No.459800 IS学園にもう一人男を追加した ~ 34~37話rzthooさん 2012-07-26 16:38:04 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:2791 閲覧ユーザー数:2718 |
34話
投稿者SIDE
海上200mに銀の福音が破損した部位を薄緑の球体の中で直している。だが、そこに一発の砲弾が直撃し、爆発が起きる。
ラ 「初弾命中! 再度、攻撃を開始!」
ラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンの両肩に設置されたレールカノンが福音を襲う。そのシュヴァルツェア・レーゲンの姿は前の姿とは違い、レールカノンが左右に一つ。正面と左右には4枚の物理シールドをつけられている。これが、シュヴァルツェア・レーゲンの砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』である。
ラ (敵機接近が予想よりも早い! なんなんだ、この加速は・・・?)
初撃を与えた途端にレールカノンを避けながら、ラウラに接近。そして、福音がラウラを捉え右手を伸ばす。今のシュヴァルツェア・レーゲンは機動性には欠け、この攻撃は避けられない。だが、ラウラの口元が釣りあがり、次の瞬間には垂直に高速で降りてきたブルー・ティアーズによって福音は弾かれる。
ブルー・ティアーズもシュヴァルツェア・レーゲン同様、強襲用高起動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備している。六機のビットはスカート状に腹部に接続され、銃口が塞がれているため、スラスターとして活用。頭部には時速500キロを超える速度下でも反応を補うためにバイザー状の超高感度ハイパーセンサー『ブリリアント・クリアランス』。手に持つBTレーザーライフルは2メートルほどある『スターダスト・シューター』。
銀 『敵機Bを確認。排除行動に移す』
シ 「遅いよ!」
翼を開き、銀の鐘を使う瞬間にステルス機能で福音の後ろを取ったシャルロットの攻撃。散弾型のショットガン二丁での至近距離射撃。だが、それも決まったのは一回きりで二回目以降の攻撃は全て避けられる。そこから福音が銀の鐘で反撃するものの、リヴァイブ専用防御パッケージ『ガーデン・ガーデン』の物理シールド二枚とエネルギーシールド二枚で防ぐ。
銀 『優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先に』
福音が3人から距離を置くため、反対方向に加速。だが、そこに箒こと紅椿。そして紅椿が背に乗っている鈴こと攻撃特化パッケージ『崩山(ほうざん)』を装備した甲龍。
鈴 「逃がさないわよっ!」
その瞬間、海が爆ぜ、水しぶきが上がる。パッケージをつけたため衝撃砲が4つに増え、弾は前とは違い、赤い炎を纏ったような弾、熱殻拡散衝撃砲を福音に向けて、撃ち続ける。
箒 「はぁああぁっ!」
甲龍の背から離れ、福音に突撃し、刀を振り下ろすものの上空に避けられてします。
銀 『銀の鐘 最大稼動・・・開始』
両腕を左右に広げ、翼自身も外側に向ける。ぐるっと一回転すると、光弾の一斉射撃が行われた。
一夏SIDE
[ザザァン・・・ザザァン・・・]
(ここは・・・?)
波の音に白砂がしきる世界に、いつの間にか制服を着ている状態で俺は立っている。歩くたびに砂の音が響き、日を浴びた砂浜を踏む俺の足はだんだんと熱くなる。少し、歩いていくと目の前に白いワンピースに白い帽子をかぶっている少女を見つける。少女は鼻歌を歌いながら、くるぶしまで水に浸かり、風が少女の白髪を撫でる。
一 「・・・」
俺はなぜか、その少女に声をかける気にはならず、近くの流木に腰をおろした。
投稿者SIDE
シ 「箒! 僕の後ろに!」
福音の一斉射撃に必死に回避する。紅椿はエネルギー防ぐためをラファールの防御パッケージで守られている。だが、福音の連射攻撃にはシールドが持たず、物理シールド一枚が完全に破壊された。
セ 「援護しますわ!」
ラ 「こちらもだ!」
シャルロットを後退させるため二人が援護射撃。その攻撃に福音の足が止まり、鈴が福音に突撃する。
鈴 「足が止まればこっちのもんよ!」
銀 「La・・・」
だが、福音は放たれた衝撃砲を全て避け、さらには連結させた双天牙月を投げつけるが、それも銀の鐘によって弾かれる。
鈴 「うっ!」
双天牙月を弾いた銀の鐘の零し弾が鈴に命中。そのまま、落下していく。
箒 「鈴っ! おのれっ!」
刀を両手に福音に斬りかかる。だが、刀を両手で掴まれ、身動きが取れなくなった。
ラ 「箒! 武器を捨てて離脱しろ!」
ラウラの声はちゃんと箒の耳には届いたが、時既に遅く、銀の鐘のゼロ距離射撃が紅椿を近くの岩場まで吹っ飛ばされた。
一夏SIDE
少女を見ていてどれくらいの時間が流れただろうか。時間の流れさえもこの世界では感じられないが、少女の歌と波の音で時間さえも忘れてしまう。
一 「あれ?」
いつの間にか歌が終わり、少女が空に目を向いている。俺は気になり少女に近づいてみるが、少女は未だに空を見続け、俺も空を見上げる。すると、少女は・・・
少女 「呼んでる・・・行かなきゃ」
一 「え・・・?」
視線を隣に移すが、さっきまでいたはずの少女がいなくなっていた。
? 「力を欲しますか・・・?」
一 「え・・・」
声がしたほうを振り向くと、膝下まで海に沈めめ白の甲冑を身に纏い、大剣を逆手に海に突き刺す騎士がいた。その顔は下の部分しか見えず、表情が伺えないが、女性である事だけは分かる。しかも、背景はさっきの青空ではなく、夕日が地平線の半分顔を出している。
? 「力を欲しますか・・・?」
騎士からの二回目の質問に頷く。
? 「何のために・・・?」
一 「んー? 難しい事聞くなぁ・・・そうだな。友達・・・いや、仲間を守るためかな」
? 「仲間を・・・」
一 「なんていうか、世の中って色々と戦わないといけないだろ? 不条理な争いって結構多いぜ。そういうのから、出来るだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う、仲間を・・・」
? 「そう・・・」
騎士は静かに且つ、短く答える。
少女 「だったら、行かなきゃね」
一 「えっ?」
隣にはさっきいなくなったはずの少女がいて、俺の手を掴む。
少女 「ほら、ね?」
一 「ああ・・・」
そういえば、さっきの騎士に見覚えがあった。昔、日本に向け放たれたミサイル2341発を一人で破壊した。
白騎士に・・・
箒SIDE
箒 「ぐっ・・・」
岩場に叩きつけられ、体にキリキリと痛みが響く。上を向くと、福音と鈴を抜いた3人が戦っているのをセンサーで確認できた。
(・・・会いたい。一夏に会いたい)
未だに布団の上で寝ているだろう人物に会いたいと願う。私のせいで彼は傷つき、命の危険があるというのに・・・
箒 「いち、か・・・」
一 「なんだ?」
え!?っと目を見開くとそこには白式の第二形態『雪羅(せつら)』を装着した一夏の姿があった。
箒 「一夏? 本当に一夏なのか・・・?」
一 「ああ、待たせたな」
箒 「体は、傷は大丈夫なのか!?」
一 「大丈夫だ。戦える・・・みんなには止められたけどな・・・」
ケロッと笑う一夏は小さい箱を取り出し、私に渡す。
箒 「これは・・・?」
一 「今日は箒の誕生日だろ。だから・・・」
そう、今日は7月7日。その日は私の誕生日。
一 「誕生日おめでとう。箒・・・」
箒 「あ・・・」
てっきり、忘れていたと思っていたが、まさかのサプライズに驚く。箱を開けるとそこには・・・
箒 「リボン・・・?」
一 「せっかくだし、使えよ」
箒 「あ、ああ・・・」
一 「じゃあ、行ってくる・・・」
すると、一夏は立ち上がり、大型四機のウィングスラスターが追加された白式は飛び立つ。
一 「再戦と行くかっ!」
投稿者SIDE
一 「待たせたな! みんな!」
シ・セ・ラ 「一夏(さん)!!」
