No.461035

Fate/anotherside saga~ドラゴンラージャ~ 第一話『新たな世界』

誤字脱字って気をつけても出てくるんですよねー……。

というわけで、第一話です。
今回から物語の舞台がFateからドラゴンラージャに変わります。
まあ、今回の話(あと次回もかな?)はあまり関係ないんですけど(^^;)

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2012-07-28 13:03:11 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2071   閲覧ユーザー数:2040

 

 

 

 

みせかけの微笑を見せたり、心に仮面をかぶったりしない、真心のこもった、裸のままの親切には、人は決して抵抗できないものだ。

もしこちらがあくまで親切を続ければ、たとえ良心の一かけらもない人間でも、必ず受け入れてくれるだろう。

――マルクス・アウレリウス・アントニヌス

 

 

 

 

✞       ✞       ✞

 

 

 

 

 

「マスター。マスター! 大丈夫か!? 起きられるか!?」

「くっ、うぅ…………。セイ、バー…………?」

 

 

セイバーに揺り動かされ、目を覚ます。

辺りは薄暗く、まだ意識がハッキリしていないのか、頭はボーっとしている。

 

 

「おお。目を覚ましたか、マスター。いつも余よりも早く起きるというのに、今日はいつまでたっても起きぬから心配したぞ」

「いや。たぶん、セイバーより遅く起きる人はそうそういないんじゃないか?」

 

 

元皇帝ということもあってか、セイバーには早起きという習慣がまったく身についてない。ほっといたら、昼近くまで眠っていることだろう。

まあ、そんなことで貴重な猶予期間(モラトリアム)を無駄にしたくはなかったから、聖杯戦争中は俺が毎日起こしてはいたんだけど。

いや……そんなことはどうでもいい。

それより、俺はどうしてこんなところで寝ていたんだ?

だんだん頭が正常に機能してくる。

 

 

「……そうだ! セイバー、あれからどうなったんだ!? めがみの計画は無事に成功したのか!?」

「成功したに決まっておろう。そうでなくては余も奏者もとっくの前に消滅しておる。だが、余も、奏者も、今こうしてちゃんと生きておる。そのことが、あやつの作戦が成功したという、最も分かりやすい証明となるであろう?」

 

 

どうやら俺はあの出来事の後、気絶していたらしい。

セイバーの言った通り、どうやら俺は助かったようだ。

だけど、気絶していたせいであまり助かった実感が湧かない。

とりあえず今の状況を確認するため、しばらくキョロキョロとあたりを見渡してみる。

 

 

「ここは、森か?」

 

 

深い森だ。

近くに生えている木はどれも俺の身長の倍以上の高さはある。

とはいえ、周りをそんな高い木で囲まれているとはいえ、そのせいで辺りがここまで薄暗くはならないだろう。

ということは、今はまだ日の昇りきっていない明朝か、もしくは日がほとんど沈んだ夕刻ということなのかもしれない。

周りの状況はある程度分かったが、ここは一体どこなんだ?

たぶんセラフではないだろう。

セラフには学校とアリーナぐらいしか存在しないし、何よりも今の俺達がセラフにのこのこと帰ったら今度こそ排除されてしまう。

俺とセイバーがいることを考えると、どこか別の電脳世界なのかもしれない。

 

 

「目を覚ましたようね、拓斗」

 

 

いつの間にか、俺達の目の前にめがみが立っていた。

初めて会ったときもそうだったけど、彼女は俺にもセイバーにも気付かれずに、いきなり目の前に現れる。

アリスのようにワープでも使っているのか?

 

「めがみ…………」

「ふむ、お主か。まずは、礼を言わせてもらうぞ」

「お礼?」

「そう、礼だ。お主のおかげで余も奏者も消えずにすんだのだからな。礼をするのは当然であろう? ……よくやってくれた、感謝する」

「ああ、セイバーの言うとおりだな。俺からもお礼を言わせてくれ。めがみ、ありがとう」

「……ふふ。まあ、あれは私がやりたくてやったことだから、そんなに感謝してもらわなくてもいいんだけど……ね。とりあえずは、どういたしましてと言わせてもらうわ」

 

 

めがみは少し照れくさそうにしながらも、微笑んでいた。

……とはいえ、相変わらずその笑みは少し違和感を覚えさせるものだったが。

 

 

「とりあえず、めがみ。ここは一体どこなんだ? セラフじゃないみたいだけど、また別の電脳空間なのか?」

「いいえ、違うわ」

「違う? ていうことは、やっぱりここはセラフの中なのか?」

「違う」

 

 

にこやかに微笑みながらめがみは首を振る。

 

 

「む。待て、めがみよ! そなたのその話しぶりからすると、よもやここは霊子虚構世界ではなく地上なのか?」

 

 

……なんだって?

