No.461172

IS -インフィニット・ストラトス- ~恋夢交響曲~ 第五話

キキョウさん

恋夢交響曲・第五話

2012-07-28 17:37:05 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1347   閲覧ユーザー数:1308

シャワーを浴び、夕食を食べた後、俺は携帯を使って、自分の師でもあるマリア・レイン博士に電話をかけていた。

 

『で・・・決闘を引き受けてしまったと』

 

「はい・・・」

 

俺は先生に今日あった出来事について相談に乗ってもらっていた。

 

『まったく、自分の夢を馬鹿にされたら、目の前が見えなくなるっていう欠点、まだ直してなかったのか・・・』

 

電話越しにため息が聞こえる。

専門学校時代にも、この欠点で無駄ないざこざを起こすことが多々あり、先生に戒められることが多かった。

 

「で、月曜日なんですけど、間に合いますかね?」

 

『安心しな、突貫作業で進めてやるから、完成は間に合う。後の細かい作業は自分でやれ』

 

よかった。前々から俺がプランを組んだ装備がどうやら間に合いそうだ。

正直これがないと、万が一も勝てなくなってしまうだろう。

 

「わかりました、では失礼します」

 

『ああ。私がお前のプランに応えて開発してやった装備なんだ、いい結果しか聞かないぞ。じゃあな』

 

通信が切れる。まったく、変なプレッシャーをかけてくれるのだから。

携帯電話を置くと、ベッドの上に寝転んだ。そして右耳についていたイヤリングを外し眺める。

彼女の形見ともいえるIS・『プラチナ』。彼女ならこんなときどうしただろう・・・ そんなことを考えながら、意識が遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

入学の翌日の朝八時、俺は、隣の部屋の住人、織斑一夏と篠ノ之箒の二人と食堂で楽しく朝食を食べて、

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

いなかった。

対面に座る隣部屋の二人は終始無言だった。どうやら、昨日一夏の部屋から聞こえてきた、謎の爆発音のような打撃音に原因があるのだろう。

 

「なあ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「なあって、いつまで怒ってるんだよ」

 

いったいこいつは何をやったのだろうか。よっぽどのことをやらなければ、こんなことにはならないはずである。

 

「・・・怒ってなどいない」

 

「顔が不機嫌そうじゃん」

 

「生まれつきだ」

 

そんなやり取りを対面から見ていた。篠ノ之さんも、もう少し聞く耳を持ってあげてもいいような気がするが、とばっちりは嫌なので黙っておく。

 

「箒、これうまいな」

 

「・・・・・・」

 

この二人は同じ和食セットを食べているので、そこから何とか会話を作ろうとした一夏だが、やっぱり相手にしてもらえない。一応、一夏の会話から、進められた物をつまんではいるので、どうやらそこそこ機嫌は元に戻ってきているようである。

ちなみに俺は朝はパンのほうが好きなので、洋食セットを選んだ。

 

「だから箒」

 

「名前で呼ぶなっ!」

 

「・・・篠ノ之さん」

 

名前で呼ぶなと言ったはずなのだが、篠ノ之さんは名字で呼ばれるととたんに機嫌が悪くなった。なんか矛盾してる反応に笑いそうになる。

 

「・・・なんだ、天加瀬」

 

どうやら俺の表情が崩れそうになってしまっていたのか、こっちを睨んできた。

 

「いーや、なんでもないぞ、篠ノ之さん」

 

俺は残っていたパンを口の中につっこんでそれ以上何もいわないことにした。でないと、後々怖そうである。

この後、俺と一夏は女子に囲まれてしまい、身動きが取れなくなったところを、篠ノ之さんがさっさと教室に向かってしまったので、一夏は、休み時間になるまで、彼女と話ができなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、天加瀬君、今日時間ある?」

 

「はいはい、天加瀬君質問!」

 

「今日お昼ヒマ? 放課後ヒマ? 夜ヒマ?」

 

先生二人が教室から出ると、昨日とは打って変わって、女の子たちが俺の周りを取り囲んだ。

どうやら一夏も同様なようで、周りの対応に困っていた。

 

「えっと・・・ 順番に言ってくれるかな・・・?」

 

しかし、すでにある一人の女子が有料で整理券を配っていた。おいおい、さすがにそれはぼったくりじゃないだろうか。しかし、そんな損しかしないような整理券に、大半の女子がお金を払っている。

