No.460123

真・恋姫無双 刀蜀・三国統一伝 第壱節・外史の始まりと三姉妹との邂逅

syukaさん

何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。

2012-07-27 01:54:27 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:23380   閲覧ユーザー数:16143

 

まえがき ずっと書きたいと思っていた蜀√ssを書きたいと思っていたのですがなかなか踏み出せずかれこれ3ヶ月は過ぎてしまった・・・。さて第壱節「外史の始まりと三姉妹との邂逅」ですが、一刀の現代での鍛錬→古代中国へ(外史)、一刀と桃香たちとの出会いから桃園の誓い、までとなりそうです。では、ごゆるりとしていってください。

 

 

 

ここは日本の鹿児島、そこには祖父と剣を交え鍛錬に励む青年がいた。彼の名は北郷一刀。本来は東京の浅草の学生寮に住んでいる聖フランチェスカの学生である。今は久しぶりに里帰りということで鹿児島の祖父の家に来ていた。

 

「ふっ!」

 

一刀が祖父、影刀の頭を狙う。

 

「甘い!」

 

しかし、一刀の放った一閃は影刀によって弾かれてしまった。その隙を狙われた一刀の喉元に冷たい刀身が突きつけられる。

 

「参りました・・・。」

 

一刀はまだ影刀から一本を取った事がない。

 

「一刀、なぜわしを倒そうとしない?お前はすでにわしを超えているじゃろう。」

 

そうなのだ、一刀はとっくに影刀の強さを越えている。見聞きしたものを吸収する早さと何より人一倍努力できる天才であり努力家なのだ。10年は掛かる修行を2年で修了したのはこの2つが要因となっている。しかし、一刀が影刀を倒せない理由は彼の性格と心の問題だった。

 

「爺ちゃんに怪我させたくないから・・・。」

 

彼は優しすぎる故、なかなか本気を出せないでいた。

 

~回想~

幼いころ、自己防衛できるくらいにはなってもらいたいという彼の両親の要望から一月ほど鹿児島に泊まることがあった。基礎と護身術程度ならと考えていた影刀は度肝を抜かれた。週5日、休み2日の4セットで過程を修了させるつもりが始めて5日で会得してしまった。

 

「流石に残りの休みをただ浪費させるのはもったいないからの。北郷流剣術を伝授するときがきたということか。もう少し一刀が年齢を重ねてから行うつもりじゃったのだが、あやつの才能を埋もれさせるのは惜しいしの。」

 

と考えた影刀は、次の週の始めから本郷流の伝授を開始した。そして、鹿児島に来て両親が迎えに来るころには、一刀はすでに北郷流の基礎過程を修了させていたのだ。両親が迎えに来るにあたって影刀は両親に一刀に伝授のこと、これから応用課程に入るにあたって宿泊の延長を提案した。

 

「一刀の武の才能は群をぬいて際立つものがある。そしていずれ儂を超えるじゃろう。そこでもう少し一刀にこっちに居てもらいたいと思っているのじゃが。」

 

この影刀の発言に一刀の父、霧刀は驚愕した。影刀は神童と謳われ全盛期は日本の覇龍と呼ばれていて、そんな彼が認めた一刀に霧刀は複雑な思いを抱いていた。親としては平凡でいいから安全で幸せな人生を歩んでほしいと思っている。一方で、武の道を歩んだものとしては北郷流の継承者として武を極めてもらいたい。その2つの気持ちに挟まれていた。霧刀が頭を抱えていると横で聞いていた一刀の母、菊璃が一刀に手招きをして彼女の隣に座らせる。

 

「一刀、あなたはどうしたい?あなたのしたいようにしなさい。」

 

応用課程の厳しさを知っている霧刀は反対した。

 

「もう少し年を重ねてからでもいいのではないか?頭は追いついても体が悲鳴を上げてしまう。」

 

二人の意見を聞いた一刀は熟考して口を開いた。

 

「僕は・・・お爺ちゃんの鍛錬を受けたい。体を動かしていると自分の糧になるのが実感できるんだ。もっと強くなってお爺ちゃんたちをびっくりさせるんだ。そして誰よりも、歴史上の偉らい人たちも驚くくらい強くなる!」

 

それを聞いた影刀と菊璃は納得したようにうなずいていたが、霧刀だけが険しい顔をしていた。

 

