真・恋姫✝無双~だけど涙が出ちゃう男の
[第9話]
いまボクたちは、荊州の襄陽を出発して陸路で北の南陽郡に向かっていました。
ボクの随行人は、呂蒙・諸葛亮・
このような経緯に至ったのは、漢中行きへの人数が思いの外、増えた為でした。
司馬徽の漢中行きが決まった事を館の住人たちに知らせたところ、館の住人すべてが漢中行きへ同行するという事になったからです。
その為に船では全ての人数・荷物を運び切れず、分割する事になったのでした。
司馬徽は、運河を使って船でみんなと漢中へ直接行く行程。
ボク達は視察も兼ねて南陽郡へ北進、そこから西へ転進する陸路での漢中行き。
魏延を司馬徽たちの先導役と厳顔たちへの説明要員に任命します。
しかし、そんなボクの決定に魏延は強硬に反対しました。
『ワタシが何故、刹那様と別行動しなければならないのですか?!』とか聞き訳のない事を言い、『護衛を離れたら、計画が……』とか訳の分からない事をブツブツ
幾ら言っても聞き訳のない魏延に、ボクの代りにと諸葛亮が言いました。
『“焔耶さんだけ”が先方に顔が効きますし、ご主人様の御心を伝えられます。しかも“信頼しているからこそ”、他方の隊の指揮を任せるのでは?』と。
その言葉に魏延は、『任せてもらおう! 身命に賭けて隊を守り、任務を達成してみせる!』と、
魏延を手玉に取る諸葛亮の手腕に、ボクは名軍師の片鱗を見ます。
『ふふふ。これで、ご主人様の貞燥の危機は回避できました』と、諸葛亮は暗い微笑を浮かべながら据わった目で呟いていました。
ちょっと怖いです。
そういえば、史実では魏延と諸葛亮の2人って仲が悪かったような気がしました。
やはり、ここでも仲が悪いのでしょうかね?
仲良くしてくれると嬉しいのですが。
そんなこんなで決着がついたので、その後に馬車を張世平から購入して南陽郡へ向かったのでした。
ボクの愛馬・調和は馬車に繋がれるのを嫌がったので、ボクは乗馬です。
馬車の御者を呂蒙に任せて襄陽を出立してからは、これといった事件も無い平穏無事な旅路でありました。
そんな旅路に変化があったのは、襄陽を出発してから数日経ってからの事でした。
「
ボクは川端でうつ伏せに倒れていて動かない物体を見て、そう呟きました。
「亞莎。生きているかどうか、見て来てくれるかな?」
「はい。刹那様」
ボクは呂蒙に生死の確認をしに行って貰いました。
呂蒙は慎重に土左衛門へと近寄り、確認しています。
「あの~、大丈夫ですか……って、ええ?! 明命?!」
呂蒙が土左衛門の顔を仰向けにしたところ、見知った人物だったらしく驚きの声を上げました。
ボクは確認すべく、呂蒙に問いかけます。
「知っている人物なのかい?」
「はっ、はい。幼友達です。でも、どうしてこんな所に……」
「それは、その子が気付いてから聞けば良いでしょう。それよりも、近くに天幕を張ってその子を介抱して上げなさい」
「あっ?! そっ、そうですね! 分かりました」
呂蒙の知人はボクが介護をして、呂蒙達には近場で安全な所に天幕を張るように言いました。
天幕を張り終わって知人を寝かしつけた後、ボクは呂蒙に知人の素性を確認します。
話によると、この人物は周泰(字:幼平)という幼友達だそうでした。
呂蒙の故郷(豫州汝南郡富波)と周泰の故郷(揚州九江郡下蔡)は、州を跨ぐ事にはなるが隣の街と言って良い位の距離にあるとの事。
昔から自分達の村では互いに交流を持っていたらしい。
(周幼平といえば、史実では“豪傑”の名に相応しい人物だった筈。ここでは、随分ちっちゃい女の子ですねぇ)
呂蒙の膝元で看病されている周泰を見て、ボクはそんな感想を抱きました。
諸葛亮と
呂蒙が何度か手拭いで顔などを拭っている時に、周泰が目を覚ましました。