今、セイバーはなんて言った?

ここが地上だって?

…………いや、それはありえない。

なぜなら俺は人間(ほんもの)じゃなくて、ただのデータ(にせもの)にすぎないんだから……。

そんな俺が分解されなかったからとはいえ、電脳世界以外で存在でき(いきていられ)るはずが無い。

 

 

「待ってくれ、セイバー。そんなことありえるはずないだろ? 俺もお前も現実世界ではただのデータにすぎないんだぞ。そんな俺達が地上にいられるはずがない」

「しかし奏者よ、今いるこの森自体も、木も、空気も、そして余達のこの肉体も本物と何も変わらないように思わぬか? 余が知っている限りとはいえ、ここまでリアルに現実世界を再現できる霊子虚構世界は、ムーンセルの創り出したセラフしかありえぬのだぞ。ならばここがセラフではないというのなら、地上ということになるのではないか?」

「確かに、それはその通りだけど…………」

 

 

俺の歯切りの悪い言い方が気に入らなかったらしく、セイバーはむっと眉をしかめて怒鳴った。

 

 

「ええい、まどろっこしい!! 奏者よ、答えを知っている者が目の前におるのだ。そやつにさっさと答えを聞くがよい!」

 

 

そう言ってぷいっと顔をそらすセイバー。

……まずい、怒らせてしまったみたいだ。

とはいえ、このままだとらちが明かないのも確かなので、まずは微笑みながらこっちを見ているめがみに、詳しいことを教えてもらうことにしよう。

 

 

「それでめがみ。実際ここはどこなんだ。いや、ここのことだけじゃない。お前はどうやって俺達を助け出したんだ?」

「心配しなくても、ちゃんと全部話すわ。ちょっと長くなるけど別に構わないでしょ?」

「ああ、もちろんだ」

 

 

めがみは一度眼をつぶって言葉を切り、再び話し始めた。

 

 

「まず、分解される寸前だったあなた達は、聖杯と私の力によって開いた孔から救出された。…………そこまではいい?」

「ああ」

「そして、問題はそこからなの。普通の魔術師(ウィザード)なら聖杯から取り出した後は、元の肉体に魂を戻すだけでいいわ。……でも、あなたにはその帰るべき肉体がない。だから、あなたをそのまま地上に帰すことはできなかった」

 

 

そうだ。

だからこそ先ほどのセイバーの言葉に納得することができなかったんだ。

 

 

「次に、拓斗の言った通り別の電子ネットワークに送ることもできたわ。セラフ以外の電子世界では今までのように普通の人間と同じように生きることは難しいけど、それでも生き続けることはできるから」

 

 

俺はそれでも構わない。

本来なら消えるはずだった命。

それが曲がりなりにでも保たれるなら、どんな状況でも文句が言えるはずがない。

 

 

「でも、拓斗はセイバーといっしょに生きていきたいと言った。そもそも普通の人間のゴーストである拓斗と、英霊の再現体であるセイバーでは、基本性能(スペック)の桁が違うわ。英霊を再現できたのはムーンセルの規格外の処理能力のおかげ。普通の電子世界にセイバーを一緒に連れて行ったら、その瞬間にその世界は崩壊するわ」

 

 

…………そうか。

ずっと一緒にいたせいかすっかり忘れていたことだったが、セイバーもまた普通の人間じゃないんだった。

確かにどんな状況でも文句は言えないが、彼女がいなかったら俺の願いの意味がなくなる。

 

 

「つまり、あなた達は地上に帰るにも帰れない。他の電子ネットワークに移ろうにも移れない。かといって、セラフに留まろうにも留まれないっていう三つの問題があったの」

「めがみ…………お前はそれをどうやって解決したんだ?」

 