一夏の登場に驚く3人を放って、左腕に追加された武器 雪羅をカノンモードからクローモードに切り替える。1メートル以上にエネルギー爪が福音の装甲を斬り付ける。
銀 『状況変化。最大攻撃力を使用。敵機をレベルAで対処する』
福音は翼の砲口をこちらに向け、一斉射。
一 「雪羅 シールドモードに切り替える」
左腕のクローがキンッと音を鳴らして変形。零落白夜のシールドが光弾の雨を無効化する。
一 「うおおおっ!」
強化されたスラスターのおかげで二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)を可能にし、複雑な動きをする福音を追い詰める。だが、福音は翼を外側に向け、広域射撃を開始しようとする。つまり、セシリア達もその影響を受けることになる。
一 (くっ・・・守りきれるか)
一夏は皆の盾になろうと仲間の元へ飛ぶ瞬間、福音が赤い砲弾によって爆発する。
鈴 「何やってるのよ・・・あたし達はこれでも代表候補生なんだから余計な気遣いは無用、でしょ?」
衝撃砲を放った鈴が箒と共にやってきた。その鈴が俺と他3人に問う。
セ 「当たり前ですわ」
シ 「まだまだ一夏には負けられないし」
ラ 「嫁を守るのが私の務めだ」
一 「いや、嫁じゃないし・・・よーし、じゃあ行くか!」
一夏に続く4人。だが、箒だけがその場に残っている。
箒 (一夏・・・)
愛する人の背中を見て、守りたいと思う箒。その瞬間、紅椿から神々しい光りが溢れ出す。
箒 「な、なんだこれは!? エネルギーが・・・!」
画面には『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』と表示され、SEが全回復する。
箒 「これが、紅椿の単一仕様能力!」
一夏からもらったリボンで結んだ髪を揺らす。
箒 「よし・・・行くぞ、紅椿!」
箒も一夏達の後を追う。その時には、もう福音と戦闘していた。
白式のエネルギー残量はすでに10%しか残ってない。右手に握った雪片弐型の零落白夜と左腕の新装備である雪羅のシールドや荷電粒子砲が燃費の悪い白式にさらに悪化させていた。
箒 「一夏! 受け取れ!」
箒は一夏の手を掴み、絢爛舞踏を発動。紅椿を通じて白式にエネルギーが流れ込み、SEは回復する。
箒 「一夏。あいつを倒すんだ」
一 「おう・・・みんな行くぞ!」
【?の場所】
? 「反応ねぇな~・・・そこまで重要な奴なのかね?」
? 「さぁね。私も良く聞かされてないから・・・」
? 「たくっ あの爺どもは・・・」
金髪の女性とロングヘアーで口の悪い女性が巨大モニターに表示されているレーダーを見ている。画面には銀の福音と戦っている専用機持ち達。すると、この場に一夏より年下に見える少女がやってくる。
? 「何の用かしら・・・?」
? 「・・・」
金髪の女性の質問には答えず、キーボードを勝手に操作し、画面の右端に白式・・・一夏の姿が表示される。
? 「そういやぁ、お前はアイツを憎んでたなぁ」
? 「・・・織斑一夏」
静かに一夏の名を呼び、口元を吊り上げる。
? 「必ず、私の手で殺す。私が私でたるために・・・」
35話
一夏SIDE
一 「おおおぉっ!」
雪片弐型を福音にぶつけるも、腕ごと往なされる。俺はすぐに距離を取り、雪羅のシールドで福音の攻撃を防ぐ。
一 「ラウラ、頼む!」
ラ 「任せろっ!」
地に反動を抑える銃床を突きたて、レールカノンを福音に向けて発砲。その隙に俺が零落白夜で落とそうとするが避けられる。すると、福音は俺からラウラに目標に変え、レールカノンを避けながら、光弾をラウラめがけ連射する。
ラ 「くっ・・・」
機動性が低い今のシュヴァルツェア・レーゲンは避けられず、光弾の餌食になる。福音はさらに攻撃の勢いを増そうとしたが、セシリアがBTレーザーライフルで援護し、ラウラへの攻撃を止めさせる。
セ 「わたくしもおりましてよ!」
シ 「そして、僕の事も忘れられたら困るよっ!」
セシリアの後ろから両手に持ったサブマシンガンを撃ちながら突っ込むシャル。福音は反応できず防御の体制を取り、そこにセシリアがBTレーザーライフルで射撃を行う。
鈴 「もらったぁ!」
動きが止まった福音めがけ、双天牙月を投擲(とうてき)。それは福音に直撃し、同時にシャルとセシリアの攻撃から逃れる。福音は現空域を離脱しようと加速するが・・・
箒 「逃がす前に落とすっ!」
箒が福音を追撃し、激しくぶつかり合う。セシリアとシャル、そしてラウラが援護。俺もカノンモードで援護し、鈴と一緒に接近。
一 「鈴っ!」
鈴 「分かってるわ!」
鈴が衝撃砲を撃ち、箒と周りの援護も合って福音を押さえつける。福音はすぐに鈴の拘束を抜けるが、その隙を箒は見逃さない。
箒 「これでっ・・・!」
刀を福音に振り下ろし、福音は刀を両手で掴み防ぐ。だが、これこそが箒の狙い。
箒 「そう何度も同じ手をくうかっ!」
刀を離し、足から展開装甲のエネルギー刃が出現。体を縦に回転させ、かかと落としの様に福音の片翼を落とす。
箒 「一夏! 今だっ!」
一 「もう逃がさねぇー!」
クローモードの零落白夜の爪でもう片翼を落とし、こちらも零落白夜の雪片弐型で福音を叩きつける。大ダメージを負った福音は海に真っ逆さまに落ちていき、戦いの終わりを告げるように月が雲から顔を出す。
箒 「終わったな・・・」
一 「ああ・・・」
鈴 「何言ってるのよ」
セ 「まだ、獅苑さんの捜索が残っていますわ」
シ 「あと、福音の操縦者も」
一 「ん? 獅苑がどうしたんだ?」
ラ 「ああ、実は・・・」
ラウラが説明を始めようとした途端、ISから警報が鳴り響く。それと同時に月はまた雲に隠れ、辺りが薄暗くなる。
一 「な、なんだ!?」
箒 「一体・・・まさか!?」
箒だけじゃなく、みんなも何かに気づいたように福音が落ちたほうを見る。俺もみんなに流され、視線を下にやると・・・
一 「っ!?」
海が膨れ上がり、そこから福音を中点に球状の物が出てくる。
ラ 「まずい! これは、第二形態移行(セカンドシフト)だっ!」
ラウラの言葉に全員が息を呑む。やっとの思いで福音を倒したというのに、さらに強化され、復活した福音と戦闘する力は残っていなかった。
銀 『キアアアアアッ!!!』
咆哮と共に福音の翼が切断された頭部にエネルギーの翼が生える。次の瞬間にはエネルギーの翼を広げ、エネルギーが福音の頭上に集まり、荷電粒子砲ほどの威力を持つ攻撃をこちらに向けて放つ。
シ 「みんな離れてっ!」
シャルがみんなの前に出てエネルギーシールドを出すものの、すぐに撃ち破られ、シャルに直撃する。
一 「シャル!」
鈴 「一夏、危ない!」
シャルがやられた事に気が福音から離れてしまって、今度は福音が俺に向かってシャルを撃ったのと同じ攻撃を放つ。
一 「くっ! 雪羅!」
俺の呼びかけに雪羅がシールドモードに変形し、攻撃を防ぐ。その隙を狙ってセシリアとラウラが攻撃を多方向からしかけるが、さらに機動力の上がった福音には一発も当たらず、セシリアに接近。そして、エネルギーの翼でセシリアを包み込み、ゼロ距離から銀の鐘を受けて、翼が開かれた時にはブルー・ティアーズは戦闘不能。ラウラも銀の鐘の弾雨を受けて、戦闘続行は不可能となった。
一 「くそっ・・・箒! さっきのやつを!」
箒 「分かったっ!」
俺はもう一度、箒にSEを回復してもらおうとするが、福音がそれをさせまいと銀の鐘で攻撃を仕掛けてきた。
一 「これじゃ、箒に近づけない・・・」
さらに福音は箒だけをターゲットとして両手両足のスラスターによる瞬時加速を使用して箒に接近し、翼で包む。箒は逃れる事が出来ず、セシリアと同様に紅椿のSEが尽きた。
一 「よくも、俺の仲間をっ!」
二段階瞬時加速を行いつつ、零落白夜と荷電粒子砲で福音に攻撃するが、その全てが避けられ、追いかけっこが続く。だが、特に零落白夜はSEの消耗が激しく、エネルギー切れを起こし荷電粒子砲 共々 使用不能になる。
一 「がはっ!」
福音が俺の顔面を掴み、近くの孤島に叩きつける。下が砂浜だったため衝撃はあまり来なかったが、福音が距離を取り、翼を広げ、とどめの一撃を決めるための準備に入る。
(くそっ、くそくそっ! 結局、俺は守れないのか・・・みんなを、仲間を・・・!)
