夜天の主とともに 10.デバイス
健一side
買い物に出たとのはよかったがそれからなかなか大変なものだった。男というかオスというか、ザフィーラの場合オスというのが正しいのかもしれないが男物の服を買うのは比較的楽だった。ただ問題だったのは女物の洋服だった。
まだ洋服はよかった。女性が着るものはどんなものがいいのかはさっぱりだけど見合ってるかどうかぐらいなら感想を言うだけで何とかなるしね。
だけどただこれだけは無理だった。何が無理かって?言わなければならないだろうか、いや言おうじゃないか。
それは‥‥‥‥下着である。
何度も言うが俺の精神は大人なのだ。何が悲しくて女性ものの下着コーナーに男の俺が入らなければならないのだろう。
もちろん最初は外で待ってるとはやてに言った。言ったけどもやはりというかさすがというかあの手この手を使っていつのまにか入らされててた。
おかげで周囲からの女性の視線が痛いわ痛い。しかもこれはどうかと見せてくるのだから始末に負えない。
俺が子供だったからまだましなほうだったかもしれないけど恥ずかしさのあまりに憤死するかと思ったぐらいだ。もちろん帰宅してからしっかりと秘技(頭ぐりぐりの刑)をいつもより割増で行使した。それを見ていたシグナムさんたちも驚いていたか。
まだこれで済めばよかったけどここでまさかのザフィーラさんからのトドメが入った。せっかく男物の服を買ってきたというのに獣の姿で普段は生活するというのだ。
なんでもはやてがわんこの状態でいてと頼まれたらしい。
まぁそれでもすまん、と一言謝ってくれるだけありがたかったが。
その日の夕食は俺とはやてで新しい家族のお祝いということで豪勢に作った。結果はよしでおいしそうに食べてくれた。特にヴィータはおかわりまでしてくれたほどだ。
あの小さい体のどこにあれだけの量が入るのだろうか。なんか人体の神秘見た気がするね。
それからというもの俺はともかく主であるはやての対応に守護騎士であるシグナムさんたちは戸惑いながらも特に何かをすることもなく静かに暮らし始めた。
そんな感じで数日経ち、俺は少し気になっていたことをがあった。
それは闇の書を縛っていた鎖に括り付けられていたあの腕輪だ。病院から戻ってきた後、部屋に入るとあの腕輪だけ残っていた。聞こうとは思ってたけど聞くタイミングを逃していたのだ。
そうと決まればと俺はザフィーラさんに聞くことにした。理由はもちろん男性だからだ。同性だということだからか俺は無意識のうちにザフィーラさんとよく話すようになっていたのだ。無表情で無口な彼だったが意外にも話せば親身になってほしい言葉を言ってくれる。
ザフィーラさんは定位置となったのか窓際の方で寝そべっていた。
「ザフィーラさんちょっといいですか?」
「‥‥なんだ?」
「ちょっと見てほしいものがあるんです。これなんですけど」
持ってきた腕輪をザフィーラさんの目の前に置く。すると珍しく驚いたような(普段が無表情なので本当に驚いたかわからないが)顔をした。
「これは…デバイスのようだな。これをどこで?」
「えっと‥‥闇の書を縛ってた鎖に括り付けられてたんだけどデバイスってなんですか?」
「‥‥‥魔道士を補助する機械のようなものだ。しかし、このデバイスは知らんな」
「えっ?ザフィーラさんのじゃないんですか?」
てっきりそうだとばかり思っていた。
「いや、私は騎士ではなく主を守るための盾、守護獣だ。デバイスは持たない。気になるならばシャマルとシグナムにでも聞いてみるがいい」
「ありがとうございます。あと一ついいですか?」
「なんだ?」
「ザフィーラさんって犬ですか?」
「‥‥‥‥狼だ」
赤い瞳を細めて軽く睨まれた。なんか微妙に怒っているような気がしたのでそそくさとその場を立ち去り、言われた通りシグナムさんとシャマルさんに聞きに言った。
「シャマルさん、シグナムさん。ちょっといいですか?」
「健一か、どうした?」
「この腕輪のことなんですけど‥‥」
俺はザフィーラさんに説明したことと同じことを話した。
「う~ん、私も見たことないわね。シグナムはどう?」
「いや私も見たことはないな。私たちは私たちで持っているしな」
シグナムさんはネックレスについた剣のようなものを、シャマルさんは指輪のようなものを示す。この分だとヴィータも持ってるんだろう。
1人で勝手に納得しているとシグナムさんが一人唸っている。正確には腕輪と俺を見比べている。そしておもむろに俺の腕や脚などを触りはじめた。
「な、なんですかいきなり!?」
「ふむ、なかなかいい体つきをしているな」
「シグナムさんそういう趣味が!?」
あなたはかなり常識人だと思ってたのにまさかショタコン疑惑があるとは‥‥恐るべし!