「しかし!下手をすれば一生を棒に振るのだぞ!?」

「そんなこと私がいるんだから心配ないわ。」

 

霧刀の言葉を遮るように外から声が聞こえた。そこから室内に入ってきたのは一刀の祖母、美桜。祖母というわりにかなり若々しい。

 

「お母様、いつ見てもお綺麗ですねぇ。」

 

というか年を食ってるのかすら分からないほどである。

 

「そういう菊璃さんも綺麗ですわ。・・一刀の体の方なら私が無理をしないようにするから心配しないで。」

 

美桜は人の体調を見る目がずば抜けて鋭い。まぁ影刀よりも武に優れているといえば当然かもしれない。その言葉を聞いた霧刀は少し安堵した顔をした。

 

「そういうことならいいだろう。」

「ありがとう、お父さん!」

 

父の言葉を聞いた一刀の顔が満面の笑みに変わった。

 

「しかし、やると決めたからには最後まで諦めずにやり遂げなさい。分かったか?」

「はい!」

 

一刀の瞳はやる気に満ちていた。それから一か月滞在予定だったのをなんと半年に伸ばし北郷流の応用課程を修了した。

 

~回想終了~

「一刀、それではいざとなったときに人を斬れぬぞ。」

「そんな、俺に人を斬れるわけ・・・」

 

そういう一刀に影刀は諭すように口を開く。

 

「ではお前に大事な人ができて、そんな人が危険にさらされたときお前はそれをみすみす見過ごすのか?」

「・・・」

 

一刀は反論できなかった。それを見た影刀は表情を少し崩して一刀に問いた。

 

「何も見境なしに斬れとい言っておるのではない。お前が振るう剣は守りの剣じゃ。何かを守りたい、そう思った時に剣を抜け。徒手でも十分に相手をいなすことは出来るが相手が達人クラスになるとそうはいかないからの。」

「・・・まだ少し納得できないけど、分かった。」

 

二人の話が終わると外から手を叩く音が道場内に響く。二人が外を見ると美桜が壁に腰かけて手を振っていた。実をいうと二人が剣の鍛錬を始めるころからこっそり外で待っていたりする。

 

「お婆ちゃん、ずっと外にいたでしょ?」

 

美桜は少しおどけたように見せた。気づかれていることに気づいていた美桜は心の中ではくすくすと笑っていた。

 

「少し心配だったから。太刀筋を見てたけど、もう少し気をのせたほうがいいわね。」

「気?自然エネルギーとか?」

 

気とは、一般的に気は不可視であり、流動的で運動し、作用をおこすとされている。しかし、気は凝固して可視的な物質となり、万物を構成する要素と定義する解釈もある。

 

「近からず遠からずね。気は自然・・万物の力を一時的に取り込むことで力に変換できる。こっちは一刀ならすぐできるわ。私が言いたいのは感情による自身の気の高まり。激怒や殺気、それからどれだけ集中しているかによって気が高まるの。あなたは心が穏やかだから殺気を放ったり、怒ることもが苦手だろうけど。」

 

一刀は例えば剣道で相手と相対するとき、良くも悪くもさほど力を入れずに立ち回りだけで勝利してしまう。定期的に・・・年に2回ほど鹿児島に影刀と鍛錬を欠かさなかったのが影響しているのだ。つまり同世代で一刀と張り合う人物がいない。

 

「影刀さん、明日から一刀を一月ほど借りるわね。気の鍛錬の基礎から応用まで終わらせるわ。」

 

それを聞いた影刀は目を大きく見開いた。

 

「美桜!?何を言ってるんだ?」

 

ふふっ、驚いてるわね。一刀は何事かと唖然としているし。

「私を誰だと思っているのかしら?」

 

美桜が何を言ってるのかしら、この人。みたいな顔で影刀を見ていた。爺ちゃん、何か思い出したような顔をしている。

 

「そうだな。美桜なら大丈夫か。」

 

爺ちゃんはうんうんと一人で納得したようにうなずいていた。

 

「よし決まり♪」

「・・お婆ちゃん、嬉しそうだね。」

「そりゃそうよ~。だって、ずっと影刀が教えていたじゃない?だから、やっと私の出番が来たわ~ってね。」

「・・儂に嫉妬してるのか?」

「少しね♪」

「・・・」

 

もう何も言うまいと心の中で呟いた影刀であった。

 