 

自分のことながら、正直どうしようもないんじゃないかと思ってしまったんだが。

 

 

「ふふ、簡単よ。ようは、地上に行きたくても肉体がない。でも電子世界にはもう居場所がない。…………なら、答えは一つだけよ」

 

 

そして、めがみはそれまでと何ら変わることのない微笑みを浮かべたまま、信じられないことを言い放った。

 

 

 

 

 

「新しい体を作って地上に送ればいいのよ」

 

 

 

 

 

「なっ!」

「なんだとっ!」

 

 

俺とセイバーの驚きの声が重なる。

 

 

「おい、めがみ! それは一体どういう意味なんだ?」

「そのままの意味よ。私はあなた達を聖杯から汲み上げた後、あなた達に人の肉体を作ってあげて、その中にあなた達を入れてあげたの。拓斗もセイバーもデータとはいえ、その実態は他の霊子ハッカーと同じように普通の魂と何ら変わる物ではなかったから」

「¬¬――――」

 

 

言葉を失う。

彼女の言葉が本当なら、今の俺の体はまがい物ではなく、紛れもない本物だということになる。

でも、本当にそんなことが可能なのか?

 

 

「むう、信じられん。おぬしの言葉を信じるのならば、おぬしのやった事は、今は失われたという第三魔法そのものではないか」

 

 

セイバーも眉をひそめて疑わしそうにしている。

 

 

「あら、そこまでおかしな話じゃないでしょ? だってサーヴァントであるあなた自身が第三魔法の体現者じゃない」

「むっ。確かにそれはそうだが……」

 

 

めがみの言葉を聞いたセイバーが難しそうな顔をして考え込む。

だがそんなことより、まずは…………。

 

 

「…………すまん、セイバー。第三魔法って、何だ?」

 

 

俺の元になった人物は魔術とは何の関わりも無い一般人だった。

再現体である俺がマスターとなって聖杯戦争に参加できたんだから、魔術師(ウィザード)としての素養自体は元々あったのかもしれない。

だからといって、魔術に関する知識を特別持っていたというわけでもない。

そのためその手の知識がほとんどない俺は、彼女達の会話に若干ついていけなくなっていた。

 

 

「おお、そうか。奏者は元々こちら側の人間ではなかったのだったな」

「地上からマナが枯渇する以前は、世界には魔術を扱う魔術師がいたの。彼らは様々な魔術を扱っていたけど、それらは現在の技術で再現することができるようなものが多かったわ。例えばあなたが三回戦で戦った魔術師(キャスター)のサーヴァント。彼女は火炎を起こす魔術を使っていたでしょう」

「ああ、そうだったな。でも、自由に火をおこすなんてことを再現することができるのか?」

 

 

そういえば、あの時は大変だった。

キャスターの攻撃のほとんどは魔術だったのに、対するセイバーの魔力が弱かったせいでこちらはかなりのダメージを負ってしまったんだよな。

……いや、別に今の話とは全く関係ないんだけどな。

 

 

「ええ。火を出すだけならライターが一本あれば事足りるし、人を焼くほどの火炎が必要だとしても火炎放射機があれば十分でしょう?」

「なるほど。確かにそう言われたらそうだな」

 

 

つまり、現在の科学技術でも少し時間や手間をつかえば似たようなこと、もしくは似たような結果が出せてしまう神秘のことを魔術というのか。

 

 

「……でも、魔法は違う。魔法は現在の人間の科学では決して再現できない究極のもの。……つまり奇跡と呼ぶことが出来るのよ。例えば、時間転移や生身での空間転移とかね」

 

 

生身での空間転移はアリスとキャスターが使っていたような……………。

いや、あれは違うか。

あれはセラフだからこそできた芸当で、地上でも彼女があんなことをできたとは思えない。

……キャスターの方はどうだったかわからないけど。

 

 

「そして、地上から魔法がなくなる前に世界には五つの魔法があったわ。第三魔法っていうのはその中の一つ。内容は魂の物質化…………簡単にいえば霊体の実体化、かな? 厳密にはちょっと違うけど」

「霊体の実体化…………」

 

 

なるほど……。

確かにそれは魔法だ。

現在の技術じゃあ、とてもじゃないが真似できない。

でも、それならその失われたはずの魔法を使うめがみとは一体――?

