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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 四十話

すれ違う心の行き場所

2012-07-25 23:29:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4734   閲覧ユーザー数:4336

とある砂漠の世界

 

ヴィータは目の前で倒れる巨大なヘビのような生物を前に肩で息をしているような状況だった。

 

ボロボロになり、頭部からも血が出ている。

 

アイゼンを杖代わりにして砂丘を登っている。

 

「痛く……ねえ……こんなもん……」

 

自分に言い聞かせるように痛む体を引きずっていく。

 

「カリフ……アタシは三匹だけだったからよかったけど……アイツはきっと……」

 

甘ったれるな、そう自分に言い聞かせながら途中でカリフと別れ、カリフが魔法生物の大群と迎え撃った場所へとやっとの思いで辿り着いた。

 

そして、そこでヴィータが見たのは……

 

「……まあ、予想はしてたけどよ……」

 

あまりに目の前の光景が異質過ぎた。

 

自分でさえ三匹同時に手間取ってしまうほどの生物。

 

それを十匹くらいを一度に相手取り、その全てが生きているか死んでいるかも分からないほどにブチのめされて倒れている。

 

そして、そんな死屍累々の光景の中心には群れのボスと思わしき一際巨大なヘビが牙を折られて倒れている。

 

その頭の上に『そいつ』はいた。

 

大の字になって寝転がる姿はまさに風来坊のように大胆で、豪胆だった。

 

様子を見るに、相当前から決着を付けたのか眠りも深いように見える。

 

そんな姿にヴィータは歯を噛みしめた。

 

自分も『鉄槌の騎士』と称され、古代ベルカ時代の時にはほとんど敵なしだった。

 

そんな自分が苦戦させられる相手を目の前の少年はいともたやすく下した。

 

そして、少年への切望と自分の弱さになお悔しさに支配される。

 

「……情けねえ」

 

自嘲して、ヴィータは痛む体にムチを打ってカリフの元へと向かって行った。

 

 

フェイトたちと仲違いしてから数日が経っていた。

 

カリフはもう失う物はないと言わんばかりに蒐集に力を入れていた。

 

また、蒐集した生き物を後で調理して食べるのもまた一つの楽しみとしていた。

 

そして、今もこうしてギリギリの所まで生かし、蒐集を終えればこのヘビもどきを食す。

 

そう、やることはいつもと変わりない。

 

「遅かったな、ヴィータ」

「うっせぇ、ちょっと遊んでたんだよ」

 

気配で感じ取り、カリフが身を起こして目を向ける先にはボロボロのヴィータがいた。

 

ヨロヨロと今にも転びそうな足取りで向かって来た。

 

もう疲労がピークになっているのが目に見える。

 

カリフは溜息を吐いて進言した。

 

「今日はこんなもんでいいだろ。蒐集が終わったら先帰ってシグナムと交代しろ」

「な、なんだよそれ……アタシはまだ……」

「今日はもうお前は使いもんにならん。いても邪魔になるだけだ。この程度のやつに時間をかけるなんてな」

「うっせぇ! まだやれるつってんだろ!」

 

言い方が気に入らなかったのか、ヴィータは食ってかかるが、カリフが真顔で言った。

 

「お前はオレよりも脆い……それだけではやてに心労をかけるぞ?」

「そ、それは……」

 

はやてのことを引き合いに出すと弱くなることは既に熟知している。

 

もうこの手はカリフの十八番となっていた。

 

「それに、今回はやりすぎたかもしれん……他の猛獣がオレをあからさまに避けていきやがる」

「それはお前のせいだろ……」

 

やっぱり撤退はこいつの原因か……そう思いながらも溜息を吐きながらヴィータは闇の書を開いて蒐集を開始した。

 

そして、蒐集した獲物は即座にカリフが食らいつき、一瞬で骨の髄までしゃぶりつくされることとなった。

 

蒐集よりも捕食する時間が早いっていうのはどうだろうか……

 

ともかく、全ての生物の蒐集が終わり、獲物が骨だけになって砂漠を埋め尽くした。

 

カリフは口周りに付いた血などを拭い去って腹を満足そうにさする。

 

「うし、じゃあ一旦帰って休んで再開だ」

「はぁ……勝手にしろよ」

 

好き勝手やって去っていくスタンスのカリフにもう諦めたヴィータは再び歩き出そうとする。

 

