~グランセル南街区~
「わっ……。もうこんな時間だわ。」
「早くホテルに帰ったほうがよさそうだね。」
ギルドを出た時、すでに夜になっている事にエステルは驚き、ヨシュアは早くホテルに帰るよう提案した。
「おい、そこの君たち!」
その時、兵士達がエステル達に近付いて声をかけた。
「あれ……兵士さんたちどうしたの?」
兵士に声をかけられ、エステルは首を傾げて尋ねた。
「我々は巡回中の者だ。テロリスト対策の一環として本日から、夜間のパトロールを強化することになってな。」
「それに伴って、夜間は外出はなるべく控えてもらう事になった。君たちも、早く家に戻りたまえ。」
「夜間の外出を控えろって……ちょっと不便すぎるんじゃない?」
兵士達の言葉にエステルは顔を顰めて、文句を言った。
「これも上の決定なのでね。」
「申しわけないが従ってもらおう。ところで……君たちはどこに住んでいるのかね?」
「僕たちは、北街区にあるホテルに滞在しています。武術大会の期間中、そこに泊まっているので……」
「武術大会の期間中……。待てよ、君たちの顔、どこかで見たような気が……」
ヨシュアの説明を聞き、兵士の一人がエステル達の顔が見覚えのある顔と気付き、よく見た。
「ああっ!この子たち、武術大会の決勝に勝ち進んだ出場者じゃないか!」
「言われてみれば……」
そしてもう一人の兵士がエステル達が武術大会の決勝戦で出る出場者だと気付き、声をあげ、もう一人の兵士も片方の兵士の言葉を聞きエステル達の顔を見て頷いた。
「あ、兵士さんたち、見物してくれてるんだ?」
「はは、警備のついでにね。特に今日の試合は白熱の展開で興奮させられたよ。」
「明日は決勝戦なんだろう?ホテルまで送っていくからゆっくり休まなきゃだめだぜ。」
「え、えっと……」
「わかりました。お言葉に甘えます。」
好感的になった兵士達の態度にエステルは戸惑ったが、ヨシュアが代わりに答えた。そしてエステル達は兵士達にホテルのフロントまで送られた。
~ホテル・ローエンバウム~
「えっと……送ってくれてありがとう。」
「どうもお世話様でした。」
ホテルのロビーまで送ってくれた兵士達にエステル達はお礼を言った。
「なあに、自分たちは君たちのファンだからな。」
「いくら同盟国の英雄の一人とはいえ、毎年彼女に優勝されているからな。リベールで生まれた者として、同じリベール人である君達には勝ってほしいのだよ。」
「そうそう、モルガン将軍でさえ勝てなかったもんな。でも、今年はそっちは4人で向こうは1人だ。もしかしたら勝てるかもしれないし、期待しているぜ。」
「まあ、そんなわけで君たちの活躍には期待してるよ。」
「明日の試合、頑張ってくれよな!」
「あはは……どーも。」
「精一杯頑張ります。」
兵士達の応援の言葉にエステルとヨシュアは笑顔で受け取った。そして兵士達はホテルを出て行って、巡回に戻った。
「じゃあ、部屋に戻ろうか。多分、リフィア達も戻っているだろうし。」
「そうね。ミントも首を長くして待っているだろうから、一端部屋に戻ってその後、プリネ達の所に行ってミントを迎えにいきましょうか。」
そしてエステル達は自分とヨシュア、ミントが泊まっている部屋に向かった。
~202号室~
コトン!!……パタパタパタ……………
エステルが部屋を開けようとすると、中から何か音が聞こえてきた。
「あれ……。今、何か物音がしなかった?」
「………………………………」
部屋の中から聞こえて来た物音にエステルは首を傾げ、ヨシュアは厳しい目つきで扉を見ていた。
(……部屋に入ると同時に臨戦態勢のまま状況確認を。)
(えっ……!?)
ヨシュアの囁きにエステルは驚いた。
(たぶん、侵入者だ。爆発物が仕掛けられている可能性もあるから気を付けて。)
(ちょ、ちょっと……冗談でしょ?)