この子たちは将来、変なセールスに引っかかるんじゃないのか心配になるんだが。

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 

いつのまにやら織斑先生が教室の中に入っており、この騒動を言葉一つで鎮圧した。

さすがはみんなの鬼教官である。

 

「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」

 

「へ?」

 

なるほど、いつもより早く来たのは一夏のISについて説明しに来たのか。

 

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

 

すごいな、学園が直々に専用機を用意するのか・・・ 専用機が用意されるという話を聞き、周りもざわめき始める。しかし、当の本人はまるで理解していない様子だった。織斑先生は、そんな一夏にため息をつきながら、

 

「天加瀬・・・この馬鹿にわかりやすく教えてやれ」

 

と俺に説明を求めた。

 

「わかりました・・・ 一夏、お前にもわかりやすいように簡単に説明するからよく聞けよ」

 

「お、おう」

 

俺は一夏の返事を確認し、説明を始めた。

 

「いいか、ISはいろんな国の人が使ってるのは知ってるよな? だけど、ISの心臓ともいえるコアの開発する技術は世界中のどの国も知らないんだ。簡単に いえば、ISのコアの設計図がないってことだ。で、世界中にISのコアは467個しかない。もちろん、設計図がないから増やすこともできない。しかも、唯 一ISコアを開発できる篠ノ之束博士は、これ以上の製作を拒否している。なので、それぞれの国や企業は、その数少ないコアを割り当てられて、ISの研究をしているんだ。ここまではいいか?」

 

一夏は俺のここまでの説明を理解したのかうなずく。

 

「よし、続けるぞ。で、IS専用機っていうのはその数少ないコアを使って開発したISで、企業に雇われたテストパイロットや、国で適性が認められた代表候 補生といった人間にしか与えられないんだ。つまり、お前はどの企業にも属してはいないし、代表候補生でもないのに、IS専用機が持てるという、異例の存在なんだ」

 

ここまでは俺も説明できる。問題は、なぜ、一夏に専用機が用意されるかだが、

 

「お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」

 

その疑問には織斑先生が説明に補足を入れてくれた。どうやら、今の説明で一夏もわかってくれたらしい。

ここで、一人の女の子が、織斑先生に質問をした。

 

「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なのでしょうか・・・?」

 

それは初日に俺が本人に聞けなかった疑問、『篠ノ之箒は、篠ノ之束の関係者なのか?』だった。

 

「そうだ、篠ノ之はあいつの妹だ」

 

織斑先生の言葉に、湧き上がる教室内。確かに俺も、ISの開発者の妹が自分と同じクラスにいるというのは、予想してたとはいえ、驚きである。

この話題により、昼休みの俺と一夏のように、篠ノ之さんの周りに人だかりが出来ていた。

そして、篠ノ之博士のことや、篠ノ之さんについて質問をし始める。

 

「あれ? そういえば箒って・・・」

 

そう一夏が呟いた時、突然篠ノ之さんが「あの人は関係ない!」と大声をあげた。

俺と一夏、そして、篠ノ之さんの周りに集まっていた女の子たちは、予想外の出来事に呆気にとられていた。

 

「・・・大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

 

そう言って、篠ノ之さんは窓の外に顔を向けた。どうやら、複雑な家庭の事情というやつらしい。

 

「さて、授業をはじめるぞ。山田先生、号令」

 

「は、はい」

 

どうやら、山田先生も気になるようだが、そこは先生としての職務を果たすようだ。

 

(まぁ・・・聞くのは野暮か・・・)

 

そう思いながら俺は教科書を開いた。

 

 

授業が終わり、お昼休みのこと。昼ご飯に一夏を誘って、食堂にでも行こうかと考えていると、目の前にすっと金色の何かが立ちふさがった。

 

「あなた・・・まさかISをお持ちでないということはございませんわよね?」

 

それは、俺が月曜日に戦う女の子、セシリア・オルコットさんだった。

 

「大丈夫だ、俺のISはここにある」

 

俺は、彼女に分かるように、右耳のイヤリングを見せる。

 

「あなたにも専用のISがあるようで、安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

そう言いながら彼女は、腰に手をあてた。

彼女はよくこのポーズをとるのだが、イギリス貴族の基本姿勢か何かなのだろうか。

 

「まあ? 一応勝負は見えていますけど? さすがにフェアではありませんものね」

 