エネルギーが福音の頭上に集まり、放出される。俺は目を瞑り、終わったと自覚する。
一 「・・・あれ?」
だが、いくら待っても俺に向けて撃たれた攻撃は来ず、俺は目を開けて、福音を見る。だが、福音の姿は俺には見えず、エネルギーの光とその真ん中にある球状の物体が俺の目に写る。
一 「あれは・・・ISコア?」
球状の物体と教科書に載っていたISコアが俺の頭の中で照らし合わせると、その姿は瓜二つ。だが、なぜISコア本体が俺の盾なったのかは分からない。そう悩んでいると、コアがだんだんと球状から菱形(ひしがた)状に変化していく。この菱形も教科書で見たことがある形。ISが第二形態になる時、ISコアも球状から菱形に変形し、その輝きはより増すと書いてあったが、今その瞬間に俺は立ち会っている。
福音は攻撃をやめ、そのISコアの解析を行っている。だが、ISコアは福音の周りを旋回し、光の帯を出現させ、福音を縛り付ける。福音が光の帯を振りほどこうと暴れるが、効果はなく、ISコアはそのまま俺の方に近づき、動きを止める。
一 「一体、何なんだ・・・!?」
ふと、海面をみると、人型の何かがゾンビのように海から這いずり出てくる。そして膝下まで出てきた所で俺はその人物が誰なのかがわかった。制服を着ていることからIS学園の生徒、さらに、制服は男子用。つまり、該当する人物は・・・
一 「獅苑っ!?」
36話
獅苑SIDE
今から10年前。俺が小学1年のときだ。
(めんどいな~、学校・・・)
その時の俺は生きる事にあまり実感が持てなかった。心配をかけないよう親の前では表に出さないが、さすがに丸一日演技するのはとてもつらい。親の愛を踏みにじるわけではないが、入学初日からこんなに体が重苦しくなるものだとは思わなかった。
(幼稚園の時は活発な子って言ってたけど、覚えてないんだよね・・・)
道を曲がり、小さな公園の傍を通る。
(ん? なんだ、またか・・・)
最近、よく見るようになった虐め現場。2人の男子に3人の女子が1人の女子を囲んで物を投げつけ、時には髪を引っ張る。俺にしては関係のない事だが、面倒な事に この公園を通らなければ家にたどり着けないのだ。いつもだと、俺が来る頃にはすでに虐めは終わり、その少女がうずくまっている所を素通りするのだが、今日は何かと過激なのか、人数も多い。
(まぁ、どうでもいいか・・・)
俺は気にせず、その現場を通る。
男子2 「おい」
案の定、目をつけられてしまった。男子2人は俺の前後に立ち、俺の行く手を阻む。
(まぁ、予想はついていたが・・・)
獅 「邪魔・・・」
男子1 「おいおい、僕にそんな口を聞いていいのか? おれはこれでも大企業の息子なんだよ」
男子2 「そうだそうだ。ここを無断で通ろうなんて、礼儀がなっちゃいないよな」
いや、いつも通ってるんだけどね・・・
女子1 「それにしても、この子は馬鹿よね~」
一人の女子がうずくまっている少女に足で軽く小突く。
女子2 「そうよね~。私達に会って早々、『金持ちが威張っちゃ駄目なんだよ』、だってさ~」
女子3 「笑っちゃうよね~!」
つまり、ここにいる5人は皆、俗にいう金持ちの子供って事か・・・
(ずいぶん、ひん曲がった子供だな・・・父さんと母さんが知ったら、キレるだろうな・・・)
子供好きな反面、曲がった事が嫌いな父さんと母さんがこいつらを見たら、絶対その親をぶん殴るだろうな。昔に軍隊で訓令した事があるって聞いていたから、ボディーガードの一人や二人は軽く倒せるだろう。なんで軍隊で訓練していたか知らんが・・・
(そういえば、父さんと母さんの昔の事は聞かないでくれとか言ってたけど、どうしてだろう・・・?)
男子2 「おい、聞いてるのか!?」
獅 「あ・・・」
男子2 「あ・・・じゃねぇよっ! なに? 俺達を舐めてるの?」
女子1 「もういいんじゃない。こいつもこの子の様にしちゃえばっ」
女子2 「あ、それいいね~」
女子3 「じゃあ、ちゃっちゃとやっちゃおうよ~」
ワイワイと騒いでいる皆は、それはそれは欲しい物を楽しみに待っている子供らしい顔になっている。
男子1 「まぁまぁ、虐めるだけじゃつまらないでしょ・・・君だってこの子みたいに虐められたくないでしょ?」
少女の髪を掴み上げながら聞いてくる。その時、少女と目が合うがすぐに視線を逸らされる。
獅 「・・・」
少女の目には何らかの意思が篭っており、俺はそれに魅了された。なにも夢を持たない俺が、ここまで目の光が輝いてる子を見るのは初めてだった。俺は少女に近づき、その頬を撫でる。
獅 「綺麗な目をしてるな」
少女 「え・・・?」
少女はいきなりの事に目を見開く。
男子1 「おいおい、僕を無視して誘惑かい?」
よく6歳の子供が誘惑って言葉を知っているな・・・
獅 「・・・」
俺は男子の言葉を無視し、少女の頬を撫で続ける。弾力のある肉に砂まみれだが、肌はすごくスベスベだった。
男子2 「おい! 無視してんじゃねぇ! おふっ!!」
後ろから殴りかかろうとした男子を後ろを向いた状態で足を後ろに振り上げ、男子の股間に命中。男子は地にうずくまり、声が出ず、吐かれる空気だけが悲鳴をあげている。その男子に心配そうに囲む4人。少女は髪から手を離されて、地に突っ伏す。
獅 「お前、可愛いな・・・」
少女 「ふぇっ!?」
今度は大きな声で驚く。
男子1 「どうやら、君にはお仕置きが必要だね」
悶絶している男子を女子3人が立たせ、残った男子がかけていた眼鏡をクイッとあげる。すると、ポケットからフォールディングナイフ(折り畳み式のナイフ)を取り出し、刃を出してチラチラとこちらに見せ付ける。
男子1 「これすごいでしょ。僕の名前が彫ってある。お父さんの友達に誕生日にもらったんだぁ」
獅 「・・・」
男子1 「あれ? どうしたのかな~、怖くて声も出せない? だったら、そこに座って土下座でも」
そう言う頃には俺は男子の前に立ち、ナイフを持っていた手を掴む。
男子1 「な、なんだよ? 離せよ」
獅 「刃物を簡単に出すって事は・・・」
掴んだ手首を曲げ、刃先をこちらに向ける。
獅 「どういう事か分かっているな」
男子1 「え?」
グサッと俺の肩にナイフが突き刺さる。俺は始めて感じる激痛に涙が出そうだったが必死で我慢し、不敵な笑みを浮かべる。男子は状況についていけず、ポカンとしていたが、俺の血が出る肩を見て、だんだんと顔が真っ青になっていく。
男子1 「う、うわぁああぁっ!」
ナイフから手を離し、地面に倒れこむ男子はそのまま、公園を出て走り去っていった。
獅 「お前達は・・・?」
女子1 「きゃああああぁ!!」
女子2 「見せないでーっ!!」
男子2 「ば、化け物~っ!!」
女子3 [失神]
抜いたナイフをチラつかせて言い放つと、3人で気絶している女子を担いで逃げていってしまった。逃げた奴らの姿が見えなくなると、俺の体から力が抜け、膝をつく。
少女 「大丈夫!?」
獅 「・・・なんとか」
少女はすぐにハンカチを取り出し、俺の傷口を塞ぐ。
少女 「なんで、こんな無茶するの? もしかしたら、死んじゃうかもしれないのに・・・」
獅 「・・・さぁ」