「なっ!?そんなわけあるわけないだろう!!」
顔を赤くさせて猛烈に抗議してくるシグナムさんから隠れるように俺はシャマルさんの後ろに隠れた。
「ほらシグナム、怒らないの。健一君怖がってるじゃない。一体どうしたのよ?」
そうシャマルさんのが言うと、シャマルさんの一言で頭が冷えたのかすぐにいつものシグナムさんに戻った。
「す、すまない。ようするにだな‥‥」
シグナムさんとシャマルさんが背を向けてひそひそ話を始めた。そんなとかしかしだなとか言っているのでとっても気になるのだが聞こえない。なんともどかしいことか。そうしていると話がまとまったのか俺に向き直った。
「健一、お前は騎士になってみないか?」
‥‥‥なんかすんごいことを唐突もなく言われてる気がする。なぜに?
「えっ?騎士って‥‥‥シグナムさんたちみたいな?」
「そうだ。いま確認したところ体そのものは申し分ないというのは言いすぎるがなかなかいい鍛え方をしている。魔力の素質については申し分ないようだからな」
いい鍛え方と言われ、俺は内心でガッツポーズした。はやてに口々に虚弱と言われて発作が起きない程度にでもしっかりとやった価値があったみたいだ。
でも一つ問題があるんだよな~。
「あの‥‥でも無理だと思います」
「なんでかしら?」
しゃがみこんで俺と目線の高さを合わせながらシャマルさんが俺の顔を覗き込む。
「俺魔法わかんないしその‥デバイスって言うのも持ってないですよ?」
「魔法は我らが教えてやる。デバイスはこれを使うといい」
そう言って差し出したのは俺が渡した腕輪のデバイスだった。
「もらってもいいんですか?」
「誰のものでもないのだ、問題ない。シャマルそのデバイスについて調べてくれ」
「はぁ~い。えっと、名前は‥‥ジェットナックルっていうのね。私たちと同じアームドデバイスみたいだわ。形状は装着してみるのが一番ね。健一君ちょっとこっち来て。」
シャマルさんは俺を呼ぶと腕輪を俺に付けてみた。見た目はちょっと機械的な腕輪だ。だけどそのまままってたけど何も起きない。
「何も起きないんですけど」
「そのままじゃ、ね。その子の名前を呼んであげてくれる?名前はさっき言った通りジェットナックルよ」
「わかりました。‥‥ジェットナックル」
〈声紋、魔力資質確認。‥‥承認しました〉
すると腕輪が光り俺を包み込んだ。思わぬ光に目がくらみ何度も視界が元に戻るまで瞬かせてると腕にずっしりとした感じがあった。
見るとそれは鋼鉄のグローブへと変わり両手に装着され足にも同じような材質のものが足首から下にかけて装着された。そう思ったところで腕があまりの重さでダランと垂れ下がってしまった。
「重っ!?」
「へぇ~名前の通り拳装着型なのね。あら足にも」
「なかなか珍しいな。腕と足の両方に装着するのか」
「グローブとシューズの方に噴出機構のようなものがついてるわね。これで加速したりするのかしら?」
シャマルさんとシグナムさんがデバイスについて話を盛り上がっている。二人とも楽しそうに話している、それはまぁ別にいいんだよ。ただ‥‥
「あの‥‥重いんですけどどうやって解除すれば?」
するとその言葉になんとジェットナックル自身が反応し、解除してくれて待機状態の腕輪に戻った。……すげー、AIなんだ。いきなりの装着だったのにこっちの事を気遣ってくれるとは、泣けてくるよ。
「もうちゃんと言うこと聞くのだな。健一がマスターと認められたようだ」
「デバイスってこんなに重いんですか?」
その言葉にシャマルさんは考え込む。
「う~ん、健一君の場合確かに少しは重いかもしれないわね。けど魔力も使えれば普段と変わらなくなると思うわよ。」
「そうなんです。」
「そのあたりも私たちが教えよう。さぁやるぞ」
シグナムさんなんか生き生きしてる。眼が爛々と輝いてるよ、ちょー恐い。けど、俺にはもう一つ最大の問題がある。
「その特訓って大変ですか?」
「全部が全部そうではないが少なくともどれもかなり疲労するな」
「だとしたら‥‥すみません、俺無理っぽいです」
そこで俺の喘息について説明しなぜ無理なのかを言った。
「難儀な病気だなそれは」
「そうなんですよ。たぶんやったら最終的に、いやすぐに絶対発作が起きるんですよ。だから‥‥」
「そういうことなら‥‥‥シャマル、できるか?」
「ちょっと待ってね。‥‥‥‥治すのは無理みたいだけど時間制限つきならなんとかいけるわ。クラールヴィント、お願いね」
〈Ja.〉
その言葉に答えるように指輪、クラールヴィントが光ると俺を緑色の光が包んだ。数秒するとその光は消えた。俺の体に変化は‥‥‥ないみたいだ。なんか魔法を使ったぽかったけど。
