「次に罰だが、お前にはこれからしばらくの間地底回廊の戦いに加わってもらう。もちろん最前線でな。それに加え国からの依頼もくるかもしれん。多少なら給料も出るぞ、出来高制だが」
まぁ、ある程度の罰は覚悟していた。俺としては生き延びるためだったにせよ、聞けば結構な迷惑をかけたというし。正直本当に理不尽だが、ここは黙って罰を受けるべきだ。もっとひどいことがあるのかと思っていた俺からすれば、給料が出るというのはすごくありがたい。
「このくらいか。敵を観測し次第お前を呼ぶ。その時はこの指輪でもって召集をかけるから肌身離さず持っているように。これには一方通行だが転移の術式がかかっている。お前の準備が完了し次第、もしくは強制で前線に飛ばすからそのつもりでいてくれ」
「はぁ……了解です」
これだけ言って緑色の石がはめ込まれた鈍い金色の指輪を俺に投げ渡すと、グスタフさんはさっさと出て行った。去り際に今日はここにいてもいいことを言ってくれたので、明日その褒美の屋敷に行こう。
バシバシと背中を叩いてくる酔ったファーガスに絡まれながら、俺はその日を終えた。
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何かと不幸な人生をイケメンハーレムの友人のせいで送ってきた主人公、漣海人。しかも最後はその友人によって殺され、それを哀れんだ神達は力を与えて異世界へと飛ばしてくれた!!とにかく作者の好きなものを入れて書く小説です。技とか物とかそういう何でも出てくるような物やチートが苦手な方はご注意を。