死ぬ事はないだろうが、子供にしては異常な行動だった事は俺自身も理解している。俺は抑えてたハンカチを手で押さえ、立ち上がる。
本(獅 「動いちゃ、「気にするな・・・あと、ハンカチ明日返す、名前は?」・・わ、私は布仏本音、だけど・・・」
獅 「じゃあ、布仏。またな・・・」
本 「あ・・・」
そそくさと公園から退散する。後ろを向くと、布仏は手を小さく振っていて、俺も振り返す。すると、振り返されたのがよほど嬉しかったのか、今度は元気良く手を振っていた。
(よくよく考えてみれば、俺はあの時から本音が好きだったのかもしれないな・・・)
目を開くとそこは黒。上下左右ともに全て黒一色の場所。
獅 「体が痛くないな・・・ここは、地獄か?」
天国には見えないこの場所を勝手に地獄だと決め付ける。
? 『ここは地獄じゃないよ』
獅 「っ! 誰だ!?」
体を起こし、周りを見渡す。
? 『ごめんね。僕は君みたいな体を持っていないから、今は出られないんだ。直接、脳に声を送ってるけど・・・気分悪くない?』
獅 「あ、ああ・・・」
なんか妙に相手を気遣う奴だなと思いながら、体の緊張を解く。
獅 「ここはどこだ?」
? 『う~ん、簡単に言うと、ここは君の心の中だよ』
獅 「心の中・・・じゃあ、お前は俺自身だとでも言うのか?」
? 『ちょっと違うけどね・・・』
答えは分からずまま、とりあえずその場に座り込み、頭を整理させる。
? 『考え込んでいいのかな? その間に君の大事な人達が死んじゃうよ』
獅 「何!? どういう事だ!?」
勢い良く立ち上がり、周りに響かせるように叫ぶ。
?(獅 『でも、安心して。君が好きな子じゃなくて、専用機持ちの人たちの事だから「誰がなんて関係ないっ! どうしてあいつ等が危険なんだ!? 一夏と箒は無事なのか!?」・・そんな、慌てないで。ちゃんと、説明するから・・・』
【説明中】
獅 「そうか、一夏が・・・」
? 『うん。でも、もう復活しているみたいだよ。白式のおかげでね・・・あ、理由は聞かないでよ。僕も知らないから・・・』
獅 「分かった・・・それで、俺はどうすれば帰れるんだ? あいつらの元に」
? 『・・・戻りたい?』
獅 「ああ」
一夏達が危ない時にこんな所で止まってる訳にはいかない。
? 『元の世界に戻れば、きっと苦しむよ』
獅 「別に、覚悟の上だ」
? 『もしかしたら、今回みたいに死んじゃうかもしれないんだよ?』
獅 「なら、強くなればいいだけだ」
すると突然、声の主が笑い出す。
? 『はははっ・・・君には逃げる選択肢がないみたいだね』
獅 「一夏だってそう言う筈だからね」
? 『そうかもね・・・じゃあ、行こうか?』
すると、目の前が光に包まれ、俺の体から痛みが生じてくる。
? 『それが、君が受けた痛み。元の場所に戻ったら、もっと痛くなるから気をつけてね』
気をつけてねって・・・そんなんで片付けるのか?
? 『元の場所に戻りたいって言ったでしょ。それに僕が君に力をあげるんだから、今度こそ勝ってよね』
獅 「当たり前だ」
? 『うん♪』
獅 「ん・・・」
気がつくとそこは洞窟のような場所。俺はそこに打ち上げられて、寝そべっている。
獅 「ここは・・・?」
? 『海底洞窟だよ。死戔が連れて来てくれたんだよ』
獅 「・・・いたのか?」
うん♪ と、嬉しげに答える。すると、どこから現れたのか、光を放つ球体が俺の目の前に現れる。
獅 「これは・・・ISコア?」
? 『そうだよ。僕はコアそのもの。君が僕に命をくれて生まれたんだ』
だが、死戔のISコアは死戔に搭載されている。じゃあ、このISコアは・・・?
獅 「まさか、アリーナを襲撃した・・・」
? 『そう。あの時、君が倒したISのコアだよ』
3機の黒いISを撃破した際、1機のISコアを取り除いた。あの後、先生に渡そうとしたが、なぜか手元にはなく、どこかで落としたのだろうと思ってたのだが・・・
? 『死戔が僕を持っていたんだよ。どうしてか分からないけど、そのおかげで僕は命を授かって、君とこうして会話が出来る』
獅 「死戔が・・・じゃあ、死戔もお前みたいに」
? 『ううん。死戔は確かに意思をもってるけど、僕みたいに喋ったりしないよ。それに、意思をもっているのはコアじゃなくて機体の方だけど、今はもうコアと機体が同調しちゃってるけど・・・』
俺は体が痛みながらも寝ていた体制から、座る体制になり、岩に寄りかかる。そして、腰につけた黒いチェーンを取り外し、手に乗せる。
? 『僕が思うに、もしかしたら、死戔は君のために作られた機体なのかもね』
獅 「俺の・・・ため・・・」
だが、あの篠ノ之束や、政府の人間がそんな事をするとは思えないが・・・どうでもいっか。
獅 「でもまぁ、相棒らしくていいな」
? 『じゃあ、その相棒と一緒に銀の奴を倒そうよ♪ もちろん僕も戦うからね♪』
すると、海中に向かうISコア。体を引きずりながら、水面を覗くと、早く来いと言わんばかりに海の中でグルグル回っている。
獅 「元気だな・・・あれ?」
死戔を展開しようとするが、反応がない。
(まさか、潜って行けと・・・? 無理だろ)
そう思っても、死戔はうんともすんとも言わない。俺は諦めて、転げ落ちるように海の中に入る。だが、なぜか海の中で息が出来る。
? 『僕が連れて行ってあげるよ』
つまりはこいつの力で息ができるって事だ。すると、ISコアが超スピードで潜っていくのと同時に俺の体も後ろから押されるように加速する。
(ここは、深海なのか・・・?)
? 『そうだよ。君が水圧の影響を受けずにここまで来たのは死戔のおかげだし、後でお礼言うんだよ』
(分かったよ・・・つまり、今も水圧の影響がないのはお前のおかげか・・・?)
? 『そうそう。だから、僕にもお礼言ってね♪ この戦いが終わったら』
(気が向いたらな・・・)
潜ってから1分後、降下していた体が、上昇する。まだ、暗闇で周りが見えないが、だんだんと薄明かりの光が俺の目に映る。だが、次の瞬間に海が爆発し、俺はISコアと離れる。
? 『あ!』
(福音の流れ弾か・・・)
息が出来なくなり息苦しくなるが、近くに小島があり、いい感じにその小島に流される。
一 「獅苑っ!?」
右腕だけで、這い上がるとそこには形に変化した白式を纏った一夏がいて、俺を支える。ふと、後ろを見ると、こちらも翼がエネルギー状に変化した福音が拘束されており、菱形状態のコアが俺に近づいてくる。
? 『無事だったんだね、良かった』
獅 「まぁな・・・」
一 「・・・」
一夏がポカーンとしてる。まぁ、そうなるわな・・・
一(獅 「な、なんで、コアが喋って「その話は後だ。今は福音だ」・・だ、だけど、俺達はもうエネルギー切れで戦えない。お前だって傷だらけじゃないか!」
獅 「そんなもの大したことはない・・・だろ?」
? 『うん♪』
軽快に返事をした事を確認して、一夏に離れるように腕で一夏を下がらせる。
獅 「行くぞ、死戔」
今度はちゃんと展開された死戔。装甲はボロボロで、SEも回復したものの、かなり少ない。とても、戦える感じではないが・・・
? 『じゃあ、行っちゃおうかっ!』
獅 「ああ」
自然と、痛んでいた左肩が上がり、ISコアを握り締める。
[キュイインッ!]