「じゃあ朝ごはんにしましょう。早く母屋に戻ってきなさいね。」

 

戻ろうとした美桜が少量の汗をかいているのに気付いた一刀は美桜を呼び止めた。

 

「お婆ちゃん、ちょっと待って。」

 

呼ばれた美桜は一刀の方をどうしたのかしら?と振り向く。一刀は美桜に近づき自分のタオルとスポーツドリンクを渡した。渡された美桜はというと何故渡されたのかと頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。

 

「お婆ちゃん、ずっと外で待っていてたのでしょ?暑かっただろうし、今汗をかいてるから、はい。これ使って。」

 

この一刀の行動に美桜の母性本能が擽られたのか、一刀を抱きしめた。

 

「あぁも~、一刀は気配りもできるし可愛いし、さすが私の孫ね。お婆ちゃん嬉しいわ~。」

 

美桜は一刀を思いっきり抱きしめていると横から影刀が口をはさんだ。

 

「そのくらいにしておいた方がいいと思うぞ?」

「あら、羨ましいのかしら?」

「羨ましいが、そのままだと一刀が昇天するぞ?」

 

一刀は抱きしめられているといっても美桜の胸に顔が埋まっていた。豊満な胸に顔を埋めている一刀は言葉を発することすら呼吸もできないわけで。傍から見れば羨ましい光景なのだが本人からすれば天国と地獄を同時に味わっているようなものだ。

 

「あら、一刀大丈夫?」

「う、うん。」

 

一刀は苦笑いしていた。

 

「じゃあありがたくもらうわね。」

 

美桜は一刀からタオルとスポーツタオルを受け取ると母屋の方に歩いて行った。

 

「///」

「先に帰ってるぞ?」

 

一人で佇んでいると影刀も行ってしまった。・・・今、俺の顔赤いだろうな。もう少ししてから行こう。少し壁に身を任せて休憩していると外から誰かが道場に入ってきた。爺ちゃんか婆ちゃんだろうから気にしなくていいか。というかあの二人以外いないし。

 

「どうしたの?」

 

忘れ物でもしたのだろうと思っていた一刀にとって現れた人物は予想もしていない人物だったことに驚いた。

 

「こんにちは。」

 

そこにいたのは黒髪の女性だった。着物を着て雰囲気的には美桜に近いものがある。そしてその女性がこちらに近づいてくる。

「えーと、どちらさまですか?」

 

とりあえず面識のない方なので相手が誰なのかを聞いてみた。 昔、どこかであったかな?いや、会ったことはないと思うんだけどな。 その受け答えに女性はそうでしたね。と一呼吸おいて自己紹介してくれた。

 

「私は貂蝉と申します。一刀さん。」

「あれ、俺のこと知っているのですか?」

「あなたのお婆様、美桜ちゃんの知り合い・・・ということにしておきます。あなたのことは美桜ちゃんや影刀さま、あなたのご両親からよく聞かせてもらっていたのです。」

 

貂蝉?確か古代中国の楊貴妃・西施・王昭君と並ぶ古代中国四大美人だったはずだ。確かに美人だ・・・。

 

「では今日はおばあちゃんたちに用事ですか?」

「いえ、あなたに言伝があって参りました。」

「俺に、ですか?」

「はい。」

 

俺宛の用事、何だろう?母さんたちからの用件かな?

 

「あなたは近い将来ここから離れることになります。そのとき、降り立った土地にあなたを必要としている方たちが待っています。どうか、その方たちの力になってあげてください。頼り、頼られ。そんな関係を築けば多くの人々があなたの力になってくれるでしょう。」

「・・・どういうことですか?」

 

いきなり伝えられた言葉に一刀の理解は追いつけずにいた。頭上にはクエスチョンマークがいくつも浮かべている。それを見ていた貂蝉はくすっと微笑んだ。

 

「深く考える必要はありませんよ。頭の片隅にでも置いておいてください。」

「はぁ・・・。」

「早く来ないと朝ごはん冷めるわよー・・・・あら?」

「お久しぶりね、美桜ちゃん。」

「いらっしゃい、貂蝉。」

 

お婆ちゃんと貂蝉さんは顔を合わせてもさほど驚くこともなく平然としていた。

 

「貂蝉もうちで食事していかない?」

「そうね、ご馳走になるわ。」

 

そうして今日はいつもより1人多い4人で朝食をとることになった。

そして食事後・・・、

 