 

 

「それじゃあ、めがみは一体どうして第三魔法を使えるんだ? 地上ではもう魔術や魔法はほとんど使えないんだろう?」

「ああ。それは私が魔法なんて使えないからよ」

「はい?」

 

 

あれ?

なんか今、さっきの会話が全部無駄になりそうな、とんでも発言を聞いたような?

 

 

「勘違いしないで。私は魔術師(メイガス)でもなければ魔術師(ウィザード)でもないの。魔法どころか魔術の類もなんにも使えないわ」

「ま、待て! それならどうやって余と奏者に肉体を与え地上へ帰したというのだ? それとも今までの話は全部戯言とでも言うつもりか!」

 

 

セイバーも怒っているというよりも、慌てている感じでめがみに詰め寄る。

そんな状況でも、さっきまでと少しも変わらない穏やかな口調のままめがみは話している。

 

 

「あら嘘ではないわよ。事実あなた達は今こうやって受肉しているじゃない」

「ならばどうやったというのだ!」

「私はね、セイバー。魔術も魔法も使えないけど、もっと別のことができるのよ」

「別のこと? それは何なんだ,めがみ?」

「うーん、何ていうのかしら? あえて言わせてもらうなら魔法モドキ?」

「魔法モドキ?」

「一体どういうものなのだ、そなたのその、魔法モドキとやらは」

「えーっと。何ていうかな…………。上書き? 改変? うーん。違うわね…………」

 

 

セイバーの言葉にめがみはしばらくブツブツと考え込んでいたが、やがて諦めたかのように溜息をつく。

 

 

「ごめんなさい。残念ながら、私のこの力を正しく伝える言葉はないわ。魔術でもなく、魔法でもない。でも、この力はオリジナルの魔法には及ばないものだけど、ある意味では全ての魔法よりもずっと強力な代物よ」

「ふむ、そうか。説明できないならば仕方あるまい。正直に言うと、そなたの話はとてもではないが信じがたい。だが、そなたは余と奏者の命の恩人だからな。よってその話を信じてやってもよいぞ」

 

 

ようやくいつもの余裕が戻ってきたのか、セイバーはいつものようにエヘンと胸を張って答える。

彼女らしい。

確かに彼女の言うとおり、めがみの話は突拍子もない。

だけど、めがみのおかげで今こうして俺たちが生きているのも事実だ。

だったら、特に追求する必要もないのかもしれない。

そんなことを考えながらちらっと視線を送ると、当のめがみは胸を張っているセイバーを見て微笑んでいた。

なんだかその微笑みは、今までと違ってどこか楽しげに見えた。

 

 

「ま、それはともかくとして。とにかく私はその魔法モドキを使って拓斗とセイバーに肉体を与えて地上に帰そうと思ったの。……でも、ここにも一つ問題があった」

「……一体、今度はどんな問題なんだ?」

 

 

また、問題か。

なんだかさっきからめがみの話を聞いていたら問題ばかりだな。

……でも、それもしかないか。

普通ならできないこと――いや、あり得ないことを、彼女はやってくれたのだ。

これで何の問題もなかったら逆に怖い。

 

 

「そうね、簡単に言えば世界の修正力が問題だったのよ」

「修正力?」

「そう。あの世界はセラフ以上に、とにかく矛盾という事を嫌うのよ。例えば、同じ人が二人以上同時に存在している、とかね。だから既に死んでいるセイバーはもちろんだけど、ほとんど同一の存在が生きている拓斗の方も、受肉させたとしても地上に帰すのは難しかったの。本当の魔法ならそれでも可能なんだけど、私が使うのはあくまでモドキ。残念ながらそこまでの力はないから」

「それで、その問題はどうやって解決したんだ?」

 

 

俺の言葉にめがみは軽く頷いてから答える。

 

 

「私の力じゃ、あなた達を地上に帰すことはできなかった。だから、あなた達二人を別の世界に送って受肉させたわ」

「…………」

 

 

またまたすごいことを言われたが、いい加減に慣れてしまった俺は特に反応も返さない。

ただ、彼女が一体何者なのかと漠然と考えていた。

 