甲高い音と光と共に、突如起きた突風に一夏は吹き飛ばされる。
セ 「これは、一体・・・?」
鈴 「もしかして、獅苑なの・・・?」
鈴がセシリアに肩を貸して、俺に寄ってくる。別の場所では、遠目から見てくる残り3人。
シ 「今のって、獅苑君だよね・・・」
ラ 「良かった・・・生きてた・・・」
箒 「獅苑・・・」
シャルロットが箒を支えて、ラウラが泣き崩れ、箒は目に涙を浮かべている。
そして、光が集束してくる時に、福音は光の帯の拘束を引きちぎり、銀の鐘で襲撃する。
一 「獅苑っ!?」
辺りは砂煙が立ちこめ、獅苑の状態が分からない。すると、風と共に砂煙が晴れ、中から・・・
獅 「こういう時は、変身が終わるまで待つもんじゃないのか? 簪が言ってた、ヒーローみたいに上手くいかないものだな・・・」
一対の黒翼が大きく広がり、威厳を感じさせる。背には黒翼と二本の対艦刀。そして、頭部にライオンをモデルにした顔と、その後ろには風は吹いていないのに髪のように揺れる黒いチューブ。チューブの中には、緑色の光が心臓の鼓動のように見え隠れする。
銀 『キャアアアッ!』
危険と感じた福音は、咆哮と共に最大攻撃を放つ福音。
獅 「フッ・・・」
俺は痛みの消えた左腕をあげ、光線を受け止める・・・いや、吸収する。
銀 『!?』
獅 「・・・ご馳走様」
うろたえた福音は、今度は爆発的な加速で接近する。俺は福音が目の前に現れた時に、次は右手をかざす。
? 『インパクトカノン 30%チャージ』
獅・? 「『鉄槌(てっつい)』!」
俺とコアの声が重なると、右手からエネルギーが噴き出し、福音を海に引きずられながら向こう側の島まで吹っ飛ばす。
一 「す、すげぇ・・・」
セ 「あんな火力を出す兵器なんて、始めて見ますわ・・・」
鈴 「もう無茶苦茶ね・・・」
一夏達が何かを言っているが、気にしない。俺は翼を広げ、福音の元へ飛び立つ。
ふと、俺の手の平に視線をやる。
獅 「これが、俺の力・・・」
手の平には右手、左手にISコアが少しだけ露出している。これが、左手がエネルギーを吸収し、右手が死戔の体内にあるエネルギーを、コア直通で撃ち出す。これぞ死戔の第二形態、『闇門(あんもん)』
獅 「さて、相手はまだまだ、元気そうだな」
? 『いいねいいね♪ 楽しみだね♪』
福音がめり込んだ壁を粉砕し、飛び出てくる。
銀 『敵レベルをSと断定。敵ISを解析・・・解析の結果、現空域の離脱は不能。銀の鐘の使用は効果なし。近距離戦闘は危険』
静止しながら、作戦をプログラムから探し出す。俺は背中の対艦刀を両手に持ち、刃をクロスさせて構える。
獅 「じゃあ、始めるか・・・」
37話
投稿者SIDE
月が昇る空に、銀と黒がぶつかり合う。目で追いつけないほどの戦闘に専用機持ちは面食らう。ただでさえ、機動性の高い福音と、さらにスピードが上がった死戔との戦い。二者がぶつかり合う度に空には小さい火花が花火のように散る。
銀 『キャアアアアッ!』
? 『インパクトカノン 15%』
獅・? 「『花天月地(かてんげっち)』!」
福音の銀の鐘の雨と、死戔の右手から一斉に花が咲くエネルギーレーザーが、月光の下、死戔の手前でぶつかり合う。すると、福音は無意味だとプログラムで判断したのか、攻撃をやめる。その隙を狙って獅苑が突撃する。
獅 「おらっ!」
対艦刀二本で斬りかかるが、かすり程度で軽傷。だが、獅苑の顔は笑っていた。
? 『気分はどう?」
獅 「・・・最高だ」
気分が乗ってきた獅苑は、さらにスピードを上げ、福音を追い詰める。福音は獅苑の攻撃と機動力に防戦一方で反撃には出られない。
? 『む~、以外とタフだね・・・』
獅 「なら、もう終わらせるか」
? 『OK! じゃあ、スタンバイするよっ!』
対艦刀を福音に投げつけ、その内の一本が突き刺さる。
? 『スタンバイOK! いつでもいいよっ!』
福音が対艦刀を抜くのに戸惑っていると、死戔の装甲に刻まれている深緑のラインが徐々に赤に変色してくる。こちらも、頭部につけられているライオン型のバイザーの目が、緑から赤に変わり、髪のチューブから赤い粒子が溢れ出す。
獅 「これで、決める」
海面に降りた獅苑は両手をかざし、投げつけた対艦刀と、福音に翼に刺さった対艦刀を呼び戻す。手に収まった対艦刀を背に戻し、黒翼が畳まれ、獅苑は拳を海に向ける。イメージは瓦割りの体制。
獅 「はっ!」
海面に拳が打ち込まれ、水しぶきが上がる。そして、水に包まれた死戔の場所から赤い光が膨れ上がり、弾ける。
? 『アフタリミジン』
獅 「狼男(ランカン)」
姿を現したのは、獣。二本の対艦刀の内、一本が尻尾のようにつけられ、もう一本が背から頭に、角の様に装着してる。黒翼は折り畳まれ、タテガミになっている。
獅・? 「『さぁ、狩りの始まりだっ!』」
二人の声が重なった時、死戔の姿が消える。次の瞬間には福音は斬られる。片腕の袖から三本のBソード、Bブレイクに・・・
獅・? 「『ほら、来いよ・・・』」
銀 『敵のレベル、測定不可能。直ちに戦線を離脱』
獅・? 「『逃がすかっ!!』」
もう片腕からBブレイクが出て、まさに獣の爪の様に福音を切り裂く。
銀 『迎撃』
福音から銀の鐘が撃たれ、死戔が撃ち込まれる。
? 『残念・・・それは、残像』
そう言うと、死戔の残像は靄(もや)の様に消え、戸惑った福音に高加速で近づいた死戔に近くの砂浜に叩きつけられる。
? 『インパクトカノン 30%』
獅・? 「『鉄槌っ!』」
死戔の手の平と砂浜のサンドイッチになる福音。ゼロ距離インパクトカノンを喰らった福音はもがきながらも、SEが尽きて動きを停止する。
獅 「・・・疲れた」
獅苑はISを解除し、その場に座り込む。すると、福音は強制解除され、操縦者である金髪の美女が福音と同じ体制で眠っている。
? 『おつかれ・・・』
獅 「・・・おつかれ」
千 「作戦完了・・・と、言いたいところだが、お前達は重大な違反を犯した」
全 「はい」
花月荘に戻ってきた一夏達は千冬のお叱りの下、大広間で正座されている。箒達は命令違反、一夏は勝手に出撃した事、だが、なんの罰も科せられていない獅苑だけが、この場にはいない。
千 「帰ったら、反省文の提出。懲罰用の特別トレーニングが用意されているから、そのつもりでいろ」
戦いに疲れ果てた専用機持ちは、疲れを我慢して聞いている事に千冬は気づいているにもかかわらず、キツイ言葉をぶつける。正座の苦手なセシリアの顔色がだんだん、青くなり始めてるのを見て、真耶がおろおろしながらも意見する。
真 「あ、あの、織斑先生・・・もう、そろそろこの辺で・・・みんなも疲れていることですし・・・」
千 「ん・・・そうだな」
皆の顔から笑みが零れ、セシリアは足を崩す。
千 「・・・」
セ 「あ、すみません・・・」
千冬の視線に、セシリアはまだ足を崩してはいけないと悟り、すぐに足を戻す。
千 「あ、いや、足は崩していい・・・」
セ 「は、はい」
歯切りのない千冬に疑問を持ちながら、セシリアは千冬の言葉に甘える。千冬は専用機持ちを順々に見て、照れくさそうに頭を掻く。
千 「その、なんだ・・・よくやった。・・・」
全 「え・・・?」
千冬の頬の赤みが増す。
千 「全員、よく帰ってきた。ゆっくり休め・・・山田君、後は頼む」