「予想はしていたけど、やっぱりあるんだな」

 

「あら? 庶民の割には鋭いんですのね。そう、このわたくし、セシリア・オルコットは代表候補生・・・ あなたの予想通り、現時点で専用機を持っていますわ」

 

そう、彼女はなにはともあれイギリスの代表候補生だ。イギリスが開発した専用機を持っていないはずはない。

 

「へー」

 

いつの間にか俺の横にいた一夏が、間の抜けた声をあげた。

いつからいたんだよ・・・ ていうか、ここは俺とオルコットさんが火花を散らすところだぞ。空気読めよ。

 

「・・・あなた、わたくしを馬鹿にしていますの?」

 

「いや、すげーなと思っただけだけど。どうすげーのかはわからないが」

 

「それを一般的に馬鹿にしていると言うでしょう!?」

 

彼女は、バンッ! と俺の机を叩いた。その拍子に、まだしまってなかった俺の教科書やノートが床に散乱する。なんで一夏が文句を言われているのに、俺がとばっちりを受けるのだろうか。

 

「・・・こほん。さっき授業の前の時間でこちらの庶民が説明なさったでしょう。世界でISは467機。つまり、その中でも専用機を持つものは全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」

 

「世界人口って60億人超だったのか・・・」

 

「そこは重要ではないでしょう!?」

 

また俺の机が叩かれる。・・・どうもさっきから、一夏の貧乏くじを引いている気がする。

 

「そういえば、奏羅って専用機持ってるのか?」

 

ふと思いついたように、一夏が俺に質問をする。

 

「ああ、持ってるぞ」

 

先ほどと同じように、一夏にも俺のISを見せた。

 

「おお、すげぇ!!」

 

さきほどのオルコットさんの時とは比べ物にならないほどの声をあげる一夏。お前・・・わざとだろ。

 

「あなた! わたくしを本当に馬鹿にしていますの!?」

 

「いやー、お前もすごいぞー」

 

「だったらなぜわたくしの時だけ棒読みなのかしら・・・?」

 

大丈夫、あなたの予想は当たってますよ、オルコットさん。

 

「なんでだろうな、箒」

 

その言葉に篠ノ之さんは、ものすごい形相で一夏を睨んでいた。まったく、学習しない奴だ。

 

「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」

 

次にオルコットさんは、名前が挙がった篠ノ之さんの方に会話の矛先を向けた。

 

「妹というだけだ」

 

彼女は、よっぽど篠ノ之博士の話をされるのが嫌なのか、オルコットさんが怯むほどのオーラを出しながら答える。

 

「ま、まあ。どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはこのわたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」

 

といい、オルコットさんは髪を手で払い、くるっと方向転換をして立ち去って行った。

・・・いちいちそれっぽい動きをとるのは、やっぱり何か英国貴族の儀礼なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、俺、一夏、篠ノ之さんの三人は学食にやってきていた。

先ほどの授業で、クラスから浮いてしまっていた篠ノ之さんをなんとかクラスに馴染ませようと、一夏は俺以外にもご飯に誘ったのだが、・・・まぁ、ちょっとした夫婦喧嘩があり、蜘蛛の子を散らすように居なくなってしまった。

 

「箒、テーブルどっか空いてないか?」

 

「・・・・・・」

 

一夏の問いかけに、篠ノ之さんはダンマリを決め込んでいる。

 

「箒?」

 

「・・・向こうが空いている」

 

一夏が掴んでいた手を払って、篠ノ之さんはスタスタと空いたテーブルへと歩いていく。

そのあとを俺と一夏がついて行った。

 

「そういやさあ」

 

「・・・なんだ」

 

一夏が思い出したように篠ノ之さんに話しかける。ちなみに俺と一夏が並んで座っており、一夏の対面の席に篠ノ之さんが座っている。

 

「ISのこと教えてくれないか? このままじゃ来週の勝負で何も出来ずに負けそうだ」

 

「くだらない挑発に乗るからだ、馬鹿め」

 

なんか俺のことを言われているような気がする・・・

どっちかと言うと、本格的に喧嘩を売ったのは俺だったし。

 

「それをなんとか、頼む」

 

と一夏が懇願する。しかし、彼女は黙々と自分の食事を続けながら、

 

「天加瀬に聞いたらどうだ」

 

と答えた。

 

