~グランアリーナ・選手控室~
控室にカーリアンに負け、俯いているリフィア達が戻って来た。
「えと……あの、2人とも。気を落とさないでね?凄くいい勝負だったよ。」
俯いているリフィア達にエステルは遠慮気味に話しかけた。
「フフフフフ………」
「……………」
「2人とも、大丈夫かい?」
俯きながら微妙に笑っているリフィアと、何も答えないエヴリーヌを不思議に思い、ヨシュアは話しかけた。
「フハハハハ!カーリアンめ、この程度で余達が負けを認めるとは思うなよ!次は必ず勝つ!!エヴリーヌ、憂さ晴らしに街道の魔獣達を一掃するぞ!」
「ん!!」
そしてリフィアは高笑いをしながら、エヴリーヌと共に控室を出て行った。
「………………」
「ハハ……心配は必要ないみたいだったね。」
あっという間にいなくなったリフィア達をエステルは放心し、ヨシュアは苦笑した。
「ハッハッハ!あんな明るい姫君達がいるメンフィルは明るい未来が待っていそうだね。」
オリビエはリフィア達の前向きな思考に感心して、笑った。そして次の試合を継げるアナウンスが入った。
「続きまして、第四試合のカードを発表させていただきます。南、蒼の組―――空賊団 『カプア一家』所属。ドルン選手以下4名のチーム!北、紅の組―――王国軍情報部、特務部隊所属。ロランス少尉以下4名のチーム!」
「おーし、とうとう来たか!」
「初戦であいつらと当たるなんて、ついているね。」
「あの黒坊主どもに目にもの見せてやるぜ!」
自分達の出番にドルンは声をあげ、ジョゼットは初戦で特務兵達と当たった事に笑みを浮かべ、キールは意気込んだ。
「こうなったのも何かの縁ね。応援してあげるからめいっぱい頑張りなさいよ!」
「ロランス少尉は恐らくあの時いた仮面の隊長だろうね。…………敵の隊長には気を付けて。彼さえ自由にさせなかったら勝機は必ずあると思う。」
「う、うん……。……じゃなくてよ、余計なお世話だよっ!」
エステルとヨシュアの応援の言葉をジョゼットは照れながら答えた後、ドルン達と共にアリーナに向かった。
~グランアリーナ~
ザワザワザワ……………
「え、えーと……。事情を説明させていただきます。ご存知の方も多いとは思いますが、彼らはボース地方を騒がせた空賊団 『カプア一家』の者たちです。正々堂々と戦うことでこの武術大会を盛り上げたい……。そうすることで迷惑をかけた王国市民に償いたい……。その一心で、今回の武術大会への参加を強く希望したそうです。服役中の態度が真面目であったため、主催者である公爵閣下のはからいで今回の出場が実現した次第であります。皆様、どうかご了承ください。」
ドルン達の登場にざわめいている観客達に司会は事情を説明した。すると
「ワァァァァァァ………!!」
パチパチパチパチ…………!
観客達は歓声と拍手を送った。
「よお、仮面の兄ちゃん。待ってたぜ。借りを返せる機会をな。」
「へへ、あの公爵には感謝しなくちゃいけないな。」
「ふふ……」
ドルンとキールの不敵な笑みをロランスは口元に笑みを浮かべて返した。
「な、なにがおかしいのさ!?」
笑っているロランスをジョゼットは睨んで言った。
「エレボニアの没落貴族、カプア男爵家の遺児たち……。悪徳商人に領地を横取りされ、お家再興のために空賊稼業……。何とも涙ぐましい話だと思ってな。」
「て、てめえっ!?」
「どうして知ってるんだよ!?」
ロランスの言葉にドルンとキールは驚き、睨みながら尋ねた。
「我々が所属しているのが情報部だということを忘れたか?我々への復讐などあきらめて真面目に服役した方が身のためだ。どうやらお前たちは、悪党に向いていないようだからな。」
「な、なんだと~!?」
「ずいぶんとまあ、囀(さえず)ってくれるじゃないの……」
「てめえなんざ導力砲の餌食にしてやらあ!」
ロランスの挑発にジョゼットは声をあげ、キールは静かな怒りを見せ、ドルンはロランス達を睨んで怒って言った。
「これより武術大会、本戦第四試合を行います。両チーム、開始位置についてください。」
審判の言葉に頷き、一端怒りを引っ込めたドルン達とロランス達両チームはそれぞれ、開始位置についた。
「双方、構え!」
両チームはそれぞれ武器を構えた。
「勝負始め!」
そしてドルン達とロランス達は試合を始めた!