真 「は、はい・・・」
顔を赤くしている千冬はズカズカと、呆けてる一夏達を横を通り、大広間から出る。
獅 「・・・下手」
[ゴチンッ]
廊下に出ると、部屋の様子を伺っていたであろう獅苑の発言につい頭を殴ってしまう千冬。
獅 「怪我人にやる事ですか?」
殴られてもケロッとしている獅苑の姿は、浴衣の襟から左腕を出し、その左腕はギプスをはめられ、首から吊るされている。顔や服で見えないところも包帯が巻かれ、半ミイラ状態。
千 「お前なら問題ない。そこまで、口がきけるならな」
獅 「そうですか・・・」
つい殴ったとは言えず、もっともらしい事を言って、獅苑は諦め顔で引き下がる。
千 「それより、アイツには会ったのか?」
獅 「本音の事ですか? もちろん、会いましたよ。ボロクソ言われましたが・・・」
獅苑が医務室に運ばれ、治療が終わった後に本音の頭突きを腹に喰らわされ、本音は拗ねながらも和解した様だ。その代わり、この事は楯無に報告するという条件で・・・
楯 『ふぅん、また無茶したんだ・・・会えるのが楽しみね』
と、言い残して、電話を切られた時の獅苑の顔は若干、青がさしていた。
千 「おい、どうした?」
獅 「い、いえ、なんでも・・・」
千 「お前も休め。一番、お前が重症なんだ」
獅 「はい」
千冬は背を向けて、去っていく。だが、すぐこちらを振り向き・・・
千 「一夏を助けてくれて、ありがとう。姉として礼を言う」
礼儀のいいお辞儀をし、今度こそ去っていった。獅苑は千冬の姿が見えなくなるまで、その場に立ち続け、消えた頃にその場にいたもう一人が獅苑に話しかける。
? 『どうしたの?』
獅 「いや、俺が女だったら、惚れてたのかな~って・・・」
? 『・・・』
獅 「黙るな」
【食堂】
遅れた夕食に、机に座っている。セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ。その周りに、福音の事を聞きたがる女子達が群がっている。
相 「結局、何だったの? 福音の暴走の原因って?」
鷹 「詳しく教えて。先生達、何も教えてくれなくて・・・」
このように食い下がってくる事、10分。それでも、専用機持ち達は自分達の立場を考えて、必要以上の情報は口に出さない。
シ 「だーめ。機密って言われてるんだから」
鈴 「だいたい、あたし達だって詳しい事は聞かされてないし・・・」
ラ 「それに、詳細な情報を知れば、お前達にも行動の制限がつくぞ。いいのか?」
ラウラがそう言うと、やはり監視がつけられるのを嫌がって、女子達は引き下がる。
セ 「そういえば、一夏さんの姿が見えませんけど・・・」
一緒に食事を取っていたはずの一夏がいつの間にか、姿を消していた。
谷 「そういえば、篠ノ之さんもいないね」
[ダンッ]
いきなり、席に座っていた4人が立ち上がり、その場を立ち去る。
相 「これはまた・・・」
谷 「お熱い事で・・・」
鷹 「大丈夫かな? 織斑君・・・」
一夏SIDE
一 「ふぅ・・・」
海から上がって、頭を叩いて耳の中の水を抜く。水が殆ど取り除き、近くの岩場に腰をおろす。
食後の後、俺は軽い休憩を取ってから旅館を抜け出し、夜の海に出ていた。
(そういえば、夢を見てた気がしたけど・・・どんなんだっけ?)
目覚めた時には、はっきりと覚えていた事が、今はおぼろげにしか夢の内容を覚えてない。その内容がとても自分にとっては大切な事だと思えて、必死で思い出そうとするも思い出せず、モヤモヤが俺の胸の中に溜まっていく。
箒 「一夏?」
一 「ん? 箒か・・・」
箒に声をかけられ振り向くと、白のビキニを着た箒の姿があった。箒自身、ビキニなど好き好んで着るはずがないのだが、露出面積が多い水着姿に、目が行ってしまう。
箒 「そ、その・・・あまり、見ないで欲しい・・・」
一 「す、すまん・・・」
すぐに視線と体を逸らし、胸の高鳴りを抑え付ける。だが、そんな状態になっている事は知らず、箒は俺の1メートルぐらいの間を空け、隣に座る。
箒 「・・・」
一 「・・・」
この沈黙が気まずい空気を作り、主に精神的に苦しい。目を閉じれば、箒の水着姿が浮かび上がり、胸の鼓動が早くなる。
一 「え、えーと・・・だな」
箒 「う、うん・・・」
何か言え、俺っ! と、願いながら、復活した箒のポニーテールに目につく。
一 「そうだ、髪! 大丈夫か? 少し燃えてたろ」
箒 「あ、ああ・・・だが、大事無い。その、リボンも新しいのをもらったしな・・・それより、どうだ? この水着・・・」
恥ずかしいのだろうか、顔を俯かせ、水着をできるだけ隠すように聞いてくる。
一 「うん。いいんじゃないか」
箒 「本当かっ! 良かった・・・」
バッと上げた顔には笑みがこぼれていて、グッと両手を握り締める。
一 「そういえば、昨日、海で見かけなかったけど・・・」
箒 「こ、これは、勢いで買ってしまって、いざ、着ようとすると・・・恥ずかしくて、だな・・・」
そういう事かと納得する。それにしても、やっぱり水着を見られるのが恥ずかしいのか、さっきはこちらを向いたが、また向こう側に体を向けて、目を合わせない。
すると、今度は箒から話を振ってきた。
箒 「それより、お前の方はもう平気なのか? 怪我していたはずだろう?」
一 「ん~? 気づいたら治ってた。だから、気にすんな」
箒 「そんな馬鹿な事がっ・・・本当だ。跡も残ってない・・・」
箒が俺の肩を掴んで、月の光で俺の背中を確認する。
一 「まぁ、治ったからいいじゃないか」
箒 「よくない! お前は私のせいで怪我をしたんだぞ! 一歩間違えたら、命を落としたかもしれない! だからっ・・・そんな簡単に許されると、困るのだ・・・」
一 「・・・」
どうも、俺が怪我をさせた事を責任に思って、だいぶ切り詰めていた様だ。この様子だと、獅苑の事も同じ風に思っているのだろう。
一 「じゃあ箒、今から罰をやる。目を閉じろ」
箒は罰という言葉に反論の一つもなく、俺の言ったとおりに目を閉じる。顔に緊張で強張っており、俺は素直すぎる箒に、ちょっと噴きそうになった。
箒 「何を笑っている。早くしろ・・・」
一 「ほいほい・・・」
[ピンッ]
俺は箒の額を指で弾く。箒は目を開き、これで終わりか? と、目で聞いてきている。
一 「おう。これで終わりだ」
箒 「なっ・・・ば、馬鹿にしているのか!」
一 「まぁまぁ、落ち着け。興奮するな」
笑顔で返したら、余計に箒を腹立たせ、こちらに身を乗り出す。
箒 「黙れ! 私は武士だ! 誇りを汚されて落ち着いてなどっ!」
俺に乗りかかってくる箒の胸が俺の腕で沈む。不覚にも顔を赤くしてしまった俺を見て、箒は感づく。
箒 「!!!」
バッと俺から離れ、腕を組むように胸をおさえる。
箒 「そ、その、なんだ・・・」
一 「?」
途端に歯切れの悪くなる箒。胸を押さえたまま、次の言葉を発する。
箒 「・・・意識するのか?」
一 「はい?」
箒 「い、異性として、私を意識するのかと、訊いているのだ・・・」
ボソボソと声を出している箒は、顔から耳まで真っ赤になって、恥ずかしそうにしている。すると、箒は俺の手を掴んで、自分の胸に導く。俺の手に柔らかい感触が伝わり、全身が硬直する。
箒 「どう、なんだ・・・?」