ヴィータが歩きだそうとしたときだった。

 

「あう!」

 

靴ひもが切れて前のめりに倒れた。

 

戦闘とダメージでの疲労にヴィータの体はほぼ限界に近かった。

 

「ちくしょう……」

 

自分で起きようとしても思うようにはいかず、砂漠に倒れ伏すばっかりである。

 

もどかしい自分に歯嚙みしていると、ヴィータに影がさした。

 

「ほれ、じっとしてろ」

「え?」

 

その瞬間、ヴィータは突然腕を引っ張られて宙を舞った。

 

「うわ!」

 

そして、ポスっと柔らかい感覚に包まれて着地した。

 

「おら、動くな」

 

そう言われて咄嗟に瞑ってしまった目を恐る恐る開けてみる。

 

すると、そこにはいつもの仏頂面が自分を見下ろしていた。

 

「……は?」

「じゃ、シャマルと合流して傷治してもらえ」

 

しばらくは何が起こっているのか理解できていなかったヴィータだったが、しばらくして理解した。

 

体を支える固い腕の感触で現実味を覚えた。

 

「あ、ぁ……」

 

まさか……これははやてによくやっているような……

 

俗に言う、お姫様だっことか言う奴か……

 

 

 

 

 

 

「だああぁぁぁぁぁぁ! 離せぇぇぇぇ!」

「黙れ」

「うぐ!」

 

状況を飲み込んで顔を赤くさせて暴れようとするも、カリフのデコピンで制された。

 

常人よりも強いデコピンに脳を少し揺らされて、言葉を遮られてしまう。

 

「この抱き方の方が肩に負担もあまりかからねえから楽なんだよ」

「それでも今は背中にしてくれ! 頼む! しがみつくだけの体力くらいあるからよぉ!」

 

恥ずかしさのあまりジタバタと暴れるヴィータにカリフも溜息を洩らした。

 

「分かった分かった。たく、人の好意を無視しやがって……」

「相手を選んでくれ……」

 

そう言って背中におぶり直してカリフは砂漠を歩く。

 

やっと落ち着いたヴィータは少しの安心からか無言になった。

 

しばらくは砂漠を黙々と歩いていると、ヴィータが背中越しに話しかけてきた。

 

「なぁ……一ついいか?」

「……」

「お前……本当に大丈夫か?」

「なにが?」

「あいつら……高町なんとかって言う奴等と……その……」

 

なんだか言い辛そうにするヴィータの話からカリフは再度溜息を吐いた。

 

「またそれか……別にいいよんなもん……これがオレの決めた道だからな……」

「でも……普段のお前ならさ、そこで問答無用にぶっとばしちまうんじゃねえかと……」

「……」

「……わりぃ。言い過ぎかもしんねえ……」

 

流石にこれは無神経だったかと無言のカリフから感じたヴィータは弱々しく言ったが、その後のカリフの言葉は意外だった。

 

「いや、そう思われるのは当然だ。オレはそう思われるだけのことをしてきたんだ……それに……」

「……?」

「ああいう風に扱われる方が性に合っている……今更人に好かれようなんて虫が良すぎる話なんだよ」

 

初めてだった。

 

背中越しではいつもと同じように語るカリフがなんだか自嘲しているように聞こえた。

 

ここまで弱々しく見えたカリフをヴィータは知らない。

 

「でも、オレは約束を違えない……オレはフェイトやなのは……はやてに連なる奴らを守ると……プレシアと約束したからな」

「な、なんでだよ……あいつ等はお前の都合も聞かずに好き勝手言いやがったんだぞ!? そんな奴等なんて見限っちまえよ!」

 

想いの全てをカリフに投げつけるが、カリフはいつも通りの口調で言った。

 

「オレは人にチヤホヤされるために約束を貫くんじゃない……オレがオレであるための挑戦だからな」

「挑戦? それは一体……」

 

言っている真意が分からないヴィータが質問しようとするが、ここでカリフが先に言った。

 

「オレにも……怖い物がある……そういうことさ」

「……」

 

あまり答えには結び付けられそうにはない回答だが、それがカリフなりの答えなんだろう。

 

そして、再認識した。

 

カリフはただ腕っ節の強いだけの少年ではなかった。

 

豪胆の裏に隠されていたのは愚かしいほどの健気さがあった。

 

誰よりも大胆で、誰よりも儚い少年だった。

 