 

「第三魔法のまねの次は第二魔法のまねか? そなたは本当に何者なのだ?」

「いいえ、厳密には第二魔法のまねですらないわ。だって私があなた達を飛ばしたところは平行世界じゃなくて異世界なんだから。……ちなみに、第二魔法っていうのは平行世界を移動したりすることのできる魔法ね」

「わざわざ説明してくれたのは嬉しいけど、平行世界と異世界ってどう違うんだ?」

「簡単に言えば、ありえたかもしれない現実そっくりの世界と、法則すら違う現実とは思えない世界って感じかな」

 

 

正直、もう何がなんだかって感じだ。

 

 

「ふむ、つまりここは余と奏者のいた世界とはまるで違うということか?」

「ええ。ああ、でも安心してちゃんとここには前の世界と同じように、人間も住んでいるから」

 

 

……異世界というのはヘタしたら人すら存在してない可能性もあったようです。

どうもめがみの口ぶりからすると、異世界というのは本当に俺達の世界とはまるで違うところらしい。

 

 

「む。奏者よ、案外落ち着いておるな。あの話からするとそなたはもっと混乱してもおかしくはないと思うのだが?」

「そりゃあ、ね。俺だってこれが初めてのことだったら、もっとうろたえていたんだろうけどさ。だけど自分の中の常識がへし折られるのはこれで二回目だからな」

 

 

聖杯戦争。

現実だと思っていた世界が実は虚構の世界だと知ったとき、そして今まで夢物語だと思っていた魔術師のことを知ったとき、自分の中の常識なんてすぐに吹っ飛んでしまった。

あのときの衝撃は今もまだ覚えている。

 

 

「そういうセイバーだって落ち着いているじゃないか」

「ばか者。マスターの前だというのに醜態をさらすサーヴァントがどこにいる! それに……」

 

 

突然、セイバーが歯切り悪そうにする。

 

 

「よ、余にはそなたがついておるからな。そなたと一緒にいるかぎり、余には不安も恐怖も存在せぬのだ」

 

 

セイバーは顔をそらしながら、ぶっきらぼうに言い放つ。

…………が、その頬は真っ赤に染まっていた。

――まったく、こいつは。

 

 

「俺もセイバーがいる限り、どんなことがあっても大丈夫だと信じてるよ」

「っ!」

 

 

頬どころかセイバーの顔全体が着ているドレスのように真っ赤になる。

うん。

すっごくかわいい。

 

 

「ふふ。説明を続けるわよ、お二人さん?」

「ああ。頼む、めがみ」

「う、うむっ!」

 

 

めがみはクスクス笑いながら説明を再会する。

 

 

「今までの話をまとめて言うと、私はあなた達を聖杯から脱出させたあと異世界に転移させて、さらに新しい肉体を作ってあなた達のデータ(たましい)をいれて、ちゃんとした人間にしたってわけ」

「なるほど、な」

 

 

ようやく状況を正しく認識する。

つまりここはセラフでも地上でもなく、異世界にある森の中。

そして俺とセイバーは今ではもうデータでも電子生命体でもなく、ちゃんとした肉体をもつ人間になったということになるのか。

……本当にめがみって何者なんだ?

 

 

「状況はなんとなくわかったけど、この異世界っていうところはどんなところなんだ?」

「そうね。とりあえず、拓斗がいた世界と大まかなところは変わらないわ。ちゃんと人間は住んでいるし、大方の常識もいっしょ。雨も上から下に降るし、ちゃんと重力だってあるわ」

 

 

……とりあえず、無茶苦茶な世界ではないことは分かった。

というか雨が上に降ったり、重力が無かったりする異世界もあるのか。

 

 

「ただ、生活はだいぶ違うわ。ここは元の世界でいうと中世ぐらいの暮らしをしてるわ」

「中世って、ヨーロッパでは騎士が活躍し、日本では武士が活躍したあの中世のことか?」

「そう、その中世」

 

 

たぶんアーチャーやガウェインの生きていた頃の時代ぐらいか。

ならここにも騎士とかがいるのかもしれないな。

 

 

