五話
「「「……」」」
ウォルファウンドを先頭にして進むこと数分。またもや別の開けた場所に出た一同は、開いた口が塞がらないといった具合に呆然としていた。彼らは入り口の岩場に身を隠し、改めて中を見る。
中に居るのは一面に広がる裕に200はいるだろうガリアンの群れだ。小隊ごとに集まっており、一段上にいる指揮官クラスの演説?の様なものを聞いているようだ。指揮官は身振り手振りしながら感情的に、兵士にわかりやすいように動きながらしゃべる。そして何やらフードの様なものを付けた人間の死体入り案山子を指さしてさらにしゃべる。すると兵士クラスのガリアンから怒号の様な激しい鳴き声が次々と上がり、指揮官はそれを聞いて頷いた後に案山子を斬った。まるであれが復讐相手でもあるような、極悪人であるような、そのように見えた偵察隊メンバー。もちろん偵察隊メンバーからすればあんな数相手取れるわけないし、何を言っているのかさっぱりなのではあるが。
「何だあれ?気分が悪くなるぜ」
「おそらく、あの案山子が手配書みたいな役割なんだろうよ。そいつはこんな軍勢を差し向けられるような事をこいつらにしでかしたってわけだ。俺らや他国が出す討伐隊みてぇなもんだろう」
「あぁ。やつらはあの案山子に並々ならぬ殺気を向けていた。騎士殿の言葉はあっているだろう」
「マジかよ……ん?」
未だ続いている演説を聞き流していると、ふと指揮官から少し離れた真上の所にある別の道に何やら動くモノがあると気付く人間の青年。それをメンバーに伝えると、一番目の良いエルフの弓使いがそれをしっかりと確認した。色は黒く、そこまでは溶岩の明かりが行きとどかないようで微妙に動いている事しか確認できない。しかも下からはせり上がった岩のせいで見ることができないために下に居るガリアンは気づいていない。
「あれは……人?」
目を凝らして見たエルフの言葉に全員が驚愕する。何せここ最近、というか偵察が決定してからこの地下回廊は立ち入りが禁止されているのだ。そのため普通はここに自分たち以外の人間がいることは有り得ない。事前にあの戦闘跡を見ていたとしても、その驚きは大きい。
そして全員がその影を注視していると、影が動きを見せ、またもや全員が驚愕することになる。
「なっ!?」
「飛び降りやがった!」
影は指揮官の真上に飛び降り、エルフの目で確認すれば、首元に隠しナイフ――アサシンブレード――を突き刺していた。そして少しの間その死体に向き、死体の手を組んで綺麗に整えると、呆然としていたガリアンに向き直った。そこでようやく特徴的な亜人種ではないとわかった。見た目は真っ黒なローブにブーツ、チラリと見えた胸鎧などの最低限の防具とは逆の多彩な武器。顔はフードでわからないが、背格好から男だろうと判別する。
ガリアンはいきなりの指揮官の死によりほんの少しざわつくものの、すぐにそれが先程まで殺す話をしていたヤツだとわかり、攻撃を開始した。まずは最前列にいたガリアンが囲むように剣や槍を構える。そこから更に逃げ場を無くすように囲んでいき、離れた場所では弓隊が矢をつがえていた。
万人ならば死ぬことが確定しているその状態で、男が動いた。目の前にいるガリアンが斬りかかってくる前に懐まで入り込み、持ち手ごとひねりあげてその剣で心臓を突き刺す。すぐさま横に動き、後ろから振り下ろされた剣を避け、振り下ろした状態のガリアンの頭を蹴り飛ばして自分の前でつかみあげると、ボウガンや弓隊の矢への盾にしつつ剣を奪って投げつける。槍が迫れば身を屈めて木製の柄を足で折り、刃を喉元に突き刺す。別の槍が来ればそれを奪って叩きつける。
