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IS -インフィニット・ストラトス- ~恋夢交響曲~ 第二話

キキョウさん

恋夢交響曲第二話

2012-07-25 23:29:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1399   閲覧ユーザー数:1344

『天加瀬奏羅』これが俺の名前である。正直、自分でも珍しい名前だと思うし、事実そう言われる。

この15年間生きてきて、この名前を好きだったわけではないが、嫌いと思ったこともなかった。

 

しかし、

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします」

 

このときだけは、

 

「えっと、出席番号順で」

 

自分の名前、特に名字を恨めしいと思ったことはなかった。

 

 

IS学園、今日から俺が通い始める学校である。

ISとは現在、人間が使用できるおおよその物の中で上位に、大げさにいえば頂点に立つであろう存在。

そのISについてを学ぶため、未来を志すものが集まっているのがここ、IS学園である。

生まれてからつい今さっきに至るまで、こういったクラスで行う自己紹介は苦手というわけでもなく、まぁ人並みに喋れていた。

そんな俺がなぜこんなにまで焦っているのか、答えは簡単。

この教室には男は二人しかいないのだから。

 

ISの定義として『女性にしか動かせない』という特徴がある。

それは理由もわかってなければ解明もされていないし、たぶん開発者から発表されることもないだろう。

だけど俺はある一件以来、ISを動かせるようになってしまった。

その数奇な運命に導かれ、ここIS学園という『女子校』に無理矢理に等しい形で入学させられたのである。

 

「じゃあ天加瀬奏羅君、自己紹介をおねがいできますか?」

 

名字が『あ』からはじまる俺は当然早い段階で自己紹介をしなければならなかった。

正直、今までにない状況なので何を言えばいいか迷ってしまう。

平凡なことを言えばいいのであるが、状況が稀である。下手なことは言えない。

 

(ええい、ままよっ!!)

 

「えー、天加瀬奏羅です」

 

とりあえず自己紹介のテンプレートだけは伝えておかねば。

そう思った瞬間に気づいてしまった。

周りが何かの期待を持ったまなざしで見つめていることに。

 

(うっ・・・なんてプレッシャー・・・)

 

しかしその『お前何かやれよ』という視線に答えることは正直できない。

 

「えっと、中学時代はISの設計・開発の道に進もうと専門学校に通っていました。ここでもっと深い知識を学べたらいいなと思います。えっと・・・これから・・・よろしく・・・お願いします・・・」

 

『なんだテンプレかよ』と言わんばかりの視線に語尾のほうが小さくなってしまった。

そこまで期待されても俺は芸人ではないし、クラスに一人のお調子者のように目立ちたがりな性格なわけでもないのだが。

 

「ありがとう天加瀬君、これからよろしくお願いしますね」

 

少し気の弱そうな先生、副担任の山田真耶先生の言葉で俺は自己紹介から解放され、自分の席に着いた。

 

(はぁ・・・想像とは違ったけど、やっぱりきついなぁ・・・)

 

入学する前に男が女子校に通うということで、状況の想定をいくつか立てており、『なに女子校に男が入学してるの、きも~い』という最悪なパターンではなかったものの、やはり周りが女の子だらけではどうも調子がくるってしまう。

 

そんなことを考えてるうちに、彼の番がやってきた。

 

「えー、えっと・・・織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

『織斑一夏』

 

世界で初めてISを動かした男。

入学するちょっと前、いわゆる受験シーズンの頃、一人の男が女性しか動かせないはずであるISを動かしたとして世界的規模のニュースになった。

実際は俺のほうが先なのだが、そんなに言いふらされても困るし、必要以上に言いふらすのもどうかと思う。

だが、彼の場合はどうやら状況が違ったらしく、その話は世界中を巻き込んでしまった。

 

しかしそんな彼も俺と同じ視線の攻撃を受けているらしい。しかも男子一番手の俺がクラスの期待に答えなかったので、彼は俺の時とは比べ物にならない脅威を感じているのだろう。

表情に現れるほど彼は言葉を頭の中で探しているのがわかる。

教室内の空気が固まってから数秒後、どうやら覚悟を決めたのか彼は息を吸い、そして

 

「以上です」

 

数人の女子がずっこけてしまった。女の子にしては素晴らしい芸人根性だ。なるほど、これぐらいやらないといけないのか。

しかし彼も彼で俺の自己紹介よりひどいものを繰り出しているのだ。これが漫画なら俺もずっこけていただろう。さらにはみんなの反応に戸惑ったであろう山田先生がすこし涙声になってしまっている。

 

まずい空気になってきた、そう思ったその時クラスのドアが開いた。

 

パアァン!

 

開いたドアから黒いスーツを着た教員が神速のごとく教室に入り、彼の頭を出席簿で叩いていた。

おそるおそる彼が振り返る。そして

 

「げぇっ!関羽!!」

 

また叩かれていた。周りが若干引いているのがわかる。

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

このやり取りは何かを狙っているのだろうか。

わかる人にしかわからないようなやり取りをするイレギュラーの男子生徒と黒スーツの女性教員は少しシュールな光景であった。

 

『織斑千冬』、それがこの女性の名前である。

元日本代表の彼女は世界最強のIS操者ともいまだ呼び声高い人物である。

実際彼女にあこがれる女性は多く、クラスの大半も半狂乱状態で沸き立っていた。

そして名前からわかるように、彼女は世界で初めてISを使った男、織斑一夏の肉親、どうやら姉らしい。

さらには担任としてこのクラスを受け持つという。

 

見た目からのきつそうなイメージはどうやら正解のようで、

 

「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後、実習だが基本動作は半月で体にしみこませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

とさながら新兵訓練(ブートキャンプ)のようなことをいっていた。

 

「席に着け、馬鹿者」

 

有無をいわさぬその言葉に促され、黒板の前に突っ立っていた織斑一夏は退散するように席についた。

そして黒板の前が開くとともにさっそく一時間目『ISの基礎理論』の授業がはじまる。

 

どうやら自己紹介はア行で終わりらしい。

 

 

 

 

これから前途多難かもしれない、そんなことを思いながら俺は教科書を広げた。

 


 
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