「次に、ここには魔法が存在するわ。もちろん、大体のレベルは魔術ぐらいだけどね」

「中世の時代に魔法か。まさしく物語の世界だな」

 

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)のような聖剣があってもおかしくないかもしれない。

今更、魔法やなにやらでそこまで驚くことはない。

 

 

「最後に、この世界には人間以外にもドラゴンやエルフのような種族が暮らしているわ」

「ドラゴンと戦うことになるのかもしれないのか?」

 

 

さすがにこれには驚いた。

まさしく物語の世界って感じだ。

…………ああ、いや。

英霊がいるってことは、俺の知らないだけで地上にもドラゴンとかはいたのかもしれない。

だとしたら、そこまでおかしな世界じゃないのかもしれないな。

 

 

「ふむ、ドラゴンか。ちょうどよい。余も一度は仕留めてみたいと常々思っていたのだ」

 

 

いや、セイバーさん?

さすがの俺もドラゴンと戦ったら死を覚悟すると思うよ。

…………もちろん、本当に死ぬ気なんてこれっぽちもないけどさ。

セイバーといっしょなら、なおさらにね。

 

 

「この世界に関する基本的な情報はこれくらいね。私もこの世界のことを詳しく知っているわけじゃないから。あとはこの世界でゆっくりと知ることね。それじゃ、最後にあなた達の体のことについて」

「……!」

 

 

緊張が走る。

 

 

「まずは安心して。拓斗もセイバーもその体はちゃんと普通の人間のものだから。普通の人間のように成長して、普通の人間のように年を取って、普通の人間のように死ぬことができるわ」

「サーヴァントである余も人のように年を取ることができるのか?」

「ええ。普通の受肉だったら、そのサーヴァントの肉体は死ぬまで成長することは無いわ。でも、私のは特殊な力だから。セイバーの体は限りなく人間に近くなっているわ。だからセイバーも普通の人間のように死ぬことができるわ」

「そうか」

 

 

そう答えるセイバーは機嫌がよさそうだった。

死ぬ運命にあると言われたのに、なんでそんなに嬉しそうなんだろうか?

 

 

「ふ、当然であろう。これで余はそなたといっしょに年を取って死ぬことができるのだからな。死ぬのは確かに嫌だが、そなたが死んだあとも余だけずっと生き続けるのはもっと嫌だ」

「なるほどね」

 

 

納得した。

確かにそれは嫌だ。

もし俺がそんな立場だったらと考えるだけでもぞっとする。

そのとき、セイバーがふと何かを思いついたような顔をした。

 

 

「む? よく考えてみると普通の人間になってしまったのなら、もう奏者を守ることができなくなってしまうではないか!」

 

 

確かにそうだ。

もしセイバーが本当に普通の人間になったのなら、その力はそれこそ見た目通りの普通の少女並みしかないだろう。

下手したら俺よりも弱いかもしれない。

 

 

「そこらへんはどうなっているんだ?」

「そうね。じゃあ、セイバーの体について詳しく話すわね」

「頼む」

「まず、基本的にはセイバーの体は生前のものと変わらない、十代後半の肉体になっているわ。ただし人間離れとまではいかないけど、身体能力は高くなっているわ」

「具体的にはどれくらいなんだ?」

「そうね。例えば足の速さは、だいたい拓斗がコードキャストのmove_speed( )を使っているときと同じくらいかしら」

「十分だな……」

 

 

あれを使っているときって、結構足が速くなっていた気がするんだけど……?

 

 

「さすがにサーヴァントだったときと同じようには戦えないでしょうけど、普通の人間相手なら十分戦えるわ」

「宝具やスキルはどうなっておる? セラフでもないここでも使うことはできるのか?」

「安心して。あなたの宝具や戦闘スキル、それと固有スキルは今も使うことができるわ」

「おお、そうか! ならばこれからも奏者のために剣を振るうことができるな!」

 

 

嬉しそうにセイバーは笑う。

彼女がそこまで俺のために戦ってくれようとしてくれているのは、正直嬉しい。

 

 

「次に、拓斗の体のことだけど」

「ああ。俺の体はどうなっているんだ? まさか俺までセイバーみたいな身体能力になっているってわけじゃないんだろ?」

 

 