まさに圧倒的だった。流れるように動く男は何度か攻撃を受けていたものの、それをすぐさま回復魔法で回復して攻撃してきたガリアンに何倍の威力をもってして文字通り叩き潰した。時間が経つほどにその攻撃性は増していき、ガリアンを両手に持って肉塊に変わるまで武器として振り回していたりもした。蹂躙、いや、虐殺と言っても良いかもしれない。現にメンバーはその圧倒的な強さに呆然としていたが、あまりの虐殺っぷりにエルフと人間の青年、ドワーフの騎士も数人奥で吐いている。他のメンバーはどこか羨望の眼差しを向けるウォルファウンドを除いて顔をしかめていた。
それからしばらく自身の武器を使わずにガリアンの血肉を撒き散らしながら半数近くを減して戦い続けた男は、後ろから聞こえた風切り音に横っ飛びで回避する。すると今までいた所に巨大で無骨、どれだけの数を今まで殺したのかわからないが、血がこびりついている片刃の斧が叩きつけられていた。そこにいたガリアンは当然潰した空き缶のように潰れており、同時に地面にひびが入って陥没している事から威力の高さが伺える。
「あいつは『斧神』ヴェニス!!将軍クラスの賞金首までいやがったのか!」
「お、『斧神』だって!?上がってすぐだったとはいえ、SSランクをぶっ殺した大物じゃないか!」
『斧神』ヴェニス。巨大な斧を持ち、全身をどうやって作ったのかわからない真っ黒な最硬級のフルプレートアーマーをつけた全長3m以上の筋骨隆々なガリアンの上位種だ。ガリアンは軍隊同様の階級分けをされているが、将軍クラスは指揮官クラスの一つ上に当たる。他にも上に一つ二つあるのではないかと学者たちは議論をしているが、これ以上の目撃例が無いために定かではない。
将軍クラスは個体数こそ少ないものの、その分強力で個体差がある。そのため将軍クラスはヴェニスの名前と共に必ず二つ名が付けられる。これは『斧神』のように見た目や武器で判断する事が多いが、これらの二つ名はギルドの賞金首の魔物にも当てはめられる。倒してギルドに報告すれば賞金が手に入るが、その分強力だ。しかもこの『斧神』は戦いを好む傾向があり、先日Sランクから上がったばかりだったとはいえギルドランクSSの高ランカーを撃破したのだ。ある程度満足するか、自軍の兵士がいなくなれば戻っていくのだが、たまに現れた時には最前線兵達は一層死を覚悟しなければならないとされてきた。
『斧神』は男と相対し、唸るような声を上げると周りからガリアン達が下がっていく。ある程度まで下がると、ガリアン達は声を上げて武器を打ち鳴らし、どん、どん、と足音をたて始めた。さながら一騎打ちや決闘のようなその場所で『斧神』はそれを聞きながらスッと斧を男に向ける。するとそれを見た男――カイト――は周りをぐるりと見渡した後、黒髪をはためかせながらフードを邪魔だと言わんばかりに下げ、口元を裂けんばかりに狂ったような笑みに吊り上げつつ初めて腰の剣を抜き去った。
『斧神』は歓喜の声を上げた。『斧神』にとって闘争とは生を実感できる場所であり、最高の死に場所である。そのため『斧神』は戦意のない者には手を出さないし、手を出させない。反対に自分に向かってくる戦士達には全力をもって相手をする。自分のいる戦場を汚されるのを極端に嫌うのが『斧神』なのだ。SSランカーに対しても今と同じように一騎打ちの形を取ったし、他の強者との戦いにもそうだった。武道家・騎士道精神を持つ魔物としても『斧神』は有名だった。『斧神』とはそれに対する敬意も含んだ二つ名なのだ。
斧と首をくるりと回し、カイトと同時にゆっくりと相手を牽制しながら円を描くように回っていく。先程までうるさかった外野も静かになり、その行く末を見ていたが『斧神』の先手を取った動きによって再び騒がしくなる。『斧神』はその巨体に似合わぬスピードで一息に距離を詰め、横凪に斧を振るうもカイトが横に回転しながら飛び跳ねる事で避けられる。しかしそのままの勢いで回りながら斧を真上から振り下ろす。これもまたカイトは着地と同時に『斧神』の足元に踏み込んで回避して『斧神』に連続して攻撃を加える。が、その最硬の鎧に阻まれてぎゃりぎゃりと火花を散らすだけに終わった。
