~???~
(ヨシュア達、頑張っているけど苦戦している………あたし達、ここで負けるの……?)
一方ヨシュア達とカーリアンが激しい戦闘を行っている中、気絶しているエステルは謎の空間に浮かんでいて、カーリアンに苦戦しているヨシュア達を見て、悔しさに唇をかみしめた。
(そんなの駄目!博士やユリアさんの依頼が達成できない!依頼が達成できないなんて、遊撃士失格よ!)
(………だったら、カーリアン殿に頼めばいいのではないですか?)
(……スお姉様の言う通りだ。今のお前達では奴には勝てない。)
依頼が達成できないかもしれない事にエステルが悔しがっている時、どこからか2人の女性の声がエステルの頭に響いて来た。
(だ………れ………?(何……?初めて聞く声なのに、どうして聞き覚えがあるんだろう……?))
初めて聞く念話の声に関わらず、聞き覚えのある声にエステルは声の主に問いかけた。
(今は私達の事より、貴女の事よ。それで先ほどの私の質問に答えて頂いても、いい?)
(そんな人任せな事はできない!ずっと聖女様達に近付くために一杯頑張ったのに、こんな所で諦められない!)
((………………))
エステルの決意を聞き、2人の女性の声はしばらく黙っていたがやがてまた、エステルの頭に声が聞こえて来た。
(フフ………本当に負けず嫌いな娘ね。貴女にそっくりね…ン。)
(ラ……お姉様にそう言って頂けるなんて光栄です。それを言うなら、どんな種族とも仲よくなるこの娘の性格は…ピ…お姉様の性格譲りですよ。)
(フフ……それはこの娘の元々の性格だと思うわよ?)
(え、えっと?一体何を話しているの?貴女達は誰?)
2人の会話に訳がわからなかったエステルは戸惑った声で尋ねた。
(フフ……いつか、わかる時が来るわ。それよりカーリアン殿に勝ちたいのでしょう?)
(どうしても奴に勝ちたいのなら、私達の力を少しの間だけお前に貸してもいいぞ。……私達の力を使えば、勝てるかもしれないぞ?)
(本当!?だったらお願い!力を貸して!!)
2つの声の提案にエステルは驚き、嘆願した。
(その前にお前に一つだけ尋ねる。私達が力を貸せば、お前をお前として見なくなる者も現れるぞ。それでもいいのか?)
(その中にはペテレーネやリウイ皇帝陛下も含まれるかもしれないわ。それでもいいの?)
(それって、貴女達が関係して来るの?)
2人の忠告にエステルは逆に聞き返した。
(………ええ。それよりどうするの?)
(………力を貸して!)
(……私と……スお姉様の忠告を聞いていなかったのか?)
考える様子もなく、答えたエステルに声の一つは呆れている様子の声で尋ねた。
(もちろん、聞いていたわよ!でも、あたしは聖女様やリウイがそんな風にあたしを見る人じゃないって、わかるもん!それにその様子だと、貴女達の方があたしよリウイ達の事を知っているんでしょ?だったら、そんな事を言ったら駄目よ!!)
(どうして、そう言いきれる?)
(あたしが聖女様達の事を信じているからよ!後は女の勘よ!)
((………………))
エステルの言葉を聞いた2人はまた黙った。
((フフ………))
そして突然、笑いを抑えた声が聞こえて来た。
(ちょっと!笑う事はないでしょ!?)
2つの笑い声にエステルは怒った。
(フフ………ごめんなさい。でも、そうね。あの方達の事を貴女より、よく知っている私達がそんな事を言ってはいかないわね。)
(では、ラ……お姉様。)
(ええ。最初は私が戦うから、貴女は私の後をお願い。)
(はい!カーリアンを驚かせてやりましょう!)
(え?え?)