「じゃぁ散歩がてら消耗品の買出しに行ってくる。何か買っておくものとかある?」

「そうね・・・今のところないわ。」「分かった。行ってきまーす。」

 

一刀は食後の運動も兼ねて買い物に出た。よし、見えなくなったな。この話はあやつに聞かれてはまずいからの。

 

「さて貂蝉、一つ聞きたいことがある。聞いてもいいか?」

 

まぁそう来るわよねん。当然といえば当然だけど。

 

「いいわよん。何かしら、かげっち。」

「かげっち言うな。お前が来たということは一刀が外史に飛ぶ日が近いのだな?」

「そうよん。そうねー、あと一月というところかしら?」

「じゃあ一刀の気の扱い方と応用方法の修了までやりましょう。」

 

そこから一月後・・・、美桜の地獄?ともいえる特訓のより気の扱いの応用まで修了させた。 特訓を修了させた翌日、貂蝉さんが一刀に渡すものがあると言っての家を訪れた。

 

「それで渡したいものがあると聞いているのですが?」

「特訓の修了お祝い記念と思って受け取ってくださいな。」

 

渡されたのは一枚の綺麗な鏡。見るからに高級品のような・・・というか不思議な雰囲気を醸し出していた。

 

「こんな高そうなもの受け取れませんよ!」

「いいから。」

 

無理やり渡されてしまった。

「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます。」

「じゃあ渡すものは渡したので私はここらへんでお暇させてもらいます。」

「あれ、来たばっかりじゃないですか。気を遣わなくてもいいのすよ?」

 

もう少しいてくださいともとれる言葉に貂蝉は少し困った顔をした。

 

「ありがとうございます。こちらにいたいのは山々なのですが今日はこれからやることがありますので。」

「そうですか、じゃあ外まで見送りさせてもらいます。」

「えぇ。」

「じゃあまた遊びに来てください。歓迎しますよ。」

「えぇ、ではまた。」

 

貂蝉は一刀に別れを告げ北郷宅をあとにした。とりあえず貰った鏡は部屋に置こう。一刀が部屋にいる間、居間では影刀と美桜がこっそりと翌日にむけての会議を白熱させていた。

 

「貂蝉がさっきの鏡を置いていったということは一刀が外史に旅立つのは明日ごろか・・・」「そうね、じゃあ一刀に何か餞別でこっそり渡しときましょうか。私が使っていた籠手と、あなたのかたびらでいいかしら。」

 

早速美桜が道場に行ってかたびらと籠手を探し、一刀の部屋を訪れた。

 

「一刀、少しいいかしら?」

「どうぞー。」

 

美桜は一刀の部屋に入ると一刀にかたびらと籠手を押し付けた。

 

「はい。」

「・・・何これ?」

「私と影刀さんからの餞別よ。じゃあね。」

 

・・・お婆ちゃん、いきなり来ていきなり出ていっちゃったよ・・・。まぁもらっておこう。

それから時間は過ぎ翌日。一刀は目を覚まし、しばらくすると見知らぬ土地にいた。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

この戦乱の世に天より御使いが来るだろう。彼の者は戦乱の世を収め人々を導く これは漢の占い師、菅輅の言葉である。 ここは幽州、五台山の麓。一つの流星が落ちたのを見た者たちが何事かと様子を見に現場に赴こうとしていた。

 

「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん。今何か落ちたよね?」

「空がピカーって光って何か落ちてきたのだ!」

「二人とも、早く見に行こう!」

「お待ちください、桃香様!この昼間にあのような流星が見えるのはただ事ではありません。私が先に行って様子を見てきます。」

「大丈夫だよ~。こっちには関雲長と張益徳っていうつよーい二人がいるもん。」

「そうなのだ!何がいても鈴々がぶっ飛ばすからモーマンタイなのだ。怖いなら愛紗は残っていても大丈夫なのだ。」

 

そういうと二人の女の子は流星が落ちた場所に駆け出してしまった。

 