「……ここは?」
「明命! 大丈夫ですか?」
「え? ……亞莎?」
「ええ、そうよ。痛い所は無い?」
「うん。……大丈夫」
周泰は暫く
焦点が定まってきたのを確認出来たところで、ボクは周泰に詳しい話しを聞く事にします。
それによると、周泰の友人に蒋欽という人物がいるらしい。
その蒋欽が、周泰に一緒に水賊になろうと持ちかけてきたそうです。
周泰自身は賊に身をやつすつもりは無いが、さりとて友情も捨てがたい。
極まったところ、相談をしに呂蒙の家に行ったが本人は不在。
呂蒙の親から荊州長沙郡にいる親戚を頼りに仕官しに行った事を知らされ、自分も後を追って来たという経緯だそうです。
この付近に着いた時に、川で溺れている“お猫様?”を発見してお助けした。
川から
(誰も気が付かなかったら、どうなっていたのでしょうかね?)
そう持ってボクは、気が付いてあげられて良かったと思いました。
(しかし、先ほどから幼平さんのお腹がグーグー鳴っているのに、本人は気が付いていないのでしょうかね?)
ボクは言葉に出さずに周泰の腹の虫に疑問を抱いていると、それに気付いたのか呂蒙が問いかけます。
「ねえ、明命。ちゃんと食事は取っていた?」
「え?……そう言えば、暫く食べて無かったかも」
「はあ~。明命、だから動けなくなったのでしょう?」
「あぅあぅ。そんなことは……あるかも……です。」
呂蒙が問い質すと、周泰は観念したようでした。
「まあ。いま朱里たちが食事を作ってくれているから、それを食べると良いよ」
ボクは周泰に助け舟を出す為に発言しました。
「ありがとう御座います、刹那様」
「良いよ、別に。亞莎の大事な友達だからね、当然だよ」
呂蒙が我が事のように友人を気遣うさまが、ボクには嬉しかった。
「あわ……あ、あの、食事が……出来ました……です」
龐統が天幕へ入って来て、食事の用意が出来たと知らせてくれました。
照れてはいてもチャンと要件を伝える龐統に、ボクはとても癒されます。
ボク達は周泰を連れて、食事が用意されている場所まで行きました。
「はぅわ?! お猫様!」
諸葛亮が皆に配膳してくれたのを受けて『いただきます』と食事に取りかかろうという時に、いきなり周泰が叫び声を上げながら立ち上がって、
何事か? と見てみると、そこには1匹の子猫が居るのが見て取れます。
周泰の行動を不思議に思って、ボクは呂蒙に疑問を問いかけました。
「え~と、亞莎? 幼平さんは、猫好きなのかな?」
「……はい」
猫の所まで行った周泰は、喜々として自分の食事を冷ましながら猫に与えています。
周泰が与える餌を、猫は嬉しそうに食べていました。
おいしそうに餌を食べる猫を見ながら周泰は、『ハニャ~』とか言いながら締まりの無い喜色満面な笑顔を見せています。
暫くしてお腹が一杯になったのか、猫は食事を止めて丸くなって寝てしまいました。
「「「え?」」」
「明命?!」
猫の食事が終わった事を確認した周泰は、ほわほわした嬉しそうな満足顔をしながら地面に倒れていきました。
慌てて呂蒙が周泰の元へ駆けつけて行きます。
(自分事より猫を優先させるとは、ある意味凄いのでしょうねぇ)
そう思いながらボクは、周泰の好きな存在への献身さに感心してしまいました。
でも、猫好きに悪い人はいないって言いますけれど、このままで大丈夫なのでしょうか?
周泰さんの将来が、ちょっと心配です。
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無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
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