2人の会話に再び訳がわからなくなったエステルは戸惑った。
(では、百数十年ぶりの戦友に挨拶に行きましょうか。………リン。)
(はい!ラピスお姉様!………我等の戦いをよく見て、自分の物にしてみろ…………我等の魂を継ぐ少女よ。)
そして美しい黒髪と翡翠の瞳を持つ女性と輝く金髪と紫紺の瞳を持つ女性の顔が一瞬見えた後、エステルの意識は途切れた。
~グランアリーナ~
一方カーリアンと激しい戦いをしていたヨシュア達はアーツやクラフトを駆使して、自分達の身体能力を上げたり、カーリアンの身体能力を下げて最初はなんとか互角に戦えていたが、カーリアンがそれぞれの攻撃に対処し始めると、どんどん劣勢になっていった。
「喰らっときなさいよ!!」
「くはっ!?」
「ぬぐっ!?」
「ぐっ!?」
複数の敵を一瞬で攻撃する剣技――乱舞を喰らってしまったヨシュア達は痛みに呻いた。
「フフ………結構粘るじゃない♪でも、さすがにそろそろ限界かしら?」
余裕の表情でカーリアンはボロボロになっていても、いまだに立っているヨシュア達を見て感心した。
「くっ………ここまでの強さとは………」
「正直、勝てる気がしないよ……」
「3人がかりで攻撃しても、有効打を未だに入れられないとはな……さすが、カシウスの旦那を破っただけはあるな……」
カーリアンの強さにヨシュアは呻き、オリビエは泣き言を言い、ジンはカーリアンの強さに納得した。
「さあて、そろそろ終わりにしようかしら?」
「くっ!?」
「さすがに今回は不味いかな……?」
「万事休すか……!」
双剣を構え、闘気を最大限に出しているカーリアンを見て、ヨシュア達は試合を諦めかけようとしたその時!
「水よ……!連続水弾!!」
「!!」
双剣を構えているカーリアンに魔術でできた水の弾が襲った。自分に向かってくる水の弾に気付いたカーリアンは構えを解き、回避した。
「魔術!?という事は………!」
カーリアンを襲ったのが魔術とわかったヨシュアは期待した表情でエステルが倒れていた方に振り向いた。
「…………………」
そこには異様な姿のエステルが静かに棒を槍を構えているかのような構えをしていた。
「エ……ス……テル……?」
「エステル君?いつの間に髪と瞳の色を変えたんだい?」
(……本当にエステルか?余りにも気配が違いすぎる……)
母譲りの栗色の髪は美しい黒髪に変わり、父譲りの紅い瞳は澄んだ翡翠の瞳をしているエステルの姿にヨシュアは戸惑い、オリビエは驚き、ジンはエステルから漂う気配が普段のエステルと余りにも違いすぎる事に首を傾げた。
「水よ、我が刃となれ……」
黒髪のエステルが静かにそう呟くと、カーリアンに向けている棒の先端に水が宿り、ある武器に変わった。
「斧槍(ハルバード)!?」
ヨシュアはエステルが持っている武器の形態を見て、驚いた。
「いくわ……剛進突破槍 !!」
そしてカーリアン目掛けて、普段のエステルとは思えない達人クラスの動きで突進した!
「っと!?いたっ!?」
エステルの動きに驚いたカーリアンだったが、双剣で防御した。しかし、水の刃と同時に衝撃波も襲って来たため、それは回避できず、ダメージを受けた痛みに顔を顰めた。
「貴女、何者?エステルじゃないわね?」
「………………」
鍔迫り合いをしながらカーリアンは黒髪のエステルに尋ねたが、尋ねられた本人は黙っていた。
「だんまりか。じゃあ、力づくでもしゃべってもらうわよ!どーりゃー!3段斬り!!」
カーリアンは常人では回避できない速さで攻撃を仕掛けた!
「――3段突き。」
自分に襲いかかって来る連撃を黒髪のエステルはカーリアンの動きに着いていくかのようにクラフトを放って、カーリアンの攻撃を相殺した。
「嘘!?今のは結構本気で攻撃したのに………!」
攻撃が相殺された事と自分の動きに着いて行けた事にカーリアンは驚いた。そして黒髪のエステルはその隙を狙って、大技を放った!
「我が奥義、受けなさい!………我に眠りし命の守護よ……ここに来たれ!! 」
黒髪のエステルが叫ぶと、水の刃がついた棒全体を水が覆い、水柱と化した!そして黒髪のエステルはそれをまるで踊りを舞うかのような動きでカーリアンに放った!
「蒼流……演舞槍!!」
「なっ!?」
黒髪のエステルが放った見覚えのある技を見ると同時に聞き覚えのある技名を聞いたカーリアンは驚いた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
黒髪のエステルは叫びながら、舞いながら水柱を連続でカーリアンに攻撃した。
「くっ………!やってくれるじゃない!!」
驚いたせいで防御が遅れたカーリアンは黒髪のエステルが放った大技の何発かを喰らい、痛みに顔を顰めた後、黒髪のエステルを睨んだ。
「黒髪に翡翠の瞳………槍術に水の魔術。それに今の奥義はあの娘しかできないはず………まさか!貴女…………ラピス!?」
黒髪のエステルの正体を、信じられない表情で言い当てた。
「百数十年ぶりですね、カーリアン殿。」
正体を言い当てられた黒髪のエステル――ラピスは微笑みながら答えた。
今ここに”幻燐戦争”の英雄の一人であり、森をこよなく愛した”森の守護者”が異世界に降臨した………!
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