「誰が怖いなど!…あぁもう!」

ここに残るという訳にもいかないので渋々、愛紗と彼女も現場に向かった。

 

~~~

 

「……っ!」

 

流星が降ったと思われた場所で一刀は意識を取り戻した。

 

「…ここはどこだ?」

 

とりあえず現状を整理しよう。目の前に広がるのは広大な荒野。他に見えるのは山くらいだ。確か朝起きて、貂蝉さんにもらった鏡が気になって、見ていたら鏡が光って…。気付いたらここにいた。原因があるとすればあの鏡。なんでこんなことになったかはすごく気になるけど、今はそんなことよりここがどこなのか、確認する必要があるな。そうしないと帰れないし。まずは…人を探すか。

そう決めた一刀はとりあえず歩き出した。 …誰かいる気配もないな。こんなところで野宿なんて堪ったものじゃないぞ…。

そう思いながら歩いていると先の方からこちらに向かってくる人たちがいることに気付いた。助かったと安心した一刀は彼らに声をかけた。

 

「おーい、そこの人。ちょっと待ってくれ?」

 

呼ばれた男たちは一刀に近づいてきた。

 

「すいません、ここがどこか教えて…」

「兄ちゃん、珍しいもの持ってるじゃないか。」

 

場所を尋ねようとした一刀の言葉は黄色い布を頭に巻いた長身の男に遮られた。

 

「え?」

「持っているものを全て置いて消えな。殺されたくなかったらな。」

一刀が見つけた男たちは山賊だったのだ。長身の男の横にいた背の低い男が口を開く。

 

「兄貴、こいつが着てる羽織も売ったら金になりそうですぜ。」

「そうだな。その羽織も置いていってもらおうか。」

 

その言葉を聞いた一刀はこの男たちが山賊ないし盗賊だと理解した。

 

「あなた方にこれらを譲る義理もありませんのでお断りします。」

 

一刀が物を置いていくことを拒否すると長身の男が腰に差していた剣を抜いた。

 

「交渉決裂なら死んでもらおうか。無駄に命を捨てるたぁお前も馬鹿だねぇ。」

 

男たちが汚い笑いをしている。しかし剣を抜かれても一刀は呆れた顔をして彼らを見ていた。相手の技量も分からないものなのかと。

 

「あなた方に差し上げる命もありませんので。早々に立ち去ってください。」

 

そう言うと背の低い男がキレて声をあらげた。

 

「この餓鬼、調子に乗りやがって!」

 

男が一刀に飛びかかろうとしたそのとき…

 

「何事だ!」

 

遠方から女性の叫び声が聞こえこちらへ向かってきた。

 

「いや何、彼が交渉を蹴ったから殺してこいつのものを頂こうとしただけさ。それよりあんた良い女じゃねえか。俺らと遊ばねえか?気持ち良いことしてやるぜぇ?」

 

長身の男が下品な笑いをすると黒髪の少女が顔を歪めた。

 

「下衆が!貴様らの顔を見ているだけで虫酸が走る!一刻も早く私の目の前から消え去れ!」

「威勢がいいじゃねえか。チビがそこの餓鬼をやったら犯して俺の奴隷にしてやるよ!おらぁ!!」

 

少女は男が斬りかかってくるのに対し反撃にでようとしたそのとき…

犯して俺の奴隷にしてやるよ!

この言葉が一刀の逆鱗に触れた。一刀は少女は刀を振るう前に男の横腹を蹴り飛ばした。

 

「げふぅ!」

「!?」

 

賊が吹き飛ばされたことに意表をつかれた少女が呆然としているなか、一刀は気にせず倒れている男の頭を力強く掴み宙にぶら下げた。

 

「あなた方は餓鬼畜生にも劣るようですね。あなたの息の根を止めることも可能ですが、俺も無駄な殺生はしたくないのでこの場から早急にお引き取りください。」

 

そう言うと一刀は立ち尽くしていた山賊たちの方に男を放り投げる。投げられ、気絶している男を見たチビがもう一人の男、デブに兄貴を担ぐように言うと、覚えてやがれーとベタベタな台詞を吐きながら逃げていった。やっと逃げてくれたか。

 

「あの…。」

彼女の方に顔を向けるとこちらを心配そうな顔で見ていた。

 

「お怪我はありませんか?」

 

彼女の心配を解くために一刀は笑顔を見せた。

 

「大丈夫。それと、助けてくれてありがとう。」

「いえ。私は横から入ってきただけで、あなたが山賊を退けるのを見ていただけです。お気になさらないでください。」

 

よかった。特に彼女にも外傷はなさそうだ。

 