もっとも、そんなすごい身体能力を手に入れたところで俺が戦えるわけじゃないんだけどな。

というかセイバーが許してはくれまい。

 

 

「ええ。拓斗の体はセラフの頃と身体能力は変わってないわ。ほら、ほとんど違和感が無いでしょう?」

「違和感どころか、本当にこれが本物の肉体かも分からないくらいだ」

 

 

正直、ここがセラフだと言われても納得してしまうほどだ。

 

 

「それはよかったわ。違和感がないってことは、それだけその体が本物に近いってこと。こんなことをしたのは私も初めてだったから、少しだけ心配していたのよ。安心したわ」

「なら俺の体は特に変わったところはないのか?」

「いいえ、いくつかあるわ」

「どんなところなんだ?」

「まず、礼装なしでも拓斗が今まで使っていたコードキャストの全てがこの世界でも使えるようになっているわ」

「えっ、本当か?」

「ええ。ためしにあの木に向けてshock(64)を使ってみて」

 

 

めがみが俺の右前に立っている木を指差した。

shock(64)か。

魔弾を相手に撃ち込む魔術(コードキャスト)だったな。

聖杯戦争でお世話になったコードキャストの一つだ。

本来ならあれを使うには破邪刀が必要なんだけど、今の俺は破邪刀を含めた全ての礼装がない。

ま、物は試しだ。

 

 

「――shock(64)!」

 

 

何も持っていない右腕を突き出しながら呪文を唱えると、それを引き金(トリガー)にして、体の中で眠る魔術回路(サーキット)が活動を開始する。

なんだか魔術回路が目覚めるたびに、自分の内側を熱く、痺れるような力の本流が駆け回っているような気がする。

……もっとも、そんなものは俺の勝手な思い込みにすぎないのかもしれないけど。

全身の魔力が循環するように移動しながら右手に集中し、やがて指先に大きな魔力の塊を形作る。

バスケットボールぐらいの大きさになった魔力弾は俺の意思一つで文字通り弾丸のごとく撃ち出され、右手の延長線上にあった木に命中する。

 

 

「おおっ! 発動したぞ奏者よ!」

「本当にできた…………」

「ね、できたでしょ。ああ、それと。今の拓斗の魔力は、赤原礼装とアトラスの悪魔の両方を装備したときのあなたの最大魔力と同じだけあるわ」

 

 

礼装にはコードキャストを使えるようにする能力のほかに、使い手の魔力を増大させるという能力も併せ持っている。

赤原礼装とアトラスの悪魔は俺の持っている数多くの礼装の中でも、文句なしで最強の二つに数えることができる強力な物だ。

当然、俺に付加される魔力も膨大なものになっている。

 

 

「そこまでしてくれたのか……。本当にありがとう、めがみ」

「そのかわり、これからあなたの魔力は一生それ以上増えることはないわ。どれだけ魔術の経験を積んでも、必死に特訓しても……。仮にこの世界に魔力を増やすようなマジックアイテムがあったとしても、ね」

「別にいいさ。これだけあれば十分だ」

「それとあなたの魔力は夜の十二時――つまり日付が変わるときにだけ回復するわ。その方法以外ではあなたの魔力は一切回復しないから気を付けて」

「わかった、気をつける」

「もっとも、日付さえ変わればその時の魔力量に関係なく、完全に回復するんだけどね。ふー。あと何かあったかしら。…………そうだ。最後に重要なことがあったわ」

 

 

めがみは少し疲れたような素振りをしながらも再び真剣な顔になった。

 

 

「重要なこと?」

「拓斗、セイバー。あなた達は私の力で受肉を果して真の意味で人間になった。つまり、あなた達はもうマスターとサーヴァントの関係ではないの」

「っ!」

「む!」

「もうセイバーは拓斗の魔力供給がなくても存在することができるし、拓斗もセイバーがいなくても死ぬことは無いわ。つまりあなたたちはもういっしょにいる必要性はないの」

「…………」

 

 

なるほど。

確かにめがみの言うとおりだ。

マスターとサーヴァントの関係で無くなったのならもう無理していっしょにいる必要は無い。

別れたければ自由に別れていいってことか。

……だけど、俺の答えはもう決まっている。

そして彼女の答えも俺といっしょのはずだ。

 

