~グランアリーナ~
「さてと……大丈夫?プリネ。」
審判の宣言を聞いたカーリアンはプリネに手を差し出して尋ねた。
「はい。大丈夫です。…………っつ!?」
差し出された手を握って、立ち上がったプリネは壁にぶつかった衝撃に伝わって来て、まだなくなっていない痛みに顔を顰めた。
「あっちゃ~……ちょっとやりすぎちゃったかしら?」
痛みで顔をしかめているプリネを見て、カーリアンは気不味そうな表情をした。
「このくらいの痛み、大丈夫ですよ。鍛錬の時もそうですが、いつも心配をして下さって、ありがとうございます。」
「あんたはペテレーネ似だからね~。あの子に攻撃しているみたいに感じて、ちょっと罪悪感を感じるのよ。」
「もう……これでもお父様の娘でもあるのですから、そんな甘やかし方はいいですよ………ファーミシルス様みたいに、もっと厳しく鍛えて頂いてもよかったのですよ?」
カーリアンの言葉を聞いて、プリネは溜息を吐いた。
「ちょっと……あの冷血女と比べないでよね~。」
プリネの言葉を聞いたカーリアンは顔をしかめて答えた。
「フフ……すみません。決勝ですが、カーリアン様には悪いと思いますがエステルさん達を応援させてもらいますね。後、あまりやりすぎないで下さいね?」
「はいはい。そんなに心配しなくても大丈夫よ。じゃあね♪」
そして2人はそれぞれ控室に戻った。
~グランアリーナ・観客席~
「ああ~……負けちゃった……」
「さすがのプリネも相手が悪かったか………」
観客席でプリネ達の試合を見て、プリネの敗北にエステルはがっかりし、ヨシュアは複雑そうな表情で答えた。
「おのれ、カーリアン婆め!ここは年寄りはとっとと引っ込んで、未来を担うプリネに勝ちを譲るのが普通だというのに……!全く、相変わらず大人げないな!」
(………この場合、エヴリーヌもそうなのかな?だとすると凄い複雑な気分……)
プリネが負けた事をリフィアが怒り、呟いた事を耳にしたエヴリーヌはカーリアンやリウイより遥かに生きている自分が当てはまるかもしれない事に気付き、なんとも言えない表情になった。
「ご主人様……………」
「気を落とさないでね、ツーヤちゃん。プリネさん、凄くいい試合をしていたよ。」
「うん……ありがとう、ミントちゃん。」
一方プリネが負けた事に落ち込んでいるツーヤを見ていられなく、ミントはツーヤを慰めた。
「………あたし、ご主人様が心配だからちょっと行って来る!」
「あ、ツーヤちゃん!」
そしてツーヤはミントの制止の声を背中に受けて、観客席から控室に向かって走り去った。
「ふむ。終盤は凄い試合だったけど、とにかくこれで明日の試合の役者は揃ったね。」
「ああ。猛者だらけのメンフィルでも名高いあの”戦妃”と直にやりあえるんだ。腕がなる。」
オリビエの言葉にジンは不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「激しい戦いに備えて鋭気を養う必要がありそうだな。そういうわけで……今日も酒場に繰り出すとするか!」
「フッ、そうこなくては。お付き合いさせてもらうよ。」
そしてジンの提案にオリビエは笑顔で頷いた。
「さて……俺達は酒場に繰り出すがお前達はどうする?」
「フム………市井の酒を飲むのも悪くないな。余も付き合おう!光栄に思うがいい!行くぞ、エヴリーヌ!」
「……やっぱりエヴリーヌも行くんだ……まあいいや。エステル達はどうする?」
「僕たちは用事があるので今夜も遠慮させてください。」
「うん。プリネを励ましたいし。」
ジン達の誘いをヨシュアやエステルは首を横に振って断った。
「おお、それじゃあな。明日の朝、フロントで待ってるぜ。」
「グンナイ、マイ・スイートハーツ♪」
「では、夜にホテルで会おうぞ!」
「……プリネにはエヴリーヌ達の分も含めて、慰めておいてね。」
そしてジン達は観客席から去った。
「ねえねえ、ママ。ツーヤちゃん、プリネさんの所に行ったから、ミント達も行こう?」
「そうね。直に戦ったプリネからあのカーリアンって人に対する攻略方法が何かないか、聞きたいし。」
「確かにそうだね……カーリアンさんをよく知る彼女なら、弱点か何かを知っていそうだし。」