「……」

 

ヴィータは背中に顔をうずめて、一つだけ願った。

 

 

 

 

夜中、ヴィータはプレシアを含む皆を集めて砂漠での一連の会話をシグナムたちに話した。

 

カリフはバイトに行き、アリシアははやてと共に就寝している。

 

そして、ヴィータは話し終えると、皆は顔を俯かせた。

 

「なぁ、もうカリフを極力巻き込ませたくないんだよ……でねえとあいつは本当に独りになっちまう……」

「えぇ……もとはと言えば私の責任でもあるのよね……私はヴィータちゃんに賛成」

 

プレシアはヴィータ側に付くが、シグナムとザフィーラが続けた。

 

「だが、カリフが素直に聞き入れるとは思えん……奴は約束を重んじる奴だからな……」

「シグナムと同意だ。そんな奴の誇りを汚すような真似はしたくない……」

「分かってる……けどよぉ……」

 

やりきれない……本当はカリフ自信に決めてもらうことが重要なのだが、絶対に止まりはしないだろう。

 

そんな気持ちをどうやって傷つけずに諭すか悩んでいた。

 

そこへシャマルが意外にも自信づいて言った。

 

「あの、そのことなんだけど……考えがあるの」

「なに? 本当か?」

 

意外な申し出にシグナムが聞くと、シャマルがいつもよりも自信を孕んで言った。

 

「えぇ、とは言ってもあまり蒐集させないだけで、主にはやてちゃんやアリシアちゃんの護衛って位置づけになるけど……」

「充分だよ! それならはやても安心じゃねえか!」

 

一縷の光にヴィータは自分のことのように嬉しくなってシャマルに詰め寄った。

 

そんなヴィータに少し圧されながらもシャマルは微笑んで言った。

 

「まあ、カリフくんは納得しないようだけど言い訳というか……これからの効率を考えるとカリフくんは出ない方がいいと思うの」

「……? どういうことだ?」

 

ザフィーラが分からないと言った様子で尋ねると、シャマルは答えた。

 

「それはね……」

 

 

 

 

夜が明け、朝の八時くらいに帰って来たカリフはシャマルと話していた。

 

ソファーの上で学校みたいにシャマルの話を聞いていた。

 

「オレを避けてる?」

「えぇ、ここ数日の蒐集具合でグラフを作ってみたんだけど……」

 

シャマルが卓上にディスプレイを出して棒グラフを見せる。

 

それをカリフが覗きこむと、シャマルが説明した。

 

「この棒が蒐集した量……効率とするわね?」

 

ここでいくつかに並べられたデータを一つ出して一つをピックアップした。

 

「これが私たちで行った蒐集量で、こっちが……」

 

もう一つのグラフを隣で提示すると、明らかな差が見て取れた。

 

それは新しく出たグラフが明らかに効率が小さいからだ。

 

「これは?」

「カリフくんが同行したときよ。理由は……」

 

そこまで言われると、明らかに心当たりがあったカリフは頭を抱えた。

 

「あぁ……オレの威嚇が……」

「えぇ、生物がカリフくんの気配を察知して出て来なくなっちゃったの……Sランクの生物までも……」

 

なんとも稀有な状況にシャマルも苦笑して頭を抱えるカリフを見つめる。

 

「最初の頃は大量だったけど、あれで警戒されちゃったから……」

「マジかよ……」

 

まさか、強さがこんな所で足枷になろうとは……どんなことでも度が過ぎれば毒となるという良い例だろう。

 

だからこそ、納得がいかなかった。

 

「じゃあオレにどうしろと? このまま指咥えてくすぶっていろと?」

「そういうことじゃないのよ。これからははやてちゃんとアリシアちゃんの護衛を頼めないかしら?」

「はぁ?」

 

ますます納得がいかない様子でシャマルに返すが、それを手で制す。

 

「お願い。そもそも魔導士がはやてちゃんの周りをうろつかれるのは不味いのよ。家のセキュリティも怪しまれちゃうし」

「……」

「こう言っちゃあ難だけど……こっちの方がはやてちゃんにとっても重要なのよ……ね?」

 

駄々っ子を諭すような母親のような母性溢れるお願いにカリフもイラっとしながらも真剣に考えて不本意そうに折れた。

 

「……分かったよ……まったく……」

「うん、ごめんね?」

「いい、ここで意地張っても約束を確実に守れるという保証はない……後悔しないためにも甘んじてやる……」

 