「健一君今からそこの庭で走ってみれくれる?大丈夫だと思うから全力。」
「いやだからさっきも言ったように俺喘息で……」
「いいから騙されたと思って」
「‥‥わかりました。」
騙されたと思ってやって発作が起きるのは勘弁なのだがやってみることにした。庭について走る態勢をした。一応ポケットに吸入器がありいつでも使用できることを確認してから俺は走った。
久しぶりに走りはじめると予想以上に気分が高揚した。全力で走ったのは4年前が最初で最後のつもりだったのでなおのことだった。
それからどれぐらい走っただろうか。ふいにシャマルさんが呼んできてこちらに手招きする。
「はぁはぁ、どうしました?」
「走り始めてからも5分ぐらい経つんだけど調子はどう?」
「えっ!?俺そんなに走ってたんですか?」
楽しくて全く気付かなかった。というかそんだけ走ってたら間違いなく発作が起きるはずなんだけど、どういうことだろう。
その疑問に答えるようにシグナムさんが言った。
「それがシャマルの魔法だ」
「私の本領は癒しと補助よ。治すのは無理だったけど、これで時間制限つきになるけどその喘息は起きないはずよ。いまからだとあと1時間ぐらい」
「すごいです、シャマルさん!!」
「ふふふっ、どういたしまして」
「これなら大丈夫か、健一?」
「はい!大丈夫ですシグナムさん」
「よしじゃあさっそく(ジャキッ!)」
特訓しても大丈夫だとわかった瞬間シグナムさんはどこから出したかわからないなんか物騒な剣を持っていた。というかあれは初対面したときに首に当てられたやつ。
(い、いやおかしい!この流れは絶対おかしいって!)
ただいま絶賛冷や汗垂れ流し中です。
「あ、あのシグナムさん?」
「なに、心配するな。剣と言っても非殺傷設定、それに私も手加減する。」
「い、いやいきなりそれは早すぎるんじゃないでしょうか?そのまず最初にやることがあると私は思っている所存であります!!!」
口調が完全におかしくなるぐらい必死に言った。ゆっくりと基礎的なことからやるはずだよな?な?
「む、そうだったな」
「そ、そうですよ(よ、よかった。いきなりゲームオーバーになるかと思った)」
「自己紹介がまだだったな。私の愛刀、レヴァンティンだ」
「そういうこと言ってるんじゃないですぅぅぅぅぅ!!!」
おもわず悲痛な叫びをあげたが、話は俺そっちのけでどんどん進められていく。
「シャマル、結界を」
「もう張ったわ、いつでも問題ないわ♪」
「シャマルさん問題ありすぎます!!」
「大丈夫よシグナムだってちゃんと手加減するわ‥‥‥‥‥たぶん」
こんちくしょう!!シャマルさんも敵だったか!!ならば他に助けを求めるのみ。
「猛烈に大丈夫じゃない気がするのは俺だけ!?ヴィータ!!」
いつのまにかギャラリーとして窓際の方で見に来ていたヴィータ、ザフィーラさん、はやてに目を向けた。
「いいんじゃねーか、別に。いい経験になるし」
「くっ、次ザフィーラさん!!」
「‥‥‥すまん」
「謝らないで助けて!?最後の砦は‥‥はやて!!闇の書の主としてどうか一言!!」
「わかっとる、任しとき」
グッと親指を突き出してくる。さすがはやて、幼馴染だけあって俺の言わんとしてることに気づいてくれたか。これで今度こそ‥‥‥。
『だからそれはフラグじゃて』
‥‥‥またあの神様の声が聞こえた気がする。なんだろう‥‥‥‥なんかこんな感じなことが前にもあったような
「シグナム、今日はけん君の料理担当やからやりすぎんよぉにね」
\(^o^)/
「……神様は俺を見放したか」
頬を伝うものはこれはきっと汗なんだ。これから起こることに対して諦めとか悲しみの涙なんかじゃないんだ。じゃないったらじゃないんだ。
「わかりました、主はやて。それでは逝くぞ!!」
「「「逝ってらっしゃ~い。」」」
ふふふっ……もう聞こえてくる言葉の漢字が違うことなんかつっこまねぇぞ。
「‥‥‥骨は拾ってやる。」
(父さん、母さん‥‥‥先に逝ってしまう俺を許してね。)
「はぁぁぁぁ!!」
「いぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
結果俺は死ぬことはなかったがボロッボロになり再度シャマルさんの治癒魔法にお世話になることになった。俺の中でシグナムさんの認識が頼れるお姉さんから戦闘狂になった瞬間だった。
そしてその日の夕食は健一特製激辛コースによって八神家全員が火を噴いたというのは余談である。
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