ヨシュアの忠告にエステルは信じられない表情で尋ねた。
(頼むから僕の言うとおりにして……。何だったらここで待っていてくれても構わない。)
(じょ、冗談!覚悟はできているからとっとと中に踏み込みましょ!)
(……了解。)
そしてエステル達は武器を構えて、部屋に突入した。
「あ……」
「逃げられたみたいだね。でも、おかしいな……。人のいた気配がない……。トラップも……仕掛けられてないみたいだ。」
しかし部屋の中には誰もいなく、部屋自体も散らかっている様子はなく綺麗なままだった。
「そ、そんな事までわかるの?」
部屋の現状を見て、トラップが仕掛けれていない事にまで気付いているヨシュアにエステルは驚いた。一方ヨシュアは窓の下に手紙が落ちているのを見つけ、それを拾った。
「……どうやら置き土産はこれだけみたいだ。」
「それって……手紙?」
ヨシュアは手紙の封を切って、文面を読んだ。
「『―――今夜10時。大聖堂まで来られたし。くれぐれも他言無用のこと。』」
「……って、それだけ?大聖堂って、西街区にある大きな教会のことよね。今夜10時っていうことはもうすぐか……」
文面の少なさにエステルは驚き、部屋にある時計を見て、指定している時間がかなり近付いている事に気付いた。
「………………………………」
一方ヨシュアは目を閉じて考え込んでいた。
「うーん、あやしさ大爆発だけど虎穴に入らずんばとも言うし……。ねえ、ヨシュア。ここはお誘いに乗ってみない?」
「……駄目だ!」
エステルの提案を聞いたヨシュアは目を開けて、大声で否定した。
「ど、どうしたの?」
急に大声を出したヨシュアにエステルは驚いて、尋ねた。
「ごめん、大声を出して……。ほら、さっき兵士たちが夜のパトロールを強化してるって言ってただろう?西街区までは離れているし、見咎(みとが)められる可能性が高いよ。」
「あ、忘れてた。うーん、だからといって放っておくのも気持ち悪いし……」
ヨシュアの説明を聞き、街には兵士達が巡回している事を思い出したエステルはどうするか考え込んだ。
「だから、僕一人で行ってくるよ。」
「へっ……?」
そしてヨシュアの提案にエステルは呆けた声を出した。
「こういう時は、2人よりも1人の方が行動しやすいからね。兵士達をやり過ごしながら大聖堂までたどり着けると思う。」
「………………………………」
「様子を確かめるだけなら僕一人で充分だと思うんだ。だから君はここでミントと待ってて……」
「コラ。」
ヨシュアの説明を黙って聞いていたエステルだったが、ヨシュアを睨んで話を遮った。
「え……」
「あたしだって遊撃士のはしくれよ。自分のことは自分で面倒見れるし、足を引っ張らない自身だってあるわ。もっともらしいこと言ってもごまかされないんだからね。」
「エステル……僕はそういうつもりじゃ。」
「あたしを信用してないワケじゃないのは分かってる。心配してくれているんだろうけど多分、それだけでもない……。何か心当たりがあるってトコ?」
「………………………………。そんな素振りを見せてないのにどうしてそこまで分かるんだい?」
ヨシュアは図星を刺されたかの表情でエステルに尋ねた。
「そりゃあ、あたしはヨシュア観察の第一人者だもん。何となく分かっちゃうんだってば。」
「………………………………。(……ここまで、か………)」
ヨシュアはエステルに聞こえないような声で呟いた。
「えっ?」
「わかった、もう止めないよ。指定の時間までもうすぐだし、急いで大聖堂に向かうとしよう。」
「あ……うん!」
「でも、約束して欲しいことがある。何かあったら必ず僕の指示に従ってほしいんだ。一瞬のミスが命取りになるかもしれない。」
「うん……わかった。それじゃあ急ぎましょ。」
そしてエステル達はプリネ達に事情を話して、エステル達が戻って来るまでミントを預かってもらい、ホテルの外に出て巡回の兵士達の目を掻い潜って大聖堂に向かった………
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第131話