「あいつらに変なこと言われちゃってごめんな。もうちょっと早く口を封じとけば・・・。」

「そんな、あのような下衆な輩はみな口が悪いものです。それに、お助けに入ったつもりが何も力添えできなかったことを不甲斐なく思っているのです・・・。」

 

もしかして、凹んでいるのか?… 少し落ち込んでいるように見えた彼女の頭を一刀はポンポンと子どもをあやすかのよう無意識のうちに撫でていた。

 

「!! き、貴公殿!?//」

 

「あっ、ごめんな。つい癖で。」

 

一刀が手を引っ込めると彼女は頬を赤らめていた。 はて?どうしたのかな?

 

「そうだ。君の名前を聞いてなかったね。俺は北郷一刀。」

「北郷殿ですか。私は・・・」

「愛紗ちゃん、待って~。」

 

彼女が名を名乗ろうとすると後方から彼女の名らしきものを呼びながら後方からこちらに向かってくる少女が二人。

 

「はぁ、はぁ、愛紗ちゃん、山賊たちを見つけるなり私たちを追い抜いて一人で行っちゃうんだから~。」

「愛紗ばっかりずるいのだ!鈴々にも残しておいてほしかったのだ!」

 

桃色の髪をしたぽわーんとした女の子と赤い髪の元気っ子の少女だった。うーん、三人とも可愛いな。

 

「桃香さま、申し訳ありません。こちらの北郷殿が山賊どもに襲われていたので。しかし、私が出るまでもなく、お一人で退けられました。実際、私や鈴々でも通用するかどうか分かりません。」

「このお兄ちゃん、すっごく強そうなのだ!」

「あなた方二人も相当な実力を持っているでしょう?・・・えと、あなたたちはここで何を?」

「私たちはこの大陸がどんどん衰退していくのを見かねて旅にでたんです。」

「今の世には王朝の腐敗、官匪の横行、太守の暴政・・さまざまな問題がありますから。」

 

・・・・?王朝の腐敗?官匪の横行?太守の暴政?じゃあここは日本じゃないな。というか俺がいた時代なのかも怪しいくらいだ。 そんなことを考えていると赤髪の元気っ子がおもむろに質問を投げかけてきた。

 

「そもそも、なんで流星が落ちた場所にお兄ちゃんがいるのだ?」

「流星?そんなものが落ちたの?」

「北郷殿はどこかの州から占いを聞いてこちらに赴いたのだと思っていたのですが?」

「占い?というか俺、ここがどこだか知らないんだよ・・・。」

 

さっき場所を聞こうとしたのが山賊だったから聞けなかったし。ちょうどいい機会だ。

 

「ここは幽州、五台山の麓です。」

 

幽州、五台山、さっきの賊のなりからすると、まさかねー・・・

 

「ねぇ、さっきの賊って黄巾党?」

「はい。さきほどはあのように少数でしたが、大体は一部隊ほどの人数で行動しています。」

 

黄巾党・・・じゃあここは後漢の三国志の舞台と考えるべきか。

一刀が考え事をしていると、桃の髪を持つ少女が何か呟いていた。

 

「流星が落ちたところに何故かいて、見たことのない羽織を身に着けている。ここがどこか分からない・・・。愛紗ちゃん!鈴々ちゃん!この人が菅輅ちゃんの占いに出てた天の御使い様だよ!」

「天の御使いですか。ここで会ったのも天命なのでしょう。北郷殿・・いえ、御使い様!どうか、私たちの仲間になってもらえませんか?」

「ごめん、その天の御使いって・・・何?」

「菅輅の占いに出たこの乱世を治め、平和へと導くものが天より降りてくる。というものです。」

 

これって貂蝉が言ってたことに似てる。

 

「あなたは近い将来ここから離れることになります。そのとき、降り立った土地にあなたを必要としている方たちが待っています。どうか、その方たちの力になってあげてください。頼り、頼られ。そんな関係を築けば多くの人々があなたの力になってくれるでしょう。」

 

それなら俺が取るべき行動は一つしかないよな。

 

「俺がその天の御使いかどうかは分からない。それでも俺のことを必要としてくれるなら、俺も君たちの力になりたい。」

 

その返事に彼女たちの表情は綻んだ。

 

「じゃあ!」

「あぁ、天の御使いとして、どこまで出来るか分からないけど・・・俺の持ちうる全てをあなた方にお貸ししましょう。・・・とりあえず、自己紹介してもらえないかな?呼称が分からないと俺も困るからさ。」

 

