~グランアリーナ・観客席~
「ねえねえ、ママ!プリネさん達に『おめでとう』を言いに行こう~!」
「あの……あたしもミントちゃんといっしょですぐにご主人様にお祝いの言葉を言いたいです。……ダメ……ですか?」
ミントとツーヤの言葉にエステルとヨシュアはお互いの顔を見て、相談した。
「ねえ、ヨシュア……。リフィア達に頼んどいた方がよくない?」
「うん、僕もそう思う。彼女達なら事情も知っているし、もし優勝できたら皇族と名乗らなくても正々堂々とグランセル城に入ることができる。例の事を、女王陛下に伝えるチャンスだってあるかもしれない。そういうことだね?」
「うん……。博士の依頼を他人任せにするのはイヤだけど……。それにリフィアと女王様は顔見知りらしいし、ひょっとしたら会えるかもしれないし。こだわっている場合じゃなさそう。」
「僕は異存はないよ。まだギルドに戻っていないかもしれないし、選手室の控室に行ってみようか?」
「うん、そうね。じゃあ念のためにカルナさん達にも挨拶もして、今の件をお願いしましょう。」
「そうだね。」
エステルとヨシュアはそれぞれ頷いた後、ミント達に向き直った。
「じゃあ、リフィア達に勝利のお祝いを言いに行きましょうか!」
「うん!」
「はい!」
そして4人はリフィア達がいる控室に向かった。
~グランアリーナ・控室~
そこにはリフィア達やクルツ達、そしてカーリアンがいた。
「みんな!予選突破、おめでと~!」
「あっ、新人君たちだ!」
「おや、あんたたちか。」
「よお、ひょっとして試合を見に来てくれたのか?」
エステル達に気付いたアネラス、カルナ、グラッツはエステル達に話しかけた。
「はい、ちょうど先輩方の試合を見ることができました。すごく良い試合でしたね。」
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。今回はいきなり団体戦に変更されたから戸惑ったがね。」
ヨシュアのお祝いの言葉にクルツは苦笑しながら答えた。
「それにしてもリフィア達ったら、酷いわね~。あたし達に秘密で武術大会に参加しちゃって!今までそんなそぶりを見せた事なかったから驚いたわよ!」
「フッフッフ………本来余が驚かせる側なのにお主にはいつも驚かされてばかりだからな。ようやく、お主を驚かせたぞ!」
「それ、自慢になっていないよ。」
「あはは………」
エステルはジト目でリフィア達を見たが、リフィアは悪びれも無く胸を張って答え、リフィアの言葉を聞いたエヴリーヌは思わず突っ込み、プリネは苦笑した。
「ご主人様……あの……予選突破、おめでとうございます。」
「おめでとー!リフィアさん達、凄くカッコよかったよ!」
「フフ……2人とも、ありがとう。」
「うむ!余達にとって予選突破は当然だが、お前達の祝福はありがたく受け取っておこう!」
ツーヤとミントのお祝いの言葉を聞き、プリネは微笑み、リフィアは胸を張って答えた。
「………………」
「ん?アネラス、その子達をじっと見ているようだけど……どうしたんだい?」
カルナはアネラスがミントとツーヤを凝視している事に気付いた。
「可愛い!」
「ほえっ!?」
「えっと……?」
そしていきなりミントとツーヤを抱きしめた。
「ハァ……また悪い癖が出たか………」
「ハハ……まあ、これがアネラスだぜ?」
事情がわかっているクルツは溜息を吐き、クルツの言葉にグラッツは苦笑しながら答えた。
「人形みたいな可愛さに対照的な髪の色や瞳の色………あ~ん、セットでエヴリーヌちゃんといっしょにお持ち帰りしたいわ~!新人君達!この子達、持って帰っていいかな!?」
「ダ、ダメよ~!」
「嫌。」
「あの………これは一体……?」
アネラスの言葉に逸早く反応したエステルは反対し、エヴリーヌははっきり断り、ヨシュアはクルツ達に尋ねた。
「アネラスは可愛いものに弱くてな……普段人形とか買いあさってるんだが、年下の女の子を見ると、たまにあんな事になるんだ。」
ヨシュアの疑問にグラッツは苦笑した後、事情を話した。
「そうだよ!可愛いことは正義だもん!可愛く着飾った年下の女の子に勝るものなし!」
そしてアネラスはミント達を抱きしめるのをやめた後、その場から立って強く主張した。
「あ、あはは……」
アネラスの主張を聞いたエステルは苦笑した。
「そう言えば……先ほど団体戦になって戸惑ったとおっしゃっていましたが、元々団体戦ではなかったのですか?」
プリネはクルツの言葉を思い出して、尋ねた。