 

「ふふ、二人ともいい顔ね。私がこれから何を聞くのかわかっている……そういう顔をしているわ。……必要ないと思うけど一応聞いておくわね。拓斗、セイバー、あなた達はこれからもいっしょに生きていくつもり?」

「もちろん!」

「当然であろう!」

 

 

当然だ。

もう俺にとってセイバーは聖杯戦争での戦いの相棒なんかじゃない。

大切な人生のパートナーなんだ。

そう思いながら隣に立つ愛くるしい赤い王様を見ると、彼女はすぐに俺の視線に気づいて、少し顔を赤くしながらも微笑んでくれた。

その微笑みはいつもの堂々とした暴君の笑顔ではなく、俺でもめったに見ることのできないかわいい普通の少女の微笑みだった。

胸が熱くなるのを感じながらも微笑み返す。

 

 

「めがみ、もう俺はセイバーと離れるなんて考えることもできないんだ」

「余もそうだ。たとえマスターでなくなったとしても、この者は余の大切な奏者であり、愛すべき勇者なのだからな」

「……そう」

 

 

めがみは俺達の答えを聞いて、とても嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「だったら、私からが言うことは何も無いわ。このままいっしょに生きるのも。いつか別れて暮らすのも。あなた達の自由。私が口を挟む権利はないわ」

 

 

そう言って、めがみは俺達に背を向けた。

 

 

「最後に、セイバー。あなたはもうサーヴァントじゃないから、クラススキルである対魔力だけは失っているわ」

「うむ。了解した」

「拓斗、あなたの手に刻まれた令呪はまだ使うことができるわ。切り札としていざという時までとっておきなさい」

 

 

そう言い残すとめがみは俺達に背を向けて歩き出した。

まさか、このまま立ち去るつもりか!?

 

 

「むう! あやつ、立ち去るつもりか!?」

「ま、待ってくれめがみ! どうしてお前は俺達を助けてくれたんだ!? お前は一体何者なんだ!?」

 

 

そう、これだけ色々してもらって、話をしたが彼女がどうして俺達を救ってくれたかがまだわからない。

聖杯より俺達を救い出すという常識外の行動。

世界を自由に駆け、肉体を自由に作り出す驚異の力。

彼女がとんでもない存在であることは容易に想像がつく。

それなのに彼女は見ず知らずの――少なくとも俺にとっては――他人である俺達を救ってくれた。

今までの話しぶりから、彼女が得体の知れない存在だが、善良な人であることはなんとなくわかる。

それでも、彼女が俺達を救う理由がわからない。

一体、彼女は何のために――?

めがみは俺達の声が聞こえたのか、振り向いた。

 

 

「私の目的は拓斗、あなたにこれからも生き続けてもらうことよ」

「それは一体どういう――」

 

 

俺の声を無視して、めがみは再び前を向いて歩き出す。

 

 

「待てめがみ! そなたは一体なにものなのだ!?」

 

 

セイバーの問いにめがみは再び足を止め、振り向いた。

めがみは出会った時と同じ空虚な微笑を顔に貼り付けたまま、セイバーの問いに答えた。

 

 

 

 

 

「私は………………………………………………………運命の影」

 

 

 

 

 

運命の……影…………?

それは、一体なにを表しているんだ?

俺とセイバーが呆然としている間にめがみはまた歩き出した。

 

 

「また、会うことになるでしょう。それまで、お元気で」

 

 

めがみの言葉にも俺達はなにも答えることはできなかったが、立ち去っていくその後ろ姿にはどこか物悲しいものを感じた。

そして、そのままめがみは森の奥深くに消えていった。

 

 

 

 

あとがき

 

 

というわけで第一話『新たな世界』でした。

今回、所々自己設定がありますがどうでしょうか?

並行世界と異世界の詳しい設定については、いずれ投稿する用語集で載せるつもりです。

めがみの魔法モドキについては…………まあ、いずれ本編で(^^;)

ちょっと万能すぎたかなー、と自分でも思ったり思っていなかったり(えー)

 

 

では、また次回お会いいたしましょう。

(試験が終わったのにレポートで四苦八苦している)メガネオオカミでした。

 

 

 

 


 
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