「いや、俺は知識ならあるんだが、操縦に関しては一夏と同じくほぼ初心者だ」

 

「だってよ。だから、俺と天加瀬に操縦について教えてくれないか?」

 

しかし、一夏の願いは無視され、相変わらず自分の食事を黙々と続けている。

一夏が食い下がろうとした、その時、

 

「ねぇ、君達って噂のコ達でしょ?」

 

突如、知らない人に話しかけられる。リボンを見る限り、どうやら三年生らしい。

 

「はぁ、たぶん」

 

あまり自信がなさそうに、一夏が答える。どんな噂か知らないが、まぁ有名なのは間違いないだろう。

 

「代表候補生のコと勝負するって聞いたけど、ほんと?」

 

「まぁ、そうですけど」

 

嘘をつく意味はないので正直に答えると、ISの起動時間について聞かれた。

稼働時間については、一夏は20分、俺は・・・詳しくは覚えていないが、大体20時間くらいだろう。

 

「それじゃあ無理よ。ISって稼働時間がものをいうの。その対戦相手、代表候補生なんでしょ? だったら軽く300時間はやっているわよ」

 

確かに、代表候補生に選ばれるくらいだ。そのくらいの稼働時間は普通にこえているだろう。

今のところ経験の差で、オルコットさんが有利なのは明らかだ。

 

「でさ、私が教えてあげよっか? ISについて」

 

と言って、ずずいっと身を寄せてくる。

どうやら一夏は、願ってもないような顔をしている。

 

「はい、ぜ」

 

しかし一夏の言葉はここで突然の横やりに遮られた。

 

「結構です。私が教えることになっていますので」

 

その横やりを入れたのは、先ほどまで一夏の提案を無視していた、篠ノ之さんだった。

いつの間に彼女が教えることになったのだろうか? 疑問に思ったがとりあえず、黙っておくことにする。

 

「あなたも一年生でしょ? 私のほうがうまく教えられると思うなぁ」

 

「・・・私は、篠ノ之束の妹ですから」

 

ものすごく言いたくなさそうに、彼女は返答する。

彼女は篠ノ之博士をあまりよく思っていないようだったが、その名前を出すのだから、どうやら何か譲れない理由があるのだろう。

それを聞いた先輩は、ものすごく驚いていた。確かに、世界的有名な博士の妹なのだ。驚くのも無理はない。「そ、そう。それなら仕方ないわね・・・」と、先ほどまでの勢いとは打って変わって、若干引いた様子で去って行った。

一夏は、そんな篠ノ之さんを不思議そうな顔でじっと見ていた。

 

「なんだ?」

 

「なんだって・・・ いや、教えてくれるのか?」

 

「そう言っている」

 

教えてあげるつもりだったのなら、最初からそういえばよかったのに・・・

この子は、人づきあいがあまり上手くないのだろうか。

 

「今日の放課後」

 

「ん?」

 

「天加瀬を連れて、剣道場に来い。一度、お前の腕がなまっていないか見てやる」

 

俺も一緒なのか・・・ 俺は剣道未経験者なのだが。

 

「いや、俺はISのことを」

 

「見てやる」

 

「・・・わかったよ」

 

有無を言わさない彼女の言葉に、一夏も俺もうなずくほかなかった。

 

 

 

                       

 

 

 

 

正直、彼女がここまですごいとは思っていなかった。

先ほどから、一夏と篠ノ之さんが剣道で勝負をしていたのだが、一夏はまるでかなわなかった。

俺はと言うと、竹刀と防具は貸してもらったが、目の前に起こっている出来事に参加しようとは思わないし、思いたくもない。

どうやら、篠ノ之さんの予想よりも、経験者だった一夏の腕は落ちているようで、こっぴどく一夏をしかりつけた後、更衣室へと向かって行った。

 

「・・・大丈夫か、一夏」

 

「いや・・・昔とは段違いの強さだったよ。昔は俺の圧勝だったんだけどなぁ・・・」

 

そういいながら、遠い目をする一夏。

しかし、物珍しさから集まったギャラリーの「織斑くんってさぁ・・・結構弱い?」「ISほんとに動かせるのかなー」という声に現実に引き戻されていた。

 

「・・・トレーニング、再開するか」

 

何かを決意したようにつぶやく一夏、立ち直ってくれて何よりである。

 

「奏羅もやるか?」

 