シャマルは説得に成功したことに安堵して一息吐いた。

 

そして、壁掛け時計を見て時間を確認する。

 

「それじゃあ私はシグナムたちのサポートに行ってくるわ。カリフくんはプレシアさんと一緒にね?」

「早く行ってこい……」

 

拗ねているような口調のカリフに少し微笑ましさを感じたシャマルはクスリと笑って転移魔法陣を足元に展開させる。

 

そして、それを見届けながら緑の光と共にリビングから姿を消した。

 

残されたカリフはしばらくはソファーの上でたそがれ、時計の秒針の音を聞いていた。

 

はやてはアリシアとプレシアと共に買い物へ行っている最中である。

 

プレシアなら大丈夫だろうと確信しているカリフは起き上がって家へと出た。

 

無駄に時間を消費するのは望んではいなかったから適当に歩き回ることにした。

 

家の門を出て、何気なしに散歩する。

 

今日は休日であり、最近ではクリスマスに向けて商店街も街も活気づいている。

 

だが、今はそんな気分ではないカリフは人気のあまりない土手に向かった。

 

すぐ近くの土手で手頃な場所を見つけて寝転がった。

 

しばらく眠ろうと思った矢先だった。

 

「カリフくん?」

「え? あ、本当だ」

 

聞き覚えのある声に視線を向けて一言。

 

「ちっ……」

 

舌打ちして面倒くさそうにまた視線を外して仰向けになる。

 

それに我慢できなかったのが一人いた。

 

「何よその反応! 鬱陶しいって言いたい訳!?」

「分かってるんなら帰れ。今はんな気分じゃねえ」

「んですってぇ!?」

「ア、アリサちゃん。落ち着いて、ね?」

「すずかは甘すぎ! こいつにガツンと言わなきゃ!」

 

もう分かる通り、なのはたちの級友であり、親友であるアリサとすずかがそこにいた。

 

荒ぶるアリサを宥め、すずかがカリフに語りかけてきた。

 

「あの時のお鍋以来だね? またやろうね」

「その内な……」

 

優しく語りかけてくるすずかに少しだけ返し、見向きもしない。

 

そんな様子にすずかとアリサは顔を見合わせて表情を曇らせた。

 

「もしかして……なのはたちと何かあった?」

「は? あいつ等がなんだって?」

 

アリサの一言に体を反転させて問いかけると、二人は「やっぱり……」といった感じになった。

 

「学校で二人共あんたの話すると目に見えて暗くなるのよ。本人は隠してるつもりなんだろうけどね」

「二人共何も言ってくれないし、なんだか深刻そうだったから……喧嘩したの?」

 

すずかの一言にカリフは思わず吹いてしまった。

 

「そんな程度だったらあの二人も気にしねえよ。文字通り仲違い……オレとあいつらじゃあソリが合わなかったってだけだ」

 

笑いながらの話にアリサは思わずカチンとなった。

 

「なんでそんなこと言えるのよ。あの二人の様子じゃあ仲直りを待っているって感じよ?」

「それでも、人には相性ってのがある。今回はそれが合わなかったって話だ」

「じゃあ面と向かって話したことある?」

 

そう言われると……カリフは思い返した。

 

「ない……な。前はあいつ等もまともそうには見えなかったし……オレも言いそびれたこともある」

「それってフェイトちゃんたちにとってどんな話?」

「多分……あいつが喜びそうな話」

 

そこまで言うと、アリサはおろかすずかまでもが呆れてしまった。

 

「呆れた……じゃあ今すぐ話しなさいよ。もしかしたら仲直りできるかもしれないじゃない」

「何もしないで喧嘩しちゃうなんて駄目だよ……」

「ふん……」

 

二人はそこまで言うが、カリフはまた笑った。

 

しかし、その笑みは鼻で笑うような嫌みな笑みでなく、どこか自嘲に見えた。

 

「いいさ。これがあいつのためかもしれねえ……できればこのままオレのことなんて忘れちまった方が幸せかもしれねえぜ?」

「……なんでそう思うの?」

 

少し怒った様子のすずかは強めに言うが、カリフは動じることなく土手の坂から身を起こした。

 

