No.46058

ビタミンK。

甘酸っぱい青春の味。

2008-12-10 23:42:43 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:513   閲覧ユーザー数:497

冬になる。

寒くなる。

 

人肌が恋しくなるから、手を握る。

 

 

温もりに安堵。

次来る寒さに恐怖。

 

なにかと疲れるこの季節。

 

栄養不足なアナタへ捧ぐ。

 

 

 

 

「ちょっ、ヤバい!ダブル。進路とか以前にダブル」

 

「バーカバーカだから準は緑なんだよ。しかも中学はダブらない」

 

「いやいや緑は関係ねぇだろ。っつーかお前だって俺と変わらねぇくせに」

 

 

 

中学三年の冬。

生徒達は受験に向けて勉強に勤しんでいた。

 

 

平均とるかとらないか辺りの低レベルな言いあいを繰り広げるのは、来宮 結希菜(キノミヤ ユキナ)と緑こと柱本 準(ハシラモト ジュン)。

 

 

 

「はっはっは、私は前のテスト、公民平均いったし」

 

「うっそ!おまっ、裏切り者!」

 

 

「黙れ緑。寝れないじゃない」

 

「いや、寝ちゃダメだよ紅姫」

 

 

寝る寝るなの言いあい(?)をしているのが梦雅 紅姫(ユメミヤ コウキ)通称紅(ベニ)と、斑 菊(マダラ キク)。

因みに、四人は今斑家で勉強会を開いていた。

 

斑の成績が良く、教えてもらっている。

梦雅は勉強無しで平均は取れるので問題は結希菜と準。

 

 

「あっ、だからね、これをxに代入するわけだから、ここをこうしてこう…」

 

「うわっ!流石菊!頭良いっ!」

 

「あ、あうぅっ、菊くん、私もこれ意味不明」

 

 

「えっ、あ、うんこれはね…って紅姫ぃッ!」

 

 

「………起こすなマミー、私は気にせず先に……」

 

 

This is 寝言。

 

 

「もう…紅姫ったら…」

 

 

斑と梦雅は幼なじみで、家も隣。

二人とも両親は家に居らず、二人で生活しているようなもの。

バグや戯れな告白は勿論、口移し等も普通と化している二人だが、決して恋人という訳ではない。

好き同士だけど、not恋人。

 

「あ、そういやもうクリスマスだね」

 

「そういやそだな」

 

 

結希菜が突然思い出した。

 

 

「クリスマスかぁ、紅姫と柱本君んでクリスマスカラーだね」

 

クリスマスカラー=赤+緑。

 

「緑じゃねぇっ!」

 

 

因みに、準が緑なのは小学生の頃、緑のメッシュが入ってたから。

 

 

「菊くんと紅姫は今年も一緒なの?」

 

 

「んー、多分。クリスマス以外も大体一緒なんだけどね」

 

 

「そっかぁー…そうなんだぁー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁねー」

 

 

 

勉強会も終え、帰路につく準と結希菜。

道は途中まで一緒。

 

 

「準ー!!寒いっ!」

 

「おー、寒い寒い」

 

「お前のせいだ」

 

「違ぇだろっ!!」

 

 

 

気付けば友達で、気付けば一緒に居た。

斑や梦雅ともそんな感じ。

 

 

 

「クリスマス、雪降んのかなぁー…」

 

「ホワイトクリスマス超ロマンチックじゃんか、緑のくせに」

 

 

白い吐息を吐きながら薄く雲に覆われた空を見上げる。

 

 

「…お前はいいわけ?」

 

「ホワイトクリスマス?大歓迎だけど」

 

「違くて、その……斑だよ」

 

「え…あ、ああ…」

 

 

準の問いに、結希菜が俯く。

 

 

「まだ諦められねぇんだろ?」

 

「…うるせぇ緑」

 

「当たってみりゃいいのにー」

 

「…うるせぇ緑。」

 

「いっそのこと、俺と付き合うか」

 

「黙れ緑」

 

「うわひっでぇ!」

 

 

実は入学した時から、斑の事が気になっていた結希菜。

 

過去形なのは、諦めたと本人が言い張っているから。

 

 

「…立ち入る隙間なんてないんだよ、好きだからよく分かったよ、痛いくらい。好きだって言う隙間も無かった。」

 

 

「ふぅん…で、諦めたって言い張ってるんだ」

 

 

「初めから付き合いたいとも思ってはなかったよ。強がりとかじゃなくさ」

 

 

「じゃぁお前は何を諦めたの?」

 

「……青春?」

 

「いや、青春諦めんのはまだ早いと思うぞ、」

 

 

 

まだ中3。

 

 

「あー…なんで私は私なんだろう…」

 

「何だよ急に」

 

「いっそ男に生まれたかった」

 

「性転換願望?」

 

 

ゲシッ

 

 

「同性なら気楽に近付けるじゃん」

 

「おま、ちょ、脛っ…」

 

「しっかしろよ緑ーぃ」

 

「ぬっ殺してぇっ!!」

 

「ふはははは」

 

 

脛を踵で。

クリーンヒット。

 

 

「…私は準になりたかったよ」

 

「………」

 

 

大いにふざけた後、結希菜が準に背を向け空を見上げ、呟いた。

 

 

 

そして分かれ道。

 

 

 

「じゃぁまた明日ねー」

 

「おう、じゃぁな。気ぃつけて帰れよー」

 

「あいよー」

 

 

 

街灯の下で、手をふって分かれ、結希菜が家へ向かって帰っていく。

 

その背中を暫く準が眺めていた。

 

 

 

 

 

「…俺は、お前はお前で良かったと思うぞー!」

 

 

「………」

 

準が叫ぶと、結希菜は10m程先で立ち止まった。

振り返りはしなかったけど。

 

 

 

 

 

「しつこいくらい一途なとことか、面倒くさいくらい心配性なとこ、俺はわりと好きだぞー!!」

 

「………」

 

 

「俺を作る栄養にはお前が組まれてんだから!ビタミン来宮不可欠なんだからっ!」

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

「だからっ、もっと自分を好きになれよーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つ言う毎に大きくなっていった準の声。

最後のそれを言い終えると結希菜が顔を真っ赤にして振り向いた。

 

 

「近所迷惑なんだよ緑っ!!」

 

 

しかも私自分大好きだし!

 

 

 

満足げに笑う準にそう吐き捨てると、結希菜は走って帰ってしまった。

 

 

 

「緑じゃねぇしー」

 

 

 

クスクスと笑いながら呟くと、準も家へ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

冬になる。

寒くなる。

 

 

人肌が恋しくなるから、手を握る。

 

 

温もりに安堵。

手を離しても次に期待。

 

 

何かと嬉しいこの季節。

 

きっとアナタも誰かのビタミン。

 

 

 

 

 

─ビタミン君(Kimi)。

 

 

 

 


 
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