一刀が苦笑いしてそういうと彼女たちもそういえばといった顔で苦笑いしていた。

 

「私は、姓は劉、名は備、字は玄徳。真名は桃香です。よろしくね、ご主人様♪」

「私は、姓は関、名は羽、字は雲長。真名は愛紗。我が剣、魂魄までもをご主人様に捧げましょう。」

「鈴々は、姓は張、名は飛、字は翼徳。真名は鈴々なのだ!よろしくなのだ、お兄ちゃん!」

 

劉備、関羽に張飛か・・・。蜀の義将になる者。・・・というか女の子なんだけど。その前に聞き覚えの無い単語を耳にした。

 

「その真名というのは何かな?」

 

それを聞いた愛紗が少し驚いた顔をした。

 

「真名とは親類、親しいものにしか教えない神聖な名前です。その者の真名を知っていても無許可で口にしてはいけません。もし口にしたら、例え貴族でも首を刎ねられても文句を言えないものなのです。」

「なるほど。了解した。説明ありがとう、愛紗。」

 

一刀の微笑みを直視した愛紗は顔を赤らめる。

 

「い、いえ。礼を言われるようなことではありませんので//。」

「(さっきより愛紗の顔が赤いような・・・?)それと、桃香に一つ質問があるんだけどいいかな?」

「ん? どうしたの?」

「その宝剣、靖王伝家を持っているということは、中山靖王劉勝の末裔ってことでいいのかな?」

 

劉備の名に腰に差してある、おそらく宝剣。靖王伝家。まぁ、三人のこの驚いた表情を見れば間違いないかな。

 

「ご主人様すごーい!ねぇねぇ、なんでわかったの?」

「そうだな、天の知識ってとこかな。」

 

まぁそんなこんなで、はぐらかしつつどこかに移動しようと提案しようかな。

 

「それと、いつまでもここにいるのもなんだしどこかに移動しないか?」

 

移動を提案した途端、そばから腹の音が聞こえてきた。

 

「鈴々、お腹空いたのだ!」

「そうですね、詳しい話は食事をしながらでもいいでしょう。」

「賛成~。私もお腹ぺこぺこだよ~。」

 

そうして俺たちは一番その場から近かった町へ向かった。

 

「・・・やっぱり俺がいた時代じゃないよなー。」

 

と一人呟いてみても現状が変わるわけでもないのでよしとしよう。決して現状が良いというわけではない。俺たちは入ってすぐの茶屋に入り、料理を注文してから四人で現状を整理することにした。鈴々は料理はまだかとそわそわしていたが。それを見て苦笑いを浮かべる俺と桃香にはぁと溜め息をついた愛紗が口を開いた。

 

「ではこれから我々がしていくことといいますか、まずはご主人様の待遇についてですね。ご主人様には天の御使いとして天が我らについているとこれから先集めていく義勇軍、部下に思わせて彼らの士気を高めてもらうこと、『天』の名から風評を集めてもらいます。風評の方は噂を流しておけば一人歩きして各地に広まりますので問題はありません。管轤の占いもありますし。幸い、私と鈴々にご主人様も武に関しては百戦の猛者ですのでそちらの方面でも人を集めることはできるでしょう。」

「へぇ、ご主人様って強いんだ?」

「お兄ちゃんとっても強いのだ。たぶん鈴々と愛紗でも敵わないのだ。」

「そんなことないよ。愛紗も鈴々も武をふるう目的が明確な分俺よりいいよ。」

 

話が弾む一方でどんどん注文した料理が出てくる。中華料理店に食べに来た気分だ。・・・ってここ中国だから当たり前といえば当たり前か。

 

「鈴々、すごい勢いで食べるんだな。」

「こやつに食事に関しては何も言いますまい。」

 

現代のフードファイター顔負けだな。

食事も終わり会計へ。ここで一つ問題発生。

 

「お客さん、無銭飲食かい?」

 

俺はこちらにきて金がないのは当然として、まさか桃香たちもないとは思わなかった。俺におごってもらう算段だったらしい。

 

「じゃあ仕方ないね。注文した料理分は働いてもらうよ。」

「はい・・・。」

 

俺たちはこうして日が落ちるまで働くことになった。実際皿洗いだけだったので家でやっていたのと大差なかったので苦にはならなかったのだが桃香たちは相当まいったみたい。

 

「うぅ~、疲れたよ~。」

「疲れたのだ・・・。」

「皿洗いとはこんなにも疲れるものなのですね。あれだけ働いて平然としているご主人様を見習わなくては。」