ジン達が去った後、ミントの提案にエステルとヨシュアは頷いた。
「じゃあ、控室に行きましょうか。」
「了解。」
「はーい!」
そして3人はプリネがいる控室に向かった。
~グランアリーナ・選手控室~
「フウ………」
アリーナから戻って来たプリネは疲労の溜息を吐いた。
「……くっ………やはりそう何度も長時間解放するものではありませんね。まだまだ修行が必要ですね……」
そして身体全体にかかる負荷に呻き、顔を顰めた。
「ご主人様!!」
その時、血相を変えたツーヤが控室に入って来た。
「ツーヤ?」
「ご主人様、お怪我はありませんか!?」
「フフ……心配してくれたのね。ありがとう。でも、大丈夫よ。」
自分を心配するツーヤにプリネは微笑んで自分が平気である事を伝えた。
「それでも心配なんです……あの、背中を見せて貰えますか?ご主人様、壁に強く打っていたようだし、痣になっていないか心配です……」
「別にいいけど……ここで服を脱ぐの?」
「え……?あ!!す、すみません!」
プリネに言われたツーヤは周囲を見渡し、誰かが入って来てもおかしくない控室である事に気付き、謝った。
「いいのよ。今ので今日の試合は終わりですから、多分誰も入って来ないでしょう。………はい。これでいい?」
そしてプリネは椅子に座ってきている服を脱いで、上半身だけ下着の姿になった。
「はい。……ああ……ご主人様の背中の一部が痣になっています……今、治しますね。水よ、癒しの力を……ヒールウォーター!!」
プリネの背中にいくつかついている痣を青褪めた表情で見た後、気を取り直してツーヤがプリネに治癒魔術を施していた時、エステル達が入って来た。
「お疲れ様~、プリ……へ!?」
「どうしたの、ママ?」
控室に入って来たエステルは上半身だけ下着の姿になっているプリネを見て驚き、ミントはエステルの様子に首を傾げた。
「どうしたんだい、エステ……」
「!!ヨシュアは入ってきたら、ダメ~!!」
「え?ちょ、ちょっと……」
エステル達に続いて入って来ようとしたヨシュアに気付いたエステルは、慌ててヨシュアの体を押して控室から出し、ドアの鍵を閉めた。
「ちょっと、エステル?ここを開けてくれないと、僕だけ入れないんだけど……」
鍵がかかっている事に気付き、ドアの外からノックをしながらヨシュアはエステルに鍵を開けるよう頼んだ。
「今、プリネはツーヤに背中を治療してもらっているから上だけ下着姿なの!だから、入って来ないで!」
「……そういう事か。了解。終わったら、開けてよ?」
エステルは顔を赤らめて理由を説明し、それを聞いたヨシュアは納得してそれ以上何も言って来なかった。
「ふ~……ごめんね、プリネ。いきなり入って来て、ビックリしたでしょ?」
「別に気にしていませんよ。軽はずみな行動をした私が悪いのですから。」
「す、すみません、ご主人様!あたしが何も考えずにあんな事を言うから、こんな事に………」
「いいのよ。あなたのその気持ちはとても嬉しいわ。だから、気にしないで。」
「は、はい!(普通なら怒られて当然なのに、ご主人様はあたしの事を一切責めずに、逆にあたしの事を気遣ってくれるなんて……あたしの”パートナー”がご主人様で本当によかった………)」
プリネの微笑みを見て、ツーヤは治療をしながら今更ながら、プリネに仕えている事に幸せを感じていた。
「わあ~……温泉の時にも見たけど、プリネさんの胸って大きいね!それに肌も白くてとても綺麗だよ!」
「フフ……お母様譲りのこの肌はとても大事にしているの。褒めてくれて、ありがとう。」
「ミ、ミント!外にヨシュアがいるんだから、そんな大きな声を出したらダメ!(うう……今までハッキリ見なかったけど、よく見たら下着もなんか豪華に見える………あたし達とそんなに変わらないように見えるけど、やっぱりプリネって、お姫様ね……)」
下着姿のプリネを見て感嘆な声をあげるミントにエステルは慌てて注意をした。また、プリネが付けている白を基調とした高級感のある下着を見て、プリネの事を改めて皇女である事を認識した。
「………終わりました、ご主人様。」
「ありがとう、ツーヤ。」
背中の治療が終わり、プリネは脱いでいた服を着た。