試合はドルン達は特務兵達相手に善戦していたが、ロランスが戦い始めると、ロランスの圧倒的な強さになすすべもなく敗北した。
「勝負あり!紅の組、ロランスチームの勝ち!」
「む~………あの人達、勝っちゃった。」
「ミ、ミントちゃん。これは試合なんだから仕方ないよ。」
ロランス達の勝利にミントは頬を膨らませているとことをツーヤが宥めていた。
「………………………」
「ご主人様?どうしたんですか?」
「!なんでもないわ。だから気にしないで。」
「あ、はい。」
アリーナから退場して行くロランスを凝視していたプリネにツーヤは首を傾げて尋ねたが、ツーヤの言葉に我に返って答えた。
(あの仮面の隊長を見た瞬間過ったこの懐かしい気持ちと心臓が掴まれる感覚は一体…………いけない!もしかしたら次の試合は彼らかもしれないし、気を引き締めないと!)
プリネはロランスを見た瞬間、自分自身に起こった感覚がわからず、人知れず戸惑っていたが次の試合で当たる事になるかもしれない事い気付き、気を引き締めた。
~グランアリーナ・選手控室~
「ああ……負けちゃったわ……」
「途中まではいい展開だったんだけどねぇ。あの赤い隊長殿が動き始めたら崩れてしまったね。」
「ふーむ……底の知れん相手だな。あれで本気とも思えんし、いまいち実力が読み切れねえ。」
ドルン達が負けた事にエステルは残念そうな表情をし、オリビエは試合の流れを説明し、ジンはロランスが本気でない事を悟った。
「え……今ので全力じゃないの!?」
ジンの言葉にエステルは驚いて尋ねた。
「……たぶん、違うよ。最後の技を放ったあとも気の集中が衰えていなかった。まだ余力を残していると思う。」
「と、とんでもないわね……」
ジンの言葉を補足するように説明したヨシュアの言葉を聞いて、エステルは口を開けて放心した。そして負けたにも関わらず、他のチームと同じように真面目に、そして一生懸命試合をしていたので観客達から惜しみない拍手と歓声の中でドルン達が控室に戻って来た。
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「あ、あの……惜しかったわね。」
兄妹揃って無言でいるカプア一家にエステルは遠慮気味に話しかけた。
「なぐさめはいらねえ……。俺たちの完敗だったぜ……」
「くそっ……俺のサポートが甘かったからだ……」
「キール兄は悪くない……!ボクがあいつの斬り込みを崩せなかったからだよ……!」
エステルの慰めの言葉をドルンは首を横に振って自分達が完敗だった事に悔しさを露わにし、キールやジョゼットは自分達の力不足を口にして、悔しそうにしていた。
「………………………………。まあ、仕方ないでしょ。勝負は時の運とも言うんだし。あなたたちの仇は、もしあたし達があいつらと当たったらあたし達が絶対に討ってあげるわ!」
「なにィ……!?」
「おいおい……ずいぶん簡単に言うじゃないか。」
自信ありげに胸をはるエステルにドルンやキールは驚いた。
「そんな安請け合いできる相手じゃないと思うけど……」
「まあ、意気込みがないと勝てるモンも勝てなくなるからな。」
「フッ、根拠のない所がまたエステル君らしいねぇ。」
エステルの自信にヨシュアは呆れ、ジンは感心し、オリビエは相変わらずのエステルらしさに口元に笑みを浮かべていた。
「フン……やっと終わってくれたようだな。」
その時、ドルン達を連れて来た兵士達が控室に入って来た。
「ほら、グズグズするな!とっとと波止場に戻るぞ!」
「おいおい、冗談じゃねえぞ。」
「闘ったばかりなんだから少しくらい休ませてくれよ~。」
「フン……犯罪者の分際で甘えるな。」
兵士の言葉に反論したドルン達だったが、兵士は鼻をならしてドルン達の頼みを否定した。
「ほら、さっさと来ないか!」
「チッ……」
「ああ、疲れたぁ……」
「………………………………」
兵士に強く言われたドルンは舌打ちをし、キールは泣き言を言い、ジョゼットは黙って控室に出ようとした時、ジョゼットは立ち止まってエステル達の方に振り向いた。
「おい、あんたたち……」
「えっ……?」
ジョゼットに呼ばれ、エステルは首を傾げた。
「ボクたちはもう、明日からはここに来れないけど……。あんたたち、絶対に勝てよな!あんなふざけた連中に負けたりしたら許さないからねっ!」
「あ……。あったりまえでしょ!任せておきなさいってば!」
「絶対に……勝ってみせるよ。」
ジョゼットの応援の言葉にエステルとヨシュアは力強く頷いた。
「……気は済んだか。」
「ほら、手間を取らすんじゃない。」
そしてカプア一家は兵士達に連れられて、去って行った…………………
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第123話