「俺は家で毎日していたから。愛紗たちは外で槍を振るうのが仕事だから気にすることないよ。桃香は俺たちを支えるのが仕事。分かった?」

「そうですね。」

「そうだね。」

 

俺たちが話をしていると仕事を終えた女将が厨房から出てきた。

 

「お疲れ。最近は人も少なくなってきたから助かったよ。」

「いえ、俺たちがお金を持っていなかったのが原因ですし、力になれたのなら幸いです。」

「それはそうと、あんたたち、これからどこに行くのか決めているのかい?」

「え~と、それは~・・・。」

「桃香様・・・。」

 

桃香があははと苦笑いしている横で愛紗が溜め息をついた。まぁ、分からないでもないけどな。

 

「じゃあ、この街で義勇軍を集めている公孫賛様のところに行ったらどうだい?そっちに行けば色々と情報も集めやすいだろうしね。」

「公孫賛・・・。あー!そういえば白蓮(ぱいれん)ちゃんがこの辺りで太守になったって言ってたのすっかり忘れてた!」

「あ、あはは・・・。」

 

これには俺も苦笑いするしかないな。

 

「じゃあ、これから公孫賛さんのところに向かうってことで決まりいいかな?」

「うん!決まり!」

「行先も決まったようだね。じゃあこれをあんたたちにあげるよ。門出祝いってことで持っていきな。」

 

女将が手渡してくれたのは酒だった。こんな風に応援してくれる人もいると思うと胸の中が暖かくなるのを感じる。

 

「女将・・・ありがとうございます。」

「この街を出て少し行ったところにいいところがあるから。そこで呑んでからでもいいんじゃないかい?」

「そうですね。では、お世話になりました。」

 

そう言って店を出ると、女将に教えてもらった場所へ向かった。少し歩いた先には見事な桃の木が数多く群生していた。時期が良かったのか、木の先端には美しいな花弁を咲き誇らせている。日本の桜に似ているけどこれも見事なものだな。

 

「すごーい!」

「そうですね。私もここまでたくさんの美しい桃の木は初めて目にしました。」

「それより、早く酒を開けるのだ!」

「鈴々、お前に風情というものはないのか?」

「あはは!鈴々ちゃんは花より団子だね。」

早速ふたを開けそれぞれ杯に酒を注ぐと、桃香がおもむろに口を開いた。

 

「ねぇ、どうせならここで私たちの大願成就と改めての姉妹の契りも兼ねて誓いをしよう。ご主人様とも出会って、四人で頑張っていこうっていうのも込めてさ。ね?」

「いいですね、賛成です。」

「鈴々も賛成なのだ!」

「あぁ。」

 

なるほど。これが史実にある桃園の誓いか。俺もこれから何が起こるのか分からないけど頑張っていかないのは事実だしな。ここで三人のために努力していこうと誓うのも悪くない。俺たちは立ち上がり杯を天高く掲げた。

 

「我ら四人!」

「姓は違えど、姉妹の契りを結びしからは!」

「心を同じくして助け合い、みんなで力なき人々を救うのだ!」

「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!」

「願わくば、同年、同月、同日に死せんことを!」

「乾杯!」

 

これが、長きにわたる俺たちの物語の始まり。これから何が俺たちを待ち受けているのだろうと、期待と不安を半分ずつ胸に抱きながら俺は杯を口につけた。

 

 

あとがき

読んでいただきありがとうございます。第壱節・外史の始まりと三姉妹との邂逅 いかがだったでしょうか?壱節に関しては原作を少し引用させてもらいました。それにしても、蜀√かつ一刀を外史の開始時点で相当強い状態で登場させる。というのを書きたくて書き始めたわけですが、その過程をどうするかということで少し悩みました。とりあえず祖父が名を馳せた剣豪で、そこで鍛えて強くなってもらおうということになりました。家事もできる剣豪、一刀。剣豪兼主夫ですねw。貂蝉につきましては、話を進めていく中で解明していきますのでご了承ください。それでは次は 第弐節・ハムと常山の昇り竜と盗賊討伐 でお会いしましょう。

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
44
34

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択