一 「・・・」
俺は嘘もお世辞もなく、ギギギッと首を縦に振る。
箒 「そ、そうか・・・そう、なのだな」
密着した状態で、箒と目が合う。心臓の鼓動がさらに早くなり、箒の瞳に吸い込まれる様に放棄の顔が近づく。
月光に照らされた二人の影は、重なり合う。だが、それはただ影が重なり合っただけ。実際には・・・
[ゴンッ]
一 「え?」
額に堅い物がぶつかり、顔を上げる。そこには黒い穴。いや、銃口と言った所だろうか。しかも、それには見覚えがある。
一 「ブルー・・・ティアーズ?」
その瞬間、銃口から光が集束し始め、危険を察知した俺は頭を引っ込める。
一 「危ねぇ!!」
俺の頭上をレーザーが通過し、俺の髪を焼き切る。冷や汗をかきながら、おそるおそる目線を上に向けると、そこには四機の専用機。つまり、4人の専用機持ち達が下にいる俺達(主に俺)を見下ろしている。
ラ 「姿が見えないと思えば・・・」
シ 「一夏、何やってるのかなぁ・・・?」
鈴 「よし、殺そう・・・」
セ 「ふふっ ふふふふふ・・・」
ラウラは腕を組み、シャルはサブマシンガンを片手に、鈴の目には光がなく、セシリアの笑いは思わず身震いしてしまう。
一 「ひっ! ほ、箒! 逃げるぞっ!」
箒 「お、おい、一夏・・きゃあっ!」
俺は交渉は不可能だと確信し、箒の抱きかかえ走り出す。後ろからはブルー・ティアーズのレーザーを連射してくるセシリアを筆頭に、追って来る。
鈴 「待ちなさい、一夏っ!」
シ 「心配したのにっ!」
セ 「もう勘弁できませんわっ!」
ラ 「私の嫁としての自覚が足りんっ!」
一 「う、うわぁあああぁっ!!」
獅苑SIDE
花月荘の屋根の上。一夏達の様子を遠目から、本音と共に見物している。
獅 「ぷっ・・・」
本 「あ~、今笑った~。笑ったらオリムーが可哀想だよ~」
獅 「そう言う本音も、ずっと笑ってるぞ」
本 「えへへ~」
本音の体を膝の間にいれ、本音の頭に顎(あご)を軽く乗せる。
本 「どうしたの~?」
獅 「・・・なんとなく、ね」
顎に乗せたまま、本音を抱きしめる。
獅 「本音・・・」
本 「なぁに~?」
獅 「・・・ただいま」
本 「おかえりなさい。獅苑くん・・・」
? 『二人とも、熱いね~・・・・』
"・・・その夜・・・"
投稿者SIDE
束 「ふっふふ~ん・・・」
月明かりに照らされて、岬の柵に腰掛ける束は、空中投影ディスプレイに紅椿のパラメータを表示させ、子供の様に微笑む。
束 「紅椿の稼働率は絢爛舞踏を含めても42%かぁ。まぁ、こんなもんかなぁ・・・じゃあ、次々っと」
束がちょいっと手を動かすと、新たなディスプレイを出現する。そこに表示されてるのは、福音との戦闘を繰り広げている白式の第二形態。
束 「それにしても、驚くなぁ。まさか操縦者の生命再生まで、可能だなんて・・・まるで」
千 「まるで、『白騎士』のようだな。コアナンバー001にして、お前が心血を注いだ一番目の機体にな」
音もなく、束に近づいていた千冬が木に体を預ける。
束 「やぁ、ちーちゃん」
千 「おう」
だが、束は振り向かず、千冬も腕を組み、束の方は見ない。
でも、この二人には相手の表情を見なくても分かるほどの信頼、友情・・・いや、絆がある。
束 「ちーちゃんに問題! ジャジャンッ」
千 「・・・いきなりだな」
束 「はははっ、誰も束さんの行動は予測できないのさっ!」
海から3メートルほどの高さ足を放り出した状態で、両腕を広げる。だが、千冬はそんな事は気にしない。
千 「問題は・・・」
束 「あ、そうだった。じゃあ、改めて・・・ジャジャンッ」
束のポリシィーなのか、クイズの効果音を再度、声に出す。
束 「白騎士は一体、どこに行ったでしょうかぁ?」
千 「・・・白式(びゃくしき)を白式(しろしき)と呼べば、それが答えなんだろう?」
束 「ピンポンピンポーンッ! さすが ちーちゃん! 白騎士を乗りこなしていただけの事はあるね」
かつて白騎士と呼ばれた機体は、コア以外を解体され、第一世代機の作成に大きく貢献した。そして、そのコアは、とある研究所襲撃事件を境に行方が分からなくなり、いつしか そのコアは白式に組み込まれた。
束 「じゃあ、例えばの話だよ。ちーちゃんの一番目の機体『白騎士』と、二番目の機体『暮桜(くれざくら)』が、コア・ネットワークで情報のやりとりをしていたら、同じ単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が開発されても、不思議じゃないよね」
千 「・・・そうかもな」
つまりは、白騎士のコアを搭載した白式に、零落白夜の能力を持った暮桜の情報を共有したら、もしかしたら単一仕様能力が白式の中で開発されるかもしれないという事。
千 「じゃあ、今度は私が例え話をしてやろう」
束 「へぇ・・・ちーちゃんが、例え話って珍しいね」
千 「とある天才が一人の男子の高校受験場所を意図的に間違いさせる事ができるとする。そこで使われるISを、そのときに動けるようにして、本来、男が使えないはずのISを動かす事ができる状態する。それを、誰かに目撃されれば、世界初の男のIS操縦者が誕生する」
束 「ん~? それだと、継続的に動かないよねぇ・・・」
千 「そうだな。だが、現実にはその男子は今でもISを動かす事ができる・・・どうなんだ? とある天才・・・」
束 「どうなんだろうね~・・・実のところ、私もなんで、白式が動いているのか分からないんだよねぇ。いっくんはIS開発に関わってないのに・・・」
千 「まぁいい。次の例え話だ・・・とある天才が、大事な妹を晴れ舞台にデビューさせたいと考える。そのために必要なのは、妹用の専用機と、どこかのISの暴走事件だ。暴走事件に際して、妹が乗る高性能機を作戦に加える。妹は華々しく、デビューというわけだ」
束 「へぇ、すごい天才もいたもんだね」
千 「ああ、すごい天才がいたもんだ・・・だが」
千冬は木から体を離し、束の背中に体を向ける。束もそれを察知して、にやけていた顔が真顔になる。
千 「この二つの例え話には、天才がよきせなかった事が起きた」
束 「あらら・・・」
千 「一つ目の例え話には、ある男子生徒が本気で、試験会場を間違え、意図的に誘導された男子生徒と接触。そして、ISに触れ、一緒に世界初の男のIS操縦者になる」
束 「・・・」
獅苑なら、受験場所を寝ぼけて聞いて、間違える可能性が十分に高い。
千 「二つ目の例え話では、その男子生徒の作戦参加がなければ、暴走したISのリミッターは解除されず、そいつなしで、暴走ISを止められたばずだった」
束 「・・・」
風が二人の髪をなびかせ、崖に波が当たる音が響き渡る。
千 「教えてもらうぞ。お前が知っている朝霧獅苑と、死戔の事を・・・」
千冬の言葉に束は体を千冬の方に向け、向かい合う形になる。数秒間、見つめあい、束の口から長いため息が出される。
束 「はぁ~、本当は話たくないんだけどね・・・じゃあ、まずはあのISの事ね」
束は手元の空中投影ディスプレイを千冬に飛ばす。
千 「これは・・・」
表示されていたのは死戔のスペックデータ。だが、そのスペックデータと、今の死戔の性能には天と地の差があった。