カイトが舌打ちして一旦下がろうとするが、『斧神』はそれを許さずカイトの身体を掴み上げた。そしてぎちぎちと音を立てながら力を込めていき、あまりの圧力に男は血を吐くと同時にカイトは地面を滑るようにしてなげつけられ、何度かバウンドした後に止まった。腕は別方向に曲がり、足からは骨が飛び出ている。さらに肩にはバウンドした時に刺さった剣が突き抜けている。周りのガリアンが雄たけびを上げ始めるが、『斧神』は未だ油断なくカイトを見据えていた。
「おいおい、ありゃあ死んじまったな」
「開始早々の回避は凄いと思ったけど、やっぱり『斧神』には通用しなか「いや、まだだ」……え?」
ウォルファウンドの言葉にメンバーが目を凝らすと、カイトから淡い光が溢れ出し、ぐちぐちと音をたてながら再生していく。それと同時にカイトは狂ったような笑い声をあげながら起き上がり、走り出した。
「アッハハハハハハハ!!」
カイトは『斧神』が勢いよく連続で振り下ろした斧を避け、地面に突き刺さった斧を抜く一瞬の動きの止まった隙をついて接近する。更にガントレットの関節部分にある微妙な隙間をアサシンブレードで突き刺し、ぐるりと左手首をもぎ取る事に成功した。
「グゥアァァァ!?」
まさか自分がこんな隙間から攻撃されるとは思ってもみなかった『斧神』は、斧を離すことなく傷口を押さえてしまう。事実、普通の剣では折れてしまうようなほんの小さな隙間なのだから。
しかし、カイトの攻撃は続く。『斧神』が傷口を押さえた時にはすでに動いており、次は足を、腱を、右目を、脇を、首を、次々に刺していった。最中に右手のアサシンブレードが折れてしまうも、フルプレートアーマーであれ、動かすためには最低限空けておかなければならない箇所をなお徹底して突き刺している。『斧神』は時折反撃するも、ひらりとカイトは避けてしまい、とうとう『斧神』は膝をついてしまった。
「か、勝ちやがった……」
「おいおいおい、マジかよ……」
メンバーは言わずもがな。周りにいたガリアンまでもがしばし呆然とするも、すぐにギャアギャアと声を出しながら『斧神』を守らんとカイトに攻撃をしようとした。が、それは『斧神』の一声で静まった。手出しをするなといわんばかりのその迫力のある声に、ガリアン達は動きを止める。わずかに動き出そうとした者も『斧神』の殺気まで込めた睨みにひるんだ。それは離れた位置に居るメンバーも同じであり、その凄まじい殺気は延長線上にいた彼らの顔を青ざめさせた。ssランク超えのその力はBランクメンバーにはきつすぎたのだ。
そんな中でなおも平然としていたカイトに『斧神』はその斧を差出した。それをしばし見つめた後に受け取り、2m以上はある斧を軽く数度振り回してみせる。それを見た『斧神』は満足げに頷くと、残った右手で兜を外し、カイトの胸に押し付けた。
するとどうだろう。今まで『斧神』が着ていた鎧は霧のようになって『斧神』の元を離れてカイトの付けている鉄のセスタスにまとわりついていく。そして銀色だったセスタスが真っ黒に染まり、甲の部分には棘が付いて全体に赤黒い血管のような模様が浮き出ている。更に防具部分が伸びてもはやガントレットと化した全体に模様が広がり終わると、バチバチと赤黒い電気を発していた。
その変化に驚くカイトだったが、呻く『斧神』を前に一旦頭を切り替え、斧を持ちあげる。すると『斧神』は素直に首を差出し、満足げな顔をしつつ首を落とされた。
Tweet |
|
|
6
|
1
|
追加するフォルダを選択
何かと不幸な人生をイケメンハーレムの友人のせいで送ってきた主人公、漣海人。しかも最後はその友人によって殺され、それを哀れんだ神達は力を与えて異世界へと飛ばしてくれた!!とにかく作者の好きなものを入れて書く小説です。技とか物とかそういう何でも出てくるような物やチートが苦手な方はご注意を。