「ああ。例年の武術大会は元々1対1の個人戦なんだ。………そちらの方は毎年出場しているから、今回の大会は異例であると気付いていると思うよ。」
プリネの疑問にクルツは答えた後、カーリアンを見た。
「ええ。私はこっちの世界に来てから毎年この大会に参加しているからわかるわ。今までの大会は個人戦だったしね。まあ、相手が何人増えても私の敵じゃないんだけどね~♪むしろ、面白くなって来るから私にとっては今回の大会は楽しませて貰えそうで何よりよ♪」
そう言ったカーリアンは一瞬エステルを見た後、クルツ達を好戦的な目で見て言った。
「ハハ……お互い当たった時はお手柔らかにお願いします。」
カーリアンの言葉を聞いて、クルツは苦笑した。
「それにしてもいきなりルールが変更されて、本当に焦りましたよね。」
「あたしたちはまだいいさ。何とかメンバーも揃ったんだ。ジンの旦那なんか正直、困ってるんじゃないかねぇ。」
アネラスの言葉に頷くようにカルナがジンの現状を言った。
「あ、カルナさんたちもジンさんの知り合いなんだ?」
「ま、知り合って間もないけど名前だけは知っていたからねぇ。『不動のジン』って言って共和国じゃ有名な遊撃士なのさ。」
「どうやら、武術大会に出るためにリベールにやって来たらしいが……。さっきも言ったように大会が個人戦から団体戦にいきなり変更されてしまったんだ。」
「これが、例の公爵閣下の思い付きだったらしくてな。で、ジンの旦那は仕方なく1人で登録する羽目になったわけさ。」
エステルの疑問にカルナは頷き、クルツはルールが変わった理由を答え、グラッツはなぜジンが一人で参加しているかを答えた。
「そうだったんだ……。まったく、あの公爵ってのはロクでもないことばかりするわね。」
「はは、違いない。しかし、このまま彼の実力が発揮されないのは惜しすぎる。」
呆れて言うエステルの言葉にクルツは苦笑しながら、頷いた。
「だな。無名でもいいからある程度戦えるヤツがいれば……。……おっ!?」
同じように頷いていたグラッツはある事に気付いて、エステル達を見た。
「……おや…………」
「…………ふむ」
「……いいかも…………」
カルナやクルツ、アネラスも同じようにエステル達を見た。
「???な、なんなの?マジマジと見ちゃって……」
クルツ達に見られたエステルは戸惑いながら尋ねた。
「いや、ものは相談だが……。君たち、ジンさんに協力して本戦から出場してみないか?」
「え……。ええええええ~っ!?」
「本戦からの参加って……。そんなの大丈夫なんですか?」
クルツの提案にエステルは驚き、ヨシュアも同じように驚いた後尋ねた。
「それは大丈夫だろう!実際、そこの戦闘狂や余とエヴリーヌだけの参加も認められていたしな!」
「ちょっと……それ、誰の事を言っているの!?」
リフィアの言葉に反応したカーリアンはリフィアを睨んだ。カーリアンに睨まれたリフィアはカーリアンの睨みを無視して、エステル達に言った。
「あのジンとやらはかなりの実力を持っているようだが、さすがに一人で正遊撃士4人は厳しいだろう。だからエステル!お前達があの者に助力してやれ!」
「ジンの旦那も遊撃士の助っ人が他にいないかエルナンに頼んだみたいでな。ただ、シェラザードは忙しいらしいし、アガットのヤツとは連絡がとれない。他の連中も似たようなもんらしいぜ。」
「カシウスさんに至っては国内にいないみたいですからねぇ。ま、あの人とジンさんが組んだら反則っていう気もしますけど……というか、”大陸最強”と名高いメンフィル帝国でも1,2の実力を争う貴女の参加自体、反則なんですけどねぇ……」
リフィアとグラッツの言葉に頷いたアネラスはカシウスとジンがいっしょに戦った時の事を思い浮かべて、絶対に勝てない事に苦笑した後、カーリアンを見た。
「あら♪中々わかっているじゃない♪」
アネラスの言葉にカーリアンは機嫌を直して言った。
「はは、我々程度では万が一にも勝ち目はないだろうな。……そういうわけだから前向きに考えてみたらどうかな。今日中にジンさんと決めれば明日の選手登録に間に合うはずだ。」
「う、うん……」
クルツに言われたエステルは放心した状態で頷いた。
「おっと……長話しすぎちまったようだね。それぞれの依頼も抱えているし、あたしたちはこれで失礼するよ。」
「ばいばーい、新人君たち!」
「へへ、試合場で手合せできるのを楽しみにしてるぜ。」
そして仕事の時間が来た事に気付いたクルツ達はその場を去った…………
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第117話