束 「それは、前のデータ。私があのISを見つけた時のデータだよ」
千 「前・・・何処で見つけたんだ?」
束 「ただの研究施設だよ。ちょっと暇だったから、ぶっ壊しちゃって・・・」
千 「はぁ、やりすぎるなって、言っただろう・・・まぁいい。それで、そこで死戔を見つけたのか?」
束 「そうだよ。私はすぐにそのISを調べたら、スペックは下の中。武装はたかが機銃だけ・・・私はすぐにそのISをスクラップにしようと思ったんだけど・・・」
千 「だけど・・・?」
【回想】
束 「あ~あ、こんなもんか・・・はいはい、君はスクラップ行き~っと・・・」
薄暗い一室に機材やら、いっぱい置かれている。その場に束とガラクタ山に投げ込まれた、初期設定状態の死戔。
束 「あ、そろそろ、いっくんがテレビに出る頃かな~」
ピッとリモコンのボタンを押すと、天井からディスプレイ画面が降りてきた。そこには一夏の顔写真と、獅苑の顔写真が映し出され、ニュースのタイトルに【世界初、IS男性操縦者 しかも二人!!】と出されてる。
束 「・・・誰、こいつ」
本来は一夏だけが、ニュースに出されるはずだった。束は自分の考えた作戦に異物が混入した事に、どこから出したのか、拳銃を片手に獅苑の顔写真を撃ち抜く。
死 『ォォォォォォッ』
束 「!?」
ISコアを搭載してないはずの死戔がゆっくりと束に近づく。
束 「な、なんなのよ こいつっ!」
拳銃を死戔に向かって連射するが、装甲が少し凹むだけで動きは止まらない。
死 『ォォォォォオオオオッ』
雄叫びが大きくなり、束の首を絞めようと手を伸ばす。
束 「もう、しつこいっ!」
束は手元のレバーを勢いよく降ろす。すると、死戔の天井が ガコンッと音を鳴らし、頭上からガラクタの山が降って、死戔を下敷きにする。
死 『ォ・・ォォッ・・・』
死戔は下敷きになりながらも、束に近づこうとしている。すると、未だ映像を映し出していた画面の拳銃で撃ち抜かれていない場に、獅苑の写真が映し出される。
死 『・・・』
獅苑の顔を見入るように眺め、番組が終わると共に死戔の活動は止まった。
束 「なんなの・・・一体?」
【回想終了】
千 「ISが自ら動いただとっ!?」
束 「うん・・・でも、その後動かなくなっちゃったから、お返しに設定弄繰り回したよ」
という事は、死戔があんな滅茶苦茶な性能になった原因は、束のやり返しによる物だった。
千 「じゃあ、操縦者保護機能を不完全なものにしたのも、拡張領域(バススロット)の機能を消したのは、お前だな」
ISの搭乗際、死戔がどれだけ早くても、光以上の速さに到達しなければ、全身骨折にならないと、理論上では言われている。ちなみに、瞬時加速は、空気重圧がいきなり体にかかり、無理矢理軌道変更を行うと、骨が折れてしまう事はある。
そして拡張領域だが、白式の場合、雪片弐型の零落白夜によって、全て使われてても納得はいくが、死戔の場合は、Bソード二本と、バルカン。これだけの武装で拡張領域を全て使われているのは、おかしいと千冬は思っていた。
束 「機能の方は、完全に取り外しといた筈なんだけどね。今じゃもう、あのIS自ら操縦者保護機能を開発しちゃったし・・・拡張領域に関しては何も弄ってないよ。というか、あのISには存在してないし」
千 「何? じゃあ、あのISは・・・」
束 「そうだよ。あれは白騎士と同じ、第一世代機だよ」
千 「・・・まぁ、それはもういい」
束 「いいの? もっと食いつくかと思ったのに・・・」
千 「私が聞きたいのは別の事だからな」
もちろん、死戔が第一世代機で、その機体が専用機持ちの第3世代機に圧勝している時点、驚くべきことなのだが、今の千冬にとっては優先して聞くべき事があった。
千 「昼の事は覚えているな。あの時、お前は一夏に言ったな。もう一人の方は分かった、と・・・」
束 「駄目駄目っ! ちゃんと、よん♪ も、付けないと・・・」
千 「・・・」
束 「ごめんごめんっ! ふざけないで ちゃんと説明するからっ! その手を下ろして、ね?」
千 「・・・さっさと話せ」
束 「ふぅ・・・じゃあ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」
千 「そこそこにな・・・」
千冬は普通に答えるが、この程度では話をごまかせられない。それを一番、束は知っている。
束 「でもさ、そこそこに楽しい 今の世界にも、憎い人はいるよね・・・例えば、親とか」
千 「っ! おい・・・」
束 「ほら、怒らない怒らない。教えてあげないよ」
千 「くっ・・・」
千冬は昔、一夏が物心つく前に共に両親に捨てられた。そのため、千冬と一夏には両親の事はタブーとなっている。それは、事情を知っている篠ノ之家や、親交のあった全員が知っていた。
束 「私だって、口に出したくないよ。ちーちゃんといっくんを捨てた奴らの事なんか・・・でもね、私はもっと許せない奴がいるの」
千 「・・・まさか、朝霧か?」
束は何も言わずに頷く。
千 「どうしてだ? アイツがお前に何かしたのか?」
束 「何もしてないよ・・・でも、存在するだけで、殺したくなる」
千 「じゃあ、何故だ。お前は朝霧の何を知っているっ!」
千冬の叫びが夜空に響き渡り、数秒の沈黙。そこに一陣の風が吹き、束の口が開く。
束 「ちーちゃん、アイツはね、――――――――――――――――――――― 」
千 「っ!?」
風によって、束の声はかき消されるが、千冬の耳には一語一句違わず、届いた。
束 「でも、すぐには殺さないから、安心していいよ。大事な教え子だもんね・・・またね、ちーちゃん♪」
千 「おいっ! もっと詳しく・・・」
風を束が生み出したかのように、風に乗ったゴミが千冬の目に入る。
千 「・・・くっ」
風が止んだ時には、束の姿はなく、千冬はその場に膝をつく。
千 (朝霧・・・お前は一体・・・)
【?の場所】
? 「で、どうなの?」
? 「はーいはいはいっ! もう少しで完成しますよ~!」
金髪の女性が特殊ガラス越しに"何か"を見ている中、細身でビン底眼鏡をかけ、見るからにイカれてそうな白衣を着た男が物凄い速さで、キーボードを打っている。
? 「こちらも、ターゲットは補足したわ。後は時期が来るまでね」
? 「そうですかっそうですかっ! ついに、私の作品が表舞台に出るのですね~っ」
? 「ふふふっ じゃあ、よろしくね」
女性は男の研究室から出て、外に待っていた柄の悪い女性と合流。
? 「あんなイカれた野朗に任せて大丈夫なのか?」
? 「腕は確かよ。篠ノ之束のISがなければ、世界のトップになっていた科学者だから」
? 「あいつが、ね~・・・」
? 「それより、そっちの仕事は終わったの?」
? 「ああ。イギリスのBT二号機『サイレント・ゼフィルス』 アメリカの『アラクネ』はちゃんと手に入れたぜ。今頃、政府の奴らは慌てているだろうな」
? 「そう・・・じゃあ、次の出撃まで待機してて。私にはまだやるべき事があるから・・・」
金髪の女性は、去り際に口を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべていた。
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