「・・・初心者ってこと忘れないんだったら付き合ってやるよ」

 

俺も月曜日に対戦が控えているのは変わりないからな。そこへ、水を差すように俺の携帯に着信がかかる。

 

「悪い、ちょっと席をはずすぞ」

 

そう言って俺は廊下へと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、輸送が遅れる!?」

 

電話をかけてきたのは、マリア博士の助手のうちの一人で専門学校時代の同期である、リリツィア・ティナーク、通称・リリィからだった。

 

『いやー、あんた宛の荷物と、他の企業に送る荷物を間違えちゃってさ、届くのが月曜日の午前中になりそうなんだわ』

 

ごめん! と言いながら誤ってくるリリィ。しかし、月曜日の午前中かよ・・・

 

「で、どこまで設定してある?」

 

『一応、即時インストールできるくらいやっといたけど、あんたが頼んできた装備、どっちかっていうと装備っていうよりパッケージだから、ISと装備が設定いじらずにマッチするかはわかんないかな』

 

午前中でマッチング設定を終わらせることができるのか・・・?

だんだんと不安になってくる。

 

『あーそうそう。このこと、マリアさんには内緒にしてくれない? これ聞いたらあの人、絶対に怒り狂うし』

 

「わかった、しっかりと伝えておく」

 

「あー、やめろー」とか聞こえてきたが、無視して通話を切る。まいった・・・ どうやら、ぶっつけ本番でやるしかないだろう。

いろいろと試行錯誤しながら対策を考えていると、

 

「どうかしたのか?」

 

と着替え終わったであろう篠ノ之さんが尋ねてきた。

 

「いや・・・まぁいろいろあってさ、月曜日の試合が心配になってきた」

 

「はぁ・・・ まったく、お前はもう少ししっかりしてると思ったんだがな」

 

今回は俺自身の失敗ではないのだけれど、まぁ俺の不備には変わりないだろう。

ふと篠ノ之さんのほうを見ると、さっきから、どこかいつもと違う。なんというか、ボーっとしているような気がする。

 

「・・・どうしたんだ?」

 

「いや、少し考え事をしてただけだ」

 

「・・・一夏のことか?」

 

「そ、そ、そんなことあるはずがないだろう!!」

 

一夏の話題を出すと、必死に否定する篠ノ之さん。

そんな彼女の様子に、俺は一つの仮説をたてた。

 

「もしかして・・・篠ノ之さんって・・・」

 

「ち、違う! 誰があいつのことなど好きなものか!」

 

「そこまでは言ってないんだけど・・・」

 

「あ・・・」という顔をする篠ノ之さん。どうやら観念したのか、恥ずかしそうにうつむきながら、

 

「あいつには・・・黙っておいてくれ・・・」

 

といつもの篠ノ之さんからは想像できないようなしおらしさで懇願してくる。

彼女の願いをむげにするほど、俺は鬼ではないので、

 

「まぁ・・・なんだ、俺もそんなことペラペラしゃべる人間じゃないしな」

 

と黙っておくことを約束した。どうやら安心したらしい。篠ノ之さんは「そうか・・・」と安堵したように息を吐いた。

 

「一つ、アドバイスするけどさ」

 

「・・・なんだ?」

 

「もうちょっと一夏に優しくしたらどうだ?」

 

「っ・・・、余計なお世話だ!」

 

どうやら、自覚しているのだろう。ムキになったように怒鳴り散らす彼女は、なんとなく年頃の女の子に見えた。

 

「おいおい、何喧嘩してんだ?」

 

いつの間にか、話題の中心であった一夏が、着替えを終わらせて廊下に出てきていた。

 

「・・・お前、いつからそこにいた?」

 

「ついさっき、箒が『余計な御世話だ!』って怒鳴るところから」

 

どうやら、彼女の胸の内は、一夏に聞かれてはいないようだ。

 

「それより、腹減ったな。奏羅、箒、さっさと寮に戻ろうぜ」

 

「はぁ・・・お前と言うやつは・・・」

 

あきれたようにため息を吐く篠ノ之さん。同情するよ、まったく

 

「じゃあ、とっとと退散するか」

 

俺の言葉を皮切りに、俺たちは寮へと歩を進める。

どうやら、彼女の思いが伝わるのはまだまだ先な気がする。

一夏と篠ノ之さんに挟まれて歩きながら、俺はそう思った。

 


 
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