「もう大丈夫ですよ。エステルさん。」
「あ、うん。……もう入って来ていいよ、ヨシュア。」
そしてエステルはドアを開けて、ヨシュアに言った。そしてヨシュアも控室に入って来た。
「すみません、ヨシュアさん。驚かせてしまって。」
「いや、こっちこそ声もかけずに入って来てごめん。」
「控室で服を脱いでいた私が悪いのですから気にしなくていいですよ。………それより私に何か用ですか?」
プリネはエステル達が自分に用があると思って、尋ねた。
「あ、うん。カーリアンとの試合、残念だったね……」
「負けたのは残念だったけど、凄くいい試合だったよ。」
「うん!最後の方なんか、何がなんだかわかんない内に終わっちゃったもの!プリネさん、凄い!」
「フフ……慰めの言葉、ありがとうございます。」
エステルやヨシュアの慰め、ミントのはしゃぎ様を見てプリネは微笑みながらお礼を言った。
「それより、エステルさん達の方は大丈夫ですか?カーリアン様は今までの相手とは桁違いに強いですよ?」
「あ、その事なんだけど……」
そしてエステル達はプリネにカーリアンの攻略法がないか、尋ねた。
「カーリアン様の弱点か攻略方法……ですか………」
事情を聞いたプリネは難しそうな表情で考え込んだ。
「何かないかな?多分このままぶつかってったら、負けるのはわかっているから何とかしたいんだ。」
「…………………」
ヨシュアの言葉を聞いて、プリネは目を閉じて考え込み、やがて目を開けた。
「………私なりにカーリアン様に対するエステルさん達ができる作戦を考えましたが、それでよければ聞きますか?」
「本当!?お願い、プリネ!」
プリネの言葉にエステルは期待するような目で、プリネを見た。
「……まず一つは、絶対に一人では向かわない事です。正遊撃士がいるとはいえ、メンフィル建国時からお父様の右腕として仕えているファーミシルス様と同等の実力を持つカーリアン様相手には荷が重すぎます。」
「最低でも2人で立ち向かう事か……ジンさんは当然として、僕かエステルがジンさんのサポートをする形かな。」
「そうね。それで他には?」
プリネの提案を聞き、ヨシュアが呟いた言葉に頷いたエステルは他にはないか、尋ねた。
「後はそうですね……アーツや魔術を上手く使えば、勝機が見えるかもしれません。………ですからエステルさん達の中の誰か二人がカーリアン様の相手をして、一人はアーツか魔術での攻撃やサポート、一人は回復を主として、隙があれば遠距離からの攻撃に移る……これでどうですか?」
「うん。僕達のメンツを考えたら現状、それが一番いい作戦だと思うよ。」
「そうね。ありがとう、プリネ!!」
「どういたしまして。この後私はツーヤといっしょに街中を見て廻るつもりですが、エステルさん達はどうします?」
プリネはエステル達がこの後、どうするかを尋ねた。
「あ、その事なんだけど、あたし達用事があるからミントを預かってくれないかな?」
「ママ、ミントはついていっちゃダメなの?」
エステルの言葉に反応したミントは首を傾げて尋ねた。
「うん……向こうはあたしとヨシュアだけが来ると思っているから、子供のミントを連れてきたら相手も混乱するだろうから、今回は我慢してくれない?」
「うん、わかった!でも、ミントが大きくになったら絶対。いつでもママの傍でお仕事をさせてね!」
「当り前よ!あ~ん!いつも思うけど、ミントは素直で可愛くて、本当に癒されるわ~。どっかの誰かさんとは大違いね!」
「えへへ………」
素直に言う事を聞くミントを思わず抱きしめたエステルは、わざとらしくヨシュアを見ながら言った。一方抱きしめられたミントは気持ち良さそうな表情をしていた。
「悪かったね、素直でも可愛くなくて。それより待たせるのも悪いし、急いだ方がいいかもしれないね。」
ヨシュアは弱冠拗ねた後、遠回しに速くナイアルの所に行った方がいい事を提案した。
「そうね。じゃあ、行きましょうか!」
そしてプリネ達にミントを預けたエステル達はナイアルがいるリベール通信社に向かった………
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第129話