「さっきも言っただろう? 人の関係は相性による。合わない奴と無理に付き合っても泣きを見るだけだ」

「そんなこと……」

「今の今までオレの生き方、考え方に同調する奴なんか一人もいなかった……他人からしたらオレを孤独と憐れむかもしれねえけど、オレは違う。それをオレは誇りにさえ思っている」

 

カリフは吹き注ぐ冷たい風を一身に浴びて髪をなびかせる。

 

「一つしかない思想……誰も共感しない己だけの真実……これこそがオレ独自の考えであり、オレがオレである証明の一つだ……周りに同調されない思想はこのカリフだけの物だ……ってな」

「……」

「どうだ? お前等には理解できたか?」

 

そう言われると、二人は首を横に振る。

 

「つまりはこういうことだ……結局はオレの考えは人には理解されない……きっとあいつもオレを理解できないだろう」

「でも……あんたはそれで……」

 

アリサがどこか悲しそうに聞くが、カリフは沈みゆく太陽に気付いて身を起こした。冬は昼が短く、夜が長いのだから……

 

「なんか妙な話しちまったな……疲れてんのか? オレ」

「ちょ、ちょっと! まだ話終わってないわよ!?」

「終わったんだよ」

 

立ち上がって自分たちに目もくれないカリフにアリサが再びいきり立つが、カリフは無視して背中を向けて帰路に帰る。

 

まったく聞く耳を持たないカリフにアリサは牙を向け、言い放った。

 

「アッタマ来た! こうなったら意地でもあんたたちを仲直りさせて、あんたと友達になってやるんだから!」

「……幻聴が聴こえたか……そろそろやべえかも、オレ……」

 

訳の分からないことを怒りながら豪語するアリサに頭を抱えながらマジでやばいと自分の体を心配する。

 

だが、その後にすずかが続けた。

 

「たとえ考えが違っても、友達にはなれるよ! だって私たちとこんなにお話できたんだから!」

「……」

 

すずかに続いてアリサが最後に言い放った。

 

「まずはあんたの言う『無理』なんて幻想を壊してあげる! あんたを絶対に独りにはさせないんだから!」

 

もう好き勝手のたまう二人に本気で頭痛を感じ、その場から聴覚を遮断してその場を去った。

 

二人が見えない所まで歩き、つけられてないことを気配で確認して独りごとを言った。

 

「この世界にはおかしい奴ばっか……」

 

こんな時、どんな顔をしたらいいか……行き場の無い感情を胸にカリフははやての家へと向かって行った。

 

 

 

同時刻、別世界では事態は急激に変わっていた。

 

以前にカリフが乱獲した砂漠世界。

 

シグナムはそこでの蒐集の最中にフェイトと出会い、一戦交える。

 

だが、前とは違ってフェイトが押されていた。

 

「どうしたテスタロッサ! こんなものか!?」

「ぐっ!」

 

シグナムの斬撃の嵐にフェイトは防御に撤するだけの防戦一方だった。

 

時々、スピードを活かして攻撃するも、攻撃があまりに軽く、気付かない内にワンパターンとなっている瞬間移動。

 

明らかに集中力を欠いている。

 

目の前の堕落しきった相手にシグナムは喝を入れる。

 

「大分弱くなったじゃないか!? そんな状態で私に勝てると思ったのか!?」

「誰が!」

 

半ば興奮状態に陥って突貫してくるフェイトにシグナムは再度構えた。

 

「うああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

喉が張り裂けるくらいに叫んでシグナムに突っ込み、バルディッシュを構えた。

 

 

 

 

 

そんな時だった。

 

「あぐ!」

「!?」

 

フェイトの胸から突然、腕が生えた。

 

いや、生えたというよりも貫かれたと言った方がいいだろう。

 

そして、フェイトの背後には仮面を付けた男が立っていた。

 

「貴様!!」

 

一対一の勝負を邪魔されたシグナムは男に剣を振るおうとするが、男の手にする物を見て激昂を治めた。

 

「それは……!」

「……奪え」

 

男はただ一言、そういうだけだった。

 

男のしたことは許せない……だが、はやてのために騎士の誇りさえ捨てると誓った。

 

もう時間も無い。

 

そんな現実がシグナムに不本意を強要させる。

 

「くっ!」

 

強く歯噛みし、シグナムはレヴァンティンを治めて闇の書を取り出した。

 

「……すまない」

 

ただ、小さく、自分にしか聞こえないくらいの声